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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (139)

「何となく察した、あそこに置いてきたの?」

「私が置いてきたわけじゃないわよ、きっと、誰かがあそこであれば人目につきにくいと判断して放り込んだんでしょ?そうでも無ければ、宰相が休憩室から出てくるわけないじゃない」

言われてみればそうだよね、宰相が会釈をするような相手なんてそうそういるわけないじゃん。

「触れてはいけない瘡蓋ってわけね、うん、勇気くんがここにいるとは思えれないし違うところをさが」

「ママ!!」「ぁ、まて…サクラ!?」

声がした方向に顔を向ける前に、一つの大きな影が駆け出し、繋がれた温もりが私の手から離れ逃げ出そうとするが、大きな影が逃げる人物に向かって飛びつきしがみ付く

「…とめ、止めるべき?」「すまない、抑えきれなかった」

優しく肩の上に手を置いた人物に

「傍に居てあげたの?」「ああ、珍しい人物が救いを求める様に彷徨っていたのでな、彼の素性を知るモノとして、人の目に着くと宜しくないと思ってな…」

事情を聞き、納得。来ている服装は何処にでもいる平民の恰好だけど、知る人が居ればすぐに気が付く、王がどうしてここにいるんだってなるよね。

玉座から動くことが無い王都が秘宝は、お母さんの腰に手を回して縋る様にお腹に顔を埋め

「置いて行かないで、俺が悪い子じゃないなら置いて行かないでママ、俺を置いて行かないで、ママ」

情けない声が廊下に響き、お母さんも困った表情だけれど、表情とは裏腹に叔母様が拒絶反応を示しているのか、抱き着き情けない声を荒げて抱き着いた人物に向けて右腕を上げ脳天を撃ち抜こう拳に力を込めているのを必死に左腕で抑えている…


叔母様とお母さんが鬩ぎあっているのだろう。

王に拳を叩きこむなんてあってはならないからね。


かといって、この状況をどうにかするのは…

「あれは…うん、私じゃ無理」

アレとは幾度なく衝突しているせいもあってか、近づきたくない。

お母さんを助けてあげたいけれど、一発ぐらい脳天に拳をめり込ませてもいいとも思ってしまっているので動く気がしない

「そうだろうな、君と彼との確執は知っている、まさか、こんな状態に陥るとは想定外だがな、致し方あるまい、身内として助けるとするか」

縋る様にお母さんのお腹に顔を埋めている情けない男の隣に立ち、膝を地面に突き目線を合わせ

「センア、お母さんに会えたのならそれでいいじゃないか、君を置いて行ったわけじゃない、ここはね、お母さんを必要としている場所なんだ、お母さんがここに居るのは、人を救うお仕事をしていると教えてあげただろう?」

優しく語り掛けてる…私には出来ない、彼の情けない声に情けない姿を見ると蹴飛ばしたくなる、あと、お前が抱き着いているのは私のお母さん!お前がママと呼んでいい人じゃないっての!!


湧き上がる嫉妬と苛立ちが徐々に心を染めていく、叔母様が耐えている限り私も耐えるべきなのだろうけれど!脳天に拳を叩きこみたい!!今すぐにでも離れろ!って脇腹を蹴飛ばしたい!!


情けない男は優しい語り掛けに反応したのか埋めた顔を動かすと「ぅ”」お腹を擦られるのがくすぐったかったのか痛かったのか小さな悲鳴が零れている

「お母さんに会えたんだから、それでいいじゃないか、ほら、お母さんも仕事があるから離してあげなさい、ここに居ればこうやって様子を見に来てくれるから」

離してあげなさいっという言葉が聞きたくなかったのか即座に顔の向きを反対に向け「ぅ”ぐ」擦り付けられたことにより声が零れ振り上げた拳が振り下ろされそうになるので

「聖女とは!」

助け舟を出す、この言葉によって拳が止まり、表情を強引に穏やかな表情に切り替わっていくっと思ったが、引きつった表情、嫌悪感と殺意が隠しきれていないです叔母様

「あ!団長!つぎのか、た…?お取込み中ですか?」

お母さんの後ろから次の患者に向かって欲しいという声が聞こえてきた

溜息を溢しながら覚悟を決めたのか「次はどこ?」強引に向きを変え、情けない男を引きずりながら廊下を進んでいく

「すまない、力及ばずだった…」

すごすごと肩を落としながら隣に戻ってきた勇気くんに

「あんなの殴って気絶させればいいじゃん」

辛辣な言葉を投げかけてしまうと、首を横に振り

「心砕けるほどの悲惨な目にあったのだ、君も言葉にしていただろう?心にも病気があるのだと、だとすれば、彼もまた病棟を必要とする患者だろう」

何があったのか、聞いても良いのかな?ぶっちゃけると知りたくないんだけど…

っていうか、何となく凡その状況はお母さんが見てきた世界から知ってるんだけどね…

「急ぎか?」

首を横に振る、お母さんから受けった戦況や病棟の状況だとまだ、幾ばくかの余裕があると思う。

「なら、世間話も兼ねて報告会とさせていただこう。それにだ、疲弊しきった俺達ではこの状況で戦況を覆すのは不可能だ、しっかりと策を練って…」

っふ、っと乾いた小さな笑い声、自分の発言がおかしいのだと認めちゃってるよね。わかるよ…その励ましが無意味なのだってね。

「練ったとしても実行できるほどの余力は残されていないだろうな、君の考えていることが読めない俺ではないさ」

優しく肩を抱かれ彼の厚い胸板に引き寄せられる

「先ほどまでいた休憩室で世間話でも…語り合おうか」

休憩室に入り、ベンチに彼が座るので彼の横に座ると肩を掴まれ引き寄せられる。遠慮することなく彼の肩に頭を乗せ体重を預ける。暖かい。

「僅かではあるが、魔力を渡そう」

ゆっくりと彼の魔力が体に染み込んでいく、封印術式にほころびが出来つつある今の私では、貰ったとしてもゆっくりと抜けていく。

それなら、断るべきなのだろうけれど、優しさを拒む勇気が私にはもうない。

「魂の同調によって伝えるべきなのだろうが、すまんな、君に渡す魔力で今は精一杯なんだ。戦況は芳しくない、戦況を考えれば直ぐにでも俺達が動くべきだが、覆す為の力も今はない…焦る気持ちがあるのは認めよう、でも、何もできないのであれば、戦士達に甘え俺達は幾ばくかの休息を取るのが正解…なのだがな」

彼もまた、心が状況に追い付いていない、頭ではわかっていても、心がその結末を認めようとしていないみたい。

人に話すことで心が落ち着き成すべきことを成す為に必要なこともある。

ぶっちゃけると興味のない話を含め、彼が知りえた報告会が始まる。


お母さんが病棟に帰還し、安心した影響で私は気を失った。

でも、勇気くんはかろうじて意識を保つことが出来たみたい

「的確な指示の元、点滴をうち、魔力回復促進剤が入った瓶を10本ほど渡されたよ」

その時に、マリンさんに色々と状況の説明をして貰った


俺達が怪我人たちを救う為に病棟を駆け回っている間に、あり得ない量の獣共に襲撃され、戦士達だけでは、後方支援部隊を守り切ることが出来なかった。

カジカさんが合流してから前線基地の建設は諦めて防戦することに専念し、溢れ出てくる獣達と闘い続けた

中には、見たことのない獣も居て、特徴や癖が分からず、セオリーが無いため苦戦を強いられた。


街の近くに用意してある迎撃用の装備を利用するために徐々に徐々に前線を下げ、敵の勢いが徐々に勢いづいていくのを感じながら必死に敵の数を減らし続けた。


対処できない凄まじい敵の数、普段であれば直ぐにでもその場を離れ逃げるという選択肢を選ぶべき状況、なのだが、引くに引けない程に追い詰められていた。

圧倒的に不利な状況、それでも、街が近いからこそ、弓や魔道具によって安全圏から獣共を攻撃することができた、圧倒的な不利な状況でも何とか街中に敵を侵入させることなく防衛できていた。


例え、敵の中に人型がまぎれていようが、如何なる状況であろうと鐘を鳴らすつもりは無かった。


鳴らせば、君が出てくる、それ即ち、救うべき命が救えなくなるっとマリンさんが判断し鐘を鳴らさないようにしてくれた。


全員が疲弊しきっても、古き戦士達は丸薬を齧り、魔力回復促進剤で喉を潤し、集中力を高める危険な薬を噛み締め乍ら戦い続けてくれた。


怒るな、俺も知らなかったんだ…

彼らが禁じている過去の薬を持ち込んでいるなんて


特に、今回の戦いで戦士としての役目を終えるつもりでいた古くからいた戦士達は使用してはいけない薬を持ち込んでいた


そのおかげもあって、戦線を維持し続けてくれたんだと、情けないことに俺はそう感じているよ。


それとだ、街中に敵の侵入は許していない大いなる壁にある門が破られたわけじゃないんだが…侵入を一部許してしまった。

後方支援部隊、力無き民たちが怪我をした多くの原因が、壁を易々と超えることが出来る鳥達のせいだ

温存でもしたのか詳細は知らん、だが、壁を越え街中に降り立ち多くの人達が傷ついた。街の中で鳥達と闘った騎士達が言うには今まで見たことが無い鳥達だそうだ。


鳥達だけではあの数の負傷者はでない、勇気ある後方支援部の人達が前線で戦い続ける戦士達の剣や槍が鋭さを失っていくのを知っていた、それらを届けるために、意を決して扉を潜り、死地へ飛び出したものもいる。

当然、混戦乱戦状態で彼らを守り切れるわけもなく、武具などの支援物資を届けた一人が獣に襲われ動けなくなるほどの大きな負傷を負い、その一人を死なせない為に他の支援部隊に所属する人達が駆け寄り、二人係で傷つき倒れた人を抱えながら門に向かって負傷者を運ぶが、無防備な人間を見逃すほど獣共も優しくはない…当然、助けに出た二人も怪我をする…


その様な状況が続き、その結果が、あの激動の時間だ…


長引く戦い、警戒はしていても不意を突かれてしまうとカジカさんと言えど、敵の一撃を貰ってしまう、最悪なのがその一撃が致命傷となる魔道具だったということだ。


敵が持つ魔道具によって消えぬ炎に包まれた


マリンさんが言うには水や氷を作り出す術譜全てを試してみたが消える様子が無かった。カジカさんも全身に火が燃え移る前に止む無く、彼の命を救う為に彼の指示の元、火が付いた部位を切り落とした。


そんな英断が出来たのも君が築いてきた信頼関係があってこそだ。

カジカさんは託したのだろう、俺達なら彼の体を治す術があると…


団長が戻ってきてから、マリンさんは憑き物が落ちたみたいに穏やかに安心して休憩がてら俺に戦況を教えてくれたのさ。

「…敵はまだまだ、戦力があるってことかぁ…」

「ああ、俺達は目に見えるだけしか知りようが無い、きっと、何処かに俺達の知らない何かがあるのだろう」

個の力の差もあれば、数の差もある。隠し玉がまだいたとしても驚かないよ。



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