過去を知る、今代の記憶を知る、次の一手を探す為に②
「あ、そうそう、いきなりでさ~申し訳ないんだけど」
「何か入用ですか?」
前置き何て彼女には必要が無いと言わんばかりの返答
今代のメイドちゃんもその辺りは変わることなく頭の回転が速い。助かる。
優秀なメイドにお願いをする…
現状を知る為、先を見据える為、私は知らないといけない。その為に何が必要なのか、彼女であればそれが何処に保管されているか知っているだろうから。
「うん、私の~…日記とか、日誌、保管してある場所わかる?」
もしかしたら、そういったモノが無い可能性もあった、だって、私自身、日記とかめんどくさくて書かなかったから、でも、今代の私であれば書いている様な気がする。
もしかしたら無いのかもしれないというのは杞憂に終わる、メイドちゃんの表情ですぐに伝わってくる、長い付き合いだからこそ彼女の表情から答えを読み解けてしまう。
「はい、いつも無造作に机の上に置いてある本です、よね?」
その一言で蓋が開く、そう、彼女はマメだった。
今代の私が残した記憶が再生されていく…
今代の私は、歴代の私達と違って意外と筆まめで日記というなの日誌を書いていた。
ただ、思い出せる日誌の内容が日記ではなく、完全に日誌のような研究ノートみたいな感じなので、誰に読まれても良いのだと判断し仕舞うのがめんどくさいのか、目の前に無いと書く気がしないのか…何方かは推し量ることができない。
そんな杜撰な保管状況に文句の一つも浮き上がってくる!
仮に日記だとすればさー!机の上に置きっぱなしなのはどうなんだろう?
鍵付きの引き出しあるんだからそこに入れとくものじゃないの?見られても恥ずかしくないのかな?…まぁ、私の部屋に勝手に入ってくるような狼藉者はいないし、入ってくるのも気心が知れている人だから別に、いいの、っかな?
納得は出来ないが理解はできる、何とも言えない感情をいなしてから、メイドちゃんにもう一度、念を押すようにお願いする。
「うん、それ。えっとね…出来る限り全部?いや、でも、見つけれる範囲でも良いかな?いや、やっぱり、出来れば…全部持ってきてもらってもいいかな?」
たぶん、相当な量になるから、厳選して欲しいんだけど、メイドちゃんに見られるのはちょっと抵抗があるので全部持ってきてもらうのが一番。
「ぇ”?」
困惑した表情で一瞬だけ視線が外れる。
突如お願いされた内容が、肉体労働なのが嫌なのか、それとも探しつくすのが困難を極めるから嫌なのか、どっちかだろう。
何処に何かを隠すつもりはないのだけれど、傍から見たら、何でこんな場所に置いてるの?っという、自分だけがわかればいいやって感覚でその辺にモノを置いたりしまったりする悪癖が全ての時代の私にはある!そして!私の行動範囲は自身の部屋だけじゃない!下手すると研究塔や、術式兼所にある私専用のワークスペースにも点在している可能性があるから!
自慢じゃねぇが!そういうのはその日の気分で適当に持ち運んだりするのが私だと、私は私を良く知っている!
当然、メイドちゃんも良く知っていると思うからこそ、一瞬だけ困惑したんだろうね。
「…はい、メイドとして尽力する所存ですぅ…その、完璧なメイドとして一度で運ぶのが完璧かもしれませんが、私は非力でございますれば、一度で全ては難しいので何往復か、してもいいですかぁ?」
よよよっとハンカチを目元に当てて一芝居打たなくても、そんな無茶なことを言わないって、だってさ、そりゃそうでしょう?記憶の蓋から読み取れた情報だと、幼い時にこの街に来てからちょくちょくと書いていたみたいだから、十年以上の日記になる、そうなるとさ、かなりの量、だよね?
…病室から私の部屋、何往復だろう?考えたくないや☆彡
「もちろん、ごめんね」
重労働をお願いすることにちょっと気が引けていはいるけれども、残酷な一言を伝えると驚いた表情をされてしまう。
「ふふ、珍しいですね、姫様がこの程度で…このメイドに申し訳なさそうにされるとは、まだ寝ぼけていらっしゃいますか?力仕事なんて何時もの事じゃないですか、お任せくださいませ!」
記憶の蓋から読み取れた記憶は確かってことか…今代の私はメイドちゃんに雑用をかなり押し付けているって感じね。
唐突に…更に、記憶の蓋が開いていく…
今代の私は、仕事をサボる為に、メイドちゃんに数々の業務を押し付けてから、自由気ままに自分のしたいことをするために…研究塔や術式研究所に籠ったり、ふと、思いついた訓練につき合わせたり、街の中で皆と遊ぶためのイベントを開くために、しないといけない下準備という名の重労働をお願いしたりしていたという記憶が次々と…再生されていく…
この程度のお願い、今代のメイドちゃんからすれば温いくらいだと記憶が物語っている!!うん!そういう扱いしていたのならこの程度、普段通りだ!申し訳なさそうにする方が可笑しい!!ってね!
だったら、今代の私のように傍若無人で堂々と、そして、彼女が欲しがる一言を添えよう。
「あれだったら、団長にも手伝ってもらってもいいからね?」
「はい、手伝って貰っちゃいますぅ」
欲しかったワード、団長を使っても良いという許可に、にんまりと隠す気も無く笑顔になっていた。
では失礼しまーすっと笑顔で病室を出ていく。頼まれたらすぐに行動、そうしないと今代の私が押し付ける仕事量を考えるとね。そうなるよね。
背中からも伝わってくるほどに上機嫌、その姿を見て、私と共に歩んだ彼女と比べてしまう。
今代のメイドちゃんは明るいなぁ…
そんな感想と共に直ぐにその言葉を飲み込む。
うん、そうだよ、そうだったじゃん。
私の時代のメイドちゃんだけが色んな覚悟を決めてしまった結果、表情が暗めだっただけで、元々は明るくてさ、周りの雰囲気を和ませてくれる人だったよね。
私の時代は彼女にとって生きにくい道だったの、かな。
今はもういない、謝ることも懺悔することも共に涙を流すことも出来ない一輪の華が過ぎ去っていったドアを眺めていると、静寂を破るかのように部屋の中に音が響き渡る。
部屋を埋め尽くした音を出した人物に許可を出すとドアがゆっくりと開かれ入ってきた人物が見えた瞬間、思考が止まってしまう。
「起きてましたか」
彼女の顔を見ると自然と彼女の腕に視線が吸い寄せられてしまう。
こっちの…ううん、今代の彼女は死の大地で不幸な目にあっていない、腕が吹き飛ぶような辛い出来事に遭遇していない…
私の…作戦が甘かったせいで彼女は悲痛で悲惨な耐え難い苦痛を味わわせてしまった。私の罪は罰となって彼女に刻まれたりしていない。
「点滴などの交換しますね~」
此方の視線に気づいているのか、気づいていないのか、看護師として、そういった視線に触れてはいけないのだろう。
彼女の仕草を眺めていると胸が締め付けられてしまう。
「今日はどうされたんですか?いつもなら何も気にせず自分の世界に入り浸っているのに」
ふふっと笑いながらベッドの足側に座るとタオルが捲られ足を触られる、この行動が何を意味するのか察することが出来ないほど思考が止まっていたりしない。
むぅ、さすがは団長とお母さん、私の足が動かないことに気が付いている、そして機能を回復させるために必要なことを考案済みってことだね。
「触られるの嫌いなの知っていますけど、リハビリなので我慢してくださいねー」
その断りを正す、そんな理不尽なことを言う程、私は我儘じゃない。
「医療行為だったら嫌いも何もないよ。もう、他人行儀だなぁ」
我儘じゃないけれど、彼女の態度に関しては物申したい気分でもある。
ふふっと小さな笑い声が聞こえてくると、足先が触られ指を曲げたり伸ばしたりと他動的に動かされていく
動かすことが出来ない足先、足の指や足裏が動かされ血の流れが良くなっていくような気がして、心地よいなぁっと、感じ、お母さんがマッサージが好きな理由を知ってしまう。
新しい事を教えてくれた彼女に自然と声を向けてしまう。
「ねぇ…」
「痛かった?」
言葉の続きを言う前に返ってくる柔らかい返事。
その音が聞こえてくるだけで言葉が詰まってしまう、この人もまた、影ながら私達を支え続けてくれた人の一人で彼女の柔らかい音を聞くだけで、あの時の彼女が見せた姿を思い出してしまう。
「ううん、痛くないよ、あのね…他愛の無い話をしてもいい、かな?」
「…あら、珍しいって言うべきなのでしょうけれど、付き合いの長い私に遠回しなことをしなくてもいいですよ。他愛のない話から推測したいのでしょう?だとしたら、姫様に誤魔化しは通用しないですよね、医療班として貴女の症例を把握しています、記憶…思い出す為のリハビリがしたいのですね」
長い付き合いだからこそ、お互いの望んでいることがわかってしまう。
彼女の言葉によって医療班が私について何処まで検査を終えているのか、その現状を概ね理解することが出来る。
たぶん、私の症状に対してチームを組んで話し合って方針が決まっている。
つまるところ、皆知ってるってことだよね、なら、遠慮なく利用させてもらおう。記憶とは結び付くモノ、エピソード記憶だっけ?きっかけがあれば自然と花が開く様に記憶が開いていく。
彼女と会話して開いた彼女との記憶、今代の私が彼女と歩いた道が彼女の趣味を教えてくれる。その先を思い出す為に、その記憶が正しく今代の出来事であると知る為に進む。
「お酒は今も、好き?」
「そりゃぁもう、姫様のおかげで見たことも聞いた事も無いお酒をいっぱいい~~っぱい飲めて幸せよ~うふふ」
うん、私の記憶通り、彼女はお酒に目が無い。
隙あらばこっそりと飲んでいたりする、別に悪いわけじゃない、状況を見極めて尚且つ、嗜む程度に留めてくれているから。
酔った彼女が醜悪、って程ではないけれど、煩わしい、ってのも違うかな?
ん~…うっとおしいっが正解、なのかな?絡み酒なんだよね、その上、お母さんが近くに居るとセクハラ下ネタ三昧でうざ…かったきがする。
記憶が正しければ、そういう席での口癖がある、ワインは水ってのが口癖だったけれど、正しい記憶だろうか?ワインが水って…昔の貴族であればワインを薄めて飲んでいたから水なのは理解できる、でも、今代のワインは酒精が強い、純粋に薄めていないから。
「ワインは水?」
「そうよ~ワインは私の血液、ビールは渇きを満たすジュース、後はね、蒸留酒?日本酒?でした?あの火が付く様な喉が焼けるようなお酒は…気軽に飲めない、かしら?ふふ、独りで飲みたくないわ~、うふふ、また付き合っていただけます?」




