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最前線  作者: TF
642/694

Cadenza ⑥

それだけじゃない…垣間見えた情報、得られたものは大きい。

ぼやけた視界じゃないからこそ、よく見えた。


真っ白な壁に、真っ白な天井、天井には細長く光る棒が取り付けられていた。

そして、部屋を包んでいた光を出している物質が四角くて縁が黒く正面のガラスのような物がやや丸みかかっていて、それでいて奥行きが大きな箱。

その近くに設置されている机があって、その上に網目状が二つある四角い箱があった…


私は…知っている。それが何なのか。知っている。

知識としてで現物を見たことは無いけれど知っている。


細長く光る棒は、蛍光灯で部屋を明るくするための道具

四角く縁が黒い箱は、テレビで何かしらの記録を再生する道具

網目状の何かが二つある四角い箱は、テレビの音だけ版、音を再生する道具


今代の私が日夜頑張り参考し、どうにかして似たようなものを作れないかと再現しようとし続けてきた地球の道具。

それが、当たり前にある世界なんて言うまでもない。


ユキさんは…地球の人


こんなの私じゃ無ければ受け入れる事なんて出来ないし理解することなんて出来ない。

他の人が聞いたら可笑しな話、だよね。


冷静に考えてもおかしいとか言わざるを得ないどうして地球の人が私達の国にいるのかってね…


ユキさんは、始祖様と違う。

始祖様は多くの星を渡り歩いている、それも与えられた使命、星を渡る明確な目的を握りしめて。

時魔の一族だっけ?始祖様に命令っというか使命を与えたのって?

まぁ、その一族が不穏分子っていうのかな?してはいけないことをした奴を粛清対象と定めたりしてさ、始祖様はそういった粛清任務と並行して、始祖様の一族っというか時魔の一族も、かな?

因縁がある敵を探して、何れは…その敵を見つけ全一族総出で討伐する。

そのために始祖様は星々を渡り活動している。


今は…加護を失ってしまったから始祖様が何処にいるのか感じ取れないけれどさ、昔のままだったら地球にいらっしゃっている、はず。


でも、ユキさんは始祖様とは違う、そんな特別な使命を渡されて星を渡ったりなんてしない。

あの映像を見る限り、地球で暮らす一人の少女。

意識が常に霞がかっていて、朧げな視界に水中にいるかのような音。

普通とはかけ離れすぎた感覚、気になるとすれば、この少女は…

どう考えても普通ではない、何かしらの薬の影響か、それとも、元から?産まれ持って?

だとしたら、ユキさんは…明日を生きれるかわからない少女、ってこと、だよね。


そんな少女がどうやって地球を離れたのか。

そもそも、ユキさんはこう言っては何だけど、凄く頑丈なんだよね。

病気知らず…恋の病は置いといてね。


運命を変えるほどの力を私が持ちえているのであれば、この記録に意味がある。

でも、私にそんな力はない、運命に干渉するなんてね、私が思い描く極地の到達点、完全なる時を超越した干渉術、私はまだその理論を実行できていない…今この瞬間に条件を満たしていないので、できるわけがない。

極地に到達できていない私では、彼女の歩んだ記録故にどう足掻いても彼女を救うことが出来ない。

今は、救うという考えは…嫌だけど、脇に逸らす。己の未熟さに呆れて歯を食いしばる何て慣れているけれども、何時だって向き合いたくない程の粗悪な感情に包まれてしまう。だから脇に逸らす。


邪念を振り払い、己の未熟さを受け止め意識を切り替える。


考えるべきは…どうして、ユキさんは私達の国に居るのだろうか?ってこと。

些細な…だけど、最も重要な、彼女を知る上で一番大事な気がする疑問。


それを抱えた瞬間…


視界が開かれるので、其方から得られる情報に集中すると彼女の意識が伝わってくる。




「・・・」

四角い箱から光が溢れ部屋を照らしている

白と黒が砂嵐のように映し出されている

手が何かを探し、見つけ出したのか手に触れた何かを指で押し込もうとする

でも、彼女が望む結果にならなかったのか何も変化が起きない。

何度も何度も何かを押そうと頑張っていると視界が閉ざされていく


「なんで、わたし、こんなに、よわいの」


頬を冷たい何かが通り過ぎていく

喉の奥が閉まり小さく震えている


頬を伝っていく冷たい何かを拭いたい

でも

腕があがらない


喉の奥が閉まり呼吸が出来ず苦しい

口を大きく開きたいけれど唇が動かない


鼻を広げ酸素を吸い込みたいけれど

深呼吸が出来ない


ピッピッピっと音が聞こえる、その音の感覚がどんどん狭くなっていく

何度も何度も腕を動かそうとしても持ち上がらない

何度も何度も深呼吸をしようとしても何も動かない


どうしてこんなにも

どうしてこんなに

どうしてわたしだけ


よわいの?


呼吸することが出来なくなってくる…生きる力すら無い

先ほどまで聞こえてきたピっという音の感覚が遠ざかっていく


「大丈夫!?」

おとがきこえた


それを最後に音が閉ざされる…




視界は開かれない

でも、彼女の中で何かの記憶が呼び起こされていく

これは、夢?たぶん、夢。


暑い日差しの下、冷たい何かを手に握りしめている。

彼女の記憶が強く語り掛けてくる、静かに聞き入ろう、何も考えず、集中しよう。




隣にはお母さんとお父さん

二人揃って休みの日なんて殆ど無い。


日差しの下に長く居るのはダメなんだとお母さんが言ってた

暑い場所は耐えられないんじゃないかとお父さんが不安そうに言ってた


それでも私はいきたかった

お願いした


暑い日差しの下

私は買ってもらった水を飲んでのんで

汗もいっぱい出た


今にも意識が飛んでしまいそうな程、苦しかった

でも

みたかった


お父さんとお母さんも暑そうに団扇を扇ぎながらずっと傍に居てくれた

お母さんの日傘の下で、お父さんに団扇を扇がれながら

私はショーをのめり込む様に見続けた


大きな声が周りから聞こえる

私も一緒に頑張って声を出した

応援した


私の好きな人達が舞台の上で戦っている

友達が見に行ったと自慢してた


羨ましかった


その後に色んな乗り物にのって楽しかったって自慢してた


羨ましかった


それを聞いてずっとずっといきたかった

その場所に私が居る、お母さんもお父さんもいる。

これが最後だとおもって精一杯声をだして応援した、皆が応援したから悪役を倒した。

終わった後は皆で撮影会、お母さんもお父さんも一緒に映ってくれた


ショーが終わった後もそこから離れるのが嫌だった

でも、誰も居ない広場は寂しかった、だから、離れることにした


お父さんに抱っこしてもらって遊園地の中をいっぱい移動した

私でも乗れるものは、いっぱい乗せてくれた。

激しいのは全部だめだった

でも

楽しかった


たのしかった




…視界が開かれる?目を覚ましたのかな?


真っ暗な世界

何時だってぼやけている世界

音も何時だって朧気で何を言っているのかわからない


テレビがみたい

ボタンを押せば私が好きなアニメが映し出されるようになってる


指に力を込めてボタンを押す

テレビが光って部屋が明るくなる


何となく音が聞こえる

何度も何度も何度も見ているから内容は知ってる

新しいのを買おうかってお父さんが言ってくれたけど

音がしっかりと聞こえないから知ってるやつの方が良かった


ふとテレビの内容が頭の中に残る


魔法


奇跡


どうして、私の周りには奇跡も魔法も無いんだろう?

ううん、いま、こうやってわたしがいきていることが


きせきだって


おかあさんがいってた


そんなの…奇跡じゃない。

そんなの、いらない、くるしいだけ


どうしてわたしはこんなにもよわいの


自分が嫌いだった

自分が憎かった

自分が…何もできない自分が…情けなくて嫌だった。


友達みたいに保育園に行けなかった

友達みたいに歩いて学校に行けなかった

友達みたいに給食を食べれなかった私だけ違うご飯だった

友達みたいに体育に参加したかった

友達みたいに学校が終わった後、遊びに行きたかった

友達みたいに嫌だ嫌だと言いながら習い事に行ってみたかった

友達みたいにゲームとかしてみたかった

友達みたいに雑誌のこの人、カッコいいよねっていってみたかった

友達みたいに…


わたしは なにも できなかった


何も出来ない自分が嫌い

自分だけ何もできないのが嫌だった

ただただ、指を動かす事だけが精いっぱいなのが嫌だった


せめて唇が動けば

お母さんや

お父さんや

看護師さんや

友達と


お話しできるのに


せめて音がしっかりと聞こえたら

お母さんや

お父さんや

看護師さんや

友達の


話が聞けたのに


今はもう、それもできない


ただただ、指を、指先だけを僅かに動かす事だけが私の出来る事


いまも ゆびさき なら うご


力を込めようとしても


うご


力を込めようとしても


うごぃ


力を込めようとしても


うごい、って


何度も力を込めようとしても


ぅごかなぃ


もう、指先すら自由に動かせなくなってきている


頭の中でありえない記憶が呼び起こされる

草原の中、麦わら帽子をかぶって走る記憶


そんなの一度だってしたことがない

出来た例がない


お父さんとお母さんと一緒に手を繋いで

草原を走る記憶

手を繋ぐお父さんもお母さんも笑顔で


そんなのありえない記憶


でも


皆には当たり前にある経験



どうして

わたし

だけ



【憎いか?】

─唐突に誰?


うん、憎い


【滅ぼしたいか?】

─何?この声、耳からじゃない、思考?思考に入り込んでくる


うん、滅ぼしたい

誰かじゃない、こんな弱い私なんて消えていい


【他者を恨むか?】

─嫌な気配しか感じない…この雰囲気、あいつに近くない?


ううん、恨まない


【この世界は嫌いか?】

─近い、近すぎる、この嫌な音


だいっきらい!!


【望むか?】

─あいつは、地球に潜んでいるの?


何を?


【望むか?】

─だとしたら


なに、を?


【望むか?】

─ユキさんは


うん、お父さんとお母さんに迷惑の掛からない

体を望む


【どんなことしてもか?】

─こいつに!


うん


【何を失ってもか?】

─こいつに!!


うん


【では望みを得るがよい】

─こいつは!魂を制御する、加工する術を持っている!!叔母様にしたように!!お母さんにしたように!!


本当!?


【ああ、勿論だとも奇跡や魔法ならあるさ、お前の望みは叶う…】



視界が開かれていく

テレビから放たれる光

光りが広がっていく

世界が白に染まっていく


視界の隅々まで光が…


音を置き去りにしていく、近くに鳴っていたピっという音がピーーーっと次の音を出すことなく永遠と同じ音を部屋に響かせながら


しかい が しろに そまる


【名を捨て、器を捨て、未練を捨て、望みを得た、何によって望んだのかその過程も捨てた…故にお前を縛るもの定義する物差しはない、何もない、己の支配権も捨て旅立つがよい、運が良ければ魔法も奇跡もある世界で目覚めるだろう…契約は刻ませてもらうがな】


邪悪な笑みと声だけが残された





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