各々の恋愛事情 ③
「だから…気に入らないのなら殺しましょう」「いえ!殺すのは如何かと思います!」
はぁっっぶなぁいなぁもう!隙あらば!ってかもう!
心臓に悪い!少しでも便乗できそうなら乗ってくる!アレを殺す方向へと話題を向けれるチャンスが来たのなら直ぐに乗っかかってくる!!
…なら、いっそのこと!乗ってくるのなら!巻き込む!叔母様が絶対にしない話題をぶつけてやる!
「叔母様は…恋を、しないの?」
「してるわよ、何時だって今だって過去も未来も、私は何時だってだーりんに恋してる」
話題を振って見て、自分は馬鹿じゃないのかなって反省してしまう、だって、わかり切ってる答えだもん。
叔母様は何時だって、うん、どんな時だって原動力はあの人に関係する事だもんね…なら、今はどうなんだろう?今は…叔母様が求めていた子供が、だーりんの血筋である子供を産んだ今は?
「スピカはいいの?」
「あら~、だーりんを愛していても子供を愛することが出来ないと思っているのかしら?馬鹿な姪に教えてあげるわ…出来るに決まってるでしょう?…妹もそうだったでしょう?」
冷静に否定できない答えをぶつけられてしまう。
っむ、それを言われてしまうと、否定何て出来るわけないじゃん。
お母様が私を愛していないわけない!
例え…お父様に恋し続ける乙女だとしても、お母様は私の事を愛してくれた。
「そうだよね、馬鹿なことを言っちゃったや…叔母様は、その、わかい…えっと、昔は、その、えっと…教会に居た頃ってそういう人に出会えなかったの?」
「っふ、姪にそんな話をする日が来るとはね、いいわ、今日はとぉ~っても、機嫌がいいから答えてあげる」
絶対に機嫌が良くないんだろうなぁ…少しでも気を紛らせたいから会話に乗ってきたって事かな?だとしたら、成功、かな?
「いなかったわよ、近くに居た大人たちは私達に手を出さない、出すときは子を残さないといけないときだけ…そもそも、聖女の体に触れるなんて許されざる行為だったのよ?理由はわかるでしょう?」
えっと、幼い人に手を出すような悪食がいないから、とか?かなぁ?
「そうなんだ、でも、司祭様は叔母様の事、その」
「司祭、様?…貴女、会ったことあるの?いや、そうね、まだ貴女は産まれてないわね、なら、誰をさして…」
思い当たる人物を思い出したのか、小さな溜息と共に
「ぁ、ぁ~、今の司祭ってことね、彼に恋心なんて抱くわけないでしょう、私からすれば悩める子供よ…永遠にね」
彼がこの場にいたら膝をついて二度と立ち上がらなくなる、それ程までに残酷な言葉だった、こういう話題は私の部屋でするべきだと少し反省したくなるけれど、状況が状況なので、致し方なし!
…彼の恋が報われる日は永遠にこなさそうかぁ。
うん、彼に何処かで会ったとしても平常心で接してあげないとね。
「っとなると、当然、お母さんも宰相からのアプローチは」
「っちょ!?もう、自由ねぇ、あいつは…」
お母さんに話題を振って見たら、あっさりと切り替わる?これは予想外かも?
叔母様とお母さんって肉体の支配権が曖昧になってる?どころか、自由に出てこれる?お母さんが寝ていなくても?だとしたら…暫くの間はお母さんの傍に誰かつけとこうかな?危険な香りがする。
「そうよ~、私としてもあいつが立派に育とうが…ええ、駄目ね」
ズバッと否定される、ここでもまた、一つの恋が消えていく…
「坊やと一緒で永遠に男として…見れないわね、あいつから幾ら愛を囁かれたとしても…心が揺れることなんてありえないわね…ええ、まったくもって微塵も感じないわね。」
ん~、だよなぁ、ここに関しては前々から脈何てあり得るとは思ってなかった。
でもなぁ、娘としては、その、ちょっとだけ彼とくっ付いて欲しいって、考えもあるんだよなぁ~。
お母さんであれば、国の内側に入って人々を導きこの国をより良い方向へと聖女様のように道を照らしてくれる気がする。
ってね、そんな事を考えたりしたのを、今代の私の記憶が教えてくれる。
「お母さんなら、この世界を正しく導いてくれるのになぁ…聖女様の意思を継いでさ」
「無理よ、何一つ守れない、何一つ奇跡を起こせない私じゃ…背負えないわ」
淡々と返してくる辺り、この手の誘い文句は宰相から耳を塞ぎたくなるほど言われてそうだよね。
私としても、お母さんのその意見に関しては否定したくなる、そんな事ないってね。
数多くの貴族を見てきたけれど、お母さんほど、命を重んじる人は珍しくて、貴族として歩もうとしている人達からすれば眩しく憧れてしまう考え方なんだけどなぁ…
「思想を委ねる相手を間違えているのよ、そう、全員ね。誰が見ても、私よりも貴女の方が適任でしょうに、財力もコネも全てに置いて文句なし…そうね、だからこそ、彼も貴女が欲しいのかもしれない、いえ、違うわね、その言い分だとそれ以外に貴女に魅力が無い、という聞き捨てならない意味になるわね!そんなのは、一人の女として許せないわね!こんなに可憐で可愛くて、そして、美しい女性に魅力がない何て、あるわけがない!」
途中から徐々に語尾を荒げたと思ったら、唐突に抱き着いてきて頭を撫でられてしまう。
もう、誰かに見られたら余計に私がそっちの趣向の人だっておもわ…もうどうでもいいか。
そんな他者の評価何て下らないと感じるほどに、彼女に抱きしめられると感じるこの、安堵感、落ち着く感じに満たされていく。
これをさ、そんなどうでもいい周囲の評価によって手放すことなんて私には出来そうも無い、それだったら好き放題に言ってもらってけっこーですってね。
抱きしめられ頭を撫でられるのを堪能していると
「はぁ~。心残りがあるとすれば、孫が見たかったってくらいかしら」
絶望的な状況かのような、絶対的に不可能な夢みたいに言わないで欲しい。
「ん?まだそうと決まったわけじゃないじゃん」
つい、感情が溢れ口を滑らせてしまったことに後悔してしまう。
この一言が何を意味するのかわからないお母さんじゃない、現に抱きしめられていたが、言葉の意味を理解すると同時に解放され此方の瞳を見て、すぐに、にやけた表情になってしまう。
感が良い女だことぉ!!
「ほぉ~ん?そっかそっか、愛する人が出来たのね、女の顔、してるわよ」
「んぐ…そんなこと、ないもん」
そっかそっか~、それは良い事きいたわ~、それじゃ、王と言えど眼中にないって言うのも納得よね~っと、あからさまに!
独り言が此方に聞こえるように呟きながら足の方へと下がっていき、黙々と膝が曲げられストレッチが再開される。
…もう、お母さんの一言で彼との出来事を思い出しちゃって顔が熱くなってきちゃったじゃん、まぁ、良い思い出だからいいんだけどさぁ…
会えるのなら会いたいなぁ、今の私だったら彼も…
自然と腕を組む様にしてふくよかに育った感触を確かめ、己が間違っていたのだと言われている気がする。
はぁ、攻めるのが早すぎたのかな私?
待ちきれないのが私の悪い所だったりするのかな?
そもそも…知らなかったんだもん、私が、私の体がこんなにも、こんなにも、長生きするなんて…私って20歳が限界だと、思っていたから…
でも、待てる時間があるんだったとしても、私は、待てたのかな?
目の前に、ずっと待ち続けた人が居る、絶好のチャンスを…
「お母さんはさ、ずっと、ず~~っと、待っていたんだよね?」
「そうよ、お恥ずかしながらずっと、機会を待ち続けていたわよ、彼が死の大地で命を賭けて戦ってるときも、彼が王都にある家に帰っている時も、彼が…愛する女性を抱いている時も…ずっと、この街で待ち続けていたわよ」
言葉に波がない、彼女の中ではもう過ぎ去った思い出、なんだろうなぁ。
「そっか、ねぇ、もしも、もしもだよ?」
「あら、ifの物語何て珍しいわね」
確かに、私がもしもの物語なんて滅多に言わない。
それでも、聞きたい、参考にしたい、道標になって欲しい。
「戦士長が生きている時代に…叔母様がここにいて、お母さんもここに居たとしても、待ち続けた?」
戦士長のことを熱心に狙っている人物が傍に居たとしてもお母さんは待ち続ける事が出来たのだろうか?
「それは…ああ、そうよね、待たないわよ、こんなアグレッシブな奴が直ぐ近くにいたら焦るわよ、あるかもしれないたった一つの席を奪われかねない気がして焦るわね!彼の性格を考えると義を通す人だから、席を設けるとしても例外はひとつだけよね!」
「だよね!」
うん、私も焦っていたのかも…
だって、■■■くんってモテるんだもん!!
周りにいる女性全員が彼に好意を寄せていたんだもんなぁ!焦るっての!!
妖精の目なんて関係なし!あの、彼の…姿が私達は本能的に見てしまえば魅了されるっての!!だって、始祖様にそっくりなんだもん、本能が本質が、魂が彼を求めてしまうんだよ…
「私は~…現地妻でも良いの、彼の分厚い胸板に、彼の屈強なる腕に、あの厚みに抱きしめられるだけで月の裏側へと旅立ってしまいそう、抱きしめられた瞬間に果ててもおかしくない、王都に愛する他の人が居ようが、すぐ隣に他の女性がいようが、抱きしめて頂けるのでしたら、些末なことなのよ」
柔らかい口調だけど夢見る乙女みたいな雰囲気
んお?珍しく叔母様がこういう会話に口を挟んでくる?
「あら、貴女も心を入れ替えたのかしら?だーりんの愛は私だけじゃなかったのかしら?」「時がたち、スピカを胸に抱き、スピカの笑顔を見てわかったのよ、スピカは多くの人に笑顔を振りまき、多くの方がスピカの笑顔を見て心を震わせている、輝く星は遍く普遍に平等に照らす、太陽もスピカと同じ、そして彼も同じ、太陽が多くの星々を照らしているのであれば、私という星も彼の愛に照らされるの…スピカを抱きしめていると、それでよいと思えるようになったのよ」
珍しく、二人の会話が外に漏れてる…
僥倖かな、この会話を聞いて、私の中にある叔母様と今代の叔母様は大きく違うのだとわかって、安心した。
この二人なら、救世主を救世主として育て、救世主が人の悪意によって堕ちることは無い、星の輝きが曇るような過ちは繰り返されない。
「綺羅星は、守らないとね」
「ええ、勿論じゃない、もうこれ以上、綺羅星を奪われる様なことはさせないわよ、全ての聖女がそう願っている」
その言葉を最後に、膝を持ち上げられ股関節や、腰部、殿筋などのストレッチが行われ
「はい、これでお終い、どうする?着替え、取りに行く?」
額に大粒の汗を浮かべ頬を伝い落ちていく彼女に
「うん、行く!連れて行って!あと、お風呂入りたい!」
容赦なく我儘が言えるのが、今代の私!ってね!
はいはいっと、返事を返しながらお姫様抱っこされ、軽々と車椅子に座らされる、団長と違ってお母さんにお姫様抱っこされると、その、安定感っというか、密着するからちょっと息苦しい感じもするけれど、それ以上に落ち着くのが何とも言えない。
車椅子と共に外に出ようとする、前に…
「ごめん、トイレ寄って欲しい」
「そうね、今のうちにしときましょう」
情けないことにトイレに関しても誰かの手を借りないといけないんだよなぁ!!かといって、かといってぇ!愛する旦那を叩き起こして足動かして!なんてもっと言えないっての!!
…ぅぅ、不便だぁ…早く足を動かせれる様にならないと!!




