Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (118)
ベッドから降りて窓に近づき、そっと窓際に手をやり外を見る。もう朝なんだ…
時間が経つのって早いなぁ~、何か忘れてるような気がするけど、何だろう?
まぁいいかな?今は他の事なんて考えられない。うん、考えたくないかなぁ…
モノに当たることなく、ゆっくりと窓を開けて新鮮な空気をめい一杯肺に送り込み、ゆっくりと吐き出すと幸福感と共に湧き上がる感情が、底に鎮座しており渦巻く感情を幸福感と共に表に出したくない。
拮抗する感情が言葉を持ち暴れるので、思考を真っ白にすると、意識が飛び羽ばたいて何処かにいってしまいそうになる。
風と共に羽ばたいていると
「心地よい風だな」
うん、そうだね。
優しい小鳥のような囁きを背に受け止めているとそっと肩に愛する人の手が触れる。
「今日も、日は我らを祝福し森を健やかに育ててくれる、慈しむ月の世に別れを告げ、花が歌う時が廻る」
今日は詩人な気分?まったく、いい気なものだね、それともー昨夜の事を誤魔化してるのかなー?かなー?
げしげしと爪先で彼の脛を蹴ると
「っぐ…わるかった、俺が悪かった攻めないでくれ、俺だってこうなる予想はしていたんだ」
頬を膨らませながらジト目で彼を睨む様に見つめ続けると、その目を止めるんだと言わんばかりにキスで誤魔化そうとしてくるので甘んじて受け止める。にへへ。
でも、文句は言うからね?唇が離れると同時に不満という名の呪詛を放つ
「精神と肉体が結びついてないって言う言い訳がひとーつ」
彼の顔が嫌な予感を感じたのか、すぐに離れようとするが、お構いなしに文句を並べていくときゅっと、口が閉じ我慢する姿勢を取ってくれる
「体を理想の状態に持って行く為に身体操作を繰り返してたのがふたーつ」
逃がさない様に彼の顔を手に持ち目線を合わせようとすると、視線が泳ぎ始める
「子供達の事を考えてそういう気が起きない様に勤めていたのがみーっつ」
潤んだ瞳で此方を見てくる、実家にいた犬が悪さをしたとき同じ顔をしやがって!
「故にアレが機能しなかった…本音は私の体が幼過ぎて興奮しなかったが四つ目じゃないのかなー?かなー?かなぁ!?」
ぎりっと両指に力を込めて不能だった馬鹿の頬を抓る
「ちが、違うんだ、俺は、ほら?精神が枯れ果てた爺だろ?その、ほら、っな?りか、理解してくれ頼む、後生だから、君に魅力がないわけじゃないんだ、感じるもの、衝動はあったんだ、でも、なぜか…」
不能が!!ベチンっと両の手で顔を潰すように叩き
「いいもん!次の体はお母さんみたいにぼーーん!ぎゅ、ぼぉーーーん!にしてやるんだから!!がるるるるるるる!!!!」
いざその時になって、出来ないってのは私としても心に来るものがあったんだからね!!
キミだけが!!!ショックを受けて被害者みたいな顔するんじゃねぇってのぉ!!ばかーーーーーーー!!!!
「ぅぅ、すまない、っというか、君も俺の体を見ているから知っているだろう?アレがとても小さく幼子の様だと!!」
申し訳なさそうに腰に手を回して背中を撫でるな!!他の人の見たことが無いからわかんないよ!!馬鹿!!
そんなの知らないよっとおでこを彼の胸板に何度も当てて抗議すると
「ぅぅ、軽率という馬鹿な言葉を滑らせてしまった、すまない、君が俺以外の人の体を知っているわけがなかったか、俺が初めての人だというのに」
そうだよ!!こっちはこの年齢で生娘だよ!!ばかーーーー!!行き遅れてんだっての!!!がるるるるるる!!しかたないじゃん!好きになった人がいたんだから…
「これ、から!全てが終わったらユキの事を考慮することが無いから、男しての本能を呼び起こすように努める!だから此度だけは許してほしい!!」
「…わがっだ!許してあげる!!」
両腕を何とか伸ばして彼の顔をがっと掴み引き寄せ強引にキスをすると申し訳ないと熱い情熱的なキスが返ってくる。にへへ
これで許してあげる!寛大な奥様でよかったね!にへへ
何度目か忘れてしまうほど、情熱的なキスをした後は全身が熱くなり心臓が高鳴り頬が熱くなる
「・・・」
心なしか勇気くんの目が柔らかい?
「君は口づけが好きだな、目が蕩けているぞ」
それは、勇気くんもじゃない?
もう一度、キスをしようと顔を近づけ
コンコン
ノックの音でお互い飛び跳ねる様に離れ、お互い全裸だということを指さし頷いてから、慌てて服を着る
「すまない!少しだけ待って欲しい!」
服を着ながら勇気くんがドアの奥にいる人物に声を掛けると
「朝早くから申し訳ありません戦士長、あの、一つだけ質問よろしいでしょうか?」
メイドちゃんの声だ!って、ことは
「あ!いるよー!私ここにいる!」
「…」
その沈黙怖いなぁ!嫉妬の炎に身を焦がしてないよね?私が先に大人の女性として歩んでいることに対して嫉妬してそう!なんつってね、単純に本当に私が居るとは思っていなかったんじゃない?まさか、居るわけ、ないよねぇ?…いたよって感じ?
「へぇ!?…ぇ、ぁ、ぅ…おじゃ、ま、でし、た?」
…おじゃま?お邪魔?ん?…っは!?違う!?たぶん最中の真っ只中だと思ってるでしょ!?
消え入りそうな小さな声、聴覚を微強化している私じゃなかったら聞き逃してたね!
メイドちゃんからしたら、ノック直後の慌てた様な音にドアを開けさせない様にするための慌てた声!
行きつく答えとしてそれに辿り着くってのは、ありえ、るね!うん!どう考えてもそうじゃん!!男と女が朝に一緒に居るってそういうことじゃん!っていうか、下手すると、今もなお真っ最中って思っちゃうよね!?
溢れ出る可能性の渦に翻弄され、はわわっとこの状況を打破する考えがまとまらないでいると
トントンっと小さく机を叩く音が聞こえ視線を向けると勇気くんは既に着替え終わっている。
彼の目から伝わる感情は着替えなくてもいいのか?じゃない。
ドアに向けて指を刺している。
ってことは、メイドを部屋に入れても良いのかって感じ?
…そっか、彼が慌てていたのは身なりが整っていない肌を露出している男性がいる状態でメイドとはいえ、女性を部屋に招くのが良くないって事?
肌を見せても良いのは君だけって事?にへへ。
ドアに向けられた指先が私に向けられ、直ぐに自身の頬を指さしている?
頬が蕩けているって言いたいのかな?しょうがないじゃん、にへへ。
ドアに指を刺してドアノブを回す仕草
わかってるよ、司令官として気を引き締めろってことだよね?
私は…うん、下着は身に着けたし、戦闘服を着たいからメイドちゃんに入ってもらってもいいかな?
コクリと頷くと
「入ってもいいぞ」
「ひゃ!?ははははは、ぃぃ」
何故かもう一度ココンっとノックしてから、ドアノブを小刻みに震える様にカカカチャっと小さな小気味よい音を出しながら回そうとしているのか、それとも、緊張して震えているのか?どっちだろうかと考えている間に、ドアノブが回り、ドアが開けれようと…しない。
一瞬だけドアが前へ進むが、直ぐにガンっと音を出してドアを引いてしまっている。
メイドちゃんからすれば押戸だというのに何度かドアを引いてから、押戸であると思い出したのか、ゆっくりとドアを開き、徐々に露になる顔は真っ赤に染まり目が物凄い速さで右往左往と、荒波の海でも泳ぐのかの如く泳ぎまくっている。
慣れない状況にテンパって思考がロンドして目が躍っているって感じかな?ロンパってるメイドちゃんがドアを開いた状態で呆然と立ち尽くしているので
「ごめーん、メイドちゃん、戦闘服着せてもらってもいいかなー?手伝ってー」
「ぅぴ!?は、はぁい…」
呼び寄せると、顔を真っ赤に染めながら此方に向かってくる。
テテテテっと小刻みに震えながら顔を真っ赤にして俯きながら小走りに近づいてくる
まったく、知識としてあるんでしょ?生娘…かどうかは知らないけれど、何も知らない初心な少女でもあるまいし?華の頂としてそういう知識は詰め込まれてるでしょ?って言いたいけれど…
スパイ活動と、身内のね?そういうのは、違うか…
純粋に気まずいよね…ごめん、でも、そういう態度の方がもっと気まずいよね?
堂々と接するので許せ!にはは…
黙々と震える指によって服を着せてもらっていると、徐々に、指先の震えが止まり冷静に何時も通りのメイドちゃんへと切り替わっていくのを感じたので、頃合いかと切り出す
「それで、私を探していたみたいだけど、どうしたの?」
「はい、あの、団長から渡された書類の返事を王都にいる団長へ届ける為に使いを出す予定だったのですが」
その一言で背筋がピンっと伸びようとするのをメイドちゃんに肩を叩かれ阻止され、背中に一筋の冷や汗が流れていくのを感じる…
…ああ!!思い出した!!!
返事が返ってこなくて心配しているお母さんの顔を想像してしまう。
だが、真相を知ってしまったら湧き上がる怒気に満ちているであろうっという恐怖心からか、びくっと跳ねた影響で
「あー…その、はい、書類が出来上がり次第、伝令班にお渡ししていただけると」
メイドちゃんに忘れていたのが伝わってしまう…
お母さんは呆れるだけだけど、叔母様は怖いんだよぉ…
勇気くんの事も少なからず想ってくれているから尚更、ぅぅ、姑戦争?やだなぁ…
斯くなる上は!ゴマすりとして塩を練り込んだパンでも作って送ろう!
でもそれをすると、私を早く退場させたいのかって頬を叩かるよね?んー、どうすればって、いや、ダメでしょ!何わざと火種を作ろうとしてんだっての!
…もうすでに、私の中で叔母様をどうやって勇気くんから少しでも遠ざけるってのも表現がアレだね、切り離そう…っていうか初手から取り合えず近寄らせいない様に考えちゃってるの?ぅぅ、私ってこんなにも独占欲、強かったんだ…知らなかった。
「着替えたら急ぎで書類作っちゃう、勇気くんは」
「ああ、勿論出撃だ、宰相と交代しないとな、それと君の切り札の性能を高める為に道路を作るだったかな、その作戦も俺らが寝ている間に始まっているはずだろうから、それの新着状況も確認しておきたい、ってとこだろう」
少し離れた位置から予定を聞かされる、着替えているのを観察するようなことはしないってことかな?紳士だねー。
それに、私が何かを言う前に作戦書通りに作戦を進行してくれているのは助かる。
恐らくだけど、道路を作るって言っても街と現場を何往復と重い荷物を背負った状態で歩いている私達の足の力で地面を踏み固めているってだけだけどね~




