Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (120)
嫌な予感しかしない…
でもまだ!左と中央なら!いそげば!
信頼置ける人物達であれば魔道具持ちであろうと私が到着するまでの間耐えてくれると信じ動き出そうとすると遠くから大きな声が此方に向かって届けられる。
「右もですー!!まっ、しれいかーん!!!」
嫌な予感ってどうして、こう…
集まってきた伝令班から得られる情報は全て得る!どんな状況であれ確認を怠ることはしてはいけない!一分一秒が惜しい状況だってわかってるけれど!わかってはいる、わかっていても!確認をするために口にしたくない言葉を口にする。
「全ての部隊で?」
息を切らせながら何度も何度も…頷いている。
大急ぎの伝令であの死の大地を駆け抜けてきた、その胆力だけでも褒めたあげたいけれど、そんな余裕が私には無い…
だって、その伝令を受けて出てきた選択肢が…
非情で愚かな選択肢が頭に浮かんでしまったから…
1・愛する旦那を優先する
2・愛する旦那を見捨て…信じて他を救いに行く
脳裏に浮かんでしまった選択肢を蹴り飛ばす!
馬鹿言うなっての!そんな短絡的な考え良しとするわけないでしょ!!
誰も失うわけにはいかないっての!!この先に挑むのであれば全員五体満足!強欲であれ!
誰一人欠けることなくこの危機を乗り切らないといけない!!
だけれども、ほんっと!何て言うタイミングで仕掛けてくるんだよ先生は!!
私が心の底から嫌なタイミングで仕掛けてくるなぁもう!!
冷静に考えろ…誰がどの程度耐えられて、私がどれ程の速さで移動できる?
移動速度、殲滅速度、切り札を全て使い切るつもりで動けば…
まずは移動!…転移陣ってトラック通れたかな?…試したことが無い、でも、やるしかない!!転移陣が起動できるのであれば左には一瞬で向かうことが出来る。
左のセーフティーエリアから左部隊であるラアキさんが居る場所には直ぐにでも合流できる!!
っであれば!第一に助けに行くのはラアキさんが効率的、だよね?
それに…滅多なことで死ぬとは思えれないけれど!ラアキさんが一番経験が浅い!
対人戦ならともかく、魔道具持ちとの闘いであれば勝手が違い過ぎるし、近くに経験豊富な戦士や騎士が居るわけでもない…一手目はラアキさんが最善手!ついでに左サイドを破棄する!!
次に考えるべきは左側から最も近いのが中央部隊である勇気くん…彼であれば、足手まといが居たとしても!邪魔はしない筈!だって、ピーカ君は武勇の為に死に急ぐタイプじゃない!何度も何度も!死んではいけないって何度も何度も!声に出して頭に叩き込んであげているから逃げ帰るっていう選択肢を選んでくれるはず!!
最後に…心苦しいけれど!最後に回すしかない!移動距離を考えても一番遠いのが、カジカさんとマリンさんがいる右部隊!でも、彼らであれば!!
幾度となく魔道具持ちと闘ったことがある経験豊富な戦士達がいる!
魔道具持ちが複数いようが見晴らしの良い場所であれば、二日くらい持たしてくれる!!
なら…左奥の森…そこから潜んでいるかもしれない敵の増援が怖い左部隊を優先!次に中央部隊に向かって敵を挟撃!最後に右部隊を助けに行く!!
きっとこれが最善手!クィーンの機動力に搭載している切り札全てをぶつければ間に合う!ううん!間に合わせる!!先生が知らない規格外の道具で計算外の事を起こしてやらぁ!!
「伝令ありがとう!戻ってきてくれて直ぐで申し訳ないけれど、左中右で私は動くとだけ伝えてくれる?」
こくこくっと大きな動きで頷き駆け出していく
「それじゃ私達もいくよ!!」
荷台に向けて声を出すと全員が乗り込んでいくので、私も荷台へ飛び乗ろうとすると
「姫様!我々は!?」
近くで様子を伺う様に待機していた騎士が指示を求めてくるので
「転送陣で私は左へ応援にでる!ですので、中央、または右部隊に出撃して、私が応援に駆け付けるまでに出来る限り敵が持つ魔道具の分析をお願いしたい!分析が出来る…」
フラさんがいない…まぁ、フラさんに戦場へ出て欲しいなんて無理難題言えないから、どの道、っかな?
「出来る人を連れて行って!誰を連れていくかは皆に任せる!」
時間も無い!急いで荷台に乗り込み、運転席に転送陣へ向かう様に指示をだす。
司令官としては誰って決めるべきなんだけど!ちょっと、現状で誰がどこにどう配置されているのか掴み切れてない!いい加減かもしれないけれどこれが最善手!!
騎士が頷いて離れていくのと同時に転送陣を起動させ
クィーンと共に転送陣へと突っ込んでいく
転送陣から左のセーフティーエリアに出ると同時に驚いて此方を見ている人達に指示を出す。
「今から私が前線に向かいます!敵の情報を持っている人が居れば教えて!」
声を荒げる様に出すが、誰も反応してくれない、ってことは分析できていないってことね!
「出るよ!」
如何な魔道具持ちであろうと!杖と私が在れば!
大きな音を出しながら戦場へと駆け出し、向かっている間に準備を終わらせる!
背中にケーブルを繋げ死の大地を全力で駆けていく!音なんて気にしてられない!!
激しい揺れの中、直ぐにでも放つために杖に魔力を流すスイッチ入れ、光の粒を精製する
光の粒が精製されると同時に魔力を止め、戦場の様子を知る為に望遠鏡を覗き込む
「…何だろう?」
戦場で戦っている様子を見ても敵が何の魔道具を持っているのか把握できない。
火が出れば、水が出れば、土埃が不自然に巻き上がれば、土が隆起すれば…
自然発生しない現象が発生すれば直ぐにでも敵が持つ魔道具が何かわかるんだけど、今のところそういったモノがない。
不安なのが、精神に干渉するタイプだけど、部隊の動きに乱れが無い、から、それでも無さそう?
…でも、あからさまに何か握ってるなぁ、杖?にしては、短い、いや、魔道具に固定概念は良くない。
これ見よがしに、振り回して!いかにも一目見て武器です!って理解できる得物を猿が持って。でも、何も反応が無い…
…ブラフか?魔道具を持たせている、警戒しろっていう此方の当たり前を利用された?
敵が持つ魔道具が何か判別できない、けれども、敵の数はわかる。
パワータイプっぽいやつが一つ
手に何か持っていて無造作に振り回しているやつが一つ
手が長い奴が複数の騎士に囲まれて身動きが取れていないのが一つ
敵の数をカウントしているとパワータイプの首元が一瞬だけ輝いたのが見えた。
ネックレスタイプ?ってことは、身体強化系統ってこと?…っち、厄介なタイプに厄介な代物を!
だけれど!幸いにして現場は持ちこたえてくれている!
幸いにして敵が持つ魔道具は特別製ってわけでもなさそう!敵から奪った、この杖型魔道具とは違う、凄まじい殺傷能力、破壊能力を秘めている武器ってわけでは無さそう!
…ってことは、こっちが外れの可能性が出てきたってことね!私を引き寄せる罠だった可能性もある!!っとなれば、勇気くんや、マリンさん達が危ないってわけね!クィーンの機動力!端から端まで一瞬で駆けつける機動力を見せてやらぁ!!
「射程圏内にもうすぐ入る!撃つよ!運転手も合わせて!」
ぶっつけ本番!車の急ブレーキを使っての奇襲!!
「止めて!」
急ブレーキによって車体がぶれ、大きく揺れ土によって滑りながら止まるとほぼ同時に光の粒を放ち
「知らせて!」
荷台に乗っている術式班が弓を引き矢を放ち音で知らせると、一瞬だけラアキさんが此方へ首を動かしたのが見えた。
ゆっくりと放物線を描きながら光の粒がラアキさん達がいる方へと飛んでいく。
「移動を開始!敵の近くまで行くよ!」
ぶっつけ本番で打ち合わせも無い連携に期待はしない!
でも、ラアキさんなら、この光の粒が飛んでいくのを見て、敵にぶつける様に仕向けてくれるはず!!
再度、動き出したクィーンに振り落とされない様に掴み、杖に魔力を送ろうとすると
視界に光が走る…光の粒が弾けた…
「っち!!しっかり対策してんじゃん!!」
ラアキさんへと届く最もっと手前で光りの粒が弾け、爆風によって周囲に土埃が舞い上がる。
杖に魔力を送るスイッチを押すのを止める
光りの粒が弾けた周囲を見るが、何で反応したのかわからないけれど、何かで誘爆させたのであれば、杖の内部にも干渉することが出来る可能性がある!
…今回の戦いでは使えない!!
「何で爆発した?」
確認の為に目撃した人物がいないか呼びかけるが
「土ではありません!」「何かが当たった様子はなかったです!」「突然、爆発しました!」
同時に視た情報を伝えてくれる。嫌な予想…もしかして、この杖型魔道具って一つで完成する物じゃないってことかもしれない。
放った光の粒を任意の場所で爆発させるための魔道具がある
っていう、可能性が浮上してきた!!
「出来る限り近づいて!…申し訳ないけれど、皆を」
守り切る余裕がないかもしれない、声に出すのが怖かった、音にして世界に知らせてしまうとそうなる様な気がしてしまったから。
「覚悟は出来てます!!」「元よりそのつもりです!」「姫様が覚悟を決めているのに僕たちが覚悟を決めていないわけがない!!」
力強い返事に私も覚悟を決める…
ここからは…失っていく危険性が高くなっていくっと、いうことを…
全ての点が繋がっていく感覚、流れるような怒涛の展開。
先生の本領はここからだと…
嫌な汗が頬を伝い、手が汗ばみ、顎が小さく震えてしまう。
幼き頃のトラウマじゃないけれど!あの勝てる気がしない感覚!
それを乗り越えてこそ!弟子が師匠を超えてこそ!先生への手向けとなるってね!
あの頃はお互いの手の内がわかっているからこそ、戦略ゲームに負けてただけ!
此方の手の内全てを把握しきれていないのはお互い様だけど!こっちにはそっちにない技術体系があるってね!!
クィーンに搭載されている秘密道具を舐めんなっての!!




