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最前線  作者: TF
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今代の私は… ③

鼻をすすり、涙が止まると車椅子が動き出す。

長年、共にこの街で戦い続けてくれた大切な、たいつせな…仲間達と別れを告げる。


願わくば月の裏側へ辿り着けていることを祈る。


私の部屋がある寮が近づいてくる。

その間も祈りを静かに続ける、皆が月の裏側へと旅立てるようにと…

祈りを続けていると湧き上がってくる、心の奥底から湧き上がる衝動に歯を食いしばり手に力が、熱い血が流れていくような感覚が湧き上がってくる。

今度は、今度こそは、絶対に失敗しないと決意が沸き上がり私の隅々まで行き渡っていくと、心臓が強く、力強く鼓動する。


どん、どん、どんっと一度一度が激しく脈打つ

その力強い衝動を身体の中心から指先へと流れていくのを感じた


うん、やっぱり、私は…私を、この体と心を動かすのは復讐

人々の祈りによって動き続ける復讐の人形、それが私だ。


寮に到着し中を突き進んでいく、ふと疑問に感じてしまう、私をどうやって運ぶのだろうかと?

階段の前に到着すると昼間と同じ流れ?私の前にしゃがむので何とか腹筋を使って体を前に倒して腕を伸ばすと腕を掴んで引き寄せてくれる。彼女の背に背負われるだけで心が落ち着いてしまう。


年老いた母が懸命に一段一段、人形を背負って階段を登っていく


一階を通り過ぎ、乱れていく彼女の吐息、私のお尻を支えていた手が一つ離れ、離れた手は手すりを掴み、一段一段と手すりを握りしめ乍ら登っていく…

背中越しから伝わってくる彼女の爆音に近い心臓の鼓動を感じ、更には、背中が燃える様に熱くなっていく、普段から運動はジョギング程度しかしていない年老いた彼女の体が心配になってくる。

今の私では何も出来やしない、愛する旦那様に頼めば、部屋までくらいなら、階段を登り、歩いて行ける、はず。協力を願うべきだろうか?


…貴重な魔力を消費してもいいのだろうか?


私に何かできるのか、するべきなのか、背負ってくれる大切な人に声を掛ける。

「きつくない?」「…」

返事が返ってこない、きついみたい。だったら、階段の近くとかに一旦私を下ろして、なんなら階段の座ってもいい途中で休憩しようっと声を掛けても無言で登り続ける…

きっと、立ち止まったら二度と立ち上がれないからだろう。


そのまま無言で、されど、荒い息遣いを奏でながら進み続け、私のドアの前にまでたどり着くと部屋のドアノブを回し豪快に足で開けて荒い息遣いで中に入っていき、真っすぐに進んでいく、私の記憶が正しければこの進行方向はっと、考えていると、目的の場所に到着したのか立ち止まるとほぼ同時にクルっと旋回し勢いよく座った反動で一瞬だけ私の体が跳ねてしまう。

ベッドの上に私ごと座ってくれたので、掴んでいた腕を離して背中を倒すとベッドが優しく受け止めてくれる。病室のベッドと違ってグレードが違う、柔らかく包み込んでくれる。はぁ、これこれぇ…


お母さんの状態を確かめるために直ぐに上半身を起こそうとしたのだが、驚いたことに柔らかいベッドだと上半身を起こすのが難しく、何か掴もうとしても掴むところが無いとベッドの上で姿勢を保てなく寝ころんでしまう、私の腹筋では上半身を起こしきることが出来ない!ぐぎぎ!今代の私はトレーニングをサボってたなぁ!!


っと、恨みがましく文句を垂れてしまいそうになるが、そもそも、うん。

そっか、そうだよね、足の踏ん張りが無いとベッドで姿勢を保持するのって難しいんだ、腹筋に力を入れて無理をすれば出来ない事も無いんだけど。

上半身を僅かに持ち上げて背負ってここまで運んでくれた女性がベッドの上に勢いよく寝ころんだのを見てゆっくりとベッドに全身を預ける。別に姿勢を保つ必要性ってないからこれでよし。

うんうんっと、新しい体の仕組みを発見したなぁっと頷いていると、ベッドが小さく揺れ続ける。

勢いよく寝ころんだ人に申し訳ない気持ちを感じながらも無力に天蓋を眺めていると

「ちょ、ごめ、し、んどい、いき、はぁ、はぁ、はぁ、たい、はぁ、えほ、ごほ、ふ、ぅぅ」

大きな胸を上下させながら苦しそうな声が振動となってベッドを揺らしている

彼女との距離は手を伸ばすと届く距離、そっとお腹に手を当ててごめんね、ありがとうっという気持ちを込めて撫でる

「っふ、あ、りがとぅ、ね、はぁ、足、つりそう…」

お腹ではなく太ももへと動かしてみると、手が届いたので感謝の気持ちを込めて摩る。


足を摩り続けながら私の頃と大して差が無い天蓋を眺め続ける。

今日ほど、ベッドが大きくて良かったと思う日は無いのかもしれない。


ベッドが大きい?小さな私が何人の寝ころべる大きさ?

何で必要なんだっけ?


…ぁぁ、そっか、思い出した、ベッドをキングサイズにしたのは、私とメイドちゃんと団長、三人で寝る為だった。

それでさ、どうせだったら名に恥じないベッドが欲しいなってことで、半透明でフリル調の天幕も発注して、お姫様っぽい感じでよろしく!って王都の職人に特注で作ってもらったんだった。

つっても?ベッドの構造に関しては地球の知識をふんだんに盛り込ませてもらった。

試作タイプとして、良い値段したんだけど、買って後悔なんてしないしていない。

寧ろ、今代の私からすればはした金…っていうか、後にテストタイプを見て触った貴族から大量に発注されて結局のところ考案者としてある程度、売り上げの一部を貰ったんだっけ?

経済ってのは、誰かが多く持ちすぎてはいけない、使わないといけないんだけど、廻り巡って戻ってきている。今代の私はどれ程迄の資産を保有しているのか、考えたくないなぁ。


何れ起きる問題を見て見ぬふりをして縋る様に太ももを摩っているとその温もりが答えを示してくれる。そうだよね、彼女に全部押し付ければ良いんだと、子育てにはお金がいるもんね、にしし。

はぁ、そうだよ、私にはこの温もりがある、この温もりを傍で感じ、このベッドで横になる。


嗚呼、これだけで、これだけで…幸福感に包まれてしまう。

安心感に包まれていく…


このまま、何もしないで、何も考えず、ずっと横になっていたい、そんな日々を…そっか、今代の私は過ごせたんだね、私と違ってよい人生を歩めたんだ。


そんな自分がいる世界があってもいい、最後に笑えなくても、人生の何処かで幸せを感じ笑えたのならそれでいい。


そう、だよ、私は、私も、わたし、だって、笑っていたかった、闘いたくなんてない、なかった、闘わなくても良いのならそれがよかった、平和に大切な人達と笑いあえる時間が欲しかった。


…でも、それを許してくれはしない、あいつ等がいる限り…

幾ら、今代の私が長く生きたとしても、何れ、あいつ等が私達を殺しに来る。

何れ、必ず。何度でも奴らは…狙っている人類の絶滅を


それにさ、あいつ等が攻めてこなくても私の人生に変わりはなかったのかもしれない…

だって、私は短命種、いつ、事切れてもおかしくないのが私の体、だもんね。


だったらさ、そんな貴重な時間をあいつ等なんかに貴重な時間を割きたく何て無かった。


でも…目の前に人類を恨み、殺したいと殺気立てている奴らがいるって知ってしまったら動かないわけにはいかないよね、だって、うん、だって、私の願いは願いを叶えるには絶対条件がある、人類全てが手を取り合って力を貸してくれないと実現不可能ってね。

だから、お金が必要だったってのも、行動原理としてあった、かな。


そんな柵なんて忘れてさ、ただただ、感情に流されてさ、出来る事ならさ、こうやって、大切な人達と共に笑いあって触れあって生きれたらさ、良かったのにね。

実現不可能な世界を想像しながら足を摩り、視線を隣の女性に向けると、とても苦しそうな表情。

だけど、彼女の中にある信念が苦しかろうと動いている、眉間に皺を寄せないように指先を眉間に当てて皺が残らないように気をつけながら目を瞑って呼吸を整えようとしている。

苦悶の表情をしないように指先を眉間に当て必死に顔に皺が残らないように伸ばそうとしている辺り、何時だって彼女は美を意識している、常にしわ対策を頑張っている。

美に対する意識に関しては本当に感心する。いや、それ以外も認めている部分は多いよ?


そんな美の意識の塊である彼女の呼吸が落ち着くの待ち続ける。

それくらいの時間は…きっと、ある。


ただ、じっと待つだけをしないのが私、こういう時だって出来ることはある。

隣の彼女と同じように目を閉じて意識を内側へと向けていき、精神の内側にある泥の中へと沈んでいく。


沈んでから見回してみても、泥の中は何も変わらない。

本来であれば今代の私が座るであろう席も空席のまま…

せめて、今の状況を把握するために今代の記憶という瞳があれば、まだよかったんだけど…


泥の中を漂う瞳達に視線を向けると、石碑に祈りを捧げているのか、誰も何も言わない。

私の時は、あれやこれやと隙あらば睨みつけてきたくせに、今代の瞳達は静かじゃん。

っていうか、何でめをひらか…ぁぁ、そっか…そう、だよね…

…いや、この考えはやめよう、この考えはダメ…


ふと脳裏に浮かんでしまった仮説、考えるだけで胸が痛い


だって、この仮説が正しいのであれば…



私の命はたぶん、もう、残されていない



頭ではわかっていても、心が否定し続けている仮説。

絶望の波に飲み込まれないように、思考を切り替えるために必要なのか、無意識に体が勝手に何となく魔力のソナーをうってしまった。


貴重な魔力を消費して調べる事なんて無いのに、今代の体はどうしてこう、無意識に勝手に動くのだろうかと呆れてしまう。

飛ばしてしまったのだから当然、受け取って知る、無駄にはしたくないからね。

先ほどの魔力波によって魔力の波を作って飛ばす、部屋の隅々まで飛ばした魔力波が部屋の中全てに当り返ってくる、部屋の構造を隈なく探ることとなった。


返ってきた結果に思考が真っ白に染まる、驚きが思考を止めてしまった


ただ、予想外だったのが、まさか、そんな、そんな結果が、魔力波が返ってきたことによって、知る何て、こんな結果が返ってくるなんて思ってもいなかった。

ここ、ここには、た、ただ、服を、可愛らしい服を取りに来ただけだったのに…


偶然なのか?必然なのか?これが運命なのだろうか?

いや、これはきっと必然、私も隠し通路とか、隠し部屋とか、作ろうかって考えたことがあるっていうか、小さな隠しスペースは作った、こ、これ程、大きな物じゃなく、私の時は、金庫を入れる程度を…その中に危険な薬品とかは隠してたりしてた。でも!!ここは大きい!


そうだよ、私がそういった事をするのなら!

今代の私が同じことをしないわけがない、だって私だもの!!



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