好奇心と勘違い ①
安らぎを感じていたのは一人では非ず、彼女もまた、温もりを欲している。
場面変わり、そんな女性が寝ている部屋へ
─ 姫様の私室
「んが、っっは!?姫ちゃん!?」
息が詰まる感覚、自分のイビキで目が覚め
先ほどまで感じていた忘れたくない温もりが無い事に気が付き、慌てて飛び起きると胸のあたりから何かが落ち、落ち行くされど踊る様にベッドに吸い込まれていく白き踊り子。
そんな事を考えながら紙がひらひらと空を舞い落ちていくのを見守っていると、ベッドに優しく着地するのを見届けてしまう、ぼんやりとし過ぎてしまう程に疲れが溜まっているのだろうかと歳を感じ溜息を鼻から飛ばしベッドに落ちた白き踊り子に手を伸ばして掴んで何が書かれているのか目の近くに持ってくる。
「よくここにいるってわかったわね」
書かれている内容に驚いてしまう。この街って意外と広いのよ?端から端まで、下から上まで探すとなると一苦労するのに。
仲の良い友達だからこそ、意識が通じるってやつかしらね?
あの子の行動原理パターンを把握して理解してくれる程に心通わしている人がいる。
姫ちゃんの周りには心を通わすことが出来る仲間がいるのだと心の底から安心する。
団長が来てから、本当に姫ちゃんは変わった、悪い方じゃなくとても良い方向へ。
…悪戯っ気が増えた気がするけれど、若い頃に遊ばなかった遊べれなかったっという、幼き頃に抑圧された衝動、その反動って考えれば、ね?
一緒に遊んでくれる友人がいるって言うのは人生を豊かにしてくれるわよ。
…私にはそういうのが無かったから、私の人生は豊かじゃないのよ。
っていうと、姫ちゃんなら頬を膨らませて怒ってきそうね。
あの子には色々とお世話になったし楽しませてもらったから、何も言えないわね。
あの子の部屋を見渡してみると、懐かしい思い出が溢れ出てくる。
少しほんの少し、腕を伸ばしてベッドに残された温もりに触れると、胸が暖かくもなり締め付けられもする。
…そうね、女の友情は良いものよね。
「女の友情は良いモノよね」
私と女将、私と姫ちゃん、私と奥様のようにね、女性同士だからこそ遠慮することなく己を曝け出せるのよ。
ふふっと笑みを浮かべ、ベッドから立ち上がろうと地面に足をつけると太ももが泣き叫ぶので、違う意味で涙が溢れそうになる。
立ち上がろうと踏ん張った姿勢のままゆっくりとお尻をベッドにつけ座り込んでしまう。
このまま激痛に耐え忍ぶほど、私は愚か者じゃない。
普段から携帯し持ち歩いている回復の陣が描かれた手のひらに収まるサイズの紙を太ももに当て回復の陣が描かれている紙に魔力を流して筋肉の組織を回復させる…
起動してすぐに先ほど太ももから発生し駆け抜けていった痛みの余韻がやんわりと薄れていくのを感じる。
すぅ、っはぁっと、鼻から息を吸い口から吐き溢す、痛みから解放される、それだけで安堵する。
この陣に助けられたことは何度目なのかわからない、故に、手放せなくなってしまった。
この陣も何個目かしら?
壊れる度に姫ちゃんにお願いして作り直してもらったのよね。
別に私だけが特別じゃないわよ?この回復の陣が描かれている紙は私だけが持ち歩ているわけじゃない、定期的に術式研究所に所属している人が創ってくれているわね。
けれどね、私に渡してくれるのは毎回姫ちゃんが造ってくれるのよね。
だからかしら、この回復の陣には思い入れが強くて…思い出の品、なのよね。
それだけ、便利なモノだったら当然、医療班全員が携帯していると思うでしょ?
違うのよ、医療班全員が携帯しているわけじゃないのよね~…
この小さな陣だとね回復できる規模が些細なモノになってしまうのよね。
小さな回復の陣だと大きな怪我をした人に対してだと効果的ではない、なら、大きな回復の陣がある病室まで連れて行った方が効率的なのよね。
主に何処で使うのか、私の実体験だと、先ほどのような小さな痛みに対して有効的かしらね。
筋肉痛とか、足の小指をぶつけたとか、滑って転んだとか、戸棚に頭をぶつけたとか、紙で手を切っちゃったりとか、裁縫で指先を指しちゃったとか、そういった細かい傷や痛みに有効的なのよ。
そんなわけで、色々と怪我の多い私からすると、使い道や使いどころが多いから私は何時だって持ち歩いているのよね、癖になっているのか…
もしくは、騎士様のお守りと同じように姫ちゃんから貰ったお守りのように感じているのかもしれないわね。
あと、医療班や戦士、騎士達が外で携帯しない理由もね経験則からあるのよ。
死の大地じゃ、怪我した人が真っ先に狙われるからその場で回復なんてね、してられないのよね。
後、報告によると死の大地で使おうにもいざって時に使えなくなってしまう程に汚れたり破損してしまうことがあるって報告も受けてるのよね~、乱戦時に紙を守りながらってのは土台無理な話よね。
私以外でよく使ったのは、そうねぇ、女将のとこに用時で出向いた時にあの女将の娘だものね、娘達が当然の如く、活発なのよ。
逢う度に擦り傷を見せてくるものだから、これで治してあげたりしてたのよね。
子供がいるお母さんには必須になる、それくらい、ちょっとした怪我の時に咄嗟に使えるから便利なのよね。
魔道具によって足が癒えるのを待ち続けていると不思議と昔の思い出が駆け巡っていく。
場所が場所なのだろうかと、天蓋を眺めてしまう…豪華なベッドね、ここで愛し愛されたら…なんてね。歳を重ね過ぎた私には関係のない話ね…
思い出深い魔道具、独り思い出を咲かせていると太ももから感じる痛みが和らいでくるのを感じる。
本当に痛みが抜けきったのか、回復しきったのか確かめるために恐る恐るベッドから足を伸ばして足地面につけるとチクリと痛みが返ってくる。
「痛みはかなりましね」
小さな痛みが返ってきたけれど、それくらいなら歩いているうちに忘れるって程度ね。
この程度の痛みなんて日常茶飯事、歳を重ねると痛みになれるのよっと、勢いよく、ベッドから立ち上がった際に服の一部が揺れたように見えたので、視線を胸元に向けると、服のボタンが一つ外されていることに気が付き、起きてから息苦しい締め付けられている感覚が無い事に今になって気が付いてしまう。
こういう気遣いが出来るのは彼女しかいない、優しくいい娘に育ちましたっと愛する騎士様に報告するようにお守りを服の上から手を重ね祈りを捧げる。
「こういう細かい気遣いは団長ね」
祈りを捧げ背筋を伸ばし、つい、漏らしてはいけない言葉が漏れる。
「医療に関しては鋭く気が付くのに、人の気持ちには疎いのが不思議な娘なのよね~」
両腕を真っすぐに天へ伸ばすようにして背中を伸ばし続けながら、騎士様に聞こえていないで欲しいっと天に向けてウィンクをする。
天に伸ばした両腕を下ろす、この動作だけで違うが分かってしまう。
ボタンが一つ外されているだけでこんなにも腕が上がりやすくて解放感を感じてしまった。
結論!私にはこのタイプの白衣は向いてないわね!窮屈すぎるのよこれ!
いつものコートタイプの白衣か、普段着にでも、もう…
視線を窓に向けると暗くなっている、っということは夜となる。
なら、普段着に着替えましょう、姫ちゃんとこが販売しているスウェット、最近は寝る時はもっぱらそれなのよね~、楽なのよあれー、ただ、色気が皆無なのがネックなのよ、私に叩き込まれた淑女としての嗜みが悲鳴を上げるのよね!
着替える前に、せっかく寮に来ているのだから大浴場に寄っていくのがいいわね。
寝ぼけた頭も起き始めてはいるけれど少しばかり霞がかった思考のまま、大浴場に向かおうとドアに向かって一歩を踏み出すと
「ひめ、ちゃん?」
目の前を小さな、ちいさな、愛する娘が通り過ぎた様な気がした
愛する娘が向かった先はクローゼット…嗚呼、そういえば、そうだったわね、ここには、服を取りに来たんだったのよね。
ふふ、さっきのは忘れ物があるよって教えてくれたのかしら?
だとしたらありがとうね、見えた幻に感謝をしながら、クローゼットを開けてみるが、クローゼットには不思議と空間が出来ている。
新しく服でも買ったのかしら?数が少ない気もするわね。
あの子の事だし、定期的に服を大量に購入しているのを知っているのでいつもの事、何も不思議じゃないわねっと、感じた違和感を一笑し、あの子が好きそうな服を何点か選び手に抱え、クローゼットの片隅にある棚が教えてくれる、忘れない?っと。
「そうよね、下着も…いるわよね、でも、ふふ、気合の入った下着を渡したらどんな反応するかしら?」
良くない悪戯心を抑え込み、クローゼットの片隅には下着が入っている小さな棚を開けるために腰をかがめて小さな棚から下着を何点か見繕い立ち上がると…ふとクローゼットの奥に何か傷のような物が見え、近づいてみると小さな窪みがある。
「何かを壁にでもぶつけたのかしら?」
あの子はね、ああ見えて、ちょいちょい大雑把で雑なのよね。
この窪みもきっと、何か悪戯でもしようとしてモノを運んでる最中に運んでいる物の角を壁にぶつけたのでしょ。
よくある事よねっと、まったくこの程度、特に気にすることなんて無いわっと、両腕に服を抱えながら回れ右をしクローゼットを背にすると…
幼い姫ちゃんが指を刺している?
わたし、まだ、何か忘れものがあるのかしら?
後ろを振り返ると…窪みがある
この窪みにはなにか、意味があるの?
もう一度、確認するために幻だとわかっている幼い姫ちゃんの方へと向き直すと、手を振りながら姫ちゃんが消えていく…
薄っすらと消えていく背中が見間違いだと思うのだけど、変な黒い翼が見えたような気がした、それも、鳥とかの翼ではなく、見慣れない翼のような物。
「白昼夢っていうのかしらね?それにしても、触れれそうな程に…ふふ、私も歳なのかしら?」
口ではお祖母ちゃんっと自称していても、見た目はまだまだ若い!知り合いの奥様達からも絶賛される美貌と若さを保っているのよ、そう言わんばかりに、左手を胸に添えもう片方の手はスカートを掴む様にし(スカートをはいていないけれど)社交界で若い子達がスカートを広げるように体を一回転させ綺麗に優雅に、雅に!止まる。
偶然か必然なのか、運命だというのか、一回転ターンをした目の前に、先ほどの窪みがある、ここまで御膳立てされてしまってはついつい、手を伸ばし触れてしまいたくなる好奇心、窪みへと指先を伸ばし触れ
「私はまだまだ若いでしょ?」
華麗なターンを見ていた窪みに自慢げに語ってみると
指先の近くからかこんっと音が聞こえてきて慌てて窪みから指を離してしまう。
唐突な何かの音によって全身の血の気が引いていくのを感じ小さな立ち眩みがしてしまう。
「ぇ?私、何かしちゃったかしら?」
血の気が引くのも致し方ない、ここはあの子の部屋!
きっと何かの仕掛けがあの窪みに施されていたのか、近くで小さく何かが動く音が聞こえる。
耳を澄ませてみると、小さな物音が壁側から聞こえてくるのが分かる。
小さな音に何が起きるのか身構えているけれど、何か身の危険を感じるような感覚はない、罠の類では無さそう。
警戒して上を見ても何かが落ちてきそうな、天井から物が落ちてくる様子も無ければ、前の壁から勢いよく矢が飛び出てくると言った殺意の高い罠では、なさそうね。
咄嗟に出てきた罠かもしれないっという、自分の考えに笑ってしまう。
あの子が誰かを傷つけるような罠をクローゼットに設置するわけないわね、あるとしたら水をかけられたりする程度よね。
そもそもよ、あの子は部屋の鍵をかけない!その心情が見られたら困るモノはあるとしても、見られたら見られたらで別にいいって考えなのよね~、なので、この窪みが罠である可能性は低いってことよ。




