Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (142)
バイクが保管してある場所まで、優雅にエスコートしてくれた。
道中はお互い身を寄せ合うように腕を組んでいたとしても誰も振り返らない、私だけの世界。
彼から送られてくる魔力によって認識阻害の術を展開し続けてきた、この術を見破れるような人は…今頃は寝てるだろうし、私の部隊は見晴らし台で戦っている。
早朝でも人はいる、すれ違った人は、私達を私達だと気が付く人はいなかった。
倉庫の大きなドアを開けて中に入り、灯りをつける
倉庫の真ん中に置かれているバイク、その隣にはもう一人、乗れるようにするためのサイドカーっと呼ばれる座席
この世界では不人気な魔道具、車と違って積載量も少ないし、動力源を取り付ける場所が無さ過ぎてサイドカーっという魔石置きが必要な仕様
私達の切り札、クィーンが壊されてしまった場合、もしくは、私達で隠密特攻するために用意した切り札。
その為、色合いは目立たなくする為に黒塗り、音も車に比べて静穏仕様、これそのものに認識阻害+消音術式が組み込んである。
「車と違ってこれは操作も複雑ではないからな、俺でも問題なく操作が出来る」
壁にかけてあるヘルメットを手に取り私の分も渡してくれる。
受け取ったヘルメットをかぶり、サイドカーに乗り込むと、勇気くんはバイクの横に立ってメーターなどをチェックしている。
「運転するのはいつぶりだ?完成した時に乗っていらい、か?」
操作方法を確認する様にアクセルを捻ったり、ブレーキを握ったり、メットインを開いたりしている。
勇気くんが運転するのは試運転以来だから、何年ぶりだろう?運転方法、忘れちゃうよね、車と違うから。
「運転方法は覚えてる?」
「ああ、それに関しては覚えているとも、単純な構造だからな、此方の持ち手の部分を手首を捻る要領でアクセル、前にある鉄の棒に指先を乗せ握ればブレーキ、だろう?」
ブレーキを握りながらバイクに座り、よっと、という声と共にバイクを揺らしスタンドを外している、ちゃんと覚えてるじゃん。
ここが、こうっで、と小さく呟きながらバイクに組み込んである術式を起動させている。手順も覚えてる、つっても?手順何て、あってない様なモノだけどね、起動するための魔石に触れて魔力を流すだけ。
これから移動するために使う、このバイクは、地球で言うところのビッグスクーターってやつ。
それにサイドカーを取り付けている。地球の人達みたいに彼の後ろに座って抱きしめる様に引っ付いて運転してもらうってのも憧れたけれど、まだまだ、私達の技術じゃ実現不可能だった。
作った理由は、切り札の保険、ぶっちゃけるとね、これを使うような事態にならないようにしたかった。
クィーンが壊れた時を想定して用意しておいたもう一つの切り札、つまり、クィーンが壊される様な状況に陥らない限り使う予定なんて無かった…このまま、平和な時代がくるまで倉庫の中で眠っていて欲しかった。
仕様としては、搭載している魔石のサイズは、クィーンほどではないけれど大容量の魔石を搭載している。
つっても、中型魔石よりもやや、小さいくらい、かな?ほぼ同じくらい、かな。
魔石を大きく搭載したくてもバイクって小さいから搭載量に限界があるんだよね~…
メットインとかさ、荷物を運ぶために空間が必要だったから、バイク本体に大型の魔石は搭載していない。小さな魔石は随所に搭載しているけれど、それはバイクを運転するのに必要なモノだから、他に回せない。なら、どこに動力源を搭載するのかって考えた行きついた答えが此方、サイドカー!魔石を搭載するためにサイドカーを取り付けないといけなかった。
理想はね、サイドカーなんて無しで単独で動くようにするのが理想だけど、無理だった。
作ってみようと思ったきっかけって、どの時代の私だったかな?朧気で覚えていないなぁ・・・
きっかけは何となく覚えてるんだよね、三輪とか自転車とかを補助的に動力を搭載して長距離の運搬を車無しでも簡易的に行えれる道具があれば売れるんじゃないかってことで、地球の情報を参考にして作ってみたのが始まりだった、かな?
何台か試作品としてつくったんだけど、この世界でバイクが不人気すぎて誰も購入する姿勢を示してくれなかった。
故に、敵からしてもほぼ知らない魔道具ってわけ。
これの対策はしてない、っと、思いたいかな。
魔石の中に魔力を保存する容量をもっと増やして、更に、小型化することが出来たら、バイクも利便性が爆発的に向上するんだけど、魔石を小型化は出来ても容量を増やすことが出来なかった、だから、バイクを発展させることが出来なかったんだよね。
動力源を保管するためにサイドカーが必須だったら、そらもう、車で良くない?ってなるわけでね…そりゃ、売れないよね。
その意見には私も頷くしか出来なかったよね、的を得てるんだもん。
娯楽としてバイクを売り込んだりもしなかった、だって、量産しないのであれば車よりも高くつくんだもん。
そんな事をぼんやりと考えていると、サイドカーの揺れ始める
「うん、うん!よし!」
あちこちを触って、アクセルを握ったりブレーキを握って操作を入念に触って完全に扱い方を思い出したみたい。
ライトも点灯させている、全ての操作確認を終えたみたいで何度も頷いてから
「行こうか。何処に行きたい?」
爽やかな笑顔を向けてくれる、叶うのであれば、誰も知らない場所って言いたい、でも、言えない。
「えっとね…取り合えず、王都に向かう途中にある」
名前が無い場所ってどういえばいいのか、わからないよね~空中を彷徨う様に指を動かしていると
「あ~、そこか?力無き民の為に用意した一画か?」
そうそうっと頷くと「では、行こうか、其方も頼むぞ」おっといけない、ヘルメットをかぶるだけ被って紐を絞めていなかった。
ヘルメットの紐を絞めると、彼の右腕はアクセルを回し、ゆっくりとバイクが動き出し倉庫から勢いよく飛び出る!…事も無く安全運転、ゆ~~っくりと進んでいく。
バイクに取り付けてある術式は勿論起動している。
認識阻害の術式、私達を見た人たちは、私達と気が付かず、何かが通っていった、気にする程でもないって感じで私達を認識しているだろうね。
幸いにして今は夜と朝の間、太陽が昇り始める時間。
本来であればまだまだ多くの人が眠っている時間、でも、作戦を開始してから、この時間でも多くの人が何かしらの仕事をしていた…
でも、今は…誰もいない
認識阻害の術式なんて必要ないんじゃないかなって、思ってしまう程に誰も横を通り過ぎない。
ほんの僅かな時間、物憂げに浸るような余韻すら与えてくれることなく、目的の場所に到着する。
「バイクで移動すると近いモノだな」
バイクが完全に止まる、誰もいない、今は、機能していない街並みに視線を向ける…
いつか商業施設などを迎え入れるつもりで建てに建てた家の数々。
その多くを作戦の為に奴隷、ううん、遠い住み慣れた土地から移住してくれた力無き民たちが自由に過ごしてくれるようにと提供している
実際、始める前までは、多くの人が暮らしてくれていた…
でも今は…殆どの家に灯りが灯っていない。
寝ているから?ううん、違う。
傷ついたから…休む暇さえ、無い程に。
「古い考えだとわかっている、こんな豪華な家に住まわせてくれて尚且つ高額な給金を得られるってのは、幸せだろうなっと、思っていたんだ」
隣から悲しい声が聞こえてくる。
「うん。勇気くんの考えはね、自分たちの意思で来たのだとしたら正しいと思うよ。衣食住全て揃っているのなら飢える事も無い明日が不安になることもないよ。でもね、各国から連れてこられた彼らからしたら、本当は住みたくもない場所だし働きたくない場所で、したくもない仕事。不満と不安しかない、人生を憂い諦めてしまいたくなる、だからこそ、せめて、待遇くらいは良くしてあげたかった」
お互いの顔を見ることなく、この街で起きた様々な思い出が零れていく
「自国で懸命に生きてきたのに、唐突に他国に売られる、売られた人達からすれば自分たちの扱いは奴隷なのだろうと…この街に到着した彼らの多くが絶望し、目に生気が宿っていなかった」
「うん、そうなるのは目に見えていた、そういう人達を受け入れていたお母さん達の意見もしっかりと取り入れて、暖かく迎えいれた。家だってこの区画だったら、好きな家を選んでも良いことにしたし、寮を選んでも良い事にした、それに、彼らが希望する仕事、配属して欲しい部署をさ、ちゃんと調書して、出来る限り望み通りにしてあげた」
つっても、全ての希望は叶えきれないから、一部は妥協はして貰ったけどね。
しょうがいないじゃん、私のメイドはメイドちゃんだけでいいってメイドちゃんが決めたんだから。後、力も無いのに戦士にはさせられねぇっての…
「彼らを受け入れたあの日、皆と一緒に生活に必要なモノを運んだり用意したりしたあの日々、思い出すとなんと、なんとも…平和な日々だった、今とは違って、平穏な日々だった」
色褪せない思い出、お金だけは貴族共から根こそぎ奪うかの如く稼いだからね。
お金だけはあった、簡単に稼げたのも過去の私があの貴族はこういうのが欲しいって事前にわかっていたからね、サクサクっと商談をまとめて稼ぎ倒すことが出来た、生活に必要なモノを購入するくらい瓶の中にある水の一滴にすらってね。
「力無き民たちもさ、時間と共に段々と街に慣れてきてさ、自分たちの仕事以外も率先して手伝ってくれるようになった、心も生活もゆとりが出来ると視野が広がってさ、学びたい人は技術も学ぼうとしてくれた」
力仕事では役に立てない、でも、出来ることを増やしたいって声を掛けられた時は嬉しかったな~。
色んな基礎的な技術を学び、更に、学びたい人は多くを学んでくれた。
「王として過ごした時代の俺に、こんな豊かな未来が待っているのだと、聖女様が望んだ平和な世界が来たんだぞっと、愚鈍な王に胸を張って教えてやりたい気持ちに包まれていた」
「多くの私達が、ある世界を…未来を夢見て建てた。その数々な建物を腐らせることなく活用したんだよって、胸を張って言える、よね」
ただね、多くを学んでくれたのは嬉しかったけれど、私が望んでいた世界には到達しなかった。
残念ながら、工芸品とか、服飾とか、そういった産業は発展しなかった。
折角、海を渡って多くの国から人が集まったって言うのに、そういった産業が発展しなかったのがただ一つの憂い…




