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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (137)

…いや、それよりも、腕、うでは

前腕の途中から先がない腕の状態、鋭利な刃物で切られた跡がある

「火が消えなかったんだ、だから、だから、あたいが」

斧の部分で切り離したんだね魔道具持ちの仕業か

傷口から血が流れない様に上腕二頭筋の停止部と、肘関節の少し上の部分で縛られてる、うん、これなら

「けつえきを」

彼の体に血をなが、流さないと、えっと、確か彼の血液型って、覚えた、はず、えっと…


ダメだ思考が加速しない


少しでも集中力が低下すると視界が真っ暗に染まり意識が飛びそうになるのを歯を食いしばって堪えながらカジカさんの状態を診察していく…


直ぐにでも処置しないとまずいってのは、誰しもがわかってる

でも「お!ここにいたのか!つぎのか、んじゃ…が」他の患者がまだ…

後ろから聞こえてきたセレグさんの絶望する声…


折れてはいけない砕けてはいけない絶望を受け入れてはいけない


極限だと言える精神状況

誰も私を助けてはくれない、だって、私が助ける側だから


体力の限界なんてとっくに過ぎてる。

動くのも辛い、隣にいる勇気くんも同じ、そして、魔力が尽き欠けている私

魔石の交換が行われない状況ってことは、彼女もまた身動きが取れない程に忙しいのだろう。

培養液のセッティングや必要な道具の手配などもメイドちゃんに頼んでいるから…


魔力が無い私では…動き続けれない。


声が聞こえる…邪悪な笑みを浮かべ囁かれる

【この局面、お前はどう動く?】

何度も何度も押し付けられる選択肢、どれを犠牲にするか選べ

そう言いたいのだろう…


少しでも油断すると思考も意識も魂までもが沼に落ちていきそうになりながら、死ぬ気で眼を開き、現実を…みつめ、みつ…


大切な人が月の裏側へ旅立とうとしている

呼吸が出来ない、私では彼を繋ぎ止めれない


逃げる様に縋る様に助けを求める様に勇気くんへ視線を向けると

歯が軋む音を出し、意識が飛ばない様に腕を抓り呼吸を荒げながら立ち上がろうとしている

彼が諦めないのであれば、私も諦めてはいけない、動く、動く、動く!!



魔力が無いのなら



何れ死に至る器であれば



未来を失わせないのであれば



犠牲にすればいい




現段階では器を精製してはいない、私は永遠を生きるつもりが無かったから

全て終わっても、まだ、世界が許してくれたのであれば、用意するつもりだった

…いまとなってはこうかいしちゃってる


もう少し、もうすこし、もうほんのすこし…生きたかったな

私が居なくても…勇気くん、ユキさん、スピカが居れば、何れ、この世界を救ってくれる。


空っぽの人形は、動力が無ければ止まり朽ちる

私では届かない、今代で終わらせる、その心は、覚悟は、伝わっていく

私では無理だった、私は…私の代では時間が足りなかった


なら、次の代に委ねる

偉大なる戦士長の時代が終わり、私の時代が終わり、次は、勇気くんとユキさんの時代が来て…あわよくば、そこで決着がつく

それでもだめだったらスピカが世界を救ってくれる


私は、最前線から離れる


私の全てを使って救う、未来を繋ぐ

残された砂をここで全て使う使い切る


唇から血を流し頭を何度も何度も叩き苦悶の表情をして病棟を守り続けてきた医療の父、セレグさんに別れを告げよう

「空いてる」「空いてる病室は!?先輩!」

ずっと聞きたかった音に救いを求める様に振り返ると

「ごめん!時間かかりすぎてしまったわね!後は…任せなさい」

通り過ぎながら頭を撫でられる

「213が空いてる!」「直ぐにそこに運んで!先輩は彼に輸血を!他に危険な人は?」

廊下の奥へと進みながら心が折れそうな人たち全員に指示を出し、励ましていく

その後ろ姿に心から安堵し、意識が飛ぶ


飛ぶ瞬間、彼女の後ろにへばりついてる何かが気になったけれど

「それと!姫ちゃんと戦士長を何処かで休ませてあげて!点滴も忘れずに!」


かつてない程の安らぎに包まれ、目の前が真っ暗になる。







パチッと目が開く、よく知ってる天井、じゃない、よく知ってる人の顔

体を起こそうとすると「少し寝てなさい」

頭を押さえられ寝かせられてしまう

「じ、じょうきょう、は?」

「声が擦れ過ぎよまったく、心配かけさせないで、なんて、帰るのが遅くなってしまった私が悪いのは明白ね」

はぁっと深いため息が頬を撫でていく。

「まさか、こっちも大騒動になっているなんてね」

おでこに触れられる、手が暖かくて気持ちがいい

「…熱が無いどころか…」

泣きそうな瞳、もう、残された時間が僅かなんだろうね

「魔力回復促進剤、飲んでおく?」

何時もなら強引に飲ませる癖に

首を横に小さく振る

「そう、僅かで申し訳ないわね、魔力を注いであるから」

「あり、がとう」

出来る限りの笑みを作り返事をすると視界から彼女の顔が消え、擦れた声が聞こえたような気がした…


思考がぼんやりとする、でも、動かないわけじゃない、色々と話したいことがあるはずなんだけど、だめだ、頭がうごか、ない


…お互い何も言わずただただ、何処かを見つめる様にぼんやりと時間が流れていく…


このまま、彼女の隣に居続ければ何も知らず、何も恐れず、時計が止まる。

そしたら、お母さんは、私の砂を搔き集め埋葬してくれるよね?


なんてね、まだ、私は動く、砂は流れてる。止まってはいない。


「じょうきょう、おしえて」

振り絞った声はとても小さく、我ながら驚くほどに弱々しくなったものだと悲しくなってしまう。

「ええ、回復の陣も起動しているし、点滴も忘れていないわ、貴女が倒れてから2時間ってところよ」

帰ってきた答えが私が欲しい答えじゃなかった。

私の事、じゃなくてえっと

喉に力を込めて声を出す前に

「わかってるわよ、かいつまんで説明していくわよ?」

言わなくても伝わってくれる、でも、言葉じゃ、時間が掛かり過ぎちゃう。

私は便利な術を知っている。

「ううん、ごめん、てをがじて」

お互いがお互いの事を説明していたら長くなる。

終わりが近いのに、もう、何も隠す必要なんてない

上半身を起こし彼女に視線を向けると化粧が崩れ涙が流れている

「もう、きゅうに起きないでよ、情けない顔を見せたわね」

「そんなこと、ない、なさけないのはわだじも、そう」

にへへっと乾いた笑いと共に、頬を冷たい水が流れていく


片手が前に差し出されたので首を横に振り、両手を前に出すと両手を握ってくれる

「まりょくちょうだい」

「はいはい」

何時もと変わらない口調で魔力が流し込まれていく、その魔力を受け取り魂の同調によって魔力に記憶の帯を編み込んでいきそのまま彼女に流し込んでいく


「つたえたかった、きおくを、おもいだして」

瞳を閉じ、ふぅっと鼻から小さな息が漏れ集中力を高めていくのが伝わってくる


お互いの見てきた世界を重ねていく

私の世界だけじゃなく、魔力をお互いの体を循環させることで

お互いの記憶が混ざっていく


流れ込んでくる情報、王都で何が起きたのか知ることが出来た。


意識が飛ぶ寸前に見えたアレ、見間違いじゃなかった。

経緯も知ることが出来た、成程、それでアレがついて来たんだ…

そうなると、やっぱり叔母様がその状況に耐えられるかどうかだけどさ

んー…そうだよね、叔母様を止めるのが大変だったんだね

後、やっぱり、私からの連絡が無かったからフラさんが全部の箇所を調べようとしちゃってたんだね


色々な小さな原因、要因、因果が重なってしまった結果、全ての廻り合わせが悪くなった

それら全てを見越しての作戦だったのだとしたら、勝てないなぁ


「…貴女、知っていたの?」

頷く、この鋭い気配は叔母様

「そう…あの人が敵だったのね、最悪ね」

叔母様は知ってるの?彼の事

「知ってるわよ、知っていないわけないじゃない、妹を教会から離れさせる為に立ち上がってくれた人達、その一人だもの」

うん、そっか、そうだよね、叔母様も当事者だったよね

「人対獣、知恵を持つもの、知恵を持たないもの、純粋な思考と力のぶつかり合いでは、無かった、その前提が覆させられてしまったら勝ちの目なんて」

無いだろうね、でも、私はその前提ではなく、相手に知恵があると知っていた、でも、それでも、勝てなかった

「弱気ね、貴女らしくないわよ、まだ、負けていないじゃない」

うん、負けてない、人類は負けていない、でも、私は負けた。

「運よ、貴女の風向きが悪かっただけでしょ…もう、こういうのは私が担当するのはお門違いよ、ほら変わって…もう、自由過ぎよ!それでも人を導く聖女だったの?って、もういないし…」

刺々しい雰囲気が消え、柔らかい雰囲気に切り替わる。

「まったく…そんなこんながあったわけで、遅くなったのよ。それにしても便利な術ね、伝えたいことを言葉とせず、体験して来たかのように伝えれるなんてね」

…そういえば、お母さんにしたことは無いんだっけ?お母さんには色々と実験してるからどれを試したかどうか覚えてないや。

「そして受け取ったわよ、貴女の歩いた道を」

ほんの僅か、ちょっとだけ、なのに、怒涛だった

やっぱり先生は凄い攻め時を完全に理解している、私みたいにさ。常に攻めるのではなく一番嫌なタイミングが来るのを待ちそこを逃すことなく攻めてきた。

誘導していた節もあるけど、ベストのタイミングをずっと待っていた。


内部の状況を完全に把握していないと出来やしない芸当


隠者がいるとは思えれない、何か、あるんだろうけれど、それを見つけれなかった、それが敗因、警戒はしていたんだけどなぁ…

「そして、受け止めたわよ、地下の出来事もね。貴女ねぇ!勝手に人の、何時から知ってたの!?」

頬を掴まれムニムニと揉まれる…思っていたよりも怒っていなくてよかった

「っていうか、いつ私の…あー、思い当たる出来事が多すぎて、人の体を何だと思ってるの?」

頬を引っ張られる、今は体が動かないから好き放題される、それくらいなら甘んじて受け止める。お母さんを実験台にしすぎたのは事実だもん。

「それに、何よ!魂の分離?同調?脳まで行きついた!?無茶をしないの!それだけじゃなく、唐突に私の子供が二人増えた事にも驚き何ですけど!?」

お母さんなら、あの二人を導いてくれるでしょ?

「ぇ?片方は私のだから違うって?唐突に表に出てこようとしないでよ…頭痛いでしょ!」

そこはその…お母さんと叔母様の子供ってことで、お願い。

私も姉として二人の生末を見守っていきたいけれど、それは叶わない

「っていうか、弱気になってる感じだけど、魔力が空っぽだからってわけじゃないの?」

それは、無いと思いたいけれど、若干の影響はあるかも?


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