表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最前線  作者: TF
652/719

Cadenza ルの力 ④

小さな違和感がその結論を直ぐに否定する、矛盾がある。


ん?あ、違う、そうじゃん、これを叔母様が知っているっということは、お母様の歌じゃない。

叔母様が知らない術こそ、お母様の歌っということになる!!ぁ、でも叔母様っていつ、お亡くなりになったんだろう?ほぼ同時期だったりするのかな?勝手な予想なんだけど、叔母様の方が先に亡くなっているイメージなんだけど?…聞けないよね。


…仮に叔母様の方が長生きしたとしても、私が知っている楽譜の中でこれ以外の歌ってさ無い、んだよなぁ?

それにね、強い想いが刻まれている歌ってのは、その歌を生み出すほどの強い心が残されているから、何となく、ルの力に目覚めた人が願いを込めた背景が読み取れたりするんだよなぁ…

でも…それ程までに強い想いが残された楽譜の、その中に、お母様だってわかるほどの歌が無い

無いんだよ…


だとしたらさ…

やっぱり、お母様は、お母様の人生って短いけれども…満たされていたってことになるんじゃないのかな?幸せで満足していたってことにならない?

…満たされていないのは私だけ、だったのかな?


始まりの願いが否定され私が、頑張り続けた、歩んできた道は正しかったのかと

道標を失い喪失感に包まれていると


「新しい歌を楽しみにするのも一興ですけれど、他にも楽しみはあるのでしょう?」

『らしくないわよ、何塞ぎ込んでいるの、まだ希望はあるのでしょう?例え、妹の願いが無かったとしても貴女が悲しむことは無いでしょう』

伝えられてくる言葉で、我に返り、自らの心を真っすぐ見つめ奮起させるように心を強く持つ。

いけないいけない、顔に出てたみたい、叔母様に心配されるほど、酷い顔しちゃってたか…


お母様が満足したのであれば、いいことじゃん。うん、良い事。そうだよ。良い事じゃん。

寂しさに押しつぶされそうになるのを必死に堪え、叔母様に心配かけまいと感情全てを押し込みポーカーフェイスで声を震わせることなく


「そうですね、他の楽しみもありますよね」

今代の私が得意とした外面で返事を返すことが出来た、けれど、心の奥では動揺の衝撃が波となって過去の私達を起こしてしまいそう。

満足するまで、探せばよい、かぁ…もう、探しようが無いんです叔母様。


波を抑え込もうと心を冷静にされど、明日を見据える胆力を維持しようとしていると思考が伝わってくる。

『返答は?具体的に貴女は何をするつもりなの?』

んげ、隠者が潜んでいるのに、その話題はダメですよ叔母様。


っていうかさ、叔母様としても気になってるってことかな?

あの部屋にあった今代の私がいざという時に備えて用意しておいた切り札の数々…


「歌は、独りで歌っても、楽しいです、けれど、出来るのならオーディエンスも欲しいですし、独りではなく合唱も良いと思いませんか?」

「そうね、皆で練習して声を合わせるのも良いモノね」

『群を形成する?…いいえ、軍隊を動かすっということかしら?』

概ね正解、詳しくは言えない、隠者が潜んでいるのであればね、欠片でも情報は渡したくない。

にっこりと笑顔を向けると、気に喰わないって表情、その程度の策なんてわかってるわよってことですよね。

言えないんです、これ以上先は…叔母様が知れば…お母さんも知る恐れがある。


言えないよ…


笑顔で制止し続けると根負けしたのか

「楽しみはそれでよいとして、下々の愚痴はもう終わりかしら?」

眉間に皺を寄せてこれ以上、相談したいことがあるのか最終確認をしてくれる。


忘れているものはないのか、思い返す

叔母様に相談したいことはたぶん、全部相談出来たと思う。


団長の件、ルの力、判断に悩んでしまう部分、不安を感じている要素もしっかりと把握できたし、新しく…知ることが出来た…


内容に関しては、はっきりいって、聞きたくなかった内容ばっかりだったけどね。


耳を塞ぎたくなるような内容だとしても前へ進めている。

私以外の敵サイドの術に対して精通している人物の話を聞けたってのは僥倖だよね。

気持ちを切り替えて行こう、私の事は…もう、いい。悩むだけ無駄!そう割り切ろう。


「はい、お時間をいただき、ありがとうございます。大変、勉強になりました」

固めた笑顔のまま終わりを告げると、手のひらから指が離れ

「そう、なら私は行かせてもらうわよ」

席を立ちあがり振り返ることなくドアを開けて部屋を出ていこうとする。

何処へ行くのか声を掛けるなんてしない、だって、言うまでもないよね。

隣の部屋で二人の邪魔をしに行くつもりなんだろうね。

…悲鳴が聞こえてきたら、助けに行こうかな?


紅茶に口をつけながら優雅に手を振って叔母様を見送ると、ドアが閉まるまでのわずかな時間に垣間見えた表情は、何処か寂しそうな顔、それでも、手を振り返してくれた。


ドアが閉まる音によって部屋が静まり返り、静かになった部屋で…静かに涙を流した…

幸いにして悲鳴は聞こえてこなかった。






んびー

静かな部屋で一人、今すぐにでも今までの私が足掻いてきた地盤を固め治すために涙を流し、鼻からも想いが垂れてきたので何度も拭き取るついでに解き放ち続ける。


はぁ、今の私は蛇口かっての、なんつってね。

鼻を鳴らしながら鼻をかんでティッシュをゴミ箱に捨て

冷たくなってしまった紅茶を喉に流し込んでいると

「頃合いか?」

ノックすらなく堂々とドアが開かれ、今最も会いたくない人物、声も顔も何なら、吐息すら感じたくない。

出来る事なら今すぐ帰れってティッシュ箱を投げつけたくなる、そんな、まぬかれざる人物が許可も無く入ってくるんですけど?今何時だよ?乙女の病室にアポなしに夜中にくんなよ!!


はぁ、考えたくないけど、賢い私が彼の零した言葉、ドアを開けながら小さく零した言葉!その意味が何を意味するのか、なんてな…言うまでもない!


叔母様が気配を察してのって敵じゃ無くてお前か!

こんな夜中にくんじゃねぇよ!ああもうやだ!お母さん助けてー!!不審者がきた!!


全力でHelp Me!!っと叫びたいのを我慢していると

「月が満ちた夜会、聖なる光に秘め事を語る、不届き者だな、それでも月に誘われし聖女か?」

不敵な笑みを浮かべながら近づいてくる。

先ほどまで叔母様が座っていた椅子に堂々と足を組んで座り、テーブルの上に肘を置き頬杖をつく。


お行儀が悪いです事!それでも王様ですかぁ?

勝手に入ってきて堂々と!自分の家じゃないんだけどぉ?っていうか、夜中に!病室とはいえ乙女の部屋に何用?帰れよ!今の私はセンチメンタルなんだよ!お前なんかを構ってやられるほどメンタルもちなおしてねぇっての!!

「っふ、安心しろお前が考えるような青臭い経験知らずの者がするようなことはない」

夜這いじゃないって?私の事が欲しいって言ってなかった?


警戒を解くことなく何も言わずに睨んでいるとまたしても、ノックされることなくドアが開くと落ち着いた足取りで侍女の方が一人はいってくる。

侍女の方に乙女の部屋にこんな夜中に入ってくる不届き者がいるんだけど?っという意志を込めて視線を送って見るが、一瞥することなく無視される。ぜってぇ気が付いてるよねぇ?


部屋主に挨拶すらなく、一礼すらなく、我物顔っていうか、無表情すまし顔!これが私にとって当然で当たり前、お前は私の視界に入っていないと言わんばかりとテーブルの上に置かれているカップなどを片付け始める。

至極当然が如く!流れのままに、私が手に持っているカップも有無を言わさず奪われ、まだ残っているのに片付けられる、ってかさ、私まだ飲んでるんだけど?


しかもさ、何で炊事場の位置わかってんの?何も言わずにティーセットを炊事場に運ぶんだけど?

王様直轄の侍女ってやつはあれなの?知らない部屋であろうと、何処に何があるのか知ってるっていうの?

今度、メイドちゃんにそんなことが出来るのか聞いてみようかな?

炊事場に向かっていくメイドの後姿を睨みつけていると

「秘め事を語らう場は幕を下ろした、次は、優雅な夜会、第二幕と洒落こもう」

こっちも澄まし顔でさも当然、この部屋は俺のものだとマイペースに話を進めんなよ…正確には私の部屋じゃないけどさ!今ここは私の病室だぞ!

「歓び媚び諂え、王が、絶対たるこの我が!その席を、この様な辺鄙な場所で開催してやる。我の尊大な振舞い寛大にむせび泣き媚び諂うがよい」

そういった前振りいらねぇって、帰れよ、望んでないから!

「王族が愛用する茶器に茶葉、下々が触れる事叶わぬ最上級、噛み締めるがよい」

口上を言い終わるまで睨みつけていても、まったくもって意に介していない!

こいつだけじゃなくて、ドアを開いてワゴンを押しながら入ってきた侍女も同じように此方の視線なんて見向きもしねぇ!!


ワゴンから取り出し、テーブルの上に置かれるのがこれまた…悪趣味が過ぎる。

その悪趣味さに言葉を失う、まさに絶句!


宝石が散りばめられた豪華なカップの数々。

王城からわざわざ持って来たの?

綺麗だけれど、これに口をつけて紅茶を飲むなんて、悪趣味じゃね?

手に持つ部分も優雅さ、職人の技術が詰め込まれ緩くカーブしているし、ここまで細部にまで拘りぬいたカップ、こういうのって普段使いせずに飾る為の工芸品でしょう?

これだから、王族ってやつは、美ってのをわかっちゃいねぇ…後世に残すっていう概念がねぇの?

美術品の類、その扱いが酷過ぎんだよなぁ!!ったく!


お前らは正気なのか?職人や、美術品への冒涜してるってのがわかってねぇのか?っという呆れた顔で侍女の綺麗な所作を見つめていると

「ご安心くださいませ、民が囁く渾名で呼ばせていただきますね。魔道具の姫。此度、用いる茶器の数々は今回の為だけに用意した特別製でございます、誰もまだ、触れてはおりません」

視線に耐え切れないのか、此方の意思が伝わっていないのか、帰ってきた答えが明後日の方向なんだが?

ってかさ、その方が嫌なんだけど?毒とか仕込んでない?

…今の状況で仕掛けてくることなんて、ないか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ