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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (143)


でもね、よくよく考えるとさ、各国の人達も誰を送るのか選定するときにそういった事業に携わっている将来有望な人材を送ってくるわけ何て無いよね。

だから、そういうのに興味がある人が居なかったのかもしれない、そういうのは身近に先駆者が居るからこそ、一歩を踏み出せる。

何も無い場所からこれがしたい、なんて、ゼロから考え生み出せるような人なんて各国が送り出すわけも無し。

後、考えられる要因として、街の雰囲気がそういった事にうつつをぬかすなって強迫観念が漂っていたのかもしれない、かな?多くの人が戦う為に備えているのにお前は遊んでいるのか?って睨まれたくないよね。

…そんな事ないのにね。自由な時間は自由にしてもらってよかったのにね。

「出来る事なら、この家の一つ一つに…全てに灯りが灯り」

「子供達の声が溢れる穏やかな街並みになってほしかったなぁ…そんな光景を眺めたかったよ」

子供達が笑顔で走り回れるような平穏な世界を夢見ていた、私自身も子供が欲しかった、今にも張り裂けそうな心を繋ぎ止めて欲しく、彼の足に手を伸ばし触れると手を包み慈しむ様に握ってくれた

「願わくば、この大地に平和を」

「ねが、わくば、せかいにみらいを」

握られた手から温もりが伝わってくる。慈愛に満ちた彼の心に触れ、張り裂けような心が張り裂けない様に繋ぎ止めてくれる。

ここだけじゃなく、他にも見たい世界がある

「つぎは、おうと…おうとにつれていって」

声を絞り出すと繋がれた手が離れたので、彼の太ももを強く握るとバイクが動き出す。


少しずつ加速する…流した涙を流れる風が拭ってくれる。


王都に向かってバイクが進んでいく…

王都、始まりはただの村、そこに多くの人が集まり、多くの人が石を積み上げ城壁が生まれた…

その城壁に囲まれた王都には入り口がいくつかある、門番が見張っている場所が一般的な入り口

そう、一般的な入り口以外にも、入り口がある、人が集まれば城壁の外に建物が作られ新たなエリアが生まれる。

王都にはね、貧民街っていう場所があって、そこからであれば門を介さないで王都に出入りが出来る場所もある。

今なってはそっちの道から王都に入っても誰も咎めたりしない。

だって、盗賊団などを壊滅させたからこそ危険人物がいなくなったから、そういう意味では門という物が不必要になった

その結果、門番という仕事なんてあって無くても良くなってしまった。

この大陸で生きている人達で盗賊業を生業にしようなんて不届き者は現れない、だって、捕まったら死の大地で働かされる刑罰が待っているって大陸中の人が知ってるから。海を渡ってこの大地で裏家業をしようなんて命知らずもいない。


そうなるとね、門番なんてさ、危険性も無く不必要な職業だって思うでしょ?

今はね、訓練終わりの騎士達が体を休めながら働けてる場所として機能しているし、街の人達との交流の場所になってたりするから門番っていうよりも、相談窓口になってる。


こんな早い時間なんて門番が居ない、なんてことはない。

この時間から農家の皆さんはお仕事を開始するから門番の皆さんも欠伸をしながら呑気に仕事をしている。


「こっちは被害が無くて良かったよ」

「うん」

王都に向かって走り続けるバイク、その流れゆく風景に胸が締め付けられる


だって…

此処は何時だって変わらないから。


遠くに見えるは、マリンさんの娘さん

荷台に納品する予定の品々を荷車に乗せている

その近くで色んな人たちが各々の仕事をしている

収穫したり、納品物を運んだり、葉っぱの状態を観察したり、害虫を見つけては捕まえたりしてる

何事も無いように誰かが歌い始めると、近くに居た誰かが次のフレーズを口ずさむと、歌う人達が水の波紋が広がっていくように増えていき、その声に反応した牛たちも歌う様に鳴き、全ての音が合唱となって農場全体に広がっていく


何て、牧歌的な世界なのだろうか…


「いつの時代も、農家が元気なのは良きことだ」

「うん」


最も美しい世界の真ん中、土煙を巻き上げながら進んでいく

車と一緒で鉄が揺れるような音以外、バイクも音がしない。

地球とは動力の仕組みが違うから、エンジン音が無いので歌の邪魔をすることは無い。


ガシャガシャと揺れる音を出しながら牧歌的な世界を通り抜けると大きな門を潜っていく、私達の周りには納品に向かう人達が多いから金属が揺れて当たるような音だらけ


私達だと気が付かれることなく眠そうにしている門番の真横を通り過ぎていく。

こんな状況でもしっかりと門番として働く騎士に挨拶をするのが、一般的な常識なんだろうけれど、お忍びなのでごめんね


門を潜るとスピードを落とし、歩く速さと変わらない速さで運転してくれる。

その理由は単純に行き先が決まっていないから、王都の何処にっとリクエストはしていなかった。

彼からは何も質問が無いということは、私が生きたい場所をリクエストするのを待ちつつ、リクエストが無ければ、彼の行きたい場所に辿り着くのだろう。

だったら何も言わずに…日常生活が続いている風景を眺めるだけ。


彼も私の目的が王都の風景を眺める事だと察してくれたのか、気持ちスピードをだし進んでいく。


バイクで通り抜けていく世界は、戦いを始める前と何も変わっていない。

…ってのは訂正、そこらかしこにワームの死骸が転がってる。

「…強いな、俺の時代とは大違いだ」

「…ぅ、うん」

店の前に転がっているワームの死骸をごみハサミで掴んでは焼却場に運ぶための木箱に放り込みながら近隣の方達と談笑している奥様達の逞しさに驚きを隠すことが出来ない…

ぶつ切りにされたワームの破片を掴みながら顔色変えずに談笑できる適応能力の高さ、人って凄いんだね…


奥様達のタフな精神構造に心の中で拍手を送っていると、開けた場所に出る。

そこは、教会がある広場。懐かしいな、ここは何も変わらない。


教会の近くを通り過ぎると煙が天に向かって伸び続けている。

亡くなった方を弔っているのだろう


バイクが止まったのでお互い手を合わせ祈りを捧げる

彼らの魂がアレに捕まることなく天へ上り月の裏側へとたどり着けるのを願って祈りを捧げる。


広場の先にある石が並んでいる場所、そこに目が留まる

「挨拶に行かなくてもいいの?」

「…ここに居ると思うか?」

私の視線に釣られ勇気くんも奥にある、静かな世界に視線が向けられる。

お互いが見据える先、敬愛する偉大なる戦士長のお墓がある。


彼の魂は、ここにはいない、敵に繋がれているから。


「いるわけない」

「ああ、彼を魔の手から解放するまで、俺は手を合わさない」

小さく歯を食いしばり擦れる音が聞こえた。

少しでも彼の心が救われる様にと願いながら、彼の手を握る

「次、いこう」

「ああ」

優しく手を指先でなぞる様にトントンっと合図を送ってくれるので手を離すとアクセルへと腕を伸ばし、バイクが走り始める

遠ざかっていく教会、目が良い私だからこそ見えてしまった…


幼き頃、一緒に頑張ってくれたシスター達の姿が見えなかった。

それが少しだけ寂しかった…



バイクが進んでいくと、見慣れてはいないが知っている場所へと入っていく。

平民街の奥、余り訪れたことがないけれども、思い出がある場所、もう少し先に進んだら勇気くんの実家がある、ここでの思い出と言えば強烈なのがお互い一つだけある。


幼き頃の彼に仕事でやってきたのだと装い、強引に未来の記憶を共有した

自分でも思う、なりふり構わず非道すぎる手段だってね、やり口が悪役すぎるよね。


次は無いけれど、反省をしてると、バイクが止まる。

「これ以上は近寄れない」

「気づかれちゃう?」

コクリと頷く辺り、何かあるんだろう。

そのまま何も話すことなくバイクに跨ったまま勇気くんは、実家がある方を見つめ続けている


長い時間のように感じてしまう程、何も表情が変わらない不変なる時間…

ってわけでもないんだろうね、彼の中で色々とあるんだろうね。

良き妻ってのはね、旦那を待つもの!だよね…てひひ。


ふぅっと、彼の口から長い永い吐息が漏れ全て吐き切ると

「すまない、行こうか、リクエストは…あるか?」

「ううん、私は…満足したかな、最後に私が…ううん、私達が守る世界を目に焼き付けれたから」

そうか…っと何か言いたげな雰囲気で頷くけれどさ、他にも行きたい場所があるのかな?デートって考えると不完全燃焼だけど、私は…これで十分、私が頑張ってきた兆し、証しを眼に焼き付けれたから、もう…いいかな。後は彼の時間を優先してあげたい。

「まだ、時間はあるよ?」

そうだなっと、小さな返事が返ってきて明後日の方向を見て一呼吸だけ考え、何処か行きたい場所を見つけたのか

「…揺れるがいいか?」

行きたい場所にいきたいみたい、なら、付き合ってあげるのが良妻ってね

「うん、いいよ。勇気くんの行きたい場所、私も気になる」

「先に断っておくが、ご期待に沿えるような楽しい場所じゃないぞ」

ヘルメットの上に手を置かれ軽くぽんぽんっと叩いてからバイクが動き出す。

街中では速度を落とし、人が走る速さくらいだったけれど、王都を出てからはスピードを出し始める。

えっと、あの門を通ったってことは王都の西側?西側か…彼が行きたい場所。


思い当たる場所がある。付き合ってあげないとね。

私がいきたい場所はもう、みたから。


それにね、この辺りの道はね、きっちりと整備しているからスピードを出したとしても快適、そこまで撥ねることは無い


王都を出て20分くらいバイクを走らせ、目的の場所に着いたのか何もない場所で止まり

「ここから先は長くなる、ここでいい」

バイクから降りてヘルメットを脱いでミラーに被せ、歩いていくので、私も降りてヘルメットを座席の上に置いてから、彼の後をついていく



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