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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (135)

「俺の生きた時代に、ここにあるモノ、一つでもあればと何度、思った事か」

感慨深い呟きをしながらも浸透水式の準備を進められていく。

患者の肩から三頭筋付近まで巻かれた包帯を外すと傷口を守る為につけられた装具ごと、特殊な水槽の側面に開けている穴から先端を差し込む様に入れている。

差し込み口から水が溢れ出てこない様に腕の周りをパテで埋めていき、水槽の内側から腕の先端に取り付けている器具を外し、水槽の中に液体を流し患部が液体に浸るまで注いでいく。


浸透水式は全身を浸からせないといけないわけではない、術を施したい箇所を浸せばいい。

勇気くんの手際の良さは目を見張るものが有る、人を救うということに神経が研ぎ澄まされ集中力が増しているのだと感じる。

サポートを任されている私も彼に負けじと集中力を高め、するべきことをする。

水槽の中に液体が満ちるまでの間に、患者のバイタルや、麻酔の量などのカルテをチェックしていく。

麻酔が弱かったら傷ついた患部を動かされたら多少は反応するし傷口が顕わになり液体に触れても反応する。痛みによる反応がない辺り、麻酔はしっかりと効いている、問題は無さそう。

患者に繋がれている点滴の状態などをチェックしていると、背中にケーブルが接続され小さな衝撃によって全身に魔力が満ちていき…


いっしゅんだけ ゆめに さそいこまれそうになる


瞳に魔力を注ぎ、人々の夢が流れ込んでこない様に濾過してもらう。

全身に魔力が廻ってきたので浸透術式を行うのに必要な術式が描かれた陣に魔力を流し、不備がないか確認をする。

魔力を流し、状態をチェックするが問題は無さそう。

不備なく起動しているのを確認してから、勇気くんに合図を送ると培養液によって生み出された部位が入った試験管を水槽の中に沈めてから、蓋を開け培養液と共に中身を取り出し水槽から腕を抜くと

「いってくる」「うん」

最後の合図を皮切りに、彼が目を瞑ると水槽の中に浮かんでいる患者の新しい腕が動き出し始める

問題なく意識を術式に放り込めている。

ぶっちゃけていうと、腕を繋げるだけであればセーフティーとしての役目、私という命綱はいらない。

メインを務める彼であれば独りでも問題なく腕を繋ぎ合わせてくれるほどに卓越した技術を持っているのを知っている。

なら、ここを任せて他の患者へ移動するべきではないかっという考えも浮かんだりもしたけれど、準備が既に終わっているわけでもないし、私と違って勇気くんは無限の魔力があるわけではない。

無限の魔力を得ている私が必要な魔力を補助することで、彼の負担が減る、彼の負担が減るということは数多くの患者を救えることに繋がる。

今の状況が最も効率的、だから、私のするべきことは陣に魔力を注ぎつつ、回復の陣も起動させ施術を受けている人の回復力を底上げすること


他の患者に関しては、医療班の皆が全力で死なせない様にしてくれている。

不安はない、心配なんてない、これ以上、患者が増えない限り、現状であれば、勇気くんも集中力を保てるはず。


頭の中で凡その流れを組み立て、現時点で何処まで腕を繋げたのか把握するために、視線を水槽に向けると…


驚いたことに欠損した部位の皮膚と用意した腕の皮膚がもう繋がっていた。


それだけを見れば、結合術式は終わったのだと思うだろう、でも、終了を知らせる人は私じゃない、知らせてくれる彼が目を開けない、つまりは、まだ終わっていない。

手順を考えると、今は神経や血管、筋肉などを繋いでいるんだと思う。

私もその手順が一番効率的だと思う、先に皮膚を繋ぎ再生させたのは神経などを繋いでいる間に腕が離れて行かないようにするため、水中に漂い固定していないのだから、固定するためにも皮膚で患部を繋ぎ合わせた方が水中で腕が逃げて行かない様に支えなくていいから楽。


楽だとわかっていても、そう易々とできることじゃない、皮膚を繋ぎ合わせるのが速い。

浸透術式の難易度を知っているからこそ理解できるその鮮やかな手腕に、心奪われる様に惚れ惚れしながら眺めていると


「失礼します」

ドアが開かれ、メイドちゃんと目が合う、ここに来たってことは

「準備が終わりました、次の方は何時でも」

そっとカルテを渡してくれるので、受け取ったカルテに目を通していく


カルテの上から順に術式を施してい行く流れ。

その流れ、誰を治すのか、順番を決めてくれたのがセレグさん。

命の見極めを最も理解がある彼に治す順番を決めてもらう様にお願いしている。

命の危険性、後遺症の残る確率などを考慮して考えてもらった。


どうして彼に一任しているのか、診察に関しては、私達も参加してはいるけれど、全てを診れたわけじゃない、セレグさんや医療班全員で診察し、彼らから渡されたカルテを元に、培養液を動かせれる人達全員でがむしゃらに、必要な臓器や部位を培養液で急速で準備し続けている。


追われる様な忙しい状況で全ての患者の状態を把握するのは不可能に近い。

膨大な数の患者すべてを把握し、施術を行う順番を決めてくれただけでも私と勇気くんとしては非常に助かる。


この数…少しでも順番を間違えたら救える命も救えなくなる。

効率的に動かなければ救いきれない。


こういう時に最も頼りになるのが医療の父セレグさん、だって、彼であれば、ううん、彼だからこそ、かな。


死の気配を見極めることに関してはこの街で誰よりも正しく経験豊富、その実体験を元に、彼だからこそ把握することが出来る死の気配を冷静に判断してくれる。


彼が歩んできた非情で非道な道ゆえに照らしてくれる、救う順番を…


カルテを一語一句見逃さないように熟読していると

「よし、終わった」声と共に直ぐに部屋から出て行こうとするのを慌てて追いかける。


逸る気持ちはわかるけど!次の患者は誰かわかってるの!?

必要な道具一式を持って追いかけるとちゃんと次の患者が待っている部屋に入っていく、ん?話を聞いていたのかな?…私、声に出したっけ?出してたかも?


部屋に入ると準備は終わっているので流れる様に準備をし次々と患者を救っていく…

言葉を挟む隙すら無く、急ぎ足で…


廊下を走る彼の後ろ姿はまさに名医といっても過言ではない、が…

不安になってしまう、この集中力が続くのかどうかと、彼の魔力が持つのかどうか…彼の体調を心配してしまう、この一瞬だけに全てを投げうつような鬼気迫るものを感じてしまう。



あと…どうして?私は声に出していないのに…救うべき人達の順番が分かるの?

私が寝ている間に順番を教えてもらっていたのかな?



些細な疑問と心配に気を取られてはいけないと頬を叩き、彼のサポートを続けていく。

予定としては、勇気くんが疲れたら私がメインを担当する


はずだったんだけど…

僅か、一日で傷ついた患者すべての施術を終えてしまった



「っだ、はぁ…つ、疲れた」

休憩室にあるベンチに背臥位で倒れ込み、緊張から解放された影響か、彼の額から大量の汗が溢れ流れだすので、ハンカチを取り出して拭き取っていく。

浸透水式を行っていた最中も額から汗が溢れ出て、術式が終わると同時に直ぐに水分を口に含みながら次の患者へと移動し続けてきた脱水症状が出ないか心配。

「何か飲む?」「頼む」

冷蔵庫から水を取り出し彼に渡すが、体を起こして飲もうとしない

「ほら、上半身起こして」

腕を引っ張って何とか上半身を起こさせ体の向きを変え、背もたれにもたれさせても手に持った瓶を口に近づけようとしないので、彼の手から瓶を離させ蓋を開けて彼の口元に近づけ少しずつ瓶の中身を口の中に流し込む

目を瞑りながらも喉が動き水分を飲んで行く…


少しずつ、少しずつ、唇を湿らせる程度に流し込み続ける


普段なら立場は逆、疲れた私を甲斐甲斐しく支えてくれたのが勇気くんとユキさん、だけど、今回は逆。

この私に甲斐甲斐しく世話を焼かせやがって!なんて微塵も思わない。寧ろ…

何だろう、今まで感じたことのない不思議な感覚が私の中で産まれ育っていくのを感じる。


新鮮な感覚、育つ感覚に何とも言えない楽しみを見出していると、寂しい事に瓶の中身が空っぽになってしまう。

瓶の中身を全て飲み干すと苦しそうな表情が少しだけ落ち着いたと思ったら寝息が聞こえてくる。もう一本、用意しようかと思ったけれど、残念ながら、これでお終い。


でも…この姿を見てるだけで胸が苦しくなり愛おしく感じてしまう。

衝動のままに彼を抱きしめてしまいたくなってしまう。


背もたれにもたれて眠る彼を眠りやすい姿勢にするために、頭を持ち自身の体を彼に当てる様にしながら起こさない様にそっと側臥位の姿勢で寝かせ

「おっもぃ・・・」床に付いた足を何とか持ち上げて、ベンチの上に置く


非力な私ではこれだけでも一苦労なんだけど、不思議と嫌な気分にならないどころか、物凄く満足し満たされている自分がいることに驚いてしまう。

痺れる腕をぷらぷらと振りながら、ゆっくりと地面に膝をつけ、満足した表情で眠る彼を眺めていると自然と彼の唇に吸い寄せられ重ねてしまう…


私ってこんなにも欲しがりさんだったかな?てひひ。


安らかな寝顔を見ていると、脳の奥が痺れるような感覚が沸き上がり、集中力が完全に途切れたのか、疲れが一気に押し寄せてくる。

長い緊張から解放されたのは私も一緒って事か

背中のケーブルを外し、横向き出てる彼を仰向けに転がして彼の胸板の上で寝る為に、起こさない様にゆっくりと横になり目を瞑ると


彼の優しい鼓動が伝わってくる。


「私の大切な人達を救ってくれてありがとう、愛してる」

寝ている彼に感謝の言葉を捧げると、届いたのか、そっと胸の上にいる私を抱きしめてくれる。

彼の愛に包まれながら鼓動を感じていると、意識が真っ暗な世界に落ちてしまった。




激しい音が聞こえたと目を開くと「次の患者だ!休んでるところすまん!」その言葉で飛び起き、状況を飲み込めることが出来ず、思考が真っ白に染まる


つぎの、かんじゃ?



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