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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (134)

『ああ、敵が此方を観察しているのであれば、見逃すはずもない』

敵を門の近くにまで接近させることなんて無いから必要ないでしょ?って、開戦前は思っていたけれど、ここにきて意味を成してくるとは…勇気くんの言う通り用意しておいた良かったってことだね。

うーむ、さすがは戦乱の時代を生き抜いただけあるね

『ははは、辺鄙な村を城塞都市として機能させるために積み上げた功績を思い出すよ』

その結果、王都にまで、発展したんだっけ?

『いや、それがきっかけで王都になったわけではないのだがな、あそこが各国の中央にあり利便性が良かっただけ、それと各国の侵略に備え城壁を組み上げた成果っというわけだ』

ふーん…って、歴史の勉強は今することじゃないか、つい話に乗っちゃった。

『すまんすまん、それで、俺の意見はどうだ?司令官、採用していただけますか?』

うん、その方が壊滅的被害は避けれそうな気がする。

マリンさんに中央部隊を任せて、拠点づくりに専念してもらおうかな。

『採用していただき光栄です司令官』

お道化ないの!まったく、そういう食えない部分が王族っぽくて嫌い!

んべっと舌を出すイメージを伝えると、泡となって消える様に彼との繋がった感覚が消えていく…

この、えっと、私の中っていうか、私の一部と誤認することなく受け止め馴染んだ感覚が消えていく、この独特な感覚…何時だって切なく感じてしまう、ずっと、繋がっていたいと願うのは…良くないのは判ってる、それを受け入れると境界線を失い私達は魂の同調現象と呼んでいる、魂が混ざり合い同化し狂う。


って、わかっててもなぁ!切ないモノは切ないの!

名残惜しい感覚に手を伸ばそうとしても掴めるわけもなく、気持ちを切り替えていく。


虚ろい切なそうな瞳で自分の手を見つけている彼女に苦手とする指示を伝えないとね…

「えっとね、マリンさんはまだまだ、闘えれる?」

「ぉ?…」

名を呼ばれ一瞬だけ指先が跳ね何度か瞬きをしてから此方に視線を向けてくれる。

「おう、若くはねぇが、まだいけるって胸を張らせてもらうぜ」

気持ちを切り替える為なのか、丸まった背を伸ばして胸を張ってくれる

「OK、それじゃ、中央部隊がね、防衛や休憩するための拠点を築いてもらってるから、それの護衛と指揮をお願いしてもいい?」

指揮っという言葉を聞いた瞬間、眉毛が動き眉間に皺を作ってしまっている

「具体的にあれをしろ、これをしろってのじゃなく、緊急時、マリンさんから見ても、これは危ないっと感じたらね撤退して欲しいの」

撤退という言葉が嫌いなマリンさんはさらに眉間の皺を深くする

「戦闘能力の低い人達が危険だと感じたら下がる様に指示を出すってだけ、撤退指示権限を持ってるって感じ、マリンさんが撤退するのかどうかはマリンさんに任せる」

「・・・」

それくらいならあたいでも出来るかっと視線を右上に向けて口をゆがめてる

「いけそう?」

念を押す様にお願いをしてみると

「何時もと何も変わらない、ってことさぁね」

頷いてくれるが、規模が大きくなったのは自覚してるみたいで嫌そうな顔

ごめんね、そういうのが苦手でカジカさんに押し付けているのを知ってる。

小部隊とか、簡単な伝令とかは請け負ってくれるけれど、マリンさんって基本的に戦闘中だと視野が広くないから戦い以外のことまで気が回らない、視野の外に関しては誰かに任せたいんだよね。


その結果、視野の狭い先輩とバディを組み続けてきたからこそ、カジカさんは視野が広い。ってのをお母さんや古くからいる戦士の皆さんが教えてくれたけれどさ、たぶん、元々、冷静に状況を判断する能力を持っているというか、鍛えられたのだと思うんだよね、カジカさんが言うにはそういった心構えなどは偉大なる戦士長直伝。

彼の話を色んな人から聞くたびにさ本当に惜しい人を亡くしたって思う

偉大なる戦士長の尊敬する部分は人の特性を見抜き、最も適性がある部分を育て導く力…その分野に関しては残念ながら私には無い、彼が…ご存命ならと何度も、思ったことがある。


いけない、いけない、死が見直にありすぎてつい、先駆者の想いを馳せてしまった。


渋々だけど、マリンさんが了承してくれたのなら、急いで向かわないとね!こんなちんたら走ってる場合じゃないっての!

硬く暖かい椅子から立ち上がり、少し離れた場所を歩いているカジカさんに視線を向け、手を後ろに伸ばすとやれやれっと呟きと共に手を握ってくれると、魔力が流れ込んでくる。

喉に手を当て声門に意識を向けてから、手を喉から離し口の前に輪っかを作り

「私達は街に帰還する!カジカさん部隊は右拠点に罠をセットしてから中央部隊の拠点に向かって!油断大敵!絶対に無理しない!」

広がる音を広がらない様に絞って対象にぶつけるソニック音波の術式でカジカさんの兜にぶつけると手を上げて返事を返してくれる

「そんなわけでメイドちゃん!急ぎ足で帰還!傷ついた人達を助けるよ!死なせない!!」「はい!掴まっててください飛ばします!!」

嫌な予感がしたのですぐに勇気くんの太ももに着席し、左腕を掴み彼の前腕をお腹の前に置くと力が込められ、揺れで飛ばされない様にロックされる。

背中から伝わってくる感触が冷たく固い鎧なのが残念、もう少し弾力の利いたクッション性の高い椅子の方が嬉しいけれど、鎧をぬ…ぐのは街に帰ってからの方がいいもんね。


安心安全、とっても頑丈なシートベルトに守られながら風を感じていると、目の前の巨体が何度も軽く上下している、舗装されていない大地は大きく揺れるからね、でも!私は上下しない!していない!その理由は彼のおかげ!

私では絶対に真似できない芸当、単純だけどな難易度は桁違いに高い

彼の右腕は荷台の縁を握り自身の体をほんのわずかに浮かせている、全ての衝撃を右手首、右肘、右肩で受け止め私に揺れを感じさせない様にサスペンションの役割を担ってくれている、その状態を維持し続けるなんてね、人間離れしてる。それが出来るのも、大きな鉄の塊を振り回せるために鍛え上げた結果なんだろうね。


はぁ、惜しむらくは!背中に当たる感触が鎧じゃなくて彼の胸板だったらなぁ、もっと快適なんだけどね~、なんつってね、にしし。この気遣いに包まれてるだけで私は幸せだよ。大好き愛してる…



こんな無理難題に真っ向から何年も付き合ってくれるのは彼とユキさんだけ…



長い時間、車に揺られ途中でマリンさん達を下ろし、大きな門をくぐり、止まることなく病棟まで連れて行ってもらい、メイドちゃんに魔石から魔力を供給するための魔道具を持ってきてもらう様に声を掛け、過酷な現場へと飛び込んでいく…




「少しは落ちついた、かな?」

「ああ」

多岐にわたる培養液のセッティングを終わらせ、培養液から必要なパーツが精製されるまで、僅かな時間を噛み締める様にベンチに座り天井を眺める…


「本番はこれからだ、ほんの少しでもいいから、脳を休める為に寝ておいた方がいい」

ぽんぽんっと自身の太ももを叩いてくれるので遠慮することなく、愛する旦那の太ももを枕にさせてもらうと

「…医療の現場はすさまじいな」

ゆっくりと頭を撫でられる、声の雰囲気だけで伝わってくるよ。

辛いよね・・・医療の現場、それも怪我人だらけで、見知った顔ばかり。

医療班の皆が心折れることなく如何なる状況でも戦い続けて皆を支えてくれることに感謝という言葉以外、湧き上がってこない。


思考の渦が巻きあがろうとするのを止める様に自身に言い聞かせる。

いけない、思考を止めて、少しでも…

強引に思考を止める為に、久方ぶりに、泥の中へとダイブする…



被害が出ていたのは…私もだった…



泥の中に潜り、多くの瞳達とディスカッションをするべく声を掛けようと思ったが、それをする気になれなかった…


一つの瞳が完全に閉じ、開く気配が無かったから…


彼女の歌を聴くことはもうないのだと寂しく感じていると、私もまた…

いずれそこにいたるのだと誰かに囁かれた気がした…


周囲を見回しても誰もいない、いるわけがない。

閉じた瞳を見つめ、膝をつき両手を合わせ親指を額に当てる


どの時代を生きた私かわからない瞳に祈りを捧げてから

泥の中を見渡したとしても、誰も目を開こうとしない

カースの残り香が漂っている様子はない…

単純に私の中を漂う魔力が無いだけで眠っているだけなのだと、思いたい。


泥の中で、少しだけ意識を体の内側へと向ける…

魔力の流れを感じることが出来ない…



私の砂は…あと、どれくらい残されているのだろうか?



多くの閉じた瞳達の中央で膝を抱える様に座り

何も考えずに、漂う…ただよいつづける・・・





『時間だ』



泥の中で漂う私に光が差し込み腕が伸ばされる…

腕を掴むとそれが勇気くんだと伝わってくる…


でも…光の中に見える影が、あなたではない…

あなた は だぁれ?




目を開くと白い天井が出迎えてくれる

「起きたか?」

声に誘われ上半身を起こし

「うん、起きたよ」

これから先に待っている過酷な現場を想像してなのか、それとも…

泥の中での経験が私の中にしこりとして残っているのか…

気分が優れない

「辛いかもしれない、だが、君は独りじゃない、支えよう、君を支え続けてくれた彼女の様に」

すぐ後ろでベンチから立ち上がる人の気配に誘われるように立ち上がり

「それは、お互い様!これからは…材料が尽きるかもしれないけど、助け続ける、皆の未来を繋ぐよ」

背筋を伸ばす様に両腕を天に向かって伸ばすと優しく肩を叩かれ

「ああ、過去の亡霊が未来を繋いでみせるよ」

視線を向けると横を通り過ぎ、廊下を歩いていく

「なら、過去の亡霊が明日を紡いであげる」

その背中を追いかけ彼の腕に腕を巻き付かせ体重を預ける

彼の逞しい腕は華奢な私の体重を腕一本で支えてくれる。


こんな状況だっていうのに、私の心は満たされ、胸の奥が締め付けられる。


ドアを開き患者の前に立つ

患者が眠るベッドの近くに特殊な水槽、特殊な液体が入った容器、培養された上腕、そして、床にはダイブするために必要な術式が刻んである陣が敷かれている


ベッドで薬によって深い眠りに落とされている彼女の未来を救う為に必要な全てが用意されている



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