Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (112)
敵の増援は止まったのか、奥から敵が湧いて出てくるような、息を潜めて動くような気配が何処にも無い。
静寂な何時もの死の大地、ここでの仕事は終わった、かな?魔力もかなり減らしたし、一旦戻って魔力の補充もしておきたい、よね。
「これで、取り合えず…危機は去ったかな?」
「そうであるなぁ」「だなー…ふあ~流石にね~あれだけ同じ爆発を見るのもさ、飽きてきたところさぁね~」
周囲の戦士達もノンビリと食事をしたり飲み物を飲んだりと死の大地とは思えないほどにリラックスして談笑している。何処でも休むことが出来る!それが戦士としての条件だもん、彼らだからこそ出来る芸当、咎めるつもりなんて一切ないよ。
「っじゃ、撤去作業始めるよー!」
パンパンっと手を叩くと一斉に立ち上がり、おーう、っと気の抜けた返事と共に凹凸が激しくなった野原へと屈強な戦士の一団が歩みを揃えて向かっていく。
彼らに全て任せるつもりはない、私達も手伝わないとね!
「私達も運ぶの手伝うよー」「はーい」
荷台で寝ていたのか眠そうな返事が返ってくる…
仕事が無いんだもんね仕方がない、仕事が無いなら探せなんて言うわけがない。
休める時に休めが私達の方針だもん。
周囲の片づけをしていた人達も合図と共に荷台へとよじ登り、運転席には我さきへと運転したい人が乗り込んでいく。
私も荷台の上によじ登って発信の合図を出すと、掛け声と共にゆっくりと車が動き出す。
幾度となく爆破させた地点の近くで車を止めると、戦士や騎士達が持てる範囲で使えそうな残骸を運んでくる。
順次運ばれてくる残骸を受け取り、荷台に載せれるだけ積む。
皆が作業している間に荷台から降りて凹凸の激しいエリアを覗き込んでみるが、先生がこのタイミングで一手打ってくると睨んで探ってみる、されど、何かが蠢く気配はない。
砕かれた石や柔らかくなった土に隠れたり、死骸の中で息を潜めるような知恵は無いっか、それくらいなら先生が授けていてもおかしくないだろうって思ったんだけど…
その様子も無い?…んー、魔道具持ちも居たような感じがしたんだけど、何も策を与えていない?何だろう?何かしらの意図があると思ったんだけど?
あれかな?此方の一手を見て作戦を練り直したかな?
もう一度、顔を上げて、周囲を見回してみて、肌で眼で音で…感じる。
杖型魔道具の殲滅力の高さを…
かなりの数を仕留めた…
人型に関しては100を超えてるんじゃないかな?
無数に散らばる残骸、クレーターの中に埋もれている数も相当だと思うし、スコップ片手にある程度掘り起こして回収できるものは回収しているけれど、たぶん、終わらないんじゃないかな?
転がる残骸、目に見える範囲で恐らく100、下手をするともう少しあるかもしれない。
その数字に驚愕を感じてしまう、だって…私達が普通に過ごしていたら1年で100も人型に遭遇しないよ?
下手すると敵が保有する全ての戦力、とまではいかなくても9割近くは潰した気がする。
もしかしたら、先生としては右部隊を押し切れる、押し切らないとだめだと判断して動かせれる駒を使った、使わざるをえなかったってことかな?
先生にとって想定外ないのが杖型魔道具を完全って程ではないかもしれないけれど使いこなし、尚且つ、発動させるのに必要な魔力を保有していたってことじゃない?
ってことは、打ち止め、って可能性が高くなってきてないかな?
それにさ、人型だけじゃなく、大型種も中型種も数えきれないほど殲滅したし…
もしやもしや?完全の手詰まりってやつ?無限に等しいだろうと思っていた敵も殲滅しきったかな?
しきったかも!!
やった!押し切れる!このまま、デッドライン手前からエンドレスに杖型魔道具や残しておいた切り札を使って遠距離攻撃でデッドラインで待ち構えている特別製に向けて先手を取れるんじゃないの!?
両手を上げてその場でジャンプして歓びの舞を踊る!!
…わけもない、大きな声を出して勝利の美酒に酔いしれる。そんな事が出来るほど甘くない。
先生なら、この先も何か策を巡らせている可能性がある。
油断してはダメ。あの人の狡猾さは幼い時に嫌と言う程、味わってきたんだもんね。
このまま、あっさりと終わるとは思えれない。
かといってさ、今の段階で打てる一手って何?って言われるとさ…
何にもない!後の先を突くしか出来ないからなぁ。敵の情報が少なすぎるんだよなぁ。
今のところ全て後手に回っているような気がしない事も無いけれど、後の先を突くことが出来ているからこそ、現状、大きな被害も出ていない。
もしもに備えてカウンターを大量に用意しておいて良かった。
可能性の一つとして考慮していた不安材料も、今までの流れからして可能性は無いって断言しても良いかな?
悪魔崇拝をしている人が私達の街の中に紛れ込んでいるっていう不安。
何処かで潜んでいて、私が開発している魔道具の情報が敵に渡されている様な感じは何一つ無いって感じ取れるくらいだもん。先生だったら情報を知っていたらこんな良い様にやられたりしないもん。
ただなぁ…今までの流れ全てが油断を誘うための布石だって言われると納得してしまいそうになるくらい、大きな被害が出ていないっていうのも、不安要素なんだよなぁ…
突拍子もない助けもあったり、全てが順調すぎるからこそ、不安を感じているだけで、実のところ、此方が非常に優勢で向こうは、なす術も無いような状況なのかもしれない。
本当に本当の所、こっちが圧倒的有利な状況に持ち込めたって可能性の方が高いと感じてはいるんだけど、あの人の性格の悪さを考えると、うぎぎ、手放しで喜べねぇ、喜べねぇんだよなぁ!
んー、こういう時こそ、情報が全てだってっ感じるよね。
将棋やチェスと違って敵の配置が分かっているわけでも無し、何の駒が残されているのかも知る術も無し!
んふーっと溜息が漏れ出てしまう。
傍から見たら満足気にしているように見えるだろうね。
内心は焦りまくってるっての…
ん~、うん。考えすぎは良くない!気持ちを切り替えよう。
不安を感じ慎重になることは大事だけど、それを気にし過ぎて前に出れないのが良くない、出る時に出る!攻める時に攻め切れないのはダメ!
作業状況がどの程度すすんでいるのか、周囲を見回すと、スコップ片手に吹き飛んだ敵の残骸を集めている戦士や騎士達がいる。
作業風景だけを切り取ってみると、ここが戦場だと忘れているのかもってくらい、和気藹々としている。和やかに会話しながら運んでいる、運んでいるモノさえ見なければね。
それはそれとして、本当にみんな、良い顔しているよね。
考えないといけない、責任者の一人として幹部として、司令官として…
この笑顔を永遠とするために、何が必要なのか…気持ちを切り替えたとしても作戦を考えるのは別ってね!
すぅっと息吸い、ゆっくりと吐いていく…心臓は落ち着いている。おち…
そっと心臓に触れる…
うん…肺もまだ動いている。そうだよ、悠長にしてらんないよね。
…うん!迷ってはいけない攻める姿勢を絶やすな!
「姫様ー!荷台に隙間が無く、如何なさいますか?」
心臓を昂らせるために心に火を灯したんだけど、直ぐに消す。
振り返ることなく
「帰還するよー、魔力を補充しないとね、つっても、右セーフティーエリアに帰還だからね?」
指示を出す。
念には念を、どんな時でも警戒を怠るなってね、この会話中でも油断はしない。
視線を前に向けたまま後ろ歩きで下がっていく
「はい!助手席は空いていますので、其方に?」
ある程度、クレーターと距離を離すと先ほど声を掛けてくれた人の声が近くに感じるので
「そうだね、其方に~の前に、背中のケーブルは外さないとね~、外してくれる?」
「はい、失礼しますね」
前を警戒したまま、ケーブルを外してもらう。
何も変化はない、それはそれでよし!
助手席に乗り込み窓から顔を出して
「何往復かするから、皆は一か所にでも集めといてもらってもいいかな?」
「応!」
戦士の一団に声を掛けると力強い返事が返ってくる。
さぁ、トラックとしての本領発揮と行きましょうっか!モノを運ぶのが本当のお仕事だもんね!いくよクィーン!
クィーンを走らせ、罠だらけの右セーフティーエリアに帰還し、荷台を下ろしている間にセーフティーエリアに在中している連絡班を呼び状況を確認する。
右セーフティーエリアは時折、何処からか獣が出てきては攻めてくるけれど、駐在している騎士達が倒してくれているので被害は無い、罠を設置している場所まで接近は一度も許していない。
うん、問題は無さそう、ここまで敵が攻め込まれたら全ての前線を下げないといけないからね。街の防衛に努めて持久戦になるから、ここ迄攻め込まれるわけは行かないんだよね。
ここは念には念の為に、人類に時間を作る為の拠点なんだもんね。
一応、認識阻害の術式は起動しているけれど、見つかるリスクはちゃんとあるからね。
なので、接近されているのであれば仕留めるのが一番だからね、その対処で問題なし!
報告を受け取り、今後も続けて警戒を怠らないようにと指示を出すと。
「魔力装填終わりましたー!荷台の積み下ろしも終わりました!」
「はーい、それじゃいこ…んー私、いる、かな?」
一瞬だけ迷いが生まれる、単純な往復作業であれば私って要らなくない?
それよりも、ここにいた方が何かと機敏に…ぁ、クィーンが無いと、どうしようもないか
「どうされますか?此方で休憩なさいます?」
「ううん、私も一緒に行く。何かあったら君たちじゃ対処できないでしょ?」
杖の扱い方を理解している人がいるけれど、それは隣に私が居るから出来てるだけで、私が居ない状況で、敵と接敵してしまったら、冷静にそれを行えるのかって言うと難しいよね。たぶん、ううん、確実に死ぬだろうね。
「情けない話ですけど、俺達では、人型と闘うことは出来ないです」
しょんぼりと俯いて悲しそうな顔をする。
術式班の皆はちゃんと冷静に自分たちが何が出来るのか見極めている。
出来る事と出来ないことを、どんな魔道具を手にしたとしても冷静に状況判断が出来る様に教育してきているからね。




