Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (103)
「それじゃ、行ってくるわね、技術者も数名連れていくけれど、構わないわね?」
「うん、お願い、最初の作業だけ終わらせてしまえば後は、何往復とするだけだから」
空っぽの魔石は中小合わせて大量にあるから、永遠に運搬作業が待ってるだろうけれど、問題はそこじゃないんだよなぁ…
問題があるとすれば…届いていなかった魔力が何処に停滞しているのかって事も気がかりかな?
一応、教会の地下にも中型魔石を大量に用意して設置してある。
基本は人々から集めた魔力は真っすぐに私達の街に向かって流れる様にしているけれど、此方が満タンになったときは魔力が流されず、教会に用意してある魔石に流れ込む様にセットしてはいるんだけど…
此方の魔石が満タンになったことが一度も無いから、ちゃんと機能しているのかわからないんだよね。
たぶん、何も問題は無いと思うんだけど、ケーブルが破損していたらどうなるのかっていう実験はしていないんだよなぁ…
ちょっと不安を感じはするけれど、お母さん達なら何とかするでしょ!
あの二人は激動の時代を乗り越えてきた技術者だもん!
ロートルと言われることなく最先端に居続けてきた人達だもんね!
お母さんの背中を見送り、私は久しぶり?かな?自室に戻って少しだけ仮眠をとる。
時間が来ればメイドちゃんが起こしに来てくれるだろうし、私が帰還しているのを気が付いていなくても瞳達が叩き起こしてくれるだろうからね!
太陽に挨拶をしてから自室に向かって歩いていく。
視線をつい、門の向こう…勇気くんが居る大地へと向けてしまう。
ここからじゃ何も情報を得られない、信頼している信用している、だから、もしもなんて起きないと分かっていても…
ここから先は、無知の領域。
何が起きるか予想が出来ない。
愛する人が無事でありますようにと太陽に祈りを捧げ、ネグリジェに着替えてベッドにダイブする…はぁ、ずっとベッドの上にいたい…
「この国に、幸せはぁ…無い」
「はい」
「王は、あれ、ら、では…ない」
「はい」
「我らが、はぁ、王は…」
「ここに」
「我が、同胞よ、我が、はら、からよぉ、わが…われ、らの、、いしをつげ」
「はい」
「ふふ、はは、はは、ぐぅ…はぁ、みえ、みえる、おうのすがたが、いま、いま、まいります、われらがおうよ」
「…」
青年は立ち上がる、真っ暗闇の中、大勢の中から、ただ一人、青年は立ち上がる。
手には真っ赤に染まった三角形の何かを握り
ぴちゃりぴちゃりと湿った大地の上を歩きはじめる
周囲に灯りは無く、暗い暗い土の中を歩いていく…
長い永い、闇の中を、歩いていく。
何処まで続いているかわからない先が見えない闇の中を灯り一つ灯すことなく歩いていく。
一寸先、全てが闇だというのに青年は迷わずに、躓くことなく、何かに当たることなく進んでいく。
暗き土の中、それこそが彼らの世界だと言わんばかりに青年は進んでいく
終着点に辿り着いたのか目の前にドアがある、ノックをすることなくゆっくりとドアを開く。
ドアを開けると灯りが目に刺さる、その奥には複数の人が待ち構えていたのか手に持つ松明によって灯りが灯されている。
彼らは青年の姿を見ると頷き青年をある場所へと連れていく
連れていかれた先には祭壇があり、集団が一斉に祭壇に向かって指を刺す、青年は頷き集団と共に祭壇の前へと歩いていく
青年は白くされど、金色の髪の毛を祭壇の前で切り髪の毛を祭壇に捧げ、その上に託された三角形の…中央に瞼が描かれている何かを置いてから祭壇から離れる
青年を出迎えてくれた人達が一斉に膝をつき、両手を地面につけ額を地面に押し付ける様にまで下げ祈りと言う名の呪文を一斉にぶれることなく完璧に合わさり唱和していく
青年は一斉に呪文を唱えている彼らよりも後ろに移動し、ただただ、その光景を眺める。
「…」
その瞳には何が映っているのか、虚空を眺める様に、虚無を見つめるかのように青年はただただ、黙って儀式を見守り続けた
呪文が地下を埋め尽くす中、小さなちいさな…音が聞こえる
その場所は青年の喉からだ。
小さく、擦れるような音が喉から聞こえてくる。
その音が何を囁いているのか…音が聞こえてくる、薄っすらと開かれている青年の口から呪詛のような声が聞こえてくる
「…これで、君に会えるの?イラツゲ…もう一度、私の名前を呼んでくれる日は来てくれますか?貴女の笑顔が鎖となって私の心を離してくれない、私は、貴女と繋がっていたい、イラツゲ、どうして、貴女は、孤児である私よりも先に月の裏側へと旅立たれたの?ぼくを…私をあんなにも傍に、温もりを…共に生きようと、好きだと、言ってくれた、貴女の笑顔を守る為に私は、僕は、私は…生きようと思ったのに…ずっと、貴女と言う鎖に縛り付けられていたかった、学院に行かないで貴女ともっと、共に歩みたかった…」
涙は枯れ果てているのか、彼の瞳は渇いていた…
「姫様?」
声に誘われ瞳を開けるとメイドちゃんの困惑した顔が見える
「すごい汗です、大丈夫ですか?体調が悪いとかありませんか?度重なる戦闘にお疲れじゃないのですか?」
優しくゆっくりと起こされる、手のひらも額も、背中も汗をかいているのが分かる程に全身が湿っているし、心臓が激しく動いている…
理由は何となくわかる、さっき、見ていた、誰かの夢…
アレは誰の祈りからだろうか?あれは、本当に祈りなのだろうか?
私は…何かと繋がってしまったのだろうか?不思議な感覚がする。小さな耳鳴りもする…
繋がった先に意識を向けるのが怖い、目を閉じると暗き世界に白き点が宿る、追いかけてはいけない。だって、これは、勇気くんが進むな観るなと止めてきた感覚だから…
破邪の力を発動し感覚を遮断する…
もう一度、意識を先の感覚に向けてみる…繋がる様子はない…
もう一度、目を開くとメイドちゃんが心配そうにタオルで汗を拭ってくれている
「大丈夫、たぶん、お風呂入って直ぐに寝たから暑苦しかったんじゃないかな?」
「そうなんですか?…一人でお風呂に入られたんですね…その割に」
ぁ、この部屋にあるお風呂に入ったと思ってるね?汚れていないから嘘ついたと感じてそうだな
「ううん、お母さんに用事があったから呼びに行って一緒にお風呂入ったよ?他にも、他の部隊の人達も居たから、えっと、誰がいたっけ?取り合えず、一人じゃないのは確かだね」
あふ~っと欠伸しながら答えると
「ああ、それでですか、きっと、長湯をしてしまわれたのですね、では、お飲み物をご用意しますね。着替えてからお飲みになられますか?」
嘘をつかれていないとわかったのか嬉しそうな顔、メイドちゃんは嘘に敏感だなぁ…ううん、違う、私に何かを隠されることが嫌なんだろうね。心が弱いなぁメイドちゃんは…
「ん~、トイレとかも行きたいし、先に飲み物が欲しいかな?」
「はい!少々お待ちください」
嬉しそうにスカートを広がせて優雅に冷蔵庫がある場所へとかけていく、されど、足音はしない。
ベッドで飲むほど体が弱っているわけでも無し、立ち上がってテーブルと言うかソファーに移動しようかなっと
ベッドから立ち上がろうとすると視界が一瞬だけ真っ暗になり、暗闇の向こうから何かが見えたような気がした…
直ぐに頬を叩き清浄なる世界へと思考を連れ戻す。
「ど、どうされました?」
頬を叩いた音がメイドちゃんにも聞こえてしまったみたい、慌てて駆け寄ってくる
「ごめん、虫が頬に引っ付いてきたから、つい…逃げられちゃったけど」
「そう、でしたか、虫、ですか?」
眼球をぐるっと動かして虫を探し始める、メイドちゃんだったら居たら即座に潰しているだろうから、おかしいなって思ってそう
「ん~もしかしたら、勘違いかも?寝ぼけていたかも」
「此方こそ、申し訳ありません、もしかしたら虫が居たかもしれません、次はそんな事が無いように徹底的に」
拳を握りしめて振り下ろして叩き潰して見せます!っと意志を示してくれるのは嬉しいんだけど、虫くらい頬っておけばいいよ。
「いいよ~大袈裟だなぁ、虫なんてその辺にいるんだから全てを潰すのは無理だって」
ですがぁっと眉間に皺を作って申し訳なさそうにされてもなぁ、虫一匹近づけないようにするなんて不可能だって
「い・い・か・ら!それよりも喉渇いたんだけど?」
「ぁ、はい!今すぐご用意します~」
スカートをふわっと広げて急いで冷蔵庫がある場所に向かっていく。
たぶん、炊事場でお湯を沸かして紅茶を淹れてくれるんだろうね。
ソファーに座って、何も考えずに天井を見上げていると部屋の中に紅茶のフルーティな香りが広がっていく。うん、この香り、久しぶりかも…
ふぅっと、溜息が部屋の中に溶け込んでいく。
フルーティな香りと違って私の溜息は爽やかな香りじゃないだろうなぁ…
そんな事を考えながら紅茶が用意されるのを待ち続ける。
…ぼんやりとしていると徐々に思考が動き始め、警鐘が鳴り響く。
近いんだね…うん…何となくだけどわかってる。
時計の針が止まりそうなのか、それとも、祈りによって精神が汚染されているのか、どっちかは判らないけれど、残された時間に余裕がなくなってきている。
少し、作戦を早めよう、ここで私が機能を停止したら…全てが終わる。
にっくきドラゴンに一泡どころか、生きていることを後悔させてやるまで、私は止まれない止まってはいけない…翼を捥いで牙を削ぎ落して目玉を焼いた鉄でくり抜いて顎を砕いて口を強引に開かせて毒と言う毒を流し込んでやるついでに熱した油も流し込んでやる…!!
細切れにしたとしても溜飲が下がることなんて無いんだから!!
意志を強く持つ、感情を昂らせる、私と言う個が消えない様に明確な輝きを保つ!
人が持つ感情、その中で私の中で言えば最も強い感情、それが怒り!この怒りさえ見失わなければ今代の私が何かに取り込まれることなんて無い!!…はず。
「ひめ、さま?」
カチャカチャと手に持つ食器を震わせながらゆっくりとテーブルの上にカップが置かれる、いけないいけない、殺気がダダ洩れだったか~☆彡
「気にしないで、ちょっとイラついていただけ、メイドちゃんに怒ってないから大丈夫、ちょっと不手際がっていうか、小さな不幸によって作戦が停滞しかねないなっていう苛立ちが溢れちゃっただけ、ごめんね?」
「は、はい」
殺気にあてられたのか、唇まで真っ青になっちゃった…ごめんね。メイドちゃんが殺気に敏感だっていうのをちょっと失念しちゃってた。




