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最前線  作者: TF
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奥様達の思い出話 ②

浴場の縁に頭を乗せ天井を眺めると、昔と違って綺麗すぎる天井に時代の流れを感じてしまう。

「ここは、変わったようで変わってないです、ね」私と違って貴女は大きな変化を感じていると思っていたのに違うのかしら?

「そう、かしら?大きく変わったと思うわよ?」

乙女ちゃんって、私の記憶が確かならあの日を最後にこの街に来ていないでしょう?

「いえ、今も変わらず、習慣がまだまだ街の中で残っていました。名前で呼び合わない、っという習慣です、名前は」

「過去と繋がる、この大地に来る人達は」

「故郷を捨ててくる、捨てた過去を詮索させねぇために」

乙女ちゃんの言うとおりね、変わったのは見た目だけで昔から変わらない部分もあるわね。

「そう、なるべく、この街で与えられた役職、または、あだ名で呼び合う」

医療の父である先輩が言うには王都で捕まったが罪の清算として流刑によって犯罪者も多くこの街に流されてきていた、だからこそ、名前を知られたくない人もいた。

「古い流れさぁね…あたしはそれを続ける理由も減ってきていると思っちゃいるんだが、この街での決定権を持っている姫ちゃんがそれを良しとしてるさぁ。なら、そのままで良しってなってるさぁね。変わることなく風習は続いているさぁね~、滅多に名前で呼び合うことがないねぇ」

「はい、私もこの街へ赴くことを志願した際にこの街を管理する王族に連なる貴族から、そういうルールがあるのだと教えてもらってからこの街に来ました」

「あたいもさぁね、おっとあたしもさぁね。懐かしいねぇ、この街に向かう道中で調和だの約束事だのこういったルールがあるってのを教えてもらったさぁね、しちめんどくせぇって口を尖らせながら耳を閉じてしまいたくなるほど聞かされたねぇ~」

「懐かしいわね~、私も同じよ。学生の時にこの街に志願する予定を考えている人は必修座学がある、内容は絶対に覚えて置けって座学に参加したわよ。座学を受けた当初はこの街ではお互いをどうやって呼び合うのかって不思議だったけれど」

いざ来てみれば、意外と不自由しないのよ。

寧ろ…家名で呼ばれない、名前で呼ばれない、それがまた、生まれ変わった様な、新しい人生を歩んでいる様な。

家名によって縛られていた何かが解放されたような気分になったわね。

「そもそも、人がすくねぇ、街中でよ複数人が集まって何かをするってことがなかったからねぇ、名前なんて無くても如何にかなったからねぇ」

「はい、そうなんですよね。外での仕事が無い間は、戦士達も基本的に各々で自由気ままに過ごされていました」

「仕事が無い、襲撃が無い、上からの圧力による出撃が無い間は自由気ままだったのよね。それを騎士様は…敬愛する偉大なりし戦士長はまとめ上げて巡回任務を増やし、見つけた敵を襲撃し此方に攻め込ませないようにする仕事を作ったりしたのよね」

天井を眺めていると天井があの頃の古い建物、当時の天井を思い出してしまう。

一度溢れ出てきた思い出が湯水のように流れていく


辛く厳しい街、王都で如何に私達が守られているのか現実を付けつけられて理由が無ければ心折れて実家に戻ってしまいそうだった、何時だって当時の感情を思い出すと眉間に皺が出来てしまう、そんな思い出が湧き上がってくる。


「医療班は想像を絶する場所だったわ」

「戦士達の場所だって糞みてぇな場所だったさぁね」

「そうだったんですね、私が来た時はマシになっていたほうなんですよね?」

「ああ、だいぶね、あたいが来た当初に比べたらましだって思えれるさ」

「ぇぇ~…」

乙女ちゃんが驚くのも無理がないわね、私と女将はほぼ同期なのよね。

来た当初は本当に死が真横にある、何時だって肩を叩かれて次は君の番だよっと言われてもおかしくなかった。


助けようにも、薬が貴重過ぎたのよ、薬よりも人の命の方が軽かった…

助かる可能性が高い人物以外には薬なんて投与されなかった。

医療班が何とか調合した薬、その際に抽出された使えない部分、それを毒として投与することもあったわよ。


健常者であれば、数日体調が優れない程度の毒でも、死にかけている人であれば猛毒になる。

先輩は…死の見極めが最も秀でていた、死の運び屋なんて不名誉な名前だったもの。


後は、本当に備品が足らなかった…資金が無さ過ぎたのよね。

「常に、何時だって…予算が無かった、お金に困ってたわよねぇ~」

「そのあたりは~知らないさぁね、食う物も最低限あった、それに装備も最低限あった、なら目標を超える、その為に、あたしはただただ、強くなりたかった。目の前に大きな大きな大木がある、倒したくて仕方がなかったさぁね…あの頃は一番強い奴を倒せば村に帰れるなんて意味のわからねぇ考えがあったからねぇ」

「・・・」

一番強い奴を倒して、街の権力者にあいつは言うことが聞かない我々では抑えきれないから村に帰そうって考えに行きつかせたかったのかしらね?

そんな事をしても、この街では無意味、騎士様が居なかったら冷酷に死の大地に放り出されて門を閉められるだけよ。


そういう考えに行きつくのも仕方がないわよね。

女将は目的も無くこの街に生贄として捧げられた側だったもの、目的があってこの街に来た人じゃない。

王都の制度で、地方にある小さな元は独立していた小さな国々、今は王都に与している地方、その地方を1から10として割り振られ、昨年が1から生贄が捧げられた、次に2の地方から生贄を捧げる。


そういった死の大地へ出兵という名の生贄を送る制度があったのよね。


女将の村も例外ではなく、村の誰かがいかないといけない状況で誰も行きたくなかった、だから、女将が行くと宣言したのよね?流れ的に女将が出ないといけない雰囲気があったそうなのよね、村の人達の真意までは女将もわからないって言っていたわね。


目的があってこの街に来る人なんて珍しいのよね。

そう考えると、私と乙女ちゃんって同じ枠組みなのよね。

「乙女ちゃんは、お目当てがあったのよねー?」

足先を彼女の足に向けて動かし触れると逃げられてしまう。

「先輩は意地悪です」

「あたしも後々、閃光から教えてもらって驚いたさぁね、まさか、そんな恋心を抱いてこの街に来たなんて知らなかったからねぇ」

「っま、私も同じ仲間よ、お目当てがあってこの街に志願したのよね、その為に辛い訓練の日々を送ったものよ」

「それも後から聞いて驚いたさぁね~、この街に来る人なんてみんな、あたしと同じ境遇だと思っていたさぁ…だから、当時のあたしは、てっきり、この街に来てから戦士長に惚れたのかと思っていたさぁね、あの人に惚れちまうのは仕方ねぇって思っちまうほどに戦士長は…かっこよかったさぁ」

「・・・」

乙女ちゃんから声が聞こえてこない、大方、静かに頷いているのでしょうね。

戦士長、偉大なりし戦士長、もし、彼が生きていたら、この戦場はどうなっていたのかしら?

彼の死が…


ふと、思い出す、彼の死によって大きな心の傷をおった以外にも繊細な心だった人物の事を


「そういえば、ここでそういった話をしても良いのかしら?」

「なんでぇ、歯に衣きせやがって、あたいらに隠し事なんてしやがんなよ」

肩をベチベチと激しい音を立てながら叩かないでよ。痛いのよ、重いのよ。

肩からの衝撃に視線を変えることなく動じることなく天井を見上げ

「貴女、闘えれそうなの?」

「ああ、問題ねぇ」

間髪入れずに言い切れるってことは、克服しているわね。

「姫ちゃんと共に南へ出向き、あの子らの奮闘を見ていたらよ自分の情けなさに反吐がでたさぁね…それからさ、敵を見ても何も起こりやしねぇ、遠くで見ても心臓が詰まる、呼吸が浅くなる、小さく指が震える、それが無かった、なら、眼前に敵の牙を見ても起こりやしねぇのか、それを確かめるために外へ出たさ、何もなく昔のように蹂躙してやったさ」

この街の支えでもあった強き戦士、誰もが憧れた力の象徴、粉砕姫が戻ってきた。

「それだけじゃねぇ、しっかりと家族たちに覚悟も示してきたさ、旦那と娘達にあたいは死ぬ、戦場でこそ戦士として死ぬ覚悟を決めたと伝えてきたさ」

肩を掴まれ伝わってくる熱い血潮、その考えを止めるつもりは無い。


私だって同じ決意を抱いてるから。


「そう、安心しなさい。その覚悟私も背負ってるから、貴女一人じゃないわよ。私もね、前へ出る覚悟はある、何があろうと私の身を捧げても…」

未来を紡ぐ、愛する娘が目の前で死んだとしても、立ち止まらない。

私は未来を紡ぐ。

「おめぇのいう、前ってのは…野暮だね、それ以上は聞いちゃいけねぇな」

優しく肩を叩かれる、戦士としてではなく母としての…貴女の心も受け取ったわ。

「わ、私も!!」

珍しく乙女ちゃんが私の腕を掴んでくるじゃない、どうしたの?

「死を覚悟して、ます!・・・でも」

握られた手の力が抜ける、そう、そういうこと、それで女将を待っていたってことね。

女将の鉄よりも固い腕にふれ

「どうする?」「ん?何がだい?」

乙女ちゃんのでもに対して何も伝わっていない。

そうなのよね、こいつは…察しが悪いのよねぇ

「何がも何も、あいつをどうやって説得するのかって事よ」

乙女ちゃんが死を覚悟したとしてもベテランが良しとしないってことよ。

「ああ、んなもん説得する必要なんてないさぁ。戦士が死に場所を見つけたんだ、前へ進むだけさ、誰が何を言おうが止める権利なんてねぇ、例え…愛する人だとしてもね」

返ってくる答えが女将だからこそね。

そりゃぁ、貴女はそれで通るわよ、旦那さんは貴女が何れ戦士に戻る時がくると信じ支えてきた。

その土台が、条件が乙女ちゃんと女将じゃ違うじゃない。

そもそも、女将の旦那は貴女の勇姿を見て惚れこんでるのよ?止めるわけないじゃない。

「そういうことだってさ、相談する相手を間違えたんじゃない?」

力なく私の手を握っている人物にこの先どうするのか考えがあるのか待ってみると

「・・・」

私の手が両手で包み込まれる

無言で縋りつく様に両の手を重ねないでよ。


それが何を意味するのか察しが悪い私じゃないのよ。

そりゃぁ、当時の私とあいつの関係性を見ていた乙女ちゃんからすれば私か女将が説得することが出来る人物だと思うでしょうけれど、私じゃあの馬鹿を説得できないわよ?あの馬鹿を説得なんて…私ではダメ、あの馬鹿を頷かせることが出来るのは、この街では彼女以外にいないわ。

…ぁ、そういうことね。

「わかったわよ、姫ちゃんへの橋渡し、してあげる」

「・・・!!」

嬉しそうに手をにぎにぎと握ったり摩ったりしないでよ。

私からその答えに辿り着くのを待っていたでしょ?違うわね、軽く誘導されたってところかしら?


淡い希望を抱いているところ申し訳ないけれどね

はっきり言うけど、姫ちゃんが頷いてくれる可能性、ほぼゼロよ?


この先を考えれば戦力が少しでも欲しいからと言ってもね…

こう言っては何だけど、乙女ちゃんがいることで戦況を左右する程の力量が無いと姫ちゃんは判断するわよ?

それにね、あの子は、母という存在に弱いのよ、母という存在を戦場に出すっということに抵抗を感じている、そんな姫ちゃんが母として生きた人を戦場に送り出すなんて思えれないわね。

「姫ちゃんにそうだ」

女将がその先を言うと長話になる、このまま湯船に居たらのぼせちゃうじゃない。

彼女の言葉を遮る様に立ち上がり

「熱いわね、そこの椅子で横になるけど、お二方は?」

見下ろそうとする前に二人も立ち上がり

「いい塩梅さぁね」「はい」

三人並んで様々な理由で火照った体を冷ます為に用意された横になる為の椅子へと移動してからは、戦士として、この街を支える幹部としての会話ではなく、普通の有り触れた奥様としての会話が始まった。

三人仲良く、井戸端会議という名の有り触れた会話に一時の安らぎを感じ、明日を、各々が愛する家族を守る為の戦いに向かう覚悟を固めて行った。




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