Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (85)
慌てることなく、戦場に出る為に魔力を私に流し込む為のケーブルを接続し、目を閉じて魔力の流れを確認する。問題なく魔力が全身を巡る感覚によって多くの瞳がゆっくりと開いてくのを感じる。
頷いて問題ないと伝えると、何とも言えない表情で見つめられてしまう、わかってる、絶対に生きて帰ってくるから。周りの視線を何て気にせずに抱き着いてから、テントの外に出ると、既に勇気くんの部隊は出撃している。
私達は私達で動けばそれでよし!
待っていて欲しいとは思っていない、ラアキさんの負担を少しでも減らす為にも先に出るのが正解だし、何よりも投石機で飛ばす為の爆薬を運ぶ部隊を守る為に先行して敵がいれば駆除しておかないといけないので、その判断が正しいし、そうしてもらう様に声も掛けている!寂しくなんかない!これはピクニックじゃないからね!!
ペチペチと頬を叩いて、先ほどまでいた幸せの泥濘から出て気を引き締める。
心を強く持ってから、後方支援部隊達を見ると、全員の顔が気迫に満ちている。
うん、とても良い表情!決死の覚悟が伝わってくる。あの顔なら大丈夫。
私もまだまだ、人を下に見てしまっているのかもね…
ワーム共の波状攻撃を受けたから多少は不安を感じているかもなんて、思ったりもしたけれど、ぜんぜん…そんなことは無かった、以前よりも、戦場に相応しい良い顔つきになってる。
それだけじゃない、普通であればあのような失態を多くの肩に目撃されたのなら心が折れてもおかしくないのに…腕を折られた騎士もしっかりと真っすぐになっている。
あの時のような不甲斐ない結果なんて忘れたかの如く、より深く決意を滾らせた瞳で此方を見つめてくれる。うん、良い顔つき、将来に期待できるね!
拳を前に突き出すと全員が拳を前に出してくれるので一人一人、拳の先を当てていき全員の拳を合わせた後は頷くと皆、頷いてくれる。
行こう!
セーフティエリアから出撃し進んでいくが、敵の気配は一切しない。
お陰で勇気くんが部隊に楽々と合流して、周囲の状況を確認、んー…敵の数が予想よりも少ない?運んだ後?どうだろう?まぁいいか。
投下する支度が終える前に、声を掛けておかないとね。
現場に檄を飛ばしている声で直ぐにラアキさんを見つけたので近くに行き、帰還して休んでいいよっと声を掛ける振り返ってきた表情から伝わってくる、話すだけ無駄じゃない?っと。
「いやじゃ」
つい、眉をひそめて睨んでしまう、私の表情を見て直ぐに顔を逸らし
「そんな怖い顔をしても嫌なモノは嫌じゃ!理由は判ってるじゃろ?わしだけ除け者は酷くないか?わしだって観たいんじゃ!これから凄いのが観れるのじゃろ?特等席で見せてもらわんとな!」
圧をかけても、即答で断られる…物見遊山なら帰れって言いたいけれど、その気持ちはわかる、痛いほどわかる、私だって観たい!!特等席で観たい!!
「わかっとる、邪魔はせん!ちゃんと責務は全うする!司令官を守る、それだけじゃないわい、敵が炙り出されてきたらちゃんと対処するわい!」
そこに関しては信頼しているから良いの、それよりも年齢的に疲れていないのかなっていう心配の方が勝るんだよなぁ…
「それに、満足するまで…老い先短い人生で、この先に二度同じことがあるとは思えんのでな、一生拝めることのない光景を拝んだら休憩しに戻るわい」
満足したら帰る、長居はしないのなら、まぁいいかな?爆弾だって数があるわけじゃないから1時間か2時間くらいで終わるし…
落ち着いてきたらお爺ちゃんなら此方が言うまでも無く状況判断能力に長けているから、私の手が足りてないと思えば手を貸すし、足りていたら帰るつもりなんだろうね。
まったく、素直に、私の事が心配だって、そういえばいいのにさ…
ぁ、私の性格上、それが理由なのだと言われたら余計なお世話だって言って、強引にでも帰らせるか…
地味にちゃんと理解してくれているのが嬉しいような手玉に取られている様な…
駆け引きがお上手で!
はぁ、仕方がないなぁっと小声で呟き
素直じゃない男の子の鎧をカンっと綺麗な音を出してから、準備を進めている持ち場へと歩いていていく。
投石機には、特殊加工された火薬が内包された魔道具が詰まっている、ちゃんと起動ポイントが直ぐに触れるように向きを調整してある。偉い偉い、ちゃんと取扱説明書を熟読している。
これで!何時でも飛ばせれるって、感じ!
しっかりとしているってわかっていても!信頼していても二重三重の確認は怠らないけどね!
物が物だから!誰かがチェックしたから良しはダメ!絶対ダメ!!ってわけで投石機に問題が無いか確認し魔道具もチェック、うん、問題なし。
投石部隊に、投石する着弾点で、どの辺りを狙って欲しいか、地図を開いて箇所を説明すると、事前情報と変更が無いのであれば調整は終えているとのこと。
長い間、これを扱ってきて感覚も掴めてると自信満々で職人の顔をしている。
自信満々に返事を返してくるとは…計算して判断する私には無い部分、職人の感覚ってのは理解できない。でも、彼らなら問題ないっと信頼する。だって、多少ズレたところで問題ない、右部隊が居るであろう沼地を飛び超えて行かない限り大丈夫だから。
爆弾の準備も終わってるし、着弾点も定め終わっている、うん!派手に行こうか!!
勇気くんに視線を向けると頷いてくれる。
勇気くんの視線が横に動いたので釣られる様に視線を動かすと、周囲の騎士や戦士達も盾を構えて何時でも対処できると待ち構えてくれているし、兜の隙間から見える表情からは笑みが零れている。
もしかしなくても、皆楽しみにしてる?男の子だなー!派手なの好きってことね!
見せてあげようじゃん!数に限りある火薬の正しい使い方を!!
準備万端、仕上げは御覧じろ!
手を挙げると一斉に投石機の部隊が反応し全部隊が前方へと警戒する
…言っとくけど、木々が邪魔でよく見えないって言う文句は受け付けないからね!
手を振り下ろすと一斉に投石機から爆弾が投石される!!
投石機から放たれた爆弾が放物線を描き…えがき…森の中に吸い込まれていく…
静まり返る現場…
わかってる、爆弾は着弾と同時に爆発するわけじゃない
地面に落下して直ぐには爆発しないタイマー式だから!
内部にセットしてある起爆用の魔道具が発動するまで時間が掛かる。
つばを飲み込むと
ゴンっと複数同時に激しい音が聞こえ、木々の間から抜けてくる激しい風、地面を揺らすほどの振動が通り過ぎてから、目視できるほどに粉々となった木々の枝が此方に向かって吹き飛んでくる。
木々をすり抜けてまで飛んでくる風と音に振動を浴びた戦士達から、ぉぉ、っと驚きの声が聞こえ「ほっほー!これはまた!あんなの戦争で使われたら城が一瞬で落されてしまうの!」ラアキさんからは不穏な発言が聞こえてくる。
わかってる。こんなの王都に向かって放てば一瞬で王都が陥落するくらいわかってるよ。
この先、人類同士の戦いで用いられるとすさまじい数の死人が出ることもわかってる!未来の事なんて知ったことか!!あいつ等を殲滅しない限り人類に未来が無いからもうそんな事を考えることなんてしない!!
っと、そんな音を拾ってる場合じゃない!木々の奥から複数の地面を蹴る音が聞こえてくる!!
次々と押し寄せる様に生み出される不可視の衝撃波から逃れる為に次々と森から獣共が此方に向かってくる足音が聞こえてきたので、次は私の出番!!
「熱よ熱!運びたまえ、我らに授けたまえ!原初の輝きを我らに授けたまえ!!並びて並べ!帯びて並べ!!並び立つ聳え立つは逆流する滝の如く炎の壁よ!天に輝く円に還れ!!」
フレイムタワー!!toファイアーウォール!!
始祖様が授けてくれた秘術の一つ!
一瞬だけ天空にある太陽をも焼き尽くさんと火柱が伸びる術式!!
+火柱を並べて発動させる術式の複合術式!!
数多くの火柱が木々の隙間から、輝きと共に視え、天に届くほどの火柱が木の頂点を超えて空を朱に染め、木々の隙間から見える世界は朱色に染まっており、爆風が熱を帯びて此方に降り注いでくる、ちょっと近かったかな?ほんのりと熱い。
遠くで聞こえた足音が近づいてくると、獣共の姿が木々の間から見えた。
至る所に火を灯し、転がる様に森の中から飛び出てくると、即座に戦士や騎士達に切り捨てられる。
中型種であろうと大型種であろうと爆風による衝撃と突如足元から発生した激しい炎に焼かれたらひとたまりも無いってことね。普段からこれ程の規模の作戦を行えれ居たら徐々に死の大地を占拠できたかもしれない。
私の時間が人並みに在れば、そんな作戦も出来たかもね…
時間制限っという悲しき運命を何時だって呪いながら過ごしてきた、ふと、そんな事を考えていても、時間は過ぎていく、今も、私の指示なんて無くても時計の針は動き続ける。
「第二射!!放て!!」
勇気くんの声と同時に投石機から爆弾が放たれていく、爆弾以外にも投石機から放たれているものがある、油が入った瓶もちゃんと投げている。爆弾だけじゃ森林を壊しつくすことは出来ない。
表向きは木々を砕き、爆弾の表面に塗っているというかまぶしているというか、乾燥剤などを爆弾の表面に張り付けていて沼地特有の湿気を少しでも減らして木々を燃えやすくする。
ってのが表向きな理由…
裏の理由はね、勇気くんと相談したうえで本当は左奥の森へと投下する予定だった爆弾をこっちに変更した。木々が燃えない様に暗躍しているやつを表に出させる為!!
ここを少しでも早く攻略し、宰相が居る中央部隊を奥へと進めない限り私達が左奥の森を攻略できない!あと、右部隊が居る場所の更に奥地、右奥の平地にいるであろう人型共を引き寄せる役目もある!!
沼地よりも奥にいる人型は魔道具持ちが多いのでは無かろうかっていう推察もあるからね。
左も右も、沼地よりも奥は危険地域!デッドライン付近は全てに置いて危険だもんね!!
瓶の中に詰めてある油も爆発の衝撃によって飛び散るだろうし、何れは始祖様の術式によって油に火がついて朱を広げていく!!はず!!




