Dead End unknown (148)
懐かしい声が聞こえ、籠の揺れがとまる?
「ざぐら!みぎ、うで、だけを!!」
指示が聞こえた刹那、右腕に絡まっている鎖の力を弛めると腕の力だけで槍を伸ばし、右腕に握られた始祖様の槍が敵が持つ魔道具、籠を貫いた。
籠が砕け、籠からは無数の光が溢れ出ていき黒煙が光り輝き鎖と共に消えていく…
鎖と黒煙が二つの光と共に消滅した
【ふん、お前の価値はもうない消えてもらって構わんよ、愛なぞ人が持つ現象、嫌悪しかない】
手に持っていた籠を捨て蹄によって踏みしめられる。
この隙に!勇気くんの洗脳を解く!!
警戒は常にする、怠らない、敵の動きを視界に治め乍ら彼に駆け寄ろうとした。
敵が指先を此方に向けられた瞬間…
世界が真っ暗に覆われる!?私の中にある楔はまだ残っているの!?聖歌は、機能していない!?
【元より死霊使いとしての技量は我が上、お前のような下賤なるものが干渉できる時空ではなし、溺れよ沈め泥の底で笑うがよい。人の祈り、アレを通したのが間違いだったな】
この言葉で知る…失敗はそこからだった…
汚染されている!私の魂、体の隅々まで!!呪いが効きにくい?違う
呪いを受け止め過ぎていたから気が付かなかっただけ!!
教会の地下に残された悪魔信仰が儀式の為に用意した陣!
そこから既に罠が仕込まれていた!!!
【決したな、死霊使いよ、お前という脅威が無くなれば我々の勝ちとなろう、忌まわしき匂いも薄くなる、これで我が王へ献上できるというものだ、長くツマラナイ仕事も終わりだ、最後くらい愉快に潰れろ】
思考を超加速!!現状を打破する方法を!!導く!!
真っ暗に染まった視界、されど、泥のような物が敵の動きとなって見える。
全ての動きがゆっくりと、ゆっくりと…
此方の状況を嘲笑うかのように手を伸ばしながら近づいてくる
敵が・・・殺したくて・・・潰したくて・・・命を賭しても・・・
近づいてくる・・・真っ暗な世界でも・・・あいつだけは・・・
みえる・・・近づいて・・・くる!!
私達の祈りが、敵の呪いが楔となって撃ち込まれているのであれば!
魔力を祈りから貰ってはダメ、だったら!!背中のケーブルをカット!!
繋がった様な感覚が消える!
魔力が無いのなら…スイッチを押せばいい。
私の全てを魔力へ還す…
この瞬間に私という存在を純粋たる力へと昇華する!!
敵の拳が迫る、眼前へと…
その拳によって私の頭は砕かれるだろう、だが、それを起爆とし
魂、加護、肉体、全てを魔力へ昇華しお前を道連れにしてやる!!
敵の拳が触れる刹那、突如世界が白に染まる。
太陽のような光が世界を包む
「やらせ、るかぁ!!愛する人を守る!柳として!俺が、託された!!聖女を守るんだ!!!白き黄金の太陽よ!俺に力を!!」
眼前に迫った拳は弾かれ
白き清浄なる世界に三つの輝きが見える
一つは、勇気くんのような、ラアキさんのような人
一つは、知っているあの人は、あの人は…あの輝きは、柳
一つは、金髪の髪に長い耳、背中に虫のような翼をもつ人
【またも邪魔をするか、お前は嫌いだ、また体を壊されでもしたら次を用意するのも面倒だ、楽しみを奪われるのはツマラナイ…】
白き清浄なる世界から敵が弾かれ消えていく
【だが、妖精、お前は死ね…惨たらしく愛する人を殺してから自害せよ】
敵の指先から放たれた一つの呪いが愛する人を貫き、白い清浄なる世界が砕け散る
「勇気くん!!!」
彼の着ていた鎧が吹き飛び、身に着けていた戦闘服が灰となって飛んでいく
金髪の頭を手で押さえ、此方に視線を向けられると
体が動かなくなる・・・
『妖精の魔眼だ!それも完成された究極の魔眼だ!サクラ!動けるか!!』
だめ、うごけ、ない!!魅了の魔眼じゃ、なかったの!?
『もう一人のおれ、いや、違う…あの体はもう…やれるだけのことを…』
頭を押さえ苦しむ表情で此方を見据える金色の瞳
「愛してる、サクラ、これが、人の心。共に死んでほしい」
金色の瞳が近づいてくる、槍を…槍を手に持ち…
勇気くんが、違う、あれは…だれ?
「僕を満たしてくれた君の愛、受け取ったよ、こんなにも素晴らしいんだね、愛って…さぁ、僕の為に死んで、僕の為にアイを囁いて」
近づいてくる!!おねがい、あいしてるのなら、愛してるのなら!
「そうだよ、愛してる、愛してから、こそ、あい、だと、か…」
想いが通じたのか…彼の足がとまる…
木々の隙間から零れる太陽の光が彼の顔を照らしてくれる。
「…うん、愛してるからこそ…僕たちは生きていてはいけない、そう、だね。そうだよ」
彼の顔を知っている、幾度となく泥の世界から私を救い出してくれた人
「ああ、だから、皆…僕から離れユキのもとへ行ったんだね、僕はもう妖精じゃないから、人の心を知りすぎてしまった…人として、ぼくは、おれは、俺達は」
向けられた瞳は…金色で…髪も金色で…こんな状況だというのに、その美しさに心が奪われていく…とても綺麗だと感じてしまう
「お願いだ、愛しき人、僕を、君の知っているままで思い出にして欲しい」
その言葉と同時に私の手の中に
始祖様の槍が握らされる
「わた、しに・・・愛した人を・・・その手で殺せって?」
「サクラ…僕は僕を殺したあいつらの道具として死にたくない、君の手で、僕を…あいつの呪縛から解放して欲しい、僕を人として」
大きく腕を広げると胸を前にだす、君なら知ってるだろう心臓の位置をと言わんばかりに…
「でき、できるわけ、でき・・・」
幾ら心臓の位置を知っていたとしても
槍を渡されたとしても
出来るわけがない
想像するだけで全身が泣き叫ぶように震える
考えただけで、涙によって何も見えなくなる
意識するだけで声門が震え呼吸すら危うくなり声を出すことが出来ない
握らされた槍が…私を見ている…
「もう、じかんない、さくら、お願い。僕を人として死なせてほしい、あいつらの傀儡として妖に降りたくない、僕は愛を知ったから、ぼくは、ひと、人として…それで、それだけで、満足、まんぞくだよ、だから、おねがい」
かれの からだ から ひかり が きえ て いく
つばさが くろく そま って いく
こんじきの つばさが やみへと おちていく
ししが そまって いく
そっと、君独りでは背負わせないと
手に力が宿る、重ねられる、重ねられていく…
想いが、重なる、私以外の、私も、想いが重なっていく
「僕は人なんだ、それを証明してほしい」
金色の翅が闇に染まっていく…獣の音がする
金色の髪が闇に染まっていく…獣の匂いがする
金色の瞳が闇に染まっていく…獣の視線を感じる
「僕は、ひと、愛を知ったひと、だろう?サクラ…」
笑顔の華が開く
愛する人の願いを…最後のねがいを・・・いのりを・・・
聞き届ける
『サクラ、その罪を共に背負う、俺を殺してくれ』
嗚呼ああ嗚呼嗚呼嗚呼ああああぁああああああああぅあああああああああ嗚呼嗚呼ああああああぃゃあああああああ嗚呼ああああああああああ嗚呼嗚呼ああああああ嗚呼嗚呼ああああああああああああいやあああああああああああああああああああ嗚呼あああああぅああああああああああああぃやあああああああ嗚呼嗚呼ああああああ嗚呼嗚呼ああああぃやぁだあああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ嗚呼嗚呼ああああああああああああ
壊れ行く思考が受け止めたくない現実が
体が祈りを受け止め腕を伸ばすと生涯で、どの時代の私でも
耐えることが出来ない感触が伝わってくる
視覚から脳へと至る映像を理解することが出来ない受け入れることが出来ない
「ありがとう、サクラ、僕と出会ってくれて、ありがとう」
彼の最後の言葉が私の砕け散る心を繋ぎ合わせ、彼の最後の姿を目に焼き付けていく…彼の胸から槍へと流れ、熱い液体が手につくと光り輝き蒸発していく
『…妖精の王、貴方の心、我が半身…』
光りとなって消えゆく彼の体が魔力となり私の中へと流れこんでくる
愛した人の肉体が、愛した人の美しく気高き魂が、あいするひとの
最後の顔は笑顔だった
手には何もなかったかのように槍だけが残る…
残された槍を抱きしめその場で座り込んでしまう。
ここが戦場だと、敵地のど真ん中だとか、もう、どうでもいい。
愛する人を感じ続けていたい。
『サクラ!呆けている場合じゃない!逃げるぞ!敵の気配が増えてきている!!』
頭に木霊する声、柳さん、もう、いいよ。私はここで勇気くんと一緒に死ぬ、約束したんだもん、約束したんだもん、最後は一緒だって、もういい、もういや、こんな苦しい思いなんていや、もう、終わりにする。
『彼に託された願いを忘れたのか!何故彼が、最後の最後、君に…命を捧げたのかわからないのか!』
わかるよ!!言われなくてもわかってる!!彼の魂が私の中で力となって私の時計を守ってくれているのが分かるよ!!それだけじゃない!!未来を受け取った!!
『なら!立つんだ!これ以上…時間がない急ぐんだ!』
もういい!もういい、もういいの…このまま、ここで終わりにさせて、離れたくない、離れたくないよ、もう、いや、愛する人を失う世界ばっかり、もういやだ、もういい、もういやなの、おねがいもう、おわりにして
『…サクラ、君に一生恨まれても良い、すまないな、もう一人の俺よ借りるぞ』
地面から体が浮き遠くへとばされる!?念動力!?
「まって!お願い、ここで、私を!!柳さん!!」
『真なる名前を知らぬ妖精の王…いや違うな、俺と君二人合わせて勇気、我らの名は勇なるモノ!!幾ばくか、君の残した魔力使わせてもらうぞ!この大地に眠る全ての死者よ!肉を持ち我らと共に立ち上がれ!!我らを束縛する悪しき籠は砕かれた!!!』
リビングデッド
彼の魂の叫びが頭の中で何度も何度もリフレインするかのように響き渡ると
座り込んでいた周囲の地面が隆起していき、形となっていく…
形成されていくその…かたち…その姿を…私は知っている、覚えている…
この大地で死んでしまった人達…
数多くの戦いで命を落としてしまった人達
彼らの魂は月の裏側へ逝く事なく、この大地に留まっていた
私も…!私も!そこに、皆の傍に居させて!!おねが、ぃ。
私を除け者に…しないで…
小さく小さく、同志達の背中が遠くへと…
息が詰まる、胸が裂ける、脳が割れる…子供のように大きな声で叫ぼうにも、喉が動かない…
飛ばされる中、藻掻く様に腕を何度も何度も求め彷徨わせていると
『ありがとうサクラ、俺に…俺達を愛してくれて』
彼の…愛する人達の…最後の言葉が聞こえた…
「ま、まって!私も!!私も闘う!勇気くんから貰った命を!!」
視界の端、離れていく世界の片隅で
【たのしかった、良い余興】
異形なりし人型が笑みを浮かべ小さく拍手をしていた
視界から彼らの姿が見えなくなるほどに、飛ばされ続ける…




