Cadenza ⑫
「それじゃ…」
私の愛で団長は助かったの?っという囁きが聞こえてくる。私じゃなかったら聞き逃してたぜ?
「そういうこと、メイドちゃんの願いが力となって応えてくれたんだから身に着けて置いて」
「はい!」
っと言うことは、団長は私を受け入れてっという囁きが聞こえたけれど、何も言うまい。
嬉しそうに手を伸ばし団長から爪楊枝のサイズまで小さくなった槍を受け取り、お腹の方から腕を服の中に突っ込みネックレスに槍を装着しようと藻掻いてる。
…なんでネックレスを取り出してつけないのだろうか?パジャマだとしても、首の部分から取り出せるよね?
着ているパジャマが捲りあがってお臍どころか、下着が見えてる。
はしたないと注意するべきなのかもしれないけど…まぁいいか。
別に気する事も無いかな?周りに男性もいないし、肌が見えようがおへそが見えようが、下着が見えようが気にすることないよね。ない、よね?
っは!?ここには!?
気が付き泥の中に意識を向けるとまだ会議中みたいで私の視界を通してみている様子も無し!
うん!なら良し!!…メイドちゃんわかっててやってないよね?っという疑問が浮かんでくる辺り、私はそうとう嫉妬深いのだと痛感してしまう。
「ネックレス出してつけなさいよ」
どうやら、お母さんも同じことを思ったのか注意すると
「実は、先ほど強引に外しちゃってその勢いでネックレスが外れて下着の間に入ってしまいまして、それを取り出してるんですぅ」
理由を聞いて納得、確かに、それだとネックレスだけを取り出すのは難しいか、一番は服を脱ぐのが一番だけどわざわざ脱ぐのもって考えたんだろうね。
もぞもぞと服の中を弄っているメイドちゃんは放置して
「体に異常はない?おかしなところはない?耳鳴りはする?変な感覚が湧き上がってこない?」
団長に矢継ぎ早に質問をすると
「えっと、ちょっと待ってね」
団長も同じように槍をネックレスに取り付けていた。
こっちは首元からネックレスを取り出して直ぐに取り付けて終わり
「先の質問だけど、体に異常はない、おかしなところは…ない、っと思う、耳鳴りはしない、寧ろ何だろう?頭がスッキリとしてる。変な感覚はないよ?変な感覚って姫様的にどの辺り?」
何か憑き物が落ちたのか表情に曇りが無い、雰囲気も柔らかい。
やっぱり、団長がより一層幼く感じる。
私の予感は的中してそうかな
「地球と比べて、ここは魔力に溢れてる、魔力を感じる?」
「うん、感じる、でも、それは昔から感じてるから違和感はないよ」
うんうんっと頷いてる、仕草が幼い。
「地球と違って電子機器が無いから、雑音は少ないかもね、そういった環境音の変化はどう?違和感が辛くない?」
「んぅ?…それは意識したことない、どうだろう?特に不思議な感じはないよ」
彼女の近くにあった、独特のリズムを刻んでる音が無いから、不安を感じたりはしてなさそうかな?
ずっと傍にあった、あり続けた音が無くなる、環境の変化ってのは少なくとも不安を感じたりするものだけど、大丈夫、そうかな?
「背中に何かあるような感覚はある?」
「…ある」
ふぅむ…ある、かぁ…
「意識を伸ばせそう?」
「うん、伸ばせれる、不思議な感覚、今まで無かった、かん、かく」
ゆっくりと団長の瞳が金色に変色しようとしている
「そっか、その状態で何かに引っ張られる・囁かれる・体の感覚が途切れる、ってのは?」
「ない、誰かの声が聞こえる事もないし、何処か遠くから繋がっている様な感覚もないし、引っ張られる様なこともない」
魂の束縛、約定、加工された影響ってのは、なさ、そう、かな?
この辺りはちょっと当事者じゃないから自信が無いなぁ…
何処かで叔母様に相談したいんだけど
ちらっとお母さんを見ると団長の変化に戸惑っているのかずっと心ここにあらずっていう感じ。
分かりやすく言うと、私が新しい術式や、新機軸の魔道具を説明されているときの顔、理解が追い付いてこないんだろうね。
まぁ、お母さんはともかく叔母様はそういうのを咀嚼するの上手だから、きっと叔母様が状況を整理して夢の中でお母さんに説明してくれるでしょ!
その叔母様に相談したかったけれど、今はダメ、だろうなぁ…
何かこう、叔母様とコンタクトを取る方法があればいいんだけどなぁ…
落ち着くと共に思考が鈍くなっていくと
「ふぁあ…」
自然と欠伸がでてしまう。
この体は直ぐに眠くなる…
「眠たいわよね、さっきまで寝ていたし…それにしてもこんなに騒いだのに誰も駆けつけてこないわね、医療班は何をしているのかしら?」
少し怒った顔でドアを見つめている医療班No2としての顔を出しているお母さんに
「それは仕方がないよ、私が術式で音が外に漏れないようにしていたから」
破邪の結界によって音は外に漏れない、外からの干渉を防ぐのだから中からの情報も洩れたりしない。
なんせ、あの愛する旦那が敵からの干渉から守るために使っていたんだからね!
その辺りはお墨付きだよ。
でも、不思議なことに…この破邪の結界、そうだよね?ルの系譜だよね?
なんで、■■■くんは知ってるんだろう?
まぁ、いい、かな?それは追々で
だめだ、思考が遅い…睡魔に引っ張られてる
「わたしは、ちょっといしきが・・・すいまに」
「ええ、寝ましょう。向こうの部屋で寝る?」
肩に優しく触れてくれる、手から伝わってくる暖かさに安堵したのか一気に意識が遠のいていく
「おねがい」
流れに身を任せる様に瞳を閉じると意識が飛んだ
伸ばしていた背筋から力が抜け車椅子にもたれ込むと同時に眠りにつく姿を見て、昔の事を思い出してしまう。
「相も変わらず寝つきは良いのよね」
ベッドで横になると気が付けば寝ていたのよね。
まぁ、寝起きは悪いけどね、最初の頃はしがみ付かれて身動きが取れなかったのよね。
気持ちよさそうに満足気な顔をして寝ている姫ちゃんを病室に連れていく前に
「貴女達はどうする?」
先の出来事で興奮していて眼が冴えているであろう二人に声を掛けると
「私は」
団長はちらっと小娘を見ている?何かあるのかしら?
小娘もその視線が気になったのか、目線を彷徨わせている。
それも少しだけ頬を染めながら、良くないことを考えてるわねエロ小娘は…釘を刺しておきたいけれど、私も正直に言えば疲れたのよ…魔力が減っているからか思考が前を見ようとしないのよ。
「取り合えず、喉を潤わせてから横になりなさい、私は」
正直に言えばこの部屋に残って横になりたいけれど、先の視線を無視できるほど、私は愚かじゃないわ。この状況で私が居るのも団長が話がしづらいわよね。
「姫ちゃんの傍に居るわ」
寝ている姫ちゃんの足をふっとサポートの上に乗せてから車椅子を押して病室を出るためにドアに向かっていく、そのすれ違いざまに「耳は澄ましているからね」小娘に釘を刺しておく
病棟で始めたら許さないからという意志を込めて
エロ小娘から何も返事が返ってこないのがやや不安を感じるわね。
聴診器を壁に当てておこうかしら!!
先程とはまったく違う不安のせいで外へと続くドアが軽い筈なのに重く感じてしまうじゃない。
重いドアを開き、廊下を出ると姫ちゃんの言葉の通り外に音が漏れていないのだと分かるほどに廊下は静寂のまま。
そのまま静かな廊下をほんの少しだけ歩いて隣の部屋にある姫ちゃんの病室に入ると先ほどの大騒ぎが嘘みたいに静かだった。
車椅子をベッドの隣につけ姫ちゃんを抱きかかえようとしゃがむと見えてしまう、満足気な表情…っていうよりも何処か誇らしげに漢らしい顔つきで眠っている。
やり遂げたのだと伝わってくる姫ちゃんを優しく抱きかかえてベッドの上に寝かせると私も一気に眠たくなってしまう。
聴診器を取って来ようかと思ったけれど…駄目ね。
体が睡眠を欲している、肉体疲労も精神的疲労も魔力的疲労も全部蓄積されていて、限界が近いから体を休めろと言い続けている。
歳を重ねたものね…何時だって体力に自信がある!って、見栄をはって言えたのも、昔の話ね。
はぁっと、溜息を溢してから今すぐにでも眠ってしまいたい体を何とか動かして病室に備え付けてある冷蔵庫から魔力回復促進剤を三本取り出して一気に飲み干す。
空っぽになった瓶を洗面台で軽く漱いで、ついでに水をコップになみなみと注ぎ一気に飲み干す。
「ん、はぁ」
つい、お酒でもないのに艶のある溜息を溢してしまう。
それも致し方ないわよね、どれだけ喉を酷使して年甲斐も無く声を張り上げたのか。
喉が、いいえ、全身が水分を欲してしまうのは当然よね。
ただ、幾ら私と言えど、明日は確実に喉が枯れているでしょうね…
そんな状態で先輩に説明するとなると、何をしていたのか説明を求められそうねぇ…
あの状況を説明しても良いのか、姫ちゃんに相談したほうが良さそうね。
喉を潤わせると睡魔が限界近く、姫ちゃんが良く言う思考が溶ける感覚に包まれていく。
フラフラになりながら何とか姫ちゃんが寝ているベッドに狭いけれど少し押し込む様に入り込むと昔のように腕を伸ばして私の肩を掴み、抱き枕にするかのように腕だけでも巻き付いてくるのをみて、ついつい抱き返して姫ちゃんの頭を抱き寄せて私の胸を枕の代わりにしてあげる。
懐かしさに、ふふっと笑みをこぼすと
「ぅ」
嫌そうな顔をする…失礼ね、人に巻き付いて!なんてね、そうなるのもわかるわよ。恐らく私の胃の中にある魔力回復促進剤の香りが吐息から漂ってしまったからでしょうね。
私は何度も飲んで慣れたけれど、飲むと決めて飲むからこそ耐えられるのであって、その覚悟無しに唐突にこの香りが漂ってきたら、誰でも、臭!?ってなるわよね~、ごめんね。
申し訳ない気持ちを込めて頭を撫でてから、こういう時に溢れ出る衝動を回避するために頭を上向きにすると、睡魔からくる防ぎようのないあくびという衝動を天井に向けて解き放つ。
上を向いたままだと辛いので首を気持ち横に向けて愛する娘に吐息が流れないと信じて瞳を閉じる。
瞳を閉じて伝わってくるこの重み…
目覚めてから昔のように甘えてくれる私の人生を抱きしめると一気に睡魔が押し寄せベッドの上に居るのかもわからない程に感覚が浮ついてくる。
二人だけのはずなのに、不思議と、ベッドの上には多くの子供達に囲まれて寝ている様な今までに味わったことのない不思議な感覚がする
それもね、不思議なのよ、、、
私の上で寝ている姫ちゃんに抱き着いて寝ているって感じがするの、、、
それも、抱き着いているのが子供達でね、、、
不思議とその子供達が姫ちゃんの子供達だと思ってしまう、、、
孫に囲まれているお祖母ちゃんってこういう感じなのかしらね、、、
なら、抱きしめてあげないと、、、
全ての子供達を抱きしめるつもりでいると今まで以上に幸せを心の底から感じ、その幸せな感覚に包まれて意識が溶けていく。




