表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最前線  作者: TF
590/700

過去を知る、今代の記憶を知る、次の一手を探す為に①

目を開く、よく知っている天井…

何度も何度も、お世話になり、なるべくこの部屋に連れてこられないように心がけている部屋の天井。

でも、私が知っている天井と違う、私が知っている天井は、もう少し綺麗だった。


天井に染みが出来る、そんなことはない、この建物は木造建築じゃない、地球にある日本の建築技術を参考にしている、王都のような木材、レンガ、土、石をベースとした素材で建築していない。

だから、天井なんて誰も触れない場所が汚れるなんて考えたことが無かった。


7年近くも時代が過ぎれば天井と言えど変化はするんだね。

そんな先まで見通せることが出来たら私は始祖様を超え預言者として生きている、そんな不可思議な力…そういえば、伝承ではルの力では天気などによる天災を予見した人がいるっと書かれていたことがあったから、あながち?無くも無いのかも?


なんてね…そんな力があれば今こそ必要だっての。気象予報くらい、現地の人なら何となく察する人が居るから感性の鋭い人でしょ。


目を開き情報が目から得られ分析する程に思考が動くのであれば、寝ていても何も始まらない、起きよう。

何時ものように膝を曲げ足裏に力を込めて上半身を起こそうと…膝を曲げようとする、でも、足に力が入らない。

そういう時もある、五体満足に動かなくても、何も焦ることは無い、四肢の欠損そんなの…私達であれば何度も経験してきている、足が動かなくてもどうとでもなる。

なので、腕を伸ばしてベッドのすぐ横に取り付けられている落下防止や立ち上がる際に掴めるようにと用意してある柵のような鉄の手すり。

それを掴んで上半身を起き上がらせると

「姫様!?」

メイドちゃんの声が聞こえ振り向くと視界に映し出されるメイドちゃんの姿は…

特に変化していなかった。老けてもいなければ大きくなっている様子も無い。

7年という月日を考えれば、幾ばくか、変化があってもっと思ったりもするが、月日の流れからくる変化は人それぞれ

彼女の姿を見て大きな変化がないからこそ、安堵してしまっている自分がいる。


…そっか、メイドちゃんは、早熟なタイプだったのか、そりゃ年齢を誤魔化しても通用するよね。


彼女の不可思議な経歴を思い出し嗚呼、懐かしい、そんなこともあったなぁっと。笑みを浮かべてしまう。


「ちょうど、お着換えをお持ちしたところなんです、起きられますか?」

足音も無く近づいてくる彼女、その笑顔が視界に埋め尽くされていく。

凄く柔らかい笑顔…一輪の健気な華がそこにある。

その笑顔を見て、7年の月日というよりも、今代と私が生きた時代では彼女のありようが違うのだと、彼女の笑顔が物語ってくる。


私の時とは違う、無理に笑顔を作っていない、とても自然で暖かい笑顔。

今代のメイドちゃんはこんなにも穏やかな表情をするんだね。


私が倒れたとしても、不安になる事も無く溢れ出る綺麗な笑顔、その安らかな表情を見るだけで胸が締め付けられ、感情が瞳に集まり結露し溢れ出てくる

「ど、どうされたんですか?」

その姿を見て驚きつつ、慌ててハンカチを差し出してくれる。

その腕を掴み優しく引き寄せ彼女の胸に顔を埋めると自然と隠すことなく感情を言葉として表現してしまう。

「ううん、どうもしない、会えてうれしいだけ」

「はは、何ですかそれ?怖い夢でも見ちゃったんですかー?」

返ってくる反応が心地よい。まるで、自分の部屋に帰って来たみたいに心が落ち着く。


ふふ、からかってくるような感じ、今代の私とメイドちゃんがどういった関係を築き上げてきたのかよくわかるよね。


…そして、たった、これだけの流れで体が反応する。

今代の私がいないとしてもこの体に刻み込まれた情報というなの記憶、その記憶媒体が連動し閉めたつもりのない蓋が自動的に開ける様に記憶が蘇っていく…


蘇り再生されていく記憶は、今代の私の記憶だけではなく、彼女が休んでいる間に私が代わりとなって動いていた時の記憶も同時に蘇っていく。


今代の私が寝ている間にふと目が覚める時がある、そういう時は今代の私が愛用しているデスクに向かい、事務作業とか、研究の為に途中で放り投げている何かの計算式を見直してたりしていたことがある。

そんな時に、何度かメイドちゃんと会っていた。

その時は、ついつい、今代の私ではなく、私として接してしまっていた出来事が思い出されてしまう。

今だからこそ反省してしまう、つい、計算や仕事に集中していると、あの殺伐とした時代を生きた私の荒い部分が表に出てしまったことを、反省してしまう。


だって、今代の記憶が垣間見えたからこそ、ってね。

違い過ぎるんだよね、私と、今代の私。


今代の私の記憶が教えてくれた、今代の私がどの様に彼女達と歩んだのか、その道を教えてくれた。今代の私は、遊ぶ余裕がいっぱいあったのだと、教えてくれた。

その規模は大小さまざまで、中にはメイドちゃんと一緒に多くの人達を巻き込むような色んな悪戯をしてきたこともある、年相応、よりも幼い悪戯の数々を思い出させられてしまった。

今代の私は遊び過ぎじゃない?なんてことを思うことは無い、だって、周りにいる人達が笑顔だから…うん、こういう記憶っていいなぁ、私の時代には無かった綺麗な世界。


抱きしめ続け彼女の温もりを感じながら、彼女と過ごした今代の記憶に包まれ、胸が暖かくなり彼女のような一輪の華を彷彿とさせてくれる笑みが表情筋を支配していく。


「ありがとう」

彼女の控えめなようでふくよかな感触から別れを告げ

「喉、渇いちゃったから、紅茶、飲みたい、な」

我儘な私は、欲してしまう。今代の私はとっても我儘だったから。

彼女達と共に歩むんだ記憶の中には、何時だって彼女が淹れてくれた紅茶の香りが部屋を包んでいた。

そんな記憶が私の中を駆け巡ったのだから、当然、欲してしまう。


一輪の華が淹れてくれる優雅な一時を願う、紅茶が飲みたくなってしまったことを伝えると

「はい!直ぐにご用意しますね!」

何時だって私の心を支えてくれた一輪の華から輝く様な美しい蜜、その一滴が頬を伝い流れていく。

蜜を拭うことなく簡易的に用意された給湯室へと向かっていく、その後ろ姿を見てどうしても、比べてしまい、下げてはいけない頭を下げてしまいそうになる。

私の時代ではきっと涙を流すような暇すらなかっただろうな…


頭が下がらないように天井を見上げると、感情が溢れ出ないように気を付ける。


思い出してしまった悲しき結末を吐息で誤魔化すように空へ向かって流すと心が落ち着いてくる。

落ち着いてきたので、気にはなっていた足を動かそうと試みて見る、が…


動かない。

原因は何だろう?


足に触れてみて出来る限りの情報を得る為に、腹筋に力を入れ前かがみになろうと試みる前に見えてしまった、股間から管が通っているのが…

医療の知識がある手前、カテーテルがある状態で変な動きをするのは憚れる。


っむぅ、この状態で腹筋に力を入れて強引に動くのは良くないっか。

外れる事なんて無いけれど、変に引っかけると痛いし何かあると面倒だから止めよう。

前かがみにならなくても腕が届く範囲で触診すればいい。

太ももに触れてみると、触られている感触が伝わってくる。

知覚はある、痛覚もある?

頭の中に明確にイメージする、足先を、足裏に力を込める様にイメージしてから足指を動かそうとしてみるが、ピクリとも反応しない。


この状況…考える迄も無い!こりゃ駄目だ、足全体が麻痺してらぁ、何処が原因だろう?

まぁ、魔力さえあれば神経の代わりをさせればいいから、別にどうとでもなるからいい、かな?


太ももを摩ったりして動かなくなってしまった足先の血の流れを良くしていると

鼻の先を擽るような香りが部屋を満たされていくのを感じると

「お待たせしました…寒いの、ですか?」

心地よい安らぐような香りを運んできてくれた、そんな彼女が私の不可思議な行動を見て疑問を投げかけてくる。

まぁ、そりゃそうだよね、基本的に私達の街って寒くないんだよね、あれ?でも、心なしか、気温が低いような気がする?…気のせいかな?気持ち、肌寒い気がする。

まぁいいや、そういう日もある。

心配そうに見つめている彼女に心配かけないように軽く首を傾げ

「ん?ううん、何となく」

「そう、ですか?寒いのであれば何時でも仰ってくださいね?タオルを山ほど抱え馳せ参じますので!」

お盆を片手に持ちながら空いた方の腕で力こぶを作って豪快な笑顔を見せてくれる、きっと、彼女としては女将に似せようとしているのだろう。

私の時代であれば、私の一挙手一投足に注視し少しでも私の考えを読み取ろうとするのに、今代のメイドちゃんはこういった行動に対して特に疑問を感じることが無い辺り、今代の私は奇行が目立ったのだろう。

私の時代であればこんな誤魔化し方をすれば絶対に訝しんできて口をへの字にするのに。


小さな違いを感じていると、メイドであればテーブルの上に用意した紅茶を置くのが普通だというのに彼女は…察しているのか既に知っているのか…

はいっと、親しい友人に渡すように紅茶をソーサーごと渡してくる。

受け取った紅茶を飲もうと思ったんだけど…指先から伝わってくる熱で既にわかる。熱い…

かといってソーサーに紅茶を移して冷まして飲むのも、なぁ、あの飲み方嫌いなんだよね。飲みにくいしさ。だったら、今すぐ飲まないで今は香りを楽しんで、少し冷めてから飲もう。

手元から湧き上がってくる香りを堪能してから、メイドちゃんに視線を向けると直ぐに理解してくれたみたいで手を伸ばしてくれるので、ベッドの直ぐ横にあるテーブルに置いてと伝える迄も無くメイドちゃんにカップを渡すと受け取って私が手を伸ばせば届く場所に置いてくれる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ