Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (145)
来た道を戻る様に王都をでる、ほんの僅かな時間でも彼と何気ない、本当に、何気ない中身のない会話ができた事に心から満足感を覚え、余韻に浸る様に農場を眺めながら私達の街へとバイクが進んでいく
街の中に戻ると少しだけ、出た時と比べて活気だっているというか、なんだろう、少し、殺気立ってる?
街の中は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
倉庫に向かっている道中、私達が外に出ている間に何かあったのか、慌ただしく走っている偶々、近くを通りかかった伝令班を捕まえると
「ぇ?今誰かよび…ぇ、ぁ、あ!姫様!?ぇっと、作戦の準備が整ったのでしょうか?まだお早いと思いますが?」
何も言っていないのに、作戦の準備っという答えが返ってくる。
作戦の準備って何?
私は…籠城戦しか伝えていない
勇気くんに視線を向けると、小さく首を傾げ顎先に指先がふれている
ってことは、違う。外に出る前に何か作戦を伝えたってわけでも無し?
だったら、するべきことは確認すること
「作戦の確認だけど、状況は?」
「はい、筆頭騎士様が門を通ってから、まだ…2時間ほどしか経過していません、所定の位置に到着予定まで、あと1時間は最低必要だと思います、何か、各部署に急ぎで伝えるような、作戦変更…でしょうか?」
筆頭騎士という人物の名前で全てを悟る。一瞬だけ勇気くんの方に視線を向けると堂々とした戦士長としての姿勢に切り替えている…勇気くんも状況を飲み込めたみたい。
「ううん、変更は無いよ、私も準備をしている途中で、新しい情報があるのか確認の為に呼び止めただけ、ありがとうね」
「ぁ~…はい!では、私は伝えに行かないといけない部署がありますので!失礼します!」
丁寧に頭を下げてから走り出す伝令班を見送る、背中が小さくなっていくにつれ班比例する様に嫌な感情が膨れ上がっていく。
ほぼ確実だろうと感じている嫌な予感を抱えながら転送の陣へと土煙を出しながらバイクが向かっていく、本来であれば倉庫に向かう予定だったのに、何も言わずにそこに向かう…
彼もまた完全に理解したのだろう。
ラアキさんが独断で動いているということに
あのラアキさんがしそうなことなんて…この状況下であれば察しが付く。
転送の陣がある広場にバイクを停めると
「姫様!此方の準備は完了しています!ご支持のままに!メモありがとうございます!」
やつれた表情だけど、懸命に笑顔を保ちながらメイドちゃんが出迎えてくれる、メイドちゃんがここにいる理由はわかるよ、メモを残し用意して欲しいモノを頼んだのだから。
でも、私としてはもう少し休んでいて欲しかった…私達の作戦はまだ開始時刻じゃない、つまり、彼女もまたラアキさんに違う作戦を伝えられたって事に成る。
目の下に大きなクマを残しているメイドちゃんに手招きして近寄る様にさせ
「ラアキさんのこと、知ってる?」
単刀直入に質問をすると
「はい?筆頭騎士様の事ですか?質問の意図が…」
首を傾げている、これだけで、説明何ていらなくなる。疑問に感じていない。
「起きた時からの状況報告」
「はい!病室で寝ている私を起こしたのは彼で、起こされたときは警戒しましたけれど、姫様から頼まれたから起こしに来たと姫様が筆頭騎士様に持たせたメモを頂き、メモに書かれていることを実行するために行動を開始しました」
…うん、もう確実と見ていい、ラアキさんは私達の極秘の作戦、最後の最後、どうしようもない時、単独でデッドラインを超え仕留めるべき敵を仕留めるっていう作戦を知ってる。
何処で知ったのか、この作戦の概要が出来た経緯なんて…その場のノリだよ?
地下の研究室で話の種として他愛も無い会話の中で生まれた作戦だよ?
当然、そんな非現実的で実現不可能な作戦、書類として残していない。
その場のノリで適当に作った作戦だから、私たち以外が知る術が無い。
私達二人で決め、お互いどちらかが死んでしまったときに、自滅覚悟で特攻するのはどうかっていう何となく決行するつもりが無いけれど話題の中で生まれた作戦だもん。
私たち二人しか知りえない作戦
でも、綻びが無いわけじゃない、迂闊だった、会話の内容的に作戦概要に辿り着けるとは思っていないから油断し過ぎていた…
考えられるとしたら、休憩室で私と勇気くんが話していた、あの時かな。
あの時に近くで私達の会話に聞き耳を立て、作戦の全てを把握しきれなくても一部を聞き取り、今の戦況から私達が取る行動を読み取り…そして、こんな状況だっていうのにおめかしした私達が二人で何処かに出かけたのを見て確信に至ったってところかな。
部屋を出る時に魔力が乏しいから私自身に認識阻害の術式、使っていなかった。
おめかしした私が部屋を出て勇気くんの部屋に向かったのを見て確信したってところ、かな?…彼はまだ、病室で寝ていると思っていた…
流石は筆頭騎士、頭の回転も速ければ体の回復も早い!
この大陸で彼の言葉を疑う人なんて居ない。
それに、作戦の確認を取ろうにも私達は外に出ている。
なら、疑って準備を怠った場合の方がリスクが高い、彼の独断であったとしても私達が帰還してから修正すればいい。
唯一、彼の事を疑うであろう人物も、私が残したメモ…
これが良くなかった、私直筆のメモなんて誰であろうと用意しようが無い、それを渡されてしまったら真実味が大きく増す…メイドちゃんと言えど疑わない。
「少しだけ愚痴らせていただきます~。姫様も人が悪いです!彼に起こされたとき身の危険を一瞬だけ感じましたよ!凄い真剣な表情で起こされたんですから!!」
もうもうっと頬を膨らませながら文句を言いながら腕を振ってる。
その時点で気が付いて欲しかったけれどね~…
メモなんて残さないで置けばよかった、彼女を起こしてメモを渡して帰ってくる時刻を告げておけばよかった…そうすればラアキさんと言えど動けなかったはず。
「身内が迷惑をかけた、すまなかったなメイドさん」
勇気くんが頭を下げると
「い、いえ!戦士長が謝ることなんて…ない、んです、け、ど…?」
慌てていたメイドちゃんが言葉の終わりと同時に表情が切り替わっていく、あの目は猜疑心の目?どうしたんだろう?
「サクラ、俺は急ぎ鎧を取りに行く、君は」「あ、戦闘服!勇気くんの部屋に置きっぱなし!私の分もあるから取ってきてもらってもいいかな?」
頷いてからバイクから降りて走って部屋に取りに行ってくれる
彼も内心焦っているんだと思う、だって、ヘルメット被ったまま駆け出したから。兜を被るんだからヘルメット置いて行けばいいのに…
焦る理由は察している。さて、問題はこち…うん、この娘は先ほどの猜疑心はどうしたのかな?
「へ、部屋に置きっ、ぱなし、です、か…」
頬を染めて何を想像しているのか!淫乱むっつり娘!
先ほどまで、血色悪かったのに頬をそめんない!!っての!
この流れに乗っかるつもりは無し!確認しておかないとね!
「魔石の準備は出来てる?」
「はい!培養はひと段落ついています、箱の中身も補充しています!それで…今回の運転も」
ちらっとクィーンがある方へと視線を向けて私も付いていきます行かせてほしいっという控えめなアピールをしてくるけど、ばっさりと希望を跳ね除けないとね
「あ、今回はクィーン動かさないから、移動はバイクでいく、その為に中型魔石を出来るだけ用意してもらったんだから」
目を一瞬だけ開いてから、目を細め寂しそうな表情を向けてくる…用意して欲しいメモを見た時点で置いていかれるってわかっていただろうに。しおらしいね、ほんっと…困った妹だよ。
「ひ、姫様!?」
抱きしめ頭を撫で
「ありがとうメイドちゃん」
聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で別れを告げる…
「ぇ、今なんと?申し訳ありません、少し聞きそびれてしまいました」
「お勤めご苦労っていったの、もう少し休んでる?辛そうだよ?」
「そんなこと!あと100日だって頑張れます!お薬でも何でも使って!」
抱きしめられたまま、ふんっと力こぶを作って元気です!っと、アピールしてくるけれど、抱きしめたからこそわかっちゃう…
戦いを開始する前に比べたら、かなり痩せさせてしまっている。
運動量が多すぎて筋肉の回復が追い付いてないんだろうね。
「そうだね。そういうことにしておこうかな」
ぽんぽんっと背中を叩いてからハグから解放してあげると、少し寂しそうな表情を見せたと思ったら、直ぐに何時ものメイドちゃんモードへと表情が変わる。
「ところで姫様はその恰好で出撃なさるのですか?」
「ううん、着替えるよ、バイクを保管していた倉庫に戦闘用のお洋服準備してあるから、戦闘服に着替える時に一緒に着替えるよ」
そう、戦闘用のお洋服をね…隊服、私専用の隊服をね。
もう、着飾る気も無い…死に装束を準備して、ある…
それに袖を通すつもりなんて無かったんだけどなぁ…
「では、戦士長の準備が終わるのを待つのみ!ですね!…です、よね…」
そうだよっと返事を返すと、何処か不思議そうな何かこう引っかかっている様な顔をしている。敏感なメイドちゃんだったら私達が気が付かない事にも反応しているかもしれない、念のために聞いておこうかな?さっきの…勇気くんを見つめた時の視線も気になるし。
「何か気になることでもあった?」
「ぇ、ぁ、その…勘違いだと思うのですが、その、戦士長は何か、変わられました?」
成程ね、雰囲気が変わったから、メイドちゃんの中で、勇気くんの事が怪しんでいるというよりもどうして変化したのか気になっているっていう。そんな感じか。
変わった理由なんて決まってる、そもそも、これはユキさんが素を出し過ぎたって理由だもんね。それを見てしまったらメイドちゃんといえど、混乱するよね。
うん、理由も察することが出来たし、妹の不始末、愛する人の家族を守る為にも一芝居うつとしましょうか。
「かわ、ったのかな?…その、ほら・・・その、ほらぁ~」
照れながら言わせんなよっとメイドちゃんの肩をぺちぺちと叩いてみると、この仕草が何を意味するのか理解できないほど彼女は鈍感じゃない。
「なるほど!何処か中性的な雰囲気をお持ちな方だと常々思っておりましたが、が!そういう側面を見せる時は何時だってプライベートの時!此度もそういった雰囲気が見当たらなかったのは!男らしく変化しているって感じなのですね!なのですね!この違和感はそういうことだったのですね!わかりました!メイドとして将来お仕えする方として接すればよいのですね!」
目を輝かせて、ったく、お母さんとそりが合わないのって同族嫌悪なんじゃないのかな?ってくらい、むっつりだよねメイドちゃんって。
しょうがないよね、メイドちゃんはユキさんと何度か接触しているから女性っぽい仕草とかも見ちゃってんだよね~。
勇気くんじゃなくてそれ、ユキさんだよって言えないから説明のしようがないからこれでよし!
今はもう完全に勇気くんだけの体だから女性っぽさも完全に消えて男の部分しかないもんね、些細な、ほんの僅かで小さな違和感だけど、メイドちゃんなら気が付くよね。
よく見てるよ、ほんっと…華の頂は油断ならないね。
隠密として徹底的に人間観察&考察するように鍛えこまれているだけある。
余計な心配も消えたことだし、伝令班のボスとして機能しているメイドちゃんしか知らない情報があるかもしれないから、確認しておこうかな?




