Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (133)
『地中に向けて魔力で作ったピンを撃ったことはあるんだろう?』
ある、何度もある。
でも、私が撃つピンは地中に何かあれば跳ね返ってきた反応の大きさである程度、判断してるから、空洞とかは見抜けないんだよね。
それに調べれたとしてもたぶん、5メートルくらい、それ以上は難しい
『運よく、地中で俺達に発見されることなく俺達が近くに来るまで何日も、何週間も、何か月も、月と太陽から隠れる様に待機していた、そんな事はあるのか?偶々、偶然、運よく…』
無いと思いたい、だって、あいつ等って一応さ、呼吸するんだよ?
実験でさ、鼠タイプとか生け捕りにして水に沈めたら死んだし、中型のやつらも呼吸する部分塞いだら死ぬし、人型も例外なくそれで倒したことがあるから、酸素が無い地中に待機何て出来ないよね?
『そう、だよな、俺もそうだと思っていた』
「ほれ、おめぇが変なこと言うから司令官が黙っちまったじゃねぇか」
「…姫様?吾輩、間違えたことを口にしてしまったであるか?」
二人だけで議論を重ねていると、呆れた声と指先が背中にめり込む感覚によって議論は中止せざるを得なかった、寧ろ、中止してくれてよかったかも!時間が無いっての!
ってか!背中を突かないでもらってもいいかな?痛覚カットしてるから痛くもくすぐったくもないけど!乙女の柔肌をなんだと思ってんだっての!!
まったく…ごめんね、勇気くん
色々と話し合いをしたいけれど、時間がない、取り合えず行動しよう
「取り合えず!移動しよう、怪我してる人は荷台に乗って、マリンさんも取り合えず荷台に乗り込んで、勇気くんも!」
パンパンっと手を叩くと言われた人達がクィーンの荷台に乗り込んでいく。
「わがは」「カジカさんは徒歩でしょ?」
有無を言わさず言葉を遮り荷台に乗り込み運転席に向けて
「運転宜しく、取り合えず、真っすぐ右の拠点に向かって、速さは遅めで」
「はい!」
大きめの声で指示を出すと直ぐにクィーンが動きだす。
荷台の上は多くの人が陣取り座っている、怪我をしている人を押しのけて座る程私の心は冷徹じゃない、でも、正直に言えば座っていたい。
どうしようかと勇気くんに視線を向けると兜を脱ぎ兜を足元に置き座っていたので、背中を向けると、何も言わずケーブルを外してくれる。
そのまま何も言わずに膝を曲げると手慣れた手つきで太ももの上に座らせてくれる。周りの目なんて気にしない!私だって疲れてるの!
んふーっと疲れた表情で鼻から息を漏らしていると
『大胆だな』
心の声が伝わってくる。
いいのー。接触しないと魂の同調できないでしょ?
隣が空いていたらそこに座ってさ、そっと手を重ねてる方が初々しくて良いかもしれないけどさ、空いてないんだもん。
さてっと、移動しながら今のうちに、街の現状を皆と共有しておかないとね
こほんっと咳ばらいをすると、頬が緩んでいたマリンさんの顔が引き締まる
「今のうちに説明するけど、驚かないでほしいかな…まず、優先すべきことが出来ました」
緊急事態だと感じたのか戦士達が一斉に鋭い視線を向けてくる。
殺気を込めて見つめないでほしいかなー。
「怪我人…命の危険が高い人が増えすぎた、だから、私と勇気くんは街に戻って命を零れ落さないために…救う為に病棟の応援に参加するから」
「あのば…ん、ん、団長はどうしたんだい?」
どうして医療班の団長がいないのか、マリンさんの指先が僅かに震えた
「医療班の団長は、いま、街に居ないの、その、出来るのなら私が担当したほうが早く終わるんだけど、その、ちょっとしたトラブルでフラさんと一緒に王都に出向いてもらってる」
何だ無事かっと小声で呟いてから首を傾げ何でまた?っと独り言を言いながら不思議そうに此方を見てくる。
そうだよね、マリンさんはお母さんと王都の因縁について知ってそうだよね。
不思議に思うよね。
「フラさんだけだと、ちょっと、その難しい部分があって、フリーに動かせて何とか解決してくれそうなのが、おか…団長しかいなかったの、だから…迂闊な判断だったって今となっては後悔してる、他の人が居たんじゃないかって思う」
「姫様の判断は間違っちゃいねぇさ、あたいらもかなりの敵を倒してきたから、もう敵なしじゃねぇかって余裕ぶっこいたさぁね」
でもなぁっと、消え入りそうな声を出しながら、んむぅっと眉間に皺を寄せながら零れた溜息が胸に刺さってしまう。
溜息を吐いた後、何処か遠い場所を見る様に空を見上げている…
「だからね、死なせたくない、誰も、未来を奪われてほしくないの」
荷台に乗ってる戦士達、全員が空を見上げ、一部の人が涙をこぼしている…
ごめん、もう、失った人がいたんだった…
「これ以上、増やしたくないの、負傷者の多くを助ける為にも私達が戦場に出るわけにはいかない、それにね…医療班の方でも負傷者がでちゃったから」
「え!?本当かい!?」
ありえない情報に全員が驚き戦士達から溢れんばかりの殺気が伝わってくる。
前で戦ってると後ろまで気を回せれないよね…
「すまない」
マリンさんが何か言う前に勇気くんが頭を下げ太ももの上に座っている私の頭に鼻先が当たる、この流れは私も謝るべきだよね。
「俺が…俺の判断が愚かだった、責は俺にある、急変していく先を見誤った、読み違えた責は俺にある」
「責任の追及だったらそれは私だよ…心苦しいけれどさ、結果論だけで言うとね転送の陣を街に運ばずに少しでも右部隊に近づけてくれたのは英断、その判断によって傷ついた人にはさ、本当に心苦しくて申し訳ないけれど…それが無かったら」
刺さるような視線に一瞬喉が閉まる。
刺さる視線を放つのは多くの戦士達…それ以上先を口にするなって?ここで止まれるかっての!
「最善だったと私は思うの、だって」『一瞬踏みとどまったのだからそのまま、止まれただろう?その先を言ってはいけない、言葉にしてはダメだ、戦士達の誉れを、誇りを、彼らの培ってきた毎日を否定することになる』っぐ、だけど、事実じゃん、私だって言葉にしてはいけないってわかってるけど、でも『それでもだ、先の士気に関る、俺が悪いことにしておけ』
そう、そうは…ぅぐー!!うぐーー!!うぐぅーーー!!
言葉にしにくい状況なので、必死に勇気くんに私の責任にしてよっと声にせずに圧をかけるが何も返事が返ってこない!!
「そのとおりさぁね、姫ちゃんが…ぉっと、姫様が間に合わなかったら、あたいらも多くの怪我人…もっと多くの死者を出してしまうところだったさぁね」
悲しみを噛み締めるような声を出した彼女が何処か遠くを見ている、その視線の先に、持ち主が居ない槌が大地に横たわっている…
戦士達も彼女が向ける視線の先を見て俯き声を殺しながら涙を流し始める。
視線の先、あの場所は…嗚呼、そうか、そうだった、この場所は…
彼の遺体は既に運ばれたのか…大地を赤に染めた場所からいなくなっている。
彼女たちは遺体を見ていないでも、察してしまったのだろう…
使い込まれ愛用している武具を自身が傷ついたからといって回収できるかどうかわからない場所に置き去りにするわけがない。
置いて行く事、それ即ち…
祈りを捧げるのは街に帰ってからにしよう。
ここに彼の魂はいるべきではない、無事に月の裏側へ旅立ったのだと信じよう。
ん?さっきは強引に逃げるように繋がりを切った癖に、また繋がっていく感覚がする?何か思いついたのかな?
『祈りを捧げ感謝する、供養は全てが終わったときにもう一度頼む。さて、彼の死を持って場の雰囲気も少し落ち着いたことに感謝を捧げ、気持ちだけでも切り替えて行こう、君が言う甘美なる死の誘惑に誘われてはいけない、その通りにしていかないとな、幾ばくかではあるが思考を巡らせ辿り着いた、俺の意見を聞いてもらってもよいか?』
この先をどうするかって事?
『ああ、戦力のバランスを考慮すると不安はある、危険性もあるリスクもある、だが、何処か一点が弱くなるのは避けるべきではないかっという結論に到達した』
戦力バランスを均等に保ち、弱い一点を攻め込まれないようにする、バランス配置ってことね…
『負傷者の数を俺は知らないが、君が厳しいと感じるということは相当な数であると考えれば、幾ばくかの間、俺やキミが戦場に出れない、そうなるとカジカさん達が撤退準備をし中央の部達、ないしは街へと帰還するまでの間、中央部隊は戦力ダウンが免れないっと言う状況になる、敵が何処からともなく忽然と出現するという危険性を考慮するのであれば、救援に出向きやすい中央部隊と言えど、あの状況で狙われるのは避けるべきだ、手薄になりすぎても良くない、っであれば、中央部隊の警護を彼女にお願いし、俺達は医療班の補助に全力を出すべきじゃないか?』
んむぅ、中央部隊の位置的に見張り台から望遠鏡で覗き込めば鐘を鳴らし危険を知らせることが出来るから、大丈夫でしょって考えたんだけど。確かに、そうだよね、鐘が鳴るたびに私達が迎撃に出向いていると救える命も救えなくなってしまう。
だったら、いっその事、危機を乗り切るまで幾ばくの間中央部隊をマリンさんに任せて、右部隊と共に撤退して来たカジカさん部隊とマリンさん部隊を配置するのが一番だってことだよね。
んー…そんな直ぐに中央部隊が危険に晒されるとは思わないけれど、逆もまた然りってことだよね。
いっそのことさ、中央部隊も含めてさ、仕切り直す為に一旦、全軍撤退するのはどう?
『いや、完全な撤退はやめておいた方がいいんじゃないか?此方の動きを見ているのであれば、敵も下がって次への準備を開始するだろう、何時如何なる時でも打って出る意思を示す為にも拠点づくりは継続するべきではなかろうか?』
っむぅ、そう言われるとそうだよねってなる。
人対人の戦いであれば虚勢を張る、私達はまだまだ戦えるって言う見栄を張るのは大事だろうけれど、相手がそう…んー、、、感じるのかなぁ?
先生が虚勢を見破れないわけがないって気もする、嫌、でも、感じる可能性がある限りするべきってことなんだろうけれど、立て直す為に英気を養うべきじゃない?流れが悪い時は一旦、気持ちをリセットするのも大事じゃないかな?
『休憩と見栄を張る係は交代で行えばよい、敵と言えど、門から左程離れていない拠点を強引に攻めてくるとは思えん』
んー、確かに、そうだよね、そこに関しては同意。
仮に、中央の部隊が撤退して敵が門の近くまで攻めてきたら罠も設置済みだし、迎撃用のバリスタ等が見張り台にセットしてあるから~、迎撃に関しては力無き民でも参加できるもんね、魔道具持ちでもない限り
『それに、見張り台に堂々とセットしてあるあの馬鹿で買い弓だけじゃなく、見張り台に立てかけてある投擲などの装備を隠すことなく配置してあるのだから、敵も把握してるだろう』
あの大弓がただの飾りじゃないってのはさ、試射試験を目撃しているだろってことね。弓を引くのに時間が掛かって連射出来ないけれど一発一発の威力は凄いからねアレ。




