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最前線  作者: TF
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違和感 ②

「お母さんって、何歳になったんだっけ?」

「次はねんれいー?もぅ、抉るわね…もうすぐ40歳、お祖母ちゃんよ…」

よんじゅぅ!?ぇ、あれ?え…あ、れ?私が、世界と別たれた、ときって、お母さん、な、んさい、だったっけ?そも、そも、こんだいの、私は?20、こえて、ない?

「わた、私ってなん、さい?」

思考が停止し喉が震え、言葉が躍ってしまう。

「ぇ?…ちょ~っとまってね、歳を重ねるとね、年齢ってやつが、えっと、確か、今年で26?27だった、かしら?」

返ってきた言葉を受け止め切れなかった。

全ての時代の私が…超える事の出来なかった20歳という壁を易々と超えていたから


・・・は?ぇ、あれ、嘘、私、19…20くらいじゃなかった?私、そんなに長く、生きれたの?


困惑しているとお母さんがゆっくりと離れ、おでこに手を当てたり、腕を握って脈を測ったりしている

「…記憶の混濁かしら?脳を損傷したのだから、何が起きても仕方がないわね」

お母さんの声が聞こえてはいるけれど、流されていく。

思考の渦、その流れが強く、言葉を理解する前に流れされていく。


自然と視線を下げ、見つめてしまう。

不可思議だった違和感、理由が不明瞭だった変化。

その理由を完全に理解していく。


だ、から、私の胸、大きくなってるんだ、ときの、流れ、私の体は成長している。成長する力が宿っている!!


握られていない手を自身の胸に当て下部分から少し持ち上げてみる、重たい…私の記憶だと、カップサイズ、AよりのBだったのに!!

お母様みたいに大きくなってる!!

すかさず、目の前にある重りを同じように下から持ち上げてみようとするが

「おっっっっもぉ…ナニコレ」

「私も驚きよ、子供を産んだらまだ大きくなるなんて思わなかったわよ、まぁ、スピカがお腹を空かせるようなことが無いから良いのでしょうけどね」

目の前の重りから手を放し、自然と吐息が口の間から抜けていく。


思考がずっと混乱しっぱなし、思考が定まらない、回らない、動かない、今代の私は…26になって、何をしていたの?何をしたの?そんな、長い年月が、てき、は?ど、ぅなって?


長すぎる年月は大きな変化を産む、っとなれば、私の時代とは完全に今代の世界は別物、だって、6年?7年?そんな大きな時間がかけ離れていれば、戦況の変化を計算し辿り着くには不可能に近い、それ程までに膨大すぎる。

思考超加速を用いたとしても辿り着くことなんて出来ない、出来やしない。


無理だと思っていた、限界だと思っていた、経験則からそれ以上はいきれないと思っていた、その全てが覆されてしまったことに対しての驚きと、自身の体がまだまだ成長する力を具えていたことに歓喜のような感覚が同時に湧き上がってくる。


感情が昂っていく、感情が結露していき水へと変換されまいと堪えていると

「あ!姫様!起きたの!」

その声を聴くだけで昂る感情が抑えきれそうにない…涙が溢れそうになる、滲む視界を、近寄ってくる人の姿をみ、すがたを、すが…ぇ?

大切な人の声、その音が聞こえる方へと視線を向けると結露していく水が蒸発してしまったかのように消えてしまう。

「起きたのなら教えてくださいよ先輩、おっと、No2!医療班として」

「ごめんなさい、団長、直ぐにでも知らせるべきだったわね」

そうですよーっと柔らかい声を出しながら、椅子をベッドの横に置き、手慣れた手つきで聴診器を取り出して有無を言わさず手が伸び、患者衣の隙間から聴診器を入れられ診察が始まる。

「特に異音は無いかな?何処か痛いところありますかー?」

ひんやりとした聴診器特有の冷たさよりも、視界に映し出されてからずっと気になってしまっている目の前にある違和感、その塊を掴んでみると

「…ぴぇ!?」

目の前にいるかれ、ううん、彼女からしたら唐突な予想外な行動に驚いたのか変な音が聞こえてきたけど無視して塊を揉んでいく、伝わってくる感触から理解していく。

むぅ、ブラジャーしてる、そして、その奥にしっかりとある、ね。ブラジャーだけで空虚ではない。見せかけって感じじゃない。

ぇ?なんで?あるの?その体って、男じゃない?の?

もしかして、今代の私は、■■さんに女性の体をプレゼントしたってこと?だとしたら、うん、彼の姿が見えた様な気がしたのは気のせいじゃないってこと。

「な、なんで、無言で胸を揉むの?ねぇ?これ、どういう状況!?」

「姫ちゃんね、今、記憶が混濁してるのか、ちょっと様子がおかしいのよ」

無言で目の前の違和感を揉み続ける、確信を得る為には股間に手を伸ばすべきなのだけれど、そこ、そこに手を伸ばしてもいいのだろうか?…流石に■■さんといえど、それは許してくれない、と、思う。ぐぅ、気になるなぁ!うん!気になることは聞くのが一番!

「ねぇ、■■さん、ってさ」

「ぇ、ごめん、何ていったの?」

え?名前をよん、だ、だけ、あ、れ?

「■■」

「口をパクパクしてないで…喉の調子が悪い?」

声が出ない、彼女の名前、なまえ、あれ?彼女の名前…


何だっけ?


名前はおも、いだせないけれど、彼女の、役職はわか、る。今代の私の記憶が教えてくれる、彼女が医療班を取りまとめる団長という立場に成ったという事を

「だ、団長は、胸、ぉ、大きくなった?の?」

「え?…どうだろう、大きくなったのかな?姫様が大きくしてくれてから下着のサイズは変わってないとおもう、けど?…大きくなるような美容術式だったりするの?」

頬に指先をあて右上を見ている、嘘ではない、っとすると…

きっと、今代の私が彼女の体をいじったとみて間違いない、ってことは、新しい体はプレゼントしていないってことになる。

なら、■■君は、どう…もしない、そう、そう、彼は私を助ける為に私の一部になった。思い出して、私の愛する人の名前を…


脳に神経を集中させ、彼との思い出を思い出していく、最初から最後まで全ての記憶がある。思い出せる。


でも、ダメ、名前だけが思い出せない


大切な人の名前、私が彼に捧げた名前、思い出せない…

縋りつく様に目の前にある女性の体に身を寄せようとするが、足が動くことが無く腕だけが彼女の胸に触れ続ける。

「貴女…人の胸の大きさから何が分かるの?」

呆れたような声が耳を通り抜けていく。

混乱・希望・絶望、様々な感情が渦巻き秩序を失っていく思考の渦が答えを求める様に意志とは無関係に喉を通っていく

「ぁ、あのね、私…19歳じゃなかった?」

その一言で二人は何かを悟ったのか

「そう、貴女の記憶は…」「脳の一部、その影響ですよね?」

二人が同時に盛大な溜息を吐いた後、事態を飲み込んだのか真剣な表情で優しく語り掛ける様に


教えてくれた…


今代の私が歩んだ道のりを…

そして、その流れで今代の私が死んだのだと理解した…


捧げたのだ、神聖なる始祖様の加護に状況を打破するために。

捧げたんだ…だから、今代の私が座る椅子に誰も座っていないんだ。


主人格が消え、最も…今代の私に近い時代の私が目覚めた?ううん、違う。

私を起こしてくれたのは■■■君の力だってわかる、愛のなせる御業だよね、にへへ。


「ちょっと、色々と質問するわね、答える範囲でいいから、慌てず答えて」

状況を飲み込めたからこそ、思考が落ち着いて冷静に渦を制御することが出来ていく。

医療班のNo2としての質問、お母さんとしての質問に答えていく


自分の名前は

■■■、私の名前は■■■

お母様が始祖様から拝命し名付けてくれた名前

ルという力に目覚めた白き短命の一族が与えられる記号を冠し

イラツゲという、始まりの聖女様が白き黄金の太陽から与えられた名前を継承していき歴史を重ねる為に教会が与えた聖女の証しを供えたのが私、最後の短命種、最後の聖女、それが私。


ル・■■■・イラツゲ


それが私の名前。

でも、音に出すわけにはいかない、あれらに情報が…つた、わらない。

今代の私が教えてくれる、対策は済んでいると。

そう、か、対策、済み?でも、警戒する、しないといけない、敗北者だからこそあれらの用意周到な動きを身に染みているから。


「のど、ペン、ある?」

「喉の調子が悪いのなら筆談の方がいいわね」

「うん、呼吸器を取り付けていたから、アレの後って喉の調子悪くなるからしょうがないよ」


ペンと紙を用意してもらい筆談で答えたのだが、文字が汚い。上手く指先が動かない、名前が書けない。



様々な質問に答えていく、最後の方は、他愛の無い確認ばっかり

だけど、それによって浮き彫りになっていく…自分が何を失ったのか、今代の私が何を犠牲にしたのか。

医療班のTOPが深刻そうな顔をしている。この二人が気が付かないわけがない。


「貴女・・・」「一部、壊死していた部分」


そう、私は皆の名前を思い出すことが出来ない

今代の私は器用だね、その部分だけを犠牲にして進む為に必要な時間を生み出した。


次の私に託さず、過去の私に託したのにはきっと、何か、あるのだろう。

彼女の事を知らないといけない。


「覚えなおすことは、出来るわよね?私の名前は■■■・■■、復唱してみて」

湧き上がる次の道標をどうやって得ていくのか考えていると、唐突な確認のための質問、お母さんの名前だったら、音に出しても何も問題、ない、よね?

答えようと思った、彼女の名前を声に出したかった、でも、驚いたことに、名前の部分だけがノイズのように聞き取れなかった。

答えようとしても、頭が認識しない、どうやって声に出せばいいのかわからない

「困った表情で声に出さない?えっと、私、医療班団長で貴女の事を姉の様に慕っている私の名前は■■・■■■、声に出せ、出せるよね?」

先ほどとまったく、同じ、名前だけが認識できない…ノイズの様に聞こえ、理解できない。

えへへっと笑ってごまかそうとして見るが

「ダメね…たぶん」「はい…本人の前で告げても」

大丈夫、理解しちゃったよ、しちゃってる。はっきり言っても、問題なんて無いよ。

「大丈夫よ、この顔、本人も理解しているわ、貴女、人の名前が覚えれなくなってしまったのね」

そうみたい、でも、今代の私が冷静に犠牲にした意味がわかる、だって何も問題ないんじゃない?って、思ってしまう。

いつも通り、役職名で呼び合えばいい、皆の顔を忘れた、わけじゃない、から。


一緒に闘ってきた人達の顔を思い出そうとすれば、おもいだせるん、だけど、なんだろう、思考が、おそ、く、なっていく。


なんだろう、あたまのおくが、しびれるような…

「あら、盛大なあくびね、少し横になって、次起きてから検査しましょう」

「No2もずっとこの部屋で看病していましたし、交代しますよ?」


ふたりの、しんぱいそう、な、声が…ここちよい、ゆりかごの、ように…


思考と視界が真っ暗に染まる。



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