Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (129)
でも…動けない!動くわけにはいかないの!!!
今、私が何も対策せずに動けば、街の人達の士気が落ちる…
弱い人達の心を折りにかかるだろう、フィアーによって動きを封じられてしまう。
そうなってはいけない、戦士達を支える人達が動けなくなると作戦スピードも落ちる!
敵の策略全てを打ち破ったとしても立て直すのに時間が掛かり過ぎる!
その間に次の一手を打たれかねない!
今は…いまは、しんじるしかない!
幼い私を支え続けてくれた人達を信じるしかない!!
お願い、私から大切な人を奪わないで、お願い…考えるだけで心が削られていくのが分かる…ぅぅ、こんな時にどうして、お母さんも、勇気くんも…
ユキさんも傍に居ないの?温もりが欲しい…
小さな耳鳴りがずっと続いている…
世界が狭まっていくの、私は孤独だと、誰も手を繋いでくれないと…
「ひめさまー!」
複数の人達から一斉に呼びかけらる音に、視界が開け、己の心の弱さに即座に喝をいれ振り返ると研究塔の皆が木箱を持って此方に駆け寄ってくるってことはもうできたの!?
なら、直ぐにでも作業に取り掛かって貰えるように!念には念を入れる!
足先に視線を向け術式を放つ…地面にソナーを打ってみるが反応がない…
予想が正しければ何も対策をしなければ送り込み、対策を講じてそうであれば、送りこまない気がする。
恐らく、私が街に帰還し街に滞在している時間で判断するって感じかな?
本当に嫌な人…どの一手を選んでも後悔するようなやりかた!ほんっと人が悪い!!二択、どちらを選んでも策略の渦中!逃げ道は無いって言いたいんだろうね!!
はーもう、ほんっとイラつく!っでも、それを皆に伝わらないようにしないとね。
渦巻く様々な感情を皆に悟られない様にいつも通り気丈に振舞いながら指示を出して行かないとね!
さて、現場を任せれる人ってなると、んー嫌がるだろうけれど彼しかいないよね。
鉄板を運んでいる人達や防腐剤などで保護している木の悔いを地面に打ち込んでいる人達に指示を出しつつ警護しながら的確な指示を出している騎士に次の一手の指示を出しますか!
「オリンくん!」
「・・・?」
少し遅れて振り返る、ぇ?僕ですか?っという表情、兜をかぶっていても伝わってくるよ。前に出るの嫌いだろうけれど適任者が君しかいないの
「探知魔道具を作ったから設置するんだけど!鉄板を置くために必要な台として打ち込んでいる杭にセットするから、打ち込み終わって高さ調節が終わったやつがあれば教えて」
「はっ!早速ですが、あちらの杭が打ち込み終わっています」
指を刺された杭に研究塔の人達が駆け寄り即席の音検知魔道具を設置し始める。
これで、地中で何かが通れば反応する、警戒している人がそれを見て周囲に知らせてくれる、奇襲が奇襲でなく、待ちまかえてしまえばあのサイズの人型であれば敵ではない!
杭の上に鉄板を置くことによって、この穴以外から新しい穴を掘って出てきたとしても、直ぐに地表から出れなくしてしまえばいい。
出ようと鉄板を叩けば音を聞いた人が戦士や騎士を呼び待ち構えることが出来る。
穴を完全に防ぐのが難しいのなら罠にしてしまえばいい!
「もってきましたー!」
研究塔の皆が作業しているのを見守りつつ、適切な指示を出していると、メイドちゃんの華が咲いたような可愛らしい声が聞こえてくるので振り返ると、小さな袋を抱えた集団と共に真っすぐ駆け寄ってくると
「戻りました!ご所望の品だけでは味気ないの、此方をどうぞ!」
屈託のない笑顔を添えて冷たい瓶を渡されたので、直ぐに蓋を開け一口飲む、冷たい液体が喉から流れていく、熱くなってしまった心も喉も…癒される、私が男性だったらメイドちゃんに惚れちゃうところだぜ!
「さっそくだけど、穴の中に中身を放り込んで、その後に土も流して、一緒に木の棒とかでかき混ぜて穴を塞いじゃって」
運んでくれた一団に指示を出すと倉庫から持ってきた容器から大量のどろっと粘性が高く白い液体を流し込むというよりもヘラを使って掬い出しては穴の中に放り込んでいく。
容器の中が空っぽになってから同じく倉庫から持ってきてもらった土嚢用の土袋に穴を開けて逆さまにし土を流し込んでから、木の棒で白い液体と土を混ぜていく
「それくらいで大丈夫、後は上から土を流して踏んで固めちゃって」
スコップで叩く様にして固め、穴を塞いでいく、流れるような連携作業につい言葉が漏れ出てしまう。
「手際良し!」
うんうんっと、頷きながら満足してしまう。
皆の流れるような手際の良さに頷いていると
「これで、敵は」
零れ消えゆく様な声に釣られ視線を向けると多くの人達が安心したような表情をして作業風景を眺めている、これで街の皆がフィアーに包まれることは無いと信じよう!
作業風景に見とれている一団、その近くでメイドちゃんが伝令班と何か話をしている、報告の受け取りかな?伝令班の表情も曇ってはいない。
人型の襲撃から幾ばくかの時間が必要だったけれど、何とか持ち直したかな?
一つ一つ、不安に対して対策を施していくっていうのが大事なのだと肌で感じてはいるが、不安と焦りが心臓を突く…その都度、心臓から小さな悲鳴が心に響き渡る。
焦る気持ちと向き合いながらも、状況の見直し、これで本当に対策は完璧なのか、ミスや綻びが無いのか再確認していく。
穴を塞いだ物質、今更、中身を変えることは出来ない、されど、本当にこれで良かったのか思考を巡らせる。
流し込んだのは粘着性のある液体っというよりも固体よりかな?
伸びすぎないゴムに近くて接着剤に近い性質のやつ、わかりやすくいうと冷えても固まらない水飴が近いかな?
土を混ぜ込んで蓋をすることによって敵が穴を通って出てこようとしても土そのものが粘り気があって掘りにくいだろうし、それだけじゃない掘る為に指先を使えば腕に土の塊が付着する!これによって地表に出てきたとしても指先が使いにくいから動きも鈍る!
後は、穴の周囲に杭を打ち込んで、その杭の上に鉄板を設置して穴の周囲を鉄板で塞いでしまえば、穴以外から出てきても鉄板を叩く音でも気が付くし、穴から出てきても粘着剤で動きが鈍いから倒しやすい。
うん、私の予測通りであれば、今もなおワームが作った通り穴を人型が這いずっているとは思えれない、熱した塩や鉄を流し込まなくても良い、寧ろ、唐突な襲撃がくるのではないかという街の人達の不安を解消する為って考えれば、最善かな?
こうやって対策を施している時間を先生は何処かで見ているとしたら、穴を通って人型が出てくることは無いと思うけどね。
万が一、敵が地中を這って移動してきたとしても、狭い穴の中を移動するのであれば多少は土を掘ったりしながら移動するだろうから、絶対に振動が発生する。
その振動を検知する魔道具を作ったから地中を何かが通れば検知し、皆に知らせるために鉄板の下にセットしたスプーンやフォークが動いて鉄板を叩いて知らせてくれる。
それによって地中を動いている何かがどの辺りを通っているのか、凡そだけれども知ることが出来る。
音が鳴った箇所にはちゃんと発動履歴が残る様に細工もしてあるから、地中の様子も何となくだけど探ることもできる!
とりあえずの対策としては、こんなもんかな?最良じゃないかもしれないけれど、十二分に効果を発揮してくれる、はず。
不安の一つだった王都に関しても情報を得て心に余裕が出来た、平民達が逃げ出せれる状態って考えれば、お母さんやフラさんも無事だと考えてもよさそう!っていうか、既に何処か…っといわず教会に避難して怪我した人たちを診ているのかもしれない、そう考えると、直ぐに帰ってこないのも理解が出来る。
…ワーム共が溢れている王城にいる情けない男に関してはしーらない、別に死んでもいいし。
うん、不安はある、判断が間違っている可能性も否定は出来ない、でも、対策も出来た!
次は…刹那的に脳内を駆け巡る過去の私が通った悲惨な道…想像するだけで心が折れそうになる光景を振り払う様に渡してもらった水を一気に飲み干していく
「よし!」
心臓の下側を撫でられる様な不快感を拭う為に気合の入った声を出すと支援部隊や伝令班と何か話をしていたメイドちゃんが近くに駆け寄ってくる
「しゅ、出撃、ですか?」
「・・・」
静かに決意を込めて頷くと、少々お待ちくださいと一言残して、伝令班に何か言った後、戻ってきてくれる
「行きましょう!」
私と違ってメイドちゃんの目は輝き生きるという意志が籠るだけではなく前へ向かうための闘志が宿っている。
こういう時に何も考えずに前へ突き進む為の勇気が私には足りていないのではないかという気がしてしまう…
心の奥底に嫌な予感…予知に近い感覚を押し込む様に深呼吸をしてからクィーンが止めてある場所に向かって歩いていく…
その道すがら指示を出し警護している騎士の隣を通る際に
「オリンくん、後は任せた」
現場での指揮をオリンくんに託していく、返事はきかなーい!嫌だって言われても他に適任者いないんだからねー
焦った声が聞こえてきたけれどきかなーい!君しかいないの!
「いま、よろしい、で、しょうか?」
急ぎ足で歩いていると、歩きながらも気丈に優雅な雰囲気を崩さないで声を掛けてくるけど、伝令班から何か受け取ったのかな?
「うん、大丈夫、話しにくいでしょ?言葉を崩してもいいよ?」
「はい!姫様の切り札ボックスの中身は補充しておきました」
…ん~、そこに関しては支援部隊を信頼しているから報告は無くても?いいんじゃない?なんつってね、きっと、これは前置き
「建設予定の拠点用の鉄板を使ったのですが、死の大地で建設するための拠点に必要な数って、足りますか?っと伝令班が」
あ、そっか、そっち方面の指示を出し忘れてた!
歩行速度を弛め、支援部隊に所属している人が近くにいないか見渡すと
「あ、大丈夫です、トラックの近くに伝令班を1名待機させていますので、何かあれば彼にお願いします」
私の先を見据えた行動をしてくれている!!抱き着いて頭を撫でて感謝したくなっちゃう!
クィーンに乗り込むと伝令班が駆け寄ってくるので資材に関しては問題はなく、戦士長からの指示を待つように声を掛け、メイドちゃんにケーブルを繋げてもらい右部隊の救出にでようとすると
「ぁ、ちょ、ちょっと待ってください姫様!転送陣が」
左セーフティーエリアに設置し、敵の襲来によって街に向かって運んでいるはずの対となる転送の陣が街に帰還したという報告は…まだ受けていない!!起動するはずのない転送の陣が光り輝く…考えられる事は一つ
「迎え撃つよ!!」「はい!!」
直ぐに荷台から降り、クィーンに搭載している箱を宙に浮かせどんな敵が転送の陣から出てこようが即座に殺しつくすために万全な状態を取る!!




