Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (95)
「行き違いでもあったんでしょ、細かいことはいいや、他の部隊には通達も出してるし合図と共に警戒してくれるでっしょ!今更全部隊に確認取ってる時間も無いからね~、そうと決まれば実戦で説明するからいくよー」
ぱんぱんっと乾いた音を出すように手を叩くと、周囲の騎士が…動こうとしない。
まだ、わかっていないのかな?遠足気分なのかな?んーむ、ラアキさんと共に左部隊に合流してくれた人たちは素直に動いてくれるのに…
一人の名前が浮かぶと同時に、この現状に陥ったきっかけが何なのか全てのパーツが一気に噛み合い気が付いてしまう。
ん?ラアキさん?ぁ、ちょっとまって?そういうこと?そっか、そう、いうこ、と?
はぁ、そうだよね、騎士団の多くがあの伝説の筆頭騎士であるラアキさんと共に戦えれるってことで、ラアキさんがいるからこそ参加表明をしてきたって人達で今ここにいる人達っていうのは左部隊に移動するときに私が選んできてって言ってしまったから…ラアキさんに選ばれなかった人達ってことになる、それで意気消沈してるってことじゃん!
その状況が長く続けているってわかってるのなら何とかしようとしなかったのかな?出来なかったのかなぁ!?人望がないの!?宰相はぁ!?
仕方がない、私から焚きつけてあげようかな。
まずは、目の前に餌をぶら下げてみるか。その反応次第で推察が正解かどうかわかるからね。
「ほらー?動かなくていいのー?これ、前へ進む作戦だからねー?進めば当然、道中で筆頭騎士チームと合流するんだけどー?遅れてもいいのかな?」
この一言で全員が一斉に動き出し、統率の取れた動きで動き始める。
宰相の周りを囲っていた騎士達が慌てて進む道を開けてくれる。
率先して動いている人達の鎧や顔に見覚えがある、確か…ラアキさんに声を掛けられて動いていた人達だ、ほぼ全員がそうなの?…ぁ、宰相の隣にいる人を除いて、かな?
う~ん、喜ばしくないけれど、決まりだね~先の推察は正解ってこと。
ってことは、事の発端、こうなってしまった責任は私にもあるってことだよなぁ~。
でもさぁ、来たい人は全員連れてきて良いよなんてさ、言える状況じゃないじゃん?
開けられた道を術式部隊と共に進んでいく、進んでいくんだけど…全員が敬礼して送り出そうとするんだけど?貴方達も前に出て敵と戦うんだよ?逐一全てに置いて指示を出さないとだめなの?後ろを振り返ってみるが誰も敬礼を解除し持ち場に移動しようとしていないね。
だはぁ~、軍隊は規律を重んじるっていうけれど、多少は各々の判断で動いてくれてもいいんじゃないのかなぁ?
めんどくさいなぁっと感じてしまう。
…ぁ、だからか?ラアキさんが離れたかった理由は、暇だからじゃなくて、有象無象の管理もしないといけなかったから、か…守るだけじゃなくて、一つ一つ指示を出し続けていたから、疲れちゃったんだね…
宰相が馬鹿だから…
ぁー、ラアキさんの苦労が手に取るようにわかっちゃったよ~。合流したら謝ろう。
そうなると…宰相にこの魔道具の主導権を渡すわけには行かない状況じゃん!!
これに渡したら何しでかすかわかったもんじゃない!!
思考超加速を発動!!脳内会議をします!!!
全ての瞳が開き、議題を提案する、部隊の編成を急変するのはどうかと話し合う…
宰相の周りにいる王都騎士団の多くがラアキさんに誘われて伝説の人と共に戦えれるのだと思い馳せ参じた可能性がある
その人物が選りすぐりの人達を選別して激戦区へと向かって行った、自分達は選ばれなかったというプライドが傷つき、意気消沈している
宰相と共に…言い換えれば一応、ピーカは王族、王族と共に世界を救うという大志を抱いている人は…恐らくは皆無かもしれない。
この戦いが一発勝負で、失敗が許されない遠征だと思っていない可能性が浮上
過去に宰相が起こした死の特攻に強制参加させられているのではと勘違いしている可能性も?
捨てきれないっか…
この状態で部隊を維持する方が色々と都合が悪い。
ラアキさんには悪いけれど…
っで、あれば!一芝居うつとしますか~なっと!
「っとと、忘れてた!えっとぉ、部隊の移動編成を~するんだけどー?」
この声に多くの騎士が一瞬だけ肩を震わせ反応する視線を向けたいけれど向けないでいようとしている、ビンゴ!
「実はねー、筆頭騎士様の部隊に応援を送ろうと思うんだけどー…」
くるっと優雅に回って、きゅっと爪先で地面を擦って止めてダンスをするかのように華麗に回転を止め、指先を唇に当て、首を傾け、あどけないポーズをとり
「こことは違ってぇ?とぉっても強い敵がい~~っぱい湧いてくるすーーっごく危険な場所に人員を補充しないといけないんだけどー、私じゃ…選べないかなー?ほらー?私ってみんなの実力を把握しきれているわけじゃないしー?」
言葉の流れからどういう流れに行きつくのか賢い騎士達は直ぐに察したみたい、直ぐにでも手を上げれる様に槍を利き腕から違う方に持ち替えてる…にしし
「だからー、すっごく危険でー、死ぬかもしれない場所にー、行きたい人っているのかなー?出来ればさー、自分から願い出て欲しいかなー?だって、私が選んだら、ほら?死にに行けって言ってるみたいじゃん?行きたい人は手を」
空気が震えたのかと思うくらいガシャっと音が同時に鳴り響き、9割の人が手を上げて
「「俺が行く!戦場で戦う事こそ誉れである!!」」
宣言してくる、その姿を見た宰相が、戸惑いこそするが、うんうんっと頷いて納得している。
どうやら、宰相も居た堪れなかったんだね、四面楚歌だったかぁ…ごめんね、早くに気が付いてあげればよかった。
「わぁお!!凄い!王都が騎士団は勇敢なりし戦士達!!それじゃ、早速だけど!手を上げた人全員、一度街に帰還して、休憩時間が近い人はそのまま休憩してから転送陣を通って筆頭騎士様の部隊に合流!出撃したての人は街に帰還して装備を点検して準備が出来次第!転送陣を通ってセーフティエリアから筆頭騎士様がいる部隊に向かって行軍!頑張って合流して!!以上!復唱はいるかな?」
「「いえ!我らが司令官の御意思のままに!!」」
いくぞーー!!っと声を荒げて一斉に移動を開始していく…
宰相付近には残された1割の騎士だけが残り…多くの足音が聞こえなくなってきた
宰相に視線を向けると、申し訳なさそうな悲しそうな、やるせない表情で此方を見ている。
その表情に此方もへにゃっと困ったね?っという表情で返してあげると、私の仕草を見て頷いてから溜息が零れた。
これ以上、宰相に何かを任せるのは酷ってことだよね、致し方なし!旗の下で静かにしていてもらおうかな?
「ふぅ、ってなわけでー、一旦立て直すよー…湧いて出てくる雑魚共は私が相手するから、ほら、君たちは安全な場所で待機してなー」
しっしっと手を振って宰相を自身のテントにでも逃げて震えてなってジェスチャーで伝えると
「いえいえ!出来ませんよ!僕たちだって戦えます!この日に向けて!何年も訓練を続けてきたんです!」
お役御免、役立たずとして扱われるのが嫌なのか、直ぐ近くまで駆け寄ってきて膝をつき頭を垂れてくる、彼が頭を下げる理由、覚悟、その意志が伝わってくる。
周囲には彼の事を良く知る人物しか残されていない、9割の騎士が移動したからこそ頭を下げることが出来る。
宰相としてではなく、一人の人、私と同じルの名前を与えられた、ピーカとして…
「僕も、貴女の…聖女の守り手として御傍に置いてください、我が使命、清浄なる世界へと導き困窮し道を無くした人々を導く聖女を守ることです」
「良いのですか?貴方が運命を委ねようと願った聖女は私ではありませんよ?」
慈悲深き声で彼の宣言に誤りが無いか確認する。
「ええ、勿論です、我が運命は今代の聖女と共に」
気高き宣言によりお付きの人が涙を流しながら口元を抑えている。
「その心、受け取りましょう。貴方を我が騎士へと任命します、この大地を取り戻す聖戦を共に駆ける一人の聖騎士として清浄なる世界を取り戻しましょう」
「っは!ありがたき幸せ!!」
残った1割の騎士達が拍手し、全員が涙を流している…どうやら、この人達がピーカと共に歩み共に成長してきた心許せる腹心ってことか、なんだ、ちゃんと絆を築き上げてきてるじゃん。偉い偉い…
「頭を上げなさい聖騎士ピーカよ、共に参りましょう」
ゆっくりと立ち上がり見せた顔は、清々しいまでに覚悟を決めた顔だった…
うん、これはよくない!いざとなったら命を捨てる覚悟だ、それはダメなんだよなぁ、君は見届け人であって、命を捨てる担当じゃないんだよね?
君が死ぬと私が君を謀殺したって難癖付けてきて戦争が始まるんだよ?わかってて?
瞳を見ると、奥に力強い光が輝いている、ああ、ダメだ、これは釘を刺しておこう
ちょいちょいっと指先を曲げてちこう寄れっと合図を送り、少しだけ近寄ってきたので、頭を下げさせて、彼の耳元で囁く
「死んだらダメ、貴方は後世に真実を伝える役目があるの、だからね、絶対に生きないといけないの、それを守れたら…全てが終わっても五体満足で生きていたら、お母さんと食事をする機会を作ってあげる」
「…」
っむ、頷かないか…なら
「あと、こっそりとお母さんが身に着けていた物を、あ・げ・る」
すっと頭を上げ
「任されよ!!」
鼻血を出して高らかに宣言されても…
その表情はだらしなく鼻の下が伸び、目じりが下がっている…
使い古した服を渡そうかと思ったけれど、これ、あれだ、下着を連想しやがったぞこいつ!!
「では!我々は聖女様の指示の元!作戦を開始する!!」
鼻血を出したまま振り返って手を上げかっこよく宣言しているけれど、全員、苦笑してるよ?
「先の戦いを想像して興奮しちゃったのかな?鼻血がでてるよー」
フォローしておく…けれど、あまり意味は無いかもね。慌ててお付きの人がハンカチを持って駆けよって手当てをし始めてる。
「それじゃ、此方の準備が整うまで、悪いけれど、前に出れる人は前方及び、周囲を警戒してて!獣が出てきた対処できないと判断したらすぐに私に知らせて!此方に応援部隊が到着する迄!無理をしない!」
「応!」
返事と共に各々が持ち場に向かって駆けだしていく。
さて、私達は勇気くんが到着するまで、耐えながら、魔道具のセッティング及び、試運転っと行きましょうか~。




