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最前線  作者: TF
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今代の私は… ⑤

受け取った魔力を少しだけほんの僅か、凹みに分けてあげると…カコンっと、音がなり触ることなく凹みの直ぐ真横の壁が動き始める。

クローゼットの奥にある壁の一部が自動で動くのを何も考えずに眺めていると奥へ通じる隙間が生み出される。

だいたい、人一人くらいなら余裕で通れそうな道が目の前に現れる。


その動きを見てまるで自動ドアみたいだと思ってしまった。

なんだ、今代の私はこういうのにも力を入れていたんだね。

なら…エレベーターも作って見せて欲しかったな。


そんな事を思いながら開かれた道、ドアを潜ると、特に何かの魔道具を起動させたわけでもないのに自動で天井にある灯りが点灯し部屋の中にいある暗闇が消えさり、小部屋が優しい光に包まれ映し出される。


一連のギミックに驚いてしまう。

灯りもきちんとしている、小さな部屋の中が隅々まで照らされるように計算されている。

灯りによって見える世界、ゆっくりと全体を見回す様に首を動かしていく…

そこには数多くの棚が用意されている。

壁には青いスーツのような服が二つかけられている。


そして、中央には部屋の中央には、存在感を放つ物質が二つ置かれている。


小部屋の中央に視線を向けると・・・


大粒の涙が溢れ出て止めることが出来ない



今代の私は、諦めていない

ずっと、待っていたんだ、王の帰還を


愛した人がまた帰ってくる日を、私達が幾度となく恋をし

幾度となく別れ


永遠ともいえない苦悩を分かち合うことが出来た


二人の魂


敵に捕まり人類への罠として用意された悲しき運命を敵によって植え付けられた破滅の妖精王

凄惨な人生を歩み、人類の為に戦いに参加し死んだ後も、魂を加工されエッセンスとして使われた片田舎の王


人と妖精が混ぜられた特質な魂

わたしの わたしたちの 愛する旦那様


彼の帰還を待ち望んでいた、ずっとずっと…

彼の為に用意した、彼と共に戦うと決めて作った

武骨な鉄の塊、彼でしか扱うことが出来ない不器用な大剣


それが、ここにある…


指揮棒が優しく振られる

その流れに任せて大剣に触れる

指揮者が涙を流しながらも指揮棒を振るい続ける


指揮者が泣けというのであれば、幾らでも泣いてあげる。

貴方の悲しみは私の悲しみ、二人は…ううん、三人は何時までも、死で別たれたとしても

私達は分かち合う。悲劇を…


近くにお母さんがいようと関係なく私の喉から叫び声に近い歌が蓄音機のように流れだす


喉が壊れてもおかしくない程に音を垂れ流してから

彼の魂でもある鉄の塊から離れ、部屋の隅々までチェックする…


壁に掛けれているのは彼と共に戦う為に用意した戦闘服

恐らく、最終モデル、恐らくは、全ての技術が込められた特別製

戦闘服に触れると今代の私の記憶が溢れ、肯定してくれる。


その機能が如何に素晴らしいモノであるのか教えてくれる

その隣にある棚を開くと、用意されている、無限の魔力を得るための魔道具が

バックパックのような形状をしている、見ただけでわかる、これと戦闘服がセットとなるのを

数は…うん、今代の私も私と同じ意見、これを装着する覚悟がある人物の分だけ用意されている。


愛する旦那様

ベテランさん

女将

そして、あと一つある、恐らくは…お爺ちゃんのかな?


合計で五つ用意されている、後は壊れたとき用の予備パーツかな?

そして、この棚の横に置かれている細い物質、バックパックの蓋を開けると理解する。

この細長い物質が魔石、新機軸の魔石。

魔石に触れると記憶が応えてくれる、そう、これ一つで中型魔石と同等の魔力を保有している。

はは、今代の私は、凄いなぁ…どうやって高さ50センチ以上ある中型魔石をこんなサイズにまで小型化できたのか…

細長い魔石を手に取ってみる。

片手剣の柄よりも気持ち細く、長さはたったの20センチ弱っていったところかな?


思っていたよりも軽いなっという感想を抱いていると刹那的に記憶が溢れ、魔石の構造を思い出させてくれる。

その構造を知った瞬間に関係各所に拍手を喝采を送りたくなってしまった。

その発想は無かった、それを実現する技術が無かった。

従来の魔石とは構造が違う、過去の私、その誰かが一度は思いついたかもしれない、けれど、実現する術が無かった。

私達とは違う、この世界は進んでいる、研究する時間があった、実現するための技術を発展させる時間があった、実現不可能な構造、それを解決してくれる段階まで職人たち切磋琢磨し頑張ってくれた。未来を切り開くための術を編み出す努力をしてくれた事に感謝を言いたくなってしまう。


これが可能であるのなら魔石の型化も頷けるってもんだね。


魔石を元の位置に戻し、視線を部屋の中央に置かれている大剣に向け、その隣に置いてある物…

その隣に寄り添うように置かれている見たことのない形状の何かがある

いや、正確にはこの大地では見たことが無い、私も知識だけなら知っている。


地球産の道具


使い方は至ってシンプル、誰でも扱うことが出来るほどに簡単操作で扱えれる。

ただし!危険を伴う道具だから、子供が遊び道具にしてはいけない。

本来の使い方だと、これは闘うための道具ではない、これを使って戦えって事?

誰の為に?何の為に?大剣に寄り添っているっていうことは、わたしの、ため?


手に持った瞬間、記憶が開く…

この道具が何をするためにあるのか…

何を目的として用意されたのかを知る。


…ああ、そうか、そういうことか、そのための…

点と点が繋がっていき…今代の私が残した切り札の使い道に納得する。


今代の私もまた、私と同じでこっそりと動いていたんだ。

諦めていない、彼女は、未来を、人類の明日を掴むために動いてる。


かといってこれを持ちだすつもりは無い、だってまだ、これを動かす時ではないから。

手に取った地球産の道具、それを大剣の隣に、優しくそっと元の場所に置くと、不思議と大剣と道具が寄り添っているように見えてしまう。

一つは闘う為に作られた武器なのに、もう一つは…ああ、そっか、嗚呼、そっかぁ、産業革命の姫、その姫が有り触れた武器を手に闘うのは違う、まさに私が歩んだ歴史を象徴する道具。その二つが寄り添っているのなら、お似合いじゃん。


世界が平和になったら…本来の使い道として正しく使ってくれる人ってなると、女将にでもプレゼントしたら喜ぶかな?


それが、本来の使い道だもんね。


そんな事を考えながら眺めてしまう。

っていうか、今代の私って凄いなぁ、まさか、こんな爆発的に物凄い力を生み出す機構を用意するなんて、悪用する使い道があるんじゃ、使ってはいけない邪悪な使い道を否定する様に本来使われている道具が何か教えてくれる。

あ、そっか、車のエンジンかなるほど、その新しい仕組みとして研究開発させて、それを此方に転用したのか、なるほどなぁ、ってことは、それの軸となっている術は解明済みってことになる、つまりは、あの杖、もう用済みってことになる、ああ、それで?あっさりと王族に渡したんだ。


はは、凄い、本当にすごい。

今代の私は、私達が束になっても勝てやしない。


地球の化学、その一部がここにある。


彼女は魔道具だけでは勝てないと判断して、敵が知らない技術系統を発展させることに時間を費やしていたんだ。それも、多くの人を巻き込んで…

巻き込まれた人達は何のために研究するのか最終目的を知らないんだろうなぁ、日常を豊かにする道具を研究していたのに実は兵器を作るために研究させられていたなんてね、知らないんだろうなぁ。


車のエンジンかぁ、大昔に私が作った車を動かす動力源、力を生み出す構造は単純、磁石っていう鉄を引き寄せる石、それに似た構造、一定の方向へと力を加える力の力場を発生させて車輪の軸となる歯車を押し出す、押し出されてくる歯車を一定方向に引き込みようにして歯車を回す、単純にそれだけ。


でも、今代の私は違う…ろーたりーえんじん?よくわからない単語、それをめざし、た?

爆発する力を使って動力とする…そんなの一歩間違えれば魔道具そのものが爆発力に耐えられなくなり吹き飛ぶのに…それを可能とする為に、色んな産業を発展させた。


お酒を造る

工場を造る

車を造る

建築物を造る

生活に必要な道具を造っていく。


数多くの産業を発展させた。

人々の生活を豊かにする為に必要な技術

その発展先は…全て地球にある化学を再現する為の布石。


今代の私は強かなんてものじゃない…

何年先を見据えて動き続けたのか…

はは、私のような短絡的な感情だけで動いていない



部屋の中央から部屋の全てを見渡す様にくるっと回る。

視界に映るその全てが応えてくれる、全ては人類を救う為にと…



嗚呼、始祖様、お見えになりますか?

私の目を通してお見えになられますか?

私達は、貴方様から頂いた力が薄くなり弱くなりました


でも、ここには弱きものでも戦うための技術があります


ここには、貴方が私達、寵愛の巫女にだけ閲覧できるように加護の中に残してくれた…嗚呼、そうか、そうなのですね

これもまた、始祖様がもしもに備えて何時か、何処かで寵愛の巫女が辿り着く場所なのですね?


魔力を持たなくても明日を生きる為の術

生きることに魔力を燃やし、闘う為に魔力を使わない、そんな世界が来ることを願って。


その理由は単純に世界に魔力が無くても生きていける世界を想像する為!

魔力が体から溢れ出て抜けていく悲しき運命を背負わされてしまった

白き髪の短命種が未来を生きる為に残してくれたのですね


だから、だからなのですね!

加護の中に知識を、魔力が無い人達が生きる地球という場所の技術を、詰め込んでくれたのですね。

闘うための知識ではなく生きる為に豊かにする為の知識を厳選し残してくれたのですね!


始祖様が寵愛の加護に残してくれた知識、それが何を意味するのか真に理解した瞬間、全身から歓喜の声が沸き上がり、泥の中からも喜びの歌が溢れ出てくる、その衝動を抑えることが出来ず、指揮者も歓喜に包まれた会場を盛り上げる様に指揮棒が激しく振られ、私の体が踊ろうとする。


両腕を広げ天を崇め感涙に浸る様に踊り続ける、指揮者も私に合わせる様に指揮棒を振ってくれる。


小さなダンスホールでただただ天を仰ぐだけのお粗末なダンスが続けられていくが…

私には終わりがある…残念なことに私には、時間制限がある。


終わりを告げる様に、指揮者がゆっくりとお辞儀をするので、私もお辞儀をし動けるうちに人類の希望が詰まった部屋を後にする。



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