おまけ 姦しい奥様達 ④
「んもー!わかりやすくいうと!王族はね、結婚する相手を選んでいるのよ、子供を残すとしたらこの人達の誰かってね!血筋を始祖様から受けついた血脈を薄れさせないためにね。そのせいで、血が薄い貴族達はどう足掻いても王族との繋がりが出来ないことに対して不満を抱えていたのよ。自分達がどう足掻こうと偉く成れないのなら、どうすればいいのか。一部の強硬派は、常に火種を求め続けているわよ。今の王族を玉座から降ろして、自分達が王へとこの国を乗っ取る為に虎視眈々と動き続けている屑どもが多いのよ、王都はね」
「なる、ほどな?要は、偉くなりてぇけど今の情勢じゃどう足掻いても出来っこねぇ、あたしでも考え付く内容ってなると、力づくってことかい?つまりはよ、手っ取り早いのが戦争ってことさぁね?争いをするために必要なきっかけを探し求めているって、ことさぁね?」
「・・・」
そうよ、王族と言えど一枚岩じゃないのよ?そいつらに加担する一派もいるってお父様がお酒に酔って口を滑らせていたのを聞いたことがあるのよね。
お母様に今の一言は内に秘めておきなさい他に漏らしてはいけませんよって口止めされたからよく覚えているわ。
「そういうこと、閃光ちゃんが黙るのも無理ないわね、乙女ちゃんの一族は何方かと言えば王族の一派だものね。深くは内情を暴露することになるから迂闊に言えないわね」
「先輩は意地悪です」
隣を見たらきっと睨まれそうね、怖い怖い。
「ふふ、貴族は大変ね、かといって、私も同じ立場って言われたらそうなのよね、御父様のことを考えると迂闊なことは言えないのよ?だから、この場の会話は三人だけの秘密よ?」
「ああ、もちろんさぁね」「もちろんですとも」
っま、今更、先の会話が他に流れたとしても左程問題は無いわね。今の私達なら恐れるほどでもないわね、場合によっては一部で怪我人がでるでしょうけれど。
「なんてね、先の内容は今となっては大きな問題になりにくいのよね」
「あんだい!ったく脅すんじゃないさぁ!」
「・・・!」
ふふ、両隣から深い溜息が聞こえてきたわね。
「今のこの国ってね、姫ちゃんのおかげで私達が若い頃と違って大きく変化しているのよ。貴族達も姫ちゃんのおかげで生活が改善されて豊かになっていったからなのか王族や上流貴族に対して文句が減ってきているみたいなのよね」
宰相と司祭の二人が私がシスターの姿で教会でスピカを産む為にお世話になっていた時に教えてくれたのよね。
「その技術を研究していた当時はねそうでもなかったのよ、自分が自分がと誰もが最も豊かに人生を過ごしたいから王へと成りたい人が多かったのよ、貴族だけじゃなく民衆も数多くの不満を抱えていたわね。さて、歴史のお勉強はさておき、これでわかったでしょ?」
「何がだい?」
話を聞いていたのかしら?
「ああもう!当時はね!私達の研究が見つかると色んな場所から断罪される恐れがあったの!故に!お互い研究内容を誰であろうと漏らさないようにするって決めていたのよ!」
「ああ!それが密会の内容ってことかい!?…別に、あたいには話してもいいじゃねぇか?」
はぁ~もう!わかってないわね!
「旦那が貴女に話さなかった理由が今わかったわよ!貴女に迂闊に話すと、地盤を固めきる前に誰かに何気なく話してしまいそうだったからでしょうね!」
「別に、話しゃいいじゃねぇか!」
話して漏れて問題が発生すれば怪我人が出るからでしょ!
「地盤が固まる前にね!迂闊に危険な場所に研究内容がバレると、旦那の畑と畜産農場が取り潰される恐れがあるってことよ!自分の家族を守るために彼は秘密を貫こうとしていたって事!まったく!彼の想いがわからないわけじゃないでしょ?」
こいつは!団長以上にわからずやね!
「確かに危険ですよね」
乙女ちゃんは私の研究の危険性がわかったみたいね
「何がだい!?あたいにもわかるように教えておくれよ!」
はぁもう!根本的に理解してないでしょ!
「この研究があれば、王族は血の薄い人達を殺しつくすわよ?不必要だから。何故なら、交わる必要性が無い人達なんて王族からすれば要らないでしょう?極論で言えば、人工的に子を産み出せるのなら王族はね、効率よく動く、下手な交渉なんていらない、血を紡ぐことだけを守り続ける事が出来るのならそれを行う。それ以外はいらない、それが…この国の王族よ」
現時点で最も、始祖様の血が濃いと思われる人物の精子か卵子を凍結保存し、常にそれを使って子をなす。
その技術によって産まれた子が男性であれば、凍結保存してある卵子をつかって人工授精し誰かに産ませる。
その技術によって産まれた子が女性であれば、凍結保存してある精子をつかって自身の卵子を摘出し人工授精し戻し代理出産させる。
愛も恋も好きなように出来るのなら、喜んでするでしょうね。
それが…この国なのよ。
まさか、姫ちゃんが研究していた内容がそれに近しいモノだなんて思わなかったけれどね。
姫ちゃんがその研究をひた隠しにする理由も、同じ禁忌を犯し続けてきた私ならわかるわよ。
っていうか、あの子!私の研究ノートとかいつの間にか全部把握していたのよね!
さらに言えば、精子の所在も把握してるし!…そりゃぁ、あの子に精子を保管するための魔道具を造ってもらった私が迂闊過ぎるってのもあるけどね。
あの子ならもっといいモノを造ってくれるのでは?っという、魔が差したのよね…
いいえ、魔が差さなくても、あの子なら勝手に辿り着いたでしょうね!!
あの子の好奇心は恥もへったくれも無いのよ!利用できるものは全て利用する!
強欲なのよ、あの子は…だからこそ、この街があるのでしょうね。
「ってことはあれかい?旦那の技術が伝わってはいけない人に伝わると、戦争が起きるってことかい?」
「そうよ、そして戦争が終結したとしても、その技術を編み出した、つまりは、戦争の火種を造った人物として断罪されるでしょうね、極刑として一族郎党全て死罪ね、貴女も含め、私も含めね…」
そんなことってあるかねぇって呟いているけど、当時だと有り得たのよ。
「そうなるとこの街は機能しなくなる状況に陥る、それをね、あの姫ちゃんが、それを易々と許すわけもない、わかるでしょう?あの子が本気になったら」
「…考えたくないさぁね、あの子が人に対して殺気を向けるなんて」
そうね、私だって考えたくないわよ。あの子が人を殺すところなんて、でも、あの子は…やると決めたらその意志を貫く。
「でも、貴女は見たのでしょう?悪夢を」
「っぐ…姫様は…姫ちゃんは、あんなにも、冷徹なのかい?」
数多くの姫ちゃんの記憶に触れたのなら、私よりも姫ちゃんに寄り添えれるでしょう?
私は…あの子が語った欠片しか知らないのよね。
それでも、内なる私が教えてくれる、あの子を起こしてはいけないって。
「そうよ、あの子は敵と見なしたら徹底的に叩くわよ?怒らせてはいけないのよ?あの子の大切なモノ、その全てを踏みにじる存在を許しはしない…あの子の本質は炎、それも、全てを焼き尽くすまで止まらない火を、焔を内に秘めてるのよ」
「・・・噂では、粉砕さんは姫様とご一緒に盗賊達を」
そういえば、そういうのもあの子はしてたみたいね、王族の選挙の最中に、その後もお義父様と一緒に討伐部隊を組んで殲滅して徹底的に根っこを残さないように潰したって。
「殲滅、した、さぁね…あたいは、直接人を切ったりしたりは、していない、でも…」
「捕らえた一部の改心する気が無い人達は殺してるわよ、姫ちゃんの指示のもとね」
話題で思い出したわ、確か、残された記録が正しければしっかりと処刑してるわ。
裁判にかけるまでも無く、当時の関係者で指揮をとっていた人達が断罪したと記載されていたわね。
「私もお父様からお聞きしています、その一連の流れで一部の貴族が滅んだという話を聞きます…その真相は」
「姫ちゃんの怒りを買った、もしくは、姫ちゃんに喧嘩を売った、その何方かでしょうね」
あの子は潰すと決めたら絶対に潰すのよね。容赦なんてしない、手心なんて加えない。
「…そうさぁね、なら、過去の事実が物語ってるじゃねぇか、あの子ならやるってことさぁね」
はぁぁっと大きい溜息が飛ばされ湯気が一瞬だけ晴れ渡り天井に描かれた絵が顔を出してくれる。
「王族が姫ちゃんを断罪しないのも、飛び火を恐れているって言う噂もお聞きしています」
姫ちゃんと深いかかわりがない乙女ちゃんからすれば、そう見えるのでしょうね。
でもね、恋の伝道師としての直感がね囁いていたのよ、今となっては確信できるのよね!
当時、感じていた直感が正しいのだと!故に私は仕事とはいえ危険な王都に出向く姫ちゃんを止めるという事しなかったのよね!…まぁ、護衛に女将のやつが引っ付いていたら安心していたってのもあるけどね。
当時、感じていた直感、今の状況からの私の推察を語ってあげましょうかしら。ふふふ。
「あら~、それは違うわよ、私の予想だとね、今の王様は姫ちゃんに骨の髄までイカれてるわよ?」
「・・・!?」「そうなのかい!?」
両隣同時に驚きと共に上半身を起こし覗き込んでくる。
表情から察するわね、各々が何を考えているのかが伝わってくるわねぇ。
一人は純粋に何を考えているのかよくわからない娘にやっと好い人ができたのだという安心した表情。
もう一人は、困った表情、あの財力とカリスマの塊が王家に流れ込んでしまうっという危険性ってところかしら?
二人の考えを壊すようで申し訳ないけれど
「二人が頭の中に描いた絵面、その全てを否定して申し訳ないわね、肝心の姫ちゃんは相手の事を一欠けらも想っていないわよ」
「そう、なんですね」「ったく、あの子はー!えり好みして!」
残念そうに視界から消える大きな顔に、少しホッとした顔で視界から消える小さな顔
「仕方がないわよ、あの子、好きな人いるみたいだし」
っふ、っと鼻で笑うと
「・・・!?」「あんだってぇ!?」
驚愕の表情で二人が覗き込んできて理解する、先の言葉が失言だと、やってしまったと後悔してしまう。
「残念ながら、誰かは私も知らないわよ?探ってみたけれど見つけることが出来ないのよね」
「・・・」「あの子は隠し事がうめぇからなぁ~」
視界から二人の何とも言えない表情が消えていくので注意しておく。
「無理に質問したらこじれるからしないでよー?」
「するわけないさぁね!あの子を怒らせると怖いのは重々承知さぁね!」
大きな音を私達以外、誰も居ない広大な空間に響かせ溜息を天に向かって吐きすてられ、彼女の豪快な溜息で湯気が霧散し天井がよく見える、綺麗な絵にもう一度挨拶をしていると。
「あの姫ちゃんが好きになる人物かぁ~思い付きやしねぇなぁ、おめぇが探り切れねぇってことはよっぽどじゃねぇか!…あん?あれ?」
なに?意味深な最後の声?
「ちょっとまて、なんだろう、あたい、知ってるかもしれねぇぞ?」
・・・はい?




