過去を知る、今代の記憶を知る、次の一手を探す為に⑲
呆れるような眼差しが背中に突き刺さるのを感じる、だからといって反省する気も無し!だって片付いてるもん!私基準で!!!
ふんっと気合を入れる様に鼻息を荒くしながら車椅子をデスクに近づける。
さてさて、机の上には何があるのかなっと?
成長しない私の部分を憂う暇なんて無いの、学ばない世間と合わせる気が無いのも、私の個性でしょ?受け止めて欲しいかな。
色んな言い訳を並べながら机の上に手を伸ばし今代の私が何を研究していたのか、痕跡を辿っていく…
机の上にある書類を手に取り欲しいワードが書かれているのかいないのかを瞬くをするのと同じような速さで、探すように読む
これくらいのことなら、思考を加速させなくても、流し読みは得意分野
欲しい情報だけを探すのは得意だからね!欲しくないワードは完全無視!…故にちょいちょい読み零すときもある!
一枚、一枚と、机の上に乱雑に散らかって…置かれている書類を手に取り、文字を流すように見ていく。
それにより、今代の私が研究塔で何を研究していたのか、大まかな概要は掴めることが出来た…その結果。
私の欲しい情報はここにはない。
ここにあるのは、単純に外での…資金を得るための研究ってところかな?
この机の上にある書類、設計図、仕様書を見る限り、遊びや娯楽に関係する物ばかりを研究している。
つまるところは、依頼の為ってところかな?
机の上に散らばっている書類に書かれている仕様書を見る限り、作っている魔道具の方向性が統一されていないんだもん。
多種多様で方向性も全く違う、完全に貴族の娯楽か趣味か何かで依頼された物ばかりだろうね。
まぁ、それがね、私の本職だろって言われたらそうだよって言いきってもおかしくないくらい、私の時もそれが主な収入源だったもんね、なら、今代の私もそういう依頼が舞い込んでくるのは必然だよね。
仕様書に書かれている内容に向けて手首のスナップを利かせてぺちっと叩く。
まったく、風船だとか、新しい車のエンジンだとか、カメラとか、印刷技術とか、音を拡張するための魔道具とか、遠くを見る為の遠視の魔道具とか、カメラで得た情報を映す為の魔道具とか、どう考えても、貴族が暇を持て余して何か楽しい事が無いかって感じで娯楽を模索してるって、ところじゃないのかな?
ここにある研究成果物は、闘うための研究じゃない、ここは…そういう場所じゃない。
なら、ここに長居する必要はない、かといって、全てが全て放置はできない。
っとなれば、寝る間も惜しんで把握しておかないとね!
「ここと、そこにある書類を後で運んでもらっても良いかな?」
メイドちゃんに声を掛けると頷いてくれるので、ここにもう用はない。
「それじゃ、ここは、もういいかな、術式研究所の方に向かおう」
「もういいの?」
来て直ぐじゃないの?っという表情で団長が困惑している。
欲しい情報は、今のところ無かった。
まぁ、私の知らない知識や研究が数多くあることはあるんだけど、何となく、何となくだけど、ある程度、仕様書を読んでいるうちに、頭の中に研究していた内容が思い浮かんできたから、記憶を呼び起こすきっかけさえあれば、念入りに読み込まなくても大丈夫な気がする、ここにあるのは娯楽メインだってね。
「うん、ある程度分かった、それでいい、時間が惜しい行こう」
その言葉と同時に車椅子が動き始め、階段がある方へと向きを変えられると、連携が取れている、だって視線の先には既に団長が階段の近くで屈んで待っている。
そのまま、車椅子を押され団長の背中の手前で止まってくれるので腕を伸ばしメイドちゃんに補助してもらってスムーズに団長の背中に乗せてもらえる。
そのまま、無言でスムーズに抱えて降りてもらった。
1階に到着すると、直ぐにメイドちゃんが車椅子の準備をしてくれる、阿吽の呼吸で団長とメイドちゃんは何も言葉を交わすことなく連携が取れている、下手すると私よりも以心伝心出来ている気がする、二人ってこんなに仲が良かったんだと感心してしまう、してしまうんだけど、何だろう?ちょっとモヤっとする不思議な感情がお腹に渦巻いている。
よくわからない感情に幾ばくかの苛立ちに近いモノを抱えながら車椅子に降ろしてもらったので、二人に塔を出ようと声を掛け、車椅子が動き出すと
「ひ、姫様!あの、あちき」
高い音域の声、若い女性の声が塔の中に響き渡る。
研究塔に入ってきた時から声を掛けても良いのかどうか、ずっと、遠巻きで見ていたひとりの少女がいた。
その少女が私達に声を掛けてくる、表情から見てわかる、今の状況が不安なのだろう…初対面の人になんて声を掛けたらいいのか何てきまっている、お決まりの言葉を残す
「大丈夫、私が…この状況を打破する、任せて」
辛いのか、悲しいのか、寂しいのか、不安なのか、今にも泣き出しそうな顔をしている少女に手を振り「行こう、時間が惜しい」小声で団長に伝えると車椅子が動き出し塔の外へと連れて行ってもらう。
研究塔の大きな門を潜り、直ぐに空を見上げて太陽の位置を確認していると
「ん~…言って良いのかな?言わせてもらうけどさ、いいの?あんな簡単な感じで?」
後ろから先の流れが間違っているのだというけれど、何でだろう?どこぞの貴族の人でもいたの?今更そんな、こと?
「何で?何か…まずかった?」
私に注意何てしないであろう人物が注意するっていうことが何を意味するのか。
私が知らない情報を団長が持っている、それは当然、ってなると、貴族相手にしてはいけない態度をとってしまったのだろう。
「姪っ子ちゃんは姫様の事、心の底から尊敬していて、ずっと…ううん、研究塔のいる人達全員が姫様の事を」先ほどの態度が良くなかったのだと言うけれど…じょうきょうが、あ~…そう、だよね?今代の私だったら、もっと、上手く立ち回っていたって言いたいんだよね?そこに関しては、ちょっと、期待しないでほし…あれ?団長はなんて言った?
聞きなれないワードが気になってしまう。
…ん?姪っ子?…ってことは、もしかして、私の一族が来てる?さっきの初対面の少女って、もしかして、身内だったりする?だとしたら、ちょっと良くなかったかも?
でも、ここで非を認めると、次に向かう術式研究所でも余計な時間がいることになっちゃうしなぁ…
「各部署には落ち着き次第、しっかりと話をするよ?それじゃ、不服?私だって、元気になって万全の状態で皆と逢いたいんだけどなぁ…あと、姪っ子ちゃんって?」
「時間がある時で、ってそんな予定があったの?それだったら、その時でいいのかな?姪っ子ちゃんは姪っ子ちゃんだよ?ほら、ベテランさんとこの」
…っは?ベテランさんって、孤児院じゃなかった?親、いや、普通に考えれば、奥様の方か、っとなると、武家の一族が研究塔にいる?そん、な、わ…け、あるか。
瞬間的に記憶が蘇っていく。
そう、だった、ある日、ベテランさんから相談されたんだよね、確か、武家の中でも武以外の才を認める為に姪っ子をここで働かせてほしいって相談されて、最終的に出来れば面倒を見て欲しいって、頼まれたんだっけ?
それで、うん、ベテランさんから頼まれたから特別ってわけじゃないけれど、少し贔屓目に彼女を育てていたっけ?
そ、そうそう、それで、彼女と過ごしていて彼女もこの街に慣れてきたころ合いに何を専門的に学びたいのか聞いたんだよね?
っで、彼女が何に最も興味があるのか教えてもらった、死の大地に居る特殊な獣の生態に興味があったんだっけ?
っで、彼女には、獣達の分析・解析などをメインで学び研究してもらっていたんだったかな?
だとすると、あの少女からすれば、尊敬する師匠が昏睡していて、目が覚めて研究塔に来てくれたのだから、何か、感動的な再会を夢見ちゃってたってなる?…ん~、それは、うん、もう少し感動的にハグくらいはしたほうが、良かった、よね。
だとしても!次に向かう先にも、そういった人物がいるとなると、そういった時間を設けるわけにはいかないの!…次、そんなことしちゃったら姪っ子ちゃんが私だけしてくれなかったってなるでしょ?なら!
「気にかけていたとしても、今は優先すべきことがある」
「…ん~…うん、わかった」
納得していないご様子で背中に怒気が突き刺さる…
今代の私は、私と違って、多くの人達に寄り添っていたってことだろうね。
些事など気にするなって権力者のように偉そうに団長に言いたいけれど、それでは、ダメなんだろうね、寧ろそれをしてしまうと嫌われそう。
だとしても!もうしちゃったもんはしょうがないじゃん!
今から戻って抱きしめるのもおかしくない?
後ろから不機嫌そうな気配が漂っているけれど、しょうがないじゃん!
今、色々と!思い出してるところ何だから!いきなり、今代の私と同じように振舞うのなんて無理だっての!っていうか、団長なら私の症状知ってるでしょ!!
…それくらい大目に見て欲しいなぁ。私だって常に完璧でいてあげたいけどー、情報が欠落しまくってんだってのー…
「姫様も、まだ本調子じゃないから」
「…うん、そうだね」
メイドちゃんが見かねたのか、小声で団長を宥めてくれている、本人たちは聞こえないと思っているんだろうけどさ、私って耳も優れているからガッツリと聞こえてるんだけどー!
うぅ、胸が痛い…そんなチクチクと攻められる様な状況になるなんて思ってなかったんだもん!記憶が無いんだから、察しろなんて出来ないっての!!
そんなつもりじゃなかったのに、もう少し、和やかな雰囲気で終わらせる予定だったのに、気が付けば、ピリッとした空気を纏ってしまっている。
そんな少々ご機嫌斜めな一団が術式研究所に到着し何も言葉を発することなく中へと入っていく。
研究所の門は研究塔と違って普通の大きさ、普通の二枚ドア
ノックをすることなくある部屋に案内される、そこが私のデスクなのだと二人の態度ですぐにわかる。




