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最前線  作者: TF
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今代の私は… ②

暗く深い闇の中で、泥すらも燃やし尽くさんとする火が泥の奥底で灯る…

「外に出たついでだもの、広場に寄るくらい問題ないわよ?スピカは医療班の皆が私が私がって状態で世話したがっているもの、私の時間に関してはね、意外と余裕があるのよ?だから、貴女が行きたいのであれば遠慮なんていらないのよ?戦士達の様子を見に行く?構わないわよ」

「ううん、大丈夫、今って王都騎士団が前に出てくれているから、戦況がきにな…」

ダメダメ、危ない危ない、その一言でお母さんなら気になるなら探しに行くわよって言いかねない!っていうか、そっちに行くと遭遇しかねないから危険だっての、お母さんは叔母様の危険性をもう少し認識して欲しいよねー…我らの一族だからこそ、言える、私の血筋からこそわかる。


復讐の炎は簡単に消えない

ふとした弾みで燃え上がる、恋の炎とは比べ物にならないくらい早くにね…


「そうねぇ、私としてもベテランのやつから報告が上がるまで待っていようと思っていたのよね、ほら、今アイツって…取り合えず、私が知る範囲で宜しければ、戦況がどういう状態なのか報告しましょうか?お姫様」

ペチペチと後頭部が叩かれる、車椅子を動かすときはしっかりと両手で持って欲しいかなーつってね。

「そういう軽口が言える、+悠長に誰かの報告を待ってる時点でさ、ある程度、察してるよ。だから大丈夫、まだ、時間的な猶予があるんでしょ?」

頭を後ろに倒して後頭部を叩く不届き者を見つめると、微笑んでいる。

その笑顔に私もにへへっと大きく口角を上げると首の筋やらかすわよっと後頭部から押され前へと向けさせられる。


前を向き周囲を観察する、そう、常に視野を広く持つ、それが…失敗を経て得た能力。

瞬間的に一目見て、周囲の状況を理解し今後を判断する。

今の状況を切り取る様に覚えておけば、時間がある時に、その状況を思い返し冷静に判断する。


それが出来なかったからこそ、私は、敗北したんだよね。

先生は、先に見せてくれていたのにね、敵がこういう手段を持っている何とかして手を打てってね…

他にも、私が見落としているだけでサインがあったのかもしれないなぁ…


っま、今代は先生の手を借りることなく、闘ってみせるよ。


静かに闘志という火なのか、復讐と言いう火なのかわからない熱量を握り込む様に華奢な手を小さくちいさく、気が付かれないように握り込む。

「ご明察よ、さすがね。貴女が昏睡している間、少しずつ良くない状況に向かっていっている、それは間違いないわね。かといって、あの壁がある限り易々とこの街に攻め込ませたりしないわ…でもね、長期戦を考えると…正直に言うわね、私は選択肢を迫らされていたのよ…」

長期戦、かぁ、私も良い思い出が無い。

「でもね、彼らには助けられたわ、こればっかりは適切な判断したんじゃないのって褒めてあげたくなるわね、それに、貴女が来てくれた、私達はまだ戦える」

選択肢が迫られていたってなんだろう?…ああ、そっか、私の代わりに幹部として、戦況の判断をして司令塔にならないといけなかったのかな?

それと、適切な判断をしたってのはどっちに対して何だろう?

まぁいいか、どっちにしろお母さんが真正面から彼らを褒める事なんて無いだろうからね。


「それじゃ、予定通り貴女の部屋で良いわね?寄りたいところは無いの?遠慮しなくていいのよ?」

「うん、無い、って思うんだけど、何処か寄っておいた方が良い場所ってある?」

何だろう?この言い方だと私が気が付いていなくて今代の私なら絶対に気になって寄るべき場所があったりする?

「寄っておいた方が良い場所ってなると、あるわね。新しく墓石に刻まれた名前もある、のよ。それにね、塔も術式も騎士も戦士も、皆…貴女に会いたいと思っているわよ」

墓石はまだわかる、でも、他の場所を進めてくる辺り、本当に今代の私は、私とは違う、別の人物だって思う。


…うん、今代の私は多くの人達から愛され慕われている。私と違って畏怖の存在じゃない。


今度、姪っ子ちゃん?に会ったら、謝らないといけないよね、慕ってくれている相手に、あの態度は良くなかったよね。

会ったときは、冷たい風に当てられて私の心が冷たくなってしまったって言い訳で逃げよう。


覚えてないから仕方がないなんて、私都合だもんなぁ。


姪っ子ちゃんからすれば貴女との記憶がない、なんてさ、そんなことありえなさ過ぎて真実だとしても嘘を言われているって思うよね。

っていうか、普通、そんな状況になっているだろうなんてさ思ってもいないだろうし、そんな状況に陥っているなんてさ、そもそも、医療班が周囲に伝えているわけ何てないもんね。

私だって、皆に知らせないようにそう判断するよ、それが正しい。


「ん~…それは、落ち着いてからって言いたいけれど」

この状況で同じ轍を踏むのもね、愚かすぎる、だからといって、何処にもよらないのは不自然ってなると誰にも会わないであろう場所で、聖女の血筋として出向かないと不自然すぎる場所、そこだけは寄っておくのが無難

「墓石だけは寄っておきたい」

「ええ、聖女としてそれが正しき行動よってあいつも言ってるわ」

返ってきた言葉に驚いて目を開いてしまう。

…私が思っているよりも、叔母様とお母さんの関係って折り合いがついている?


どうやって今のような関係に着地したのか、彼女たちがどういった道を歩んできたのか、知りたいような気がするけれど、きっと、触れてはいけない世界なのだとわかっているので、きか、ない!気になるけどね。


車椅子の進行方向が私の部屋がある向きからかわり、病棟の奥地にある集合墓地へと動き出す。


集合墓地に連れていかれる間、周囲を見渡してみても、視線が刺さることが無い。

得に視線を集めるようなことが無い。


ここだけを遠くから見れば怪我をした人物を外に連れ出してくれている病棟での穏やかな日々をくり抜いたよう、でも…


壁の方へと視線を向け耳を澄ませると…少々、ざわついている。

ざわついているけれど、私が…終わる間際の騒々しさに比べたら…余裕がある。

聞こえてくる声の雰囲気、音も荒くなく、王都を巡回している騎士達が談笑している様な雰囲気を感じてしまう。まだ余裕がある、って、感じてしまう。


感じてしまうけれど、それは…まやかし、私は知っている。先生の用意周到さを、私と違ってどんな手を使ってくるのか本当に油断できない。

油断できないのは敵も、だけどね、先生なら敵を欺きつつ、此方に何かしらのヒントをくれる、前回は気が付かなかったけれど、今回は見逃さない


今代こそ、先生の期待に応える様に、勝たせてもらいますからって言いたいけれど、まだ…その糸口を掴めていない。

気持ち焦ってしまうよね、直感だけど…

余裕があるとしても…三日も過ぎれば無くなるような予感がする。


暗い夜道を…未来を照らす光が欲しい。

空を見上げ夜道を照らす大いなる存在を求めてしまう。

裏側、その先を、見えないのに、意識を向けてしまう。


遠い遠い世界に向けて意識を向けていると、車椅子が止まる。

視線を前へ向けると、石碑が近くにある。祈りの姿勢を取り、祈りを捧げる。


祈りを捧げていると、隣に人の気配、視線を一瞬だけ横に向けると、お母さんが膝をついて祈りを捧げる姿勢となり、祈りを捧げている。

綺麗で流れるような金色の髪、私が知っている一般的な年齢とは思えれない程に若々しく美しい。

永遠の美は何か?っと、問われると、隣で膝をつき聖なる祈りを捧げる人って答えるが道理


うんうん、美の化身とは彼女の事を指す

彼女に気が付かれないように頷き、視線を石碑に向けなおす。


さて、綺麗なモノをみた、心も洗われた、黒い炎をこれ以上起こさないで、前を見よう…

石碑を見た瞬間、黒い炎以上に、己の身に起きている異常が心を締め付けてくる。


石碑に刻まれた名前が読めない…


悲しいのは、異常のせい?それとも亡くなった人達を思って?

この胸を締め付けてくるのは、きっと、私が知っている人達が亡くなったから悲しい、はず…


胸がきゅぅっと苦しみをあげている、その痛みを抱きしめる。

ごめんね、一人一人名前を呼んで祈りを捧げたいんだけど、文字ですら、上手く認識できない。


単音ずつであれば文字を読もうと思えば出来そうな気がするんだけど、不思議と、一文字を思い浮かべ次の文字を思い浮かべようとすると一文字目が消えてしまい連続して認識できない…


だったら、単音ずつ発音して名前を…よべ、よ、べ…

「・・・・・」

ダメだ、喉が音を出さない、頭の中では一文字、たったひとつの文字なら認識できているのに…

音に出そうとすると出ない。


口を何度も何度もパクパクと開いては閉じてを繰り返し、動かしている、喉に意識を向けて声を出そうとするんだけど、出るのは空気だけで喉を震わせることが出来ない。


わたしは、いのりすら、だめなの?

自身の不甲斐なさに下唇を噛み、涙が零れそうに溢れ出ようとしてくる。


「ありがとう、必死に名前を呼ぼうとしてくれているのね、代わりに私が一人一人、名前を呼んでいくわね」


震えるような音が隣から聞こえてくる、その音が音楽ではなく誰かの名前なのだと思う。

きっとそう、私には聞こえないけれど、この音楽の歌詞は誰かの名前、一人一人、故人の名前を読み上げてくれる。

■■■■さん

■■■さん

■■■■■さん

■■■■さん

目を閉じて耳に神経を集中させているが

・・・・ごめんね、名前を認識できない、できないの、ごめんね。


大切な人達の名前がわからないと顔も姿も思い出せない

はずなのに、どうしてか、読み上げられていくと不思議と名前が分からないのに…

彼らの顔が思い浮かんで消えていく…ありがとう、■■■くん。愛する旦那様…


きっと、今代の私の記憶が必死に思い出そうとしているんだと思う。

私の知らない名前でもきっと、彼女であれば知っているだろうから。


今は亡き彼女の代わりに黙祷で祈りを捧げ続ける。

幸いにして、月が顔を覗かせようとしている時刻、月の裏側で安らかに…


音楽が止まる…それが何を意味するのか、月の光に照らされた石碑が教えてくれるだろう。


ゆっくりと石碑を見つめるために、目を開くと視界が滲んでいる

頬の辺りを優しくハンカチを添えられ、そっと手を重ねる


「みんなの為に涙を流してくれてありがとう」

「…うん」

何故か違和感を感じてしまった。

どうしてだろうか?少しだけ、言葉の言い回しに違和感を感じてしまった。

どうしでだろうか?別におかしくは、ない、何も、間違ってはいない。

気にしすぎかな?




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