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最前線  作者: TF
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Dead End unknown (149)

繋がった感覚が完全に消えた…

空中を飛ばされ続けても手を伸ばそうとしても届かない…

魔力を吸い出そうとしても、ケーブルは切ってしまった…


なら、自前の…術式を展開しようにも、私の魂が拒絶し魔力を使わせてくれない。


抵抗する術も無く死の大地を飛び続けていく。

彼に、彼らに、包まれていると感じる愛の揺り籠を抱きしめる様に体を丸め

嗚咽を垂れ流しながら1秒でも長く、温もりを感じ続ける…


「何事じゃ!?」


どれ程の時間、彼の揺り籠に揺らされていたのかわからない

終着点はラアキさんの声で終わりだと告げられる。

優しくラアキさんに抱きしめられ、声に出したくない今を伝える

「…勇気くんが死んだ」

「・・・」

ラアキさんから感じたことのない程の怒気を感じる

「わたしは、やることがある、街に帰還する」

「…起動すればよいのじゃな」

転送の陣が起動されると何も言わず、私はラアキさんの手によってその中に放り込まれ、移り行く景色の先で…



煙が見えた…


今の彼に、帰ってきて何ていえなかった…



転送の陣から弾かれる様に街の中へと飛び出ると転送の陣が停止する。

もう二度と、門が開くことは無い…

地面を勢いよく転がり摩擦により勢いが殺され顔を上げると

「な、何事ですか!?」

メイドちゃんが近寄ってきてくれる

「…お母さんを地下の研究室に大至急来るように伝えて、私が待っているって」

立ち上がりながら指示を出す、街の中は大きな変化はない、でも、私が独りで戻ってきたことに一部の人達が顔を真っ青にしている

彼らに言葉を投げかける気になんてなれない、今の私は…


光りとなって託されたことを全うするだけ


全身の力を今一度、力を込め大地を蹴る


色んな音が聞こえた

色んな色が見えた


でも、走り行く私には徐々にじょじょに…


音も消え、色も消えていく…


心臓の音も、聞こえなくなってきている


地下へ通じる扉を撥ね飛ばし階段を飛ぶように降りる

直ぐにでも魔石がある場所へ・・・向かおうと思った、でも、彼女達には伝えないといけない


大きな試験管の前に立つと、試験管の中を漂う肉体が薄っすらを目を開き此方を見据える

「ユキさん、これ、貴方の…お兄さんの槍」

そっと、試験管の前に置く、彼が残した…切り札、魔を断つ始祖様の秘術、何年も何年も彼の魔力によって育てられた破魔の槍

どんな物質よりも固く、どんな物質も突き刺した、どんな魔力も切り裂くことが出来た、私達の最後、本当に最後の切り札。


これさえあれば、憎き死霊使いだろうが、ドラゴンだろうが、貫けると思っていた、倒せると信じていた…



でも、この槍が貫いたのは…たった、一度、生者を貫いたのが…自身の体だった…



「託すね・・・わたしのからだではもう、じかんが、ないから」

愛してるねっと試験管に触れ奥へ進むと、もう一つの試験管の中に漂うスピカが目を開き此方を見ていた

「ごめんね、お姉ちゃん、失敗しちゃった」

涙を流しスピカに別れを告げる


地下室の最奥、重い扉をこじ開け奥へと進んでいく


大きな魔石の中央に光り輝く陣、その上に座る。


…まさか、この陣そのものに、そんな盛大な罠が仕込まれているなんて気が付かなった。


人々の祈りという名の呪い…


それを体内に取り込み続けて行けば、私は夢の中に陥りやすくなる。

ただ、ただ、それだけの呪い…私の意識を飛ばすだけの…呪い。


催眠系の胆は如何に相手に楔を打つかだ、私の様な術者であれば、常に警戒している。そんな人間にそれらの楔を打ち込むのは難しい…


難しいのなら、毒を毒だけ気が付かせず、力を得る為に薬のように感じさせ自ら望む形で体内へと流させればいい。


してやられた…

何度も何度も、叔母様と一緒に調べた…調べつくしたつもりだった!!

…何もなかった、そんな楔のような部分なんて無かった!!


見つけることが出来なかったのは、巧妙に隠されていた、発動条件が限定され過ぎていて見つけれなかった…

もしも、この楔が発動した瞬間を見ることが出来たら違っていたのかもしれない。

もしくは、誰かが被害に会っていれば気が付くことも出来た…

…私は、無差別に無条件に、悪魔信仰の人達を潰し過ぎた…

彼らを捕らえ、徹底的に調べつくせばよかった、精神を溶かす非道な薬を用いてでも…


…そんなの、叔母様や司祭が許すわけもないし、過去の私達が許してくれない。

私自身も、そんなのしたくない。だから、仕方がなかった…


認めよう、相手の方が幾重にも上手だったのだと…

精神系統の術、厄介な部分にしてやられてしまったのだと、術者として完敗しただけ…


今なら、理解る…理解することが出来る。

この陣を通して、数多くの信者に魔力を流し精神へアクセスするための楔を打ち込む、そうすると…些細な興味しか持っていない人であろうと、熱狂的な悪魔信者へと変貌させていたんだろうね。

このタイプの楔はいつか外れる…その何時かが厄介、何れ、夢から覚めたとしても、自分の行いは覆らない。周りにいる人達との関係は覆らない、共に歩んできた人達、その関係、その空気感、居場所…

どっぷりと浸かりきってしまった自分の居場所を否定すること何て出来ない、出来やしない、流される…居心地が良いという思い出があるから…


もっと深く、深く、彼らの事を調べるべきだった。

どうやって信者を増やしていたのか、どうやって活動してきたのか…

資料の殆どが燃やされ消え、調べる術がなかったかもしれないけれど…


知るべきだった…


そうすれば、気づけたはず、この陣に仕込まれていた罠が一つではないのだと…

この陣、最大の罠は儀式だと思っていた…

魔力を一つの依り代?贄?膨大な魔力を受け止め切れるほどの肉体の持ち主であるお母さん…叔母様を通して、あの馬鹿でかい瞳を召喚し世界の理を狂わせるだけだと、警戒するのはその一点だと…思っていた…


今なら、この陣の全てが理解る…

知識が私の中に宿ったから…


彼が託してくれたものは、魔力だけじゃない。

彼の歴史、彼の生きてきた全てが魔力と共に流れ込んできた。


それだけを託すような人じゃない、彼が知りうる敵の全ての情報も私の中に流れ込んできた。


情報を知ったからこそ気付ける過ちがある。

…地下に研究室を作ったのがそもそもの間違いだった。


地下は…地中こそ、アイツらのテリトリー。

あいつ等の世界は地中!そして…真なる敵の正体も知った!!

敵に情報を与えていたのは…



私と、勇気くんだった…

隠者は私と勇気くん…

この地下での話し合い全てが敵に伝わっていた



方法は知った、次の私にそれの対策を施してもらえば

問題はない、問題はないが…


代償として


私達の名前を永遠に失うことになる。

敵はあるワードに反応しそこを起点として情報を収集している

それは、敵が要注意人物と決めた人達の


名前に反応するようになっている。


その名前が聞こえてきたら音を拾い、運ぶ…

地中には…無数の敵が潜んでいた…


大雑把だけれども対策として…私達は名前で呼び合うことは避けるべき。

それでは、色々と不便だから、うん、幸いにしてこの街にはある流れがある、その流れを使えば不自然じゃないし、そもそも、私は名前を呼ばないように皆にお願いしていた。


だって、ルの一族ってバレるだけで王族が来る。

イラツゲの名前を語れば教会が押し寄せてくる。

サクラって、名前は…気安く呼んで欲しくない!


なら、私と同じように幹部の人達にはあだ名を作る文化を根付かせよう、あだ名や役職名で普段から呼び合うことにしよう、私のようにかたっくるしくなく親しみを込めて呼び合う様にしよう。

幸いにしてね、姫や、お嬢といったワードには反応していないってのも素晴らしい情報。

ただー…その理由がちょっと嫌なんだけど、致し方なし!

こればっかりは、ベテランさんに感謝、かな…?


愛する人から受け取ったバトン


胸に手を当て、彼の温もりを思い出すように抱きしめる

最も効果的な時代を見極める為に、私達が歩んだ道を思い出していく。

思考は加速できない、でも、思い出は忘れる事なんて出来ない。




「来たわよ!!」

声が聞こえ、振り向くと

はぁはぁっと呼吸を乱し大粒の汗が頬を伝っている

彼女の方へと視線を向けると、何が起きたのか理解し涙を浮かべている

「加護を使うのね、魔力は、足りるの?」

険しい表情と共に張り詰めた…怒気を含んだ声、叔母様だ。

頷く…彼女の事を考えれば伝えないといけないことはある。

それは…終わってから、伝えよう。

その前に、時計が崩れる前にバトンを託す、その為に必要な情報を伝える

「たぶん、足りない、全ては送れない、でも、必要最低限に絞れば」

「それじゃ、ダメよ、もう一度繰り返すの?貴女はもう一度、彼を失いたいの?」

たった一言、その一言で駆け巡る様に溢れ出てくる…

何年も、何代も、共に歩んできてくれた最愛の人の思い出が

「ぞんなの、いやに、ぎまっでるじゃん」

大粒の涙が溢れ出て頬を伝い流れていく

滲む視界、叔母様の手にも赤い涙がこぼれているのが見え叔母様が陣の中に入ってくる。

「私を使いなさい」

赤い手が優しく私の頬に触れる

「でも」「良いのよ、貴女は私の願いを叶えてくれた最愛のスピカに合わせてくれた、あの人を解放してくれた、わかるの、私はあの人と繋がっていたのだと知れた、唐突に消えたあの、感覚、あれが…あれがだーりん、ダーリンだったの」

魔力が流れ込んでくる、邪念など一切ない魔力がながれこんでくる…

「貴女は頑張った、聖女として…私も聖女として名を連ねる者として最後の祝福を貴女に捧げましょう、さぁ、共に詠唱を…願いを…始祖様に祈りを捧げましょう…」



流れ込んでくる魔力を祈りへと昇華し寵愛の加護に捧げる。



願うは狭間

乞う願いはただ一つ


時空への干渉


時への介入、過去に私の思念を飛ばす、時空干渉術式をここに発動する


始祖様…寵愛の巫女が願い奉ります



私達は知り過ぎた…

私達は闘う意志を示し過ぎた…

私達は全てに置いて足りていなかった…

彼を目覚めさせてはいけない…

名も知らぬ、誰も知らない、unknown…


妖精の王を起こしてはいけない…


彼の目もまた…

敵と繋がっていたから…

彼の、妖精の魔眼が真に目覚めた時、敵は視界も得ることになる…


彼の魂は…

徹頭徹尾、隅から隅まで敵の罠だった…


彼は、システム、妖精の王という力をベースにしたシステム…

その力が露見しない様に、ギナヤの…

柳の、人の魂というエッセンスが加えられていた…



私達は…

出会ってはいけない。

お互いを求めあってはいけない。

お互いを恋い焦がれてはいけない。

おたがいを あいしては いけない。



過去の私に渡す情報、彼に関する情報は全て…届けた。


次代の私がどの道を選ぶのだとしても、敵の情報は渡しておかないと悲劇が繰り返されるだけ。


街の人達に名前を呼びあわない様に呼びかける。

幼少期、彼に会おうとする私を止める。

彼に会わない、彼を目覚めさせない、そして、彼との情報を全て幼い私に渡さない。

渡すときは…彼が、彼女が、この街に自然とやってくる、その時…


全ての蓋を開く…全ての経験を追体験させる。

次の私が、その情報量に、その感情の波に、苦しみによって…

狂うかもしれない、それでも、そうするしか、道は残されていない。


その悲しみを支え導く人が傍に居るのを私は知っている。

お母さんならきっと、私を支えてくれる。


届けるべき祈りは届いた…全ての私達が旅立った…瞳を感じることもない。

叔母様も…光となって消えた…


そして


わたしも ひかりと なって きえる


「・・・姫ちゃん・・・あいつは?・・・」

こえがする、しろい、うつくしいひとがいる

「おかあさん、あいしてる、ごめんね」

からだが てのかんかくが いろが おとが

ごめんね くちがうごいてるけど きこえないや


ああ、わたしの・・・からだが・・・ひかりとなって・・・きえて・・・










窓を開ける…今日、この日だけは、この日だけは…許してもらう。

だって、今日は、新月の夜…


あの夥しい記憶、その運命の日、彼が、ううん、unknownが待っている。

お気に入りのルージュを塗り、部屋を出ていく…


あの最初の日、彼と出会った運命の場所

あの時と同じ、彼は憂いた表情で空を見上げている、あの時と変わらず中性的な雰囲気が妖艶に感じる。

「…」

振り向くことは無いけれど、伝わってくる、他者を寄せ付けない空気を感じる、関るなと小さな拒絶の意思を感じる

「こんばんは、ギナヤさん」

「こんばんは、幹部の人、こんな夜更けにどうされたのですか?」

ふふ、ユキさんみたい、装ってあげているんだ


手を伸ばす、握手をしようと、自然に手を前に伸ばす

新兵が上官から差し出された握手を断る理由がない、彼もまた自然と手を握る


飛ばす、全ての記憶を…

彼からは大粒の涙が流れ始める…


「こんばんは、unknown、さようなら」

「こんばんは、姫様、さようなら」


私達は最後のキスをして別れを告げた…


私達は起きてはいけない、私達の恋は、実らせてはいけない。

私達の愛は…結ばれてはいけない…




この愛は…この恋は…これで終わり。

ユキさんだけは、ちゃんと守るから安心して

約束したもんね。


ううん、それだけじゃない、私としてもユキさんは大事な人だもん。

大事な…家族であり、隣人であり、親友だもん。




さようなら…最後だけは、貴方の名前を呼ばせて

「勇気くん、私と出会ってくれてありがとう」



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