Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (８７)
予想外の状況に人型は、弾き飛ばされ自身に返ってくる衝撃を殺しきれずに上半身が後ろへと引っ張られるように後ろに後ずさりしつつも、もう片方の腕を器用に振りラアキさんに向かって拳が突き出される…が、その程度の動きでラアキさんの動きが止まるわけもなく突き出された拳は彼の真横を通り過ぎあっさりと躱され、伸び切った腕に向かって複数の騎士や戦士達が槌を振り下ろし地面に叩きつけ、即座に杭を手の甲にセットし地面に打ち付け腕を封殺する！！
手が長いタイプを倒すときのセオリー通り！！
…その連携に惚れ惚れしちゃいそう。
絶望的な状況へと一瞬で追いやられた人型が狂気を呼ぶような叫び声を大地へ響き渡らせると
「うるさいわい」
何時の間にか、人型の喉元、いや、あそこは下顎の骨が無い部分！そこに片手剣の切っ先を当てていて、一人の槌を持った戦士がいつの間にかラアキさんの後ろを追従する様に追いかけている！！その勢いのまま、彼の背を蹴り高く飛び敵の脳天目掛けて槌を振り下ろすと片手剣の切っ先は敵の顎下から突き刺さり人型のベロが宙を舞う…
即座に片手剣を手放しバックステップで此方に戻ってきながら手のひらをヒラヒラと振っている、槌の衝撃で痺れたのだろう。
「かー！良い一撃じゃ！手が痺れるわい！！」
喉元に片手剣が刺さった人型はそのまま倒れ込み動かなくなり、バックステップで戻ってきたラアキさんは騎士に腕を伸ばし
「剣を寄こせ！」
騎士から片手剣を受け取ると、その一連の流れを何を思って眺めていたのか、森の中に潜んでいた人型が叫び声を上げながら突進してくる！！自爆タイプの可能性が高い！？いや、自爆タイプなら叫んでこない、なら、あれは純粋にただの人型？いやでも、自爆タイプの可能性も！
人型の自爆機構を封殺しようと身構え術式を構築しようとすると
「姫ちゃん！わしのことは気にせんでええぞ！！あれらの危険性は熟知しとるわい！爆ぜるタイプなんぞ！何度も相手取ったわい！！それよりも森を焼くことに集中せぇ！！」
にこやかにウィンクしてくる…！！戦場だっていうのに、安心しちゃうじゃん。まったく、良いカッコしい何だから！！
そこまでかっこつけたんだからね！？二言何て許さないから！！
遠慮なく！私は私のすべきことを成す！！
敵の座標は凡そだけれど掴めた！まだ潜んでいる奴らに先手を打つ！！
目視で座標を確認！大雑把な位置ではなく狙った箇所に術式を構築！
火の術式を行使する！幸いにしてここには
『火の精霊が濃い狙え』
世界が一瞬だけ真っ白に染まりただ一つの存在を感じた…
ずっとずっとずっと…私を見守ってきてくれた、アナタも手を貸してくれるの？
頭に中に響き渡る声を復唱していく、彼に逆らう事なんて私達には出来ない、恐れ多い。
「火の精霊よ、我らはアナタをみることが出来ません、哀れなりし我らに大いなる輝きから解き放たれた火を、顕現していただけませんか？」
見えるはずの無い揺らめきが目の前を通っていくように感じる、知識だけで知る陽炎のような、蜃気楼のような不可思議な煌めき…あれは、なに？
『古き盟約の元、汝らの祖はここにはいない、されど、我ら共に歩み怨敵を穿つ』
「別たれた祖へと捧げ、祭り、祈りを捧げ、大願を抱く我ら人類の敵を」
『…足りぬな、致し方あるまい、悪く思うなよ…』
術式が失敗する！？そんな、アナタにまで協力してもらったのに！？そんなの…そんなの！！巫女である私がアナタの覇道を止めさせるわけにはいかないのです！！
「全力で魔力を回して！！今すぐに！！全ての魔石を空っぽにしていいから！！大急ぎで！！」
後ろを振り返ると私と繋がっている魔石から輝きが消えている！？ついさっき魔力を装填してもらったばっかりなのに！？それも詠唱の一節を唱えただけだよ！？
輝きを完全に失った魔石を見た後方支援部隊が慌てて手持ちの魔石全てを魔力を送信するための魔道具に繋げていき、直ぐに私と繋がっている魔石に向かって魔力を飛ばしてくれる！！
これで如何でしょうか！？足りますか！？お願い、足りてますよね！？まだ、まだ魔石はありますのでどうか、我らを見捨てないでください始祖様！！
『熱よ熱…我らに授けたまえ』
「原初の輝きを我らに授けたまえ」
『天に輝く祖なるは日輪へと届き、汝らの願いをここへ叶えよう、偽りの天を駆け抜け、真なる天へと還り願いを成就せよ』
『フレイムタワー』
術式が発動した瞬間、視界が真っ白に染まり色を失うが、それもほんの一時、次の瞬間には一見える限りの世界が真っ赤に染まる…
観たことが無い世界だった…だって、私が初めてこの術式を成功させた時よりも範囲が、広く、本当に…天に輝く太陽にまで届きそうな程にすごい勢いで火の柱が昇っていく…
それだけじゃない、範囲も広い…森中を覆いつくすかのように火の柱が大地から湧き上がって…ぁぁ、まるで、大地が燃えているかのよう…
『…覚えたな？我らが契約の元、借り受けている精霊への祝詞、それの一小節だ』
余りの激しさに意識が飛びそうになる…ってか、全身の魔力が抜けたみたい
後ろを振り返ると大慌てで魔石を交換しては此方に向けて魔力を飛ばしているのに、魔力が満ちてこない…
『構えよ、巫女よ、待ち望んでいたのがくるぞ』
その声と同時に視線を感じる
『長きを共にしたのだ…干渉はこれで終いだ』
白き清浄なる世界から私達を守り続けてくれた加護に祈りを捧げる…
存在する全ての瞳が、心を一つに束ねていく…幾重にも祈りを束ね、祈りを月へと…ううん、始祖様へ捧げる…
僅かだが、体に魔力が廻るのを感じる…うん、動ける！？僅かだけどぉ、うご、ける！！なら、急いで伝えないと！！
喉だけに力を込めて口を開き、例え頭を起こせなくても勇気くんなら愛する妻の声が届くと信じて！！大きな声を出す！！
「勇気くん！！来るよ！特級危険人型警戒！！方向は燃えている森の奥！！」
「感知したのか！？でかした！全員下がれ！！盾をここに！！」
彼の声にひとまず安堵する。伝わったのなら良し、後は、少しでも、えんご、援護しないと！！なのに…動かないと…いけないんだけど！うご、動かない！？足にちから、っていうか腰にも、ううん、全身が震えて動けない！！
何とか少しだけ首を動かして、視線を後ろに向けてみると、じゃんじゃんと間髪入れずに魔力の光が飛ばされている！！なのに魔石が一瞬だけ光り輝いてすぐに消える！？なんで！？
流れ込んでくる魔力の流れに意識を向ける…ぇ？…あれ？…
不可思議な状況に困惑してしまうが冷静に分析していく。
…最低限の魔力だけが体に廻ってきて後は何処かにきえて、ううん…吸われてる？何処に…？…ぁ！魔力を前借した感じですか！？そういうことも出来るってことですか！？担保があるから返してもらえる保証があるから貸してくれたってことでよろしいでしょうか！？
唐突に突き付けられた身に覚えがあるけれど合意のサインをしていない取り立てに困惑だよ！
人生で初の借金地獄に陥り、返済が終わるまで動けないっというリスクを説明なしにぶち込まれるという予想外の状況に困惑し続ける。
初のコンタクトがこれって、厳しすぎやしませんか！？加護様！？容赦なさ過ぎませんか！？本当の始祖様もこれくらい手厳しい方なのですか！？手心とかない、いや、あるから、生きているのか…私の体を何体魔力へと昇華しても足りない魔力量だもんね…
状況は理解した！思考が、鈍い、それでも！あの敵がくるのであれば、指揮を、指示を、司令官としてやれることが、ある、はず！！うごいてわたしのからだ！！
力を込め、歯を食いしばる力すらないのか、開いた口が塞がらない！
動こうとしても動けなく全身をプルプルと震わせていると、目の前が激しい炎に包まれ襲ってくるだろうと警戒していた敵がこなくなったと判断したのか近くでラアキさんの声が聞こえる。きっと、ラアキさんが傍に駆けつけてくれたのだろう
「姫ちゃんや！わしが…」
声で伝わってくる、動けない状況に陥ってしまったのだと一瞬で伝わったのか、理解してくれたのか
「戦士長！司令官は俺が守る！其方は任せたぞ！」
「済まない！あいつを相手どるのに守っていたら負ける！任せるぞ！！」
ラアキさんが丁寧に抱き起してくれたおかげで、視界が安定する！
助かったぁ、頭を持ち上げるのも辛かったの！！ありがとう！！
敵の動きを視認するために勇気くんの方へと視線を向けると、敵は此方を狙ってくると予想していた通り、予め常に用意しておいた大きな盾を運び、敵が来るであろう方向に向けて盾を構える様に地面に突き建てると燃え広がる炎の中から、小さな光の弾が飛んで！！
「総員対ショック態勢！！くるよ！！」
最低限の魔力は回してくれているから音声を拡張させ現場に声を届け
光が弾ける…
トラウマが蘇ったのか一つの瞳が怒り狂い叫んでいる
叫び声が頭の中で響き渡り、精神が支配されてしまいそうになる…！！
今すぐにでも全ての魔力を一点に集めて解き放ちたい衝動に駆られるけれど！だーめ！返済が終わってないから魔力なんて捻り出なぃ…ぁ、なるほど、衝動に負けて全てを台無しにしかねなかったから、先払いさせたってことですか？ありがとうございます、永い付き合いだからこそ…私を見守り続けてくれたからですよね？きっと、そういう意図があるんですよね？
内側から溢れ出る衝動も魔力が無ければなす術も無く、叫び続けている、その最中でも理性ある瞳は薄めのまま祈りを捧げ続けている。
「っく、恐ろしい程の爆風だな…して、何故故？これを何故、知っているのか。不可思議なこともある、司令官や孫には聞きたいことが山ほどある、だが、今はそれよりもこれをどう対処するのか…じゃの」
爆風の中で聞こえてきた小さな呟きに背筋が凍り付きそうになる。ここで敵に回るなんてこと無いよね？
この後の事は後で考えよう、それよりも、今を乗り越える為に状況を把握しないと！
あの爆発の直撃に耐えられるために作り上げた特製の盾、その後ろに勇気くん。
そして、さらに後方には余波を防ぐために戦士や騎士達が盾を構えて爆風を防ぐように備え構えている。
「俺をみろ！お前らを喰らうは俺ぞ！！」
盾の後ろから姿を現すように横に移動し敵を挑発している！
これで、敵は勇気くんに固執するはず！！
