Cadenza ⑦
暗い世界の中、目が覚めた
私は…
私の名前は『 』何処かに失くしてしまった
気が付けば、私の周りには誰かがいる
何処か落ち着いていて静かにお父さんのように寄り添ってくれるような暖かい、誰かの気配もする
無邪気に走り回っている人達もいる
私も一緒に遊びたい
走り回っている人達を眺めていると一人近づいてきて手を伸ばしてくれる
私、走れないよ?
首を横に振られる、そんなことない?
だって、わたしは わた、し よわかった?
首を横に振られる、手を握れって?
手を伸ばすと手を握りしめてくれる
私の手を握って一緒に走り出してくれる
私、走れてる?
うん、走れてる、何で走れないって思ったんだろう?
そうだよ!私弱くない!走れる!
皆と一緒に一杯走った、いっぱい追いかけっこした
遠くに行こうとすると大人の人がそっちに行ってはいけないって注意してくれるので
遠くには皆行かなかった
遠くに行けないのなら空を飛べばいいって誰かが言った
皆もそうしようって声を出して背中から翼をだしてめい一杯翼を広げて空を飛び始めた
皆が出来るのなら私もできる
頑張って翼を広げようとした
でも、出来なかった
わたしだけ できなかった
痛い、すごく、痛い、何処かわからないけど、痛い
痛いから上を見上げるのはやめた
俯く様に下を見ると誰かが居たのが見えたので近づいてみる
同じように、私と同じように空を見上げている子供がいた。
彼は何もせずにじっと座り込んでいる
私と一緒で痛いのかもしれない
彼の隣に座って肩をくっつけてから皆が飛び回っている黒い空を見上げる
黒い空でもみんなの翼は輝いていて綺麗だった
きっと同じように空を見上げている子も同じだと思って声を掛けた
綺麗だよっと、声を掛けて隣のいる子を見たらいつの間にか俯いていた。
俯いていても構うことなく声を掛けてみた
でも、何も反応が無い
顔を覗き込んでみても何処を見ているのか分からなかった
眼も半分も開いていない
きっと眠たいんだ
なら、寝かしてあげよう
彼にくっついて黒い空を見上げ空を舞う輝きを見つめ続ける
いいなぁ、私も、空を飛びたい
みんなと、いっしょが、いい
私は、強く望んだ
私は、強く願った
私は、皆と一緒が良いと願い続けた
ずっとずっと眺めていると
皆が降りてきた
どうして飛ばないのっと聞かれた
私には翼がないと答えると
なら、皆は飛ぶのやめると言ってくれた
皆が飛びたいのなら飛んだらいいと言った
でも、私が飛べないのなら飛ばないと言ってくれた
申し訳ない気持ちが溢れてくる
声を掛けてくれた子が、それだったら僕たちと一緒に遊べることを考えて欲しいと言ってくれた
大きく頷いて、みんなと一緒に遊べることを探して決めるのが、私の役目になった
皆と一緒に遊び続けていると、時折、大人の人に呼ばれて皆で集まって大人の話を聞く
何を言っているのかよくわからないけれど、大人の人が怒ってる雰囲気も無い、だから特に怖がることは無かった。
話が終わった後は、一人一人、大人の人に何をしていたのか話をしている、何を話せばいいのかな?
きっと私の番もくる。
何を話せばいいのかわからなかったけれど、大人の人が質問をしてくれるので、何をしていたのか話をする。
話が終わった後は各々自由にしてる、多くの子供達が寝ころんでいる。
私も何処かで座ろうと思って周囲を見渡してみると何時も座って俯いている子がいたので、近くに行って肩をくっつける。
どうしてか、わからないんだけど、この子はいつもこうしている。
動かない、だから、誰も遊びに誘わない。
どうしてかわからないんだけど、この子をほおっておけない
だから、何時だって彼の隣にいる、遊んでいるとき以外は
彼の隣でじっとしていると
また、何時ものように大人の人に集められる
何か話し合いをしている
話し合って何故か私を皆が指さしてくる
大人の人が私の頭を撫でて
「君が人として人生を歩みなさい」
よくわからない内容だった
─見える世界が閉じる様に暗くなっていく?
それからも同じように皆と遊び続けた…遊び続けたんだけど、私の世界は二つある気がする。
黒い世界と黒くない世界の二つが…ある気がする。
黒い世界で、私は皆と遊ぶ時間が減っていると、ふと感じてしまった。
空が青く光りに包まれている時はお母さんと一緒にお洋服を作ったり、近所の人達が世話をしている動物の世話をしたりと忙しかった、でも、黒くない世界だと黒い世界の事を一つも思い出せない。
光りに溢れている世界にいるお母さん達といる時間、私に名前があった
『ユキ』お父さんが勇気ある人に育って欲しいと願いを込めてつけてくれた
何時ものように黒く暗い世界の中で皆と遊ぶときは名前なんて呼び合っていなかったのに、いつの間にか皆は私の事を『ユキ』って呼んでくれるようになった。
黒い世界では私は黒くない世界の事を覚えているし、皆の事も覚えてる。
どうして、黒くない世界だと覚えていないのだろう?
そんな事よりも、友達が何をして遊ぶのか聞いてくるので何をして遊ぶのか決める。
毎日が忙しかった、明るい場所では大人の手伝いをして、暗い場所では皆と遊んで。
毎日が忙しかった…
だから、忘れていた…
あるとき、ふと、思い出して俯いて座り続けている子を探した
探して探して探し続けたけれど見つけることが出来なかった…
暗い世界の大人の人を探した
見つけることが出来なかった?
いつの間にか暗い世界の大人の人は何処かに行ってしまった…
皆に大人の人は何処に行ったのか聞いてみても要領を得なかった。
皆にいつも座り込んでいる子は何処に行ったのか聞いても要領を得なかった。
誰も知らない、行き先をしらない…もしかしたら、元々、いなかったのかもしれない。
まるで…わたし、みたい…
・・・?どうして?私みたいと思ったんだろう?わからない。
─また、視界が暗くなっていく。さっきはシーンが進んだみたいだった、だとしたら今回も同じ、かな?
新しく視界が開かれるのを待っていると体が引っ張られる様な感覚がする。
起きたのかな?ユキさんがめざ…
ううん、違う。これは!背筋が…寒気がする!!
歌は!?・・・意識を向けて見るが歌は続いている。
なら、どうして?
誰かに手を握られ何かが伝わってくる、その感覚を頼りに自分の視界を開くと
金色の翅を広げた男の子が此方を見上げている
目線を合わせるようにしゃがむと
「名前、この子の名前、わかった?」
首を横に振ると目の前の子の表情が一気に強張っていく
「ママの嘘つき」
殺意を向けられ手を振りほどかれてしまう?何が起きたの?何をされたの!?あの嫌な気配…変貌する子供達、何か起きたのは確実…
「なら、邪魔しないで!!僕たちは妖精なんだ!ユキも妖精になるべきなんだ!」
険悪な表情で此方を睨みつけてくる、その表情が物語っている、私を敵であり殺意を向ける対象であると。
その視線に怯むことは無い、悲しむことは無い、んだけど、ちょっと堪えるなぁ…
心を弱くしない強く持つ!冷静に受け止める!!
貴方の願いは、ユキを妖精に、自分たちの仲間にしたいんだね。
その為に…彼女の名前を欲していたってこと、かな?
人としての名前ではなく、妖精としての名前を
豹変したこの子が私を通した理由はそこだろうか?
演技をしていたって事なのか、それとも、私がユキさんの魂に触れている間に何かが起きた
その何方かだろうけれど、前であれば手ごわい、後であれば、まだ何とかなる!
「ユキは妖精になりたいって願った!でも!ゆきは…ユキは!大きくなるにつれて妖精になりたいなんて言わなくなった!!」
私の手を払いのけた手を拳へと握りしめ殺意を込めて突きつけてくると私の胸が悲鳴を上げる…
拳を突き付けてきた妖精が背中の翅を広げると小さな女の子の周りを囲んでいる妖精たちも一気に翅を広げると視界を埋め尽くすほどの輝きがうまれ、少女の周囲を金色の粒子が降り注ぐ
その光が何を意味するのか…嫌な予感しかしない。
子供達には悪いけれど、その光を跳ね除けさせてもらう!
ここは、魂の空間!っであれば、魔力さえあれば事象を発生させることは出来る!
魔力の渦で!!
『止せ!サクラ!時間がない!すまないが俺が』
「まって!まだ、お願いまって!」
彼の言葉からは殺意が滲み出ている、嫌な予感しかしない、彼が動くのを止めないと!!
それに…私は…ユキさんの意思を確認していない!!
もし、ユキさんが本当に願っていたのが自由な体、何事にも囚われる事のない
真なる自由
空も羽ばたくことができ、人という枠組みにすら囚われる事のない
自由
それを、求めているのだとしたら…
私は、それを止めることは出来ない、止める権利もない。
地球の少女が人では叶える事の出来ない理の外を夢見るのなら
叶えてあげるべきだ…その結果、闘うことになったとしても?
胸が痛い、歯を食いしばり前へでる。
もう一度、天へ目掛けて腕を伸ばす少女の腕を掴む
今度は、優しさではなく力強く
共に歩んできたものとして
姉として
友として
親愛なる隣人として!!
「ユキさん!!起きて!」
願いを込めて語り掛ける
「起きて!貴女の、本当の願いを教えて!!」
虚ろな瞳を見つめ語り掛ける
「貴女は何を願ったの?何を欲したの?ここに来る前に、何を求めたの!?」
虚ろな瞳が瞬きをする
「奇跡が欲しかったの?」
黒髪の女の子の顔が見える
「魔法が欲しかったの?」
小さな小さな黒い瞳の少女が唇を震わせている
「ユキちゃん、いいえ、地球の少女、貴女は新たな人生を歩みたかったの?」
握りしめた腕が小さく動こうとしている、小さく震える様に指が動く、その仕草は、何かを押すような仕草、懸命に何かを押そうとする力が私の手のひらに伝わってくる
「僕らの仲間から離れろ!!ユキは妖精になるんだ!!人になんてさせない!!」
顔を上げると周囲は黄金に輝き、光の粒が一点に集まろうとしている!?
『サクラ!限界だ!引き上げるぞ!』
意識が吸い込まれていく!?まって、まだ、まだ!!
吸い込まれていく刹那、意識の中、思考の渦、通用するかはわからないが念動力で力場を発生させるようにし、一点に集まる金色の光を霧散させ
視界が暗い世界から抜け出る




