Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (138)
「まだ負けたわけじゃないでしょ、カジカのやつも、三日、最低、三日あれば前線に復帰できるわよ。あの馬鹿に関しては肉食わせて4時間でも眠らせれば元気になるわよ、貴女の槍だって今は別室で寝てるだろうけれど、疲労がたまっているだけで1日でも休めば元気になるわよ、五体満足、まだ諦めるには早いわよ、それに今から培養すれば」
首を横に振る、今から全身を培養するのは得策じゃない。
そもそも、培養は部位が限界、全身の培養は出来ていない、その技術は理論上では可能だけど、まだ実験していない、その実験も私有りき。
全身を作るとなると、いるんだよね。ベースが、戦いを忘れていいのなら拒絶反応が無ければ、お母さんの本当の子供になるのも良いかなって思うけど…
聖女としての運命を…加護を引き継げる固体を生み出すのは無理なんだよ…
それにね、時間がもうない。
「技術的に不可能ではないでしょ?」
首を横に振る、技術的に不可能なんだよ。
脳の培養は成功していない。
脳以外であれば培養は可能だけど、それを繋ぎ合わせる技術はお母さんなら出来るかもしれないけれど、私の脳をどうやって保管するんだっての。
適合試験無しでぶっつけ本番は怖いっての。
それに…死んだ人を無理くり動かすのは、どうかと思うよ?って、どの口が言うんだろうね。
「…貴女の御父様に連絡をして」
全力で睨みつける、それだけは絶対に嫌!あんな枯れ果てたやつに…協力してもらいたくない!!
「そう、よね。卵子が…無いのよね。流石に娘と父とでは、良くないわよね…なら、貴女の愛する人は?」
首を横に振る、彼曰く、そういった機能が機能していない
「わけありっぽいわね、貴女の卵子を凍結保存しておけないの?」
それに関しては…してある。
お母さんのを摘出するために、まずは自分で出来るのか実験したことがあって、念のために凍結保存はしてある。でも、特に管理していないから、良い状態ではない可能性がある。
本当はある、でも、首を横に振る。
私の体は、お母様から授かった、この体は特別なの。
お母様以外から産まれた私は私じゃない。
一度は考えた、二度は悩んだ、三度は受け入れた、けれど、やっぱり、抵抗がある。
平和な世界で彼が望むのなら、お母様の体と別れ、まったく別の、聖女としての運命を背負っていない体に魂を宿し、共に歩んでいくのも良いかなって思ったけれど…
この局面を乗り切るにはルの一族を憂い授けてくれた寵愛の加護無くして勝てるとは思えれない。
もう、今代の私は心が折れてしまった…
平和でもなく、勝てない相手と闘うための…道具として生きるのは。嫌かな…
「それにね、ふれてみて」
繋いだ手をお腹に触れてもらい、受け取った魔力を封印術式に向ける
「…これ」
光り輝きながら封印術式の刻印が浮かぶ上がる、その状態を見てお母さんは察してくれた
「なら、もう一度、刻めばいいじゃない」
首を横に振る
たぶん、だけど、私の体が耐えられないし、あの頃の様にお母さんの魔力を練り込んだ血液を用意する時間がない。
お母さんを地下の魔石と繋げてってのはダメ、お母さんが汚染される。
あれは、私だからこそ体内に流して良い魔力、お母さんや叔母様があの祈りに触れてしまうと…体内に流し込んでしまうと…世界が滅びかねない。
何が起きるのか、過去の私が警鐘を鳴らしてくれたことがある、故に、ある程度の予想は出来てる、危険すぎる。
魔力を集めている術式、その大元は敵が使用していた術式だもん。
医療班の皆は激務の影響で魔力なんて空っぽ
地下に魔力というエネルギーがあったとしても、人に直接流し込むなんて…
出来ない…
「魔力が溢れている様には見えなかった」
「溢れるほどの魔力が無いだけ」
声が少しずつ、何時も通りに戻っている
体は生きようしている、ひび割れた砂時計はまだ砂が零れていない
「まだ、全てを諦めることなんてないじゃない」
「…諦めなくても良いかもしれない、でも、残された時間が僅かだよ?無理だよ…」
私の願い、全てが叶えるにはもう、時間が足りなさ過ぎる。
賢い頭は全て逆算し終わり、無慈悲な結末を提示してくる
「安心して、見捨てたりしない最後の最後まで足掻くから…私の望む未来全ては手に入らなくてもね、出来ることはする」
犠牲になる、私という個の終わりを告げる。
大粒の涙を流し私を抱きしめ続けてくれる、今生の別れを唐突に告げられたのだからそうなるのは判ってた。彼女を悲しませない未来には、辿り着けない。
だって…私は壊れた人形だもん。
人々を救うのだと強引に紐づけられ与えられた運命をただただ、進むだけの操り人形。
遊び終わったら糸を切られて、御伽噺にされてしまう。
聖女という一族、ルの力に目覚めた一族、その一族が与えられた道に変わりはない。
良い様に使われて使い捨てられる。
使命を果たした後は不必要だから、短命なんだよ、私達は…
私達が必要だったら、世界に居ても良いのだと許されているのなら…
どうして、始祖様は私達の運命を変えてくれなかったの?
どうして、脅威を全て排除してから旅立たなかったの?
どうして、試練を残したの?
…なんてね、そんなバカな事を考えたことは幾度となく。
そもそも、始祖様からすれば私達に試練を乗り越える為に必要な力を十二分に与えてくれた、その人たちを導くための知恵を私達に授けてくれた。
その力と知恵を、正しい方向へと尽力すればこんなことになってない
愚かなのはこの大陸に生き力に溺れた私達。
力に溺れ、知恵を正しき方向へと使わなかった、この大陸の人類が腐っていただけ。
初代聖女様も何でこんな人達を救おうと思ったのかな?
滅びてしまえばよかったのに
【そうだ、お前たちが居るから】
ルの力を発動し、耳鳴りを拒絶する
「…私にもっと力があれば、救えたのかしら?」
「お母さんが居たから私は救われたよ?命だけが救いじゃない」
嗚咽と共に力強く抱きしめられる、頬に熱い水が落ちてくる。
彼女が望む理想の世界は何時だって、崩壊していく。
私とは違い聖女でもないのに、聖女としての運命を背負わされていないのに
彼女の歩む道は常に悲しみが待ち受けている。
ルの一族の様に彼女は悲惨な運命を歩まされ続けている。
私が彼女にできる最大の恩返しはその運命から解放させてあげる事だったのかもしれない。
…瞳達は何も言わない。
この道もまた、一つの結末だと言いたのかもしれない。
ここまで用意周到に準備し、何年も計画的に動き、ありとあらゆる力を策を試したと、瞳達はこの結末に納得している。
私達は勝てると思っていたんだけどなぁ…
弱すぎた…
私達は、個として弱すぎた…
勇気くんという力はあった
私という知恵はあった
でも、全てを導く絶対的な君主としての資質が無かった
それさえあれば、もっと多くの人達を導き育て、完璧な準備が出来たのではないかって思ってしまう。
それと、最後に物いうは情報、私達は敵の事を知らなさ過ぎた。
もし、もしも、次があるとすれば…
敵の事を知り尽くす事、絶対的な信頼、何を発言しようが有無を言わさず、信じ付いてきてくれる絶対的な王者としての風格が必要
…っふ、この二つを用意する事なんて、どの時代に情報を送れたとしても不可能。
敵は隠れる事、隠蔽することにずっと尽くしてきていた、これ以上の情報を得るには、デッドラインを超えなければいけない。
超える意志を示し続けなければ相手は此方に見向きもしない
絶対的な王者としての風格を得る為には、私か勇気くんが王に成るしかない。
そんな事をすれば、国が割れる
その隙を逃さない大国じゃない、アレが各国と連盟を組み、この大陸はまた人同士の争いが生まれる。
うん、何度繰り返しても此度を超えるようなことは無い。
なら、此度で終わらせる。此度で人類を救ってみせる。
私は、もう、十分に生きた。
最後の最後まで足掻き、人類がこの大地で生きる為の礎になる。
その時はきっと、勇気くんも一緒に付いてきてくれる、独りじゃない、それだけで十分。
愛した人と一緒に月の裏側へ旅立つ
それでいい、それで満足、私の心は満たされている。
私達が望んだ世界とは、違うけれども。
人類が望んだ世界には辿り着ければそれでいい、それで始まりの聖女様から紡がれたルの一族は途絶える。
お母様も、きっと、褒めてくれる。
なら、もう十分だよ、頑張った。
最後は、私と勇気くん二人で行こう、皆には言わない、言えない。
残された時間、全員が準備し完璧な状況で攻め込むことなんて不可能
お母さんから受け取った戦況が物語っている。
「ごめんなさいね、感情が抑えきれなくて」
「ううん、お母さんのそういうところ、好きだよ」
出来る限り笑顔を作り抱きしめあった彼女と離れ
「それはそうと、勇気くんは?」
「戦士長?そうね、愛してる人の事は気になるわね、立てる?」
首を縦に振ると、ベッドから立ち上がらせてくれる。
うん、筋肉痛とか、感じない。問題ない、最後の最後くらい全力を出せそう。
「補助はいりそう?」
心配そうに見つめてくる、最後の記憶くらい、弱々しくではなく気丈に見せたい
「うん、大丈夫、お陰様で肉体の疲れは回復してる、ありがとう」
弾けるような笑顔っとは行かなくても笑顔を見せる
何かを悟らさせてしまったかもしれない、彼女の頬を一粒の輝きが伝っていく。
その輝きを見て胸が痛む。
でも、振舞おう、最後の最後くらい、綺麗な人形であろう
彼女の手を握り、あの頃の…彼女に救われた幼き頃の様に無邪気に笑いながら
共に部屋を出て、愛する人と一緒に愛する人が居る場所へ案内してもらう。
彼が寝ているであろう病室に入ると、誰もいなかった。
何処に行ったのだろうと休憩室の近くを通ると宰相が休憩室から出てくる?
去り際に此方に気が付いたのか、気まずそうな会釈をした後、部屋から離れていく。
どうして、彼が?彼の目的であるお母さんが居るのに去っていくのだろうか?お母さんが目的だろうに?
休憩室に誰がいるのか気になり手を引くがお母さんが動こうとしない?
「どうしたの?」
腕を引く様に手を握っても足が動こうとしない
「悪いけれど、あそこに行くのなら一人で見てきてもらってもいいかしら?」
叔母様の圧を感じる…
…これは、そういうことか、ついて来たアレが居るってことね…
なら、関らない方がいいか
表情を覗き込むと、普段見ない顔、二つの感情が織り交ざってる?




