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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (80)

車椅子を出入り口に置いて、車椅子からゆっくりと立ち上がるとメイドちゃんが腰に手を当てて支えてくれる。

支えてくれるメイドちゃんに体重を預けながら脱衣場まで歩いていくと、私とメイドちゃんの姿を見ていた一人の女性と目が合ったので笑顔で会釈をすると、姫様!お疲れ様です!っと大きな挨拶が返ってくる、裸で敬礼しなくてもいいのに、仕草的に戦乙女部隊の人かな?軍隊じゃないんだから畏まらなくてもいいのに。

っていうか、その声に、多くの人が反応して此方に向けて一斉に視線を向けてくる。

司令官が居るのだと、多くの人が反応し此方を見ては頭を下げてくれる…ここだけ見れば独裁者か軍隊だよね。

心の中でため息をつきながら、周囲が私に抱いているイメージに困惑してしまう。

おかしいなぁ?愛くるしい姫様って感じを貫いてきたと思うんだけどなぁ?これじゃ女帝じゃね?…女帝だねぇ…

「気にしなくていいよー!っていうか、私もクタクタだから、申し訳ないけれどね、皆に元気な返事を返す余力がね、無いから~…」

皆が困惑するかもしれないけれど、下手に虚勢を張って緊張を維持してリラックスできない状況を作るよりか、ありのままを伝えておくために、声の張りが無く弱々しい声が出る。

見る人によっては情けないと感じてしまう程に弱々しい声で返事を返すと、元気に敬礼までして挨拶をしてくれた人が困惑した表情になる。

実は、私達が知らないだけで戦場は押されているのではって言う不安かな?だとしたら、払拭してあげないとね。

「そうですよ、皆様方。姫様は三日三晩っと言う長い間、休憩も僅かな時間しかとらずに、死の大地で敵と戦っておられたのです、疲れ果てるのも致し方ありません。如何な屈強な戦士と言えど休息は必要です」

その一言で全員が胸に手を当て頭を下げ敬意を示してくれる。

純粋に戦い過ぎて疲れているのだと伝わったみたい、かな?

功労者を称えるのはいい事だけど、そんなに、畏まらないで良いのに。

共に戦っていた勇気くんを見ていると私が純粋に体力が無いだけな気がするんだよね…

封印術式の影響で体力の回復が人よりも遅いってのもあるか、嫌な体質だよね。

「頭を上げて、ここは大浴場、畏まる場所じゃないよ?闘いを忘れてゆっくりしようよ」

「頭を上げてください、各々がやるべきこと、成すべきことをしているのです。共に歩む仲間として、ここは心休めるべき場所で在りましょう」

大きな声を出せない私の代わりに返事をしてくれるのはいいんだけど、仰々しくない?

メイドちゃんって言うか、周りの人達からすると私ってこんな感じの堅苦しいイメージだったりするのかな?私達って軍隊じゃないんだけど?

「「はい!」」

脱衣所に綺麗の揃った可憐な声が反響し、浴場にいる人達が何事かと出てきてしまう。

この流れは良くない、終わらないぞ?全員と挨拶するまでお風呂に辿り着けないかも。

「では、姫様、あちらで着替えましょう」

その事を察したのか、腰に手を添えられエスコートされる。


状況判断能力、人々が求める者が何か直ぐに察し、示すことが出来る

メイドちゃんって指揮官としての才能も秘めてると思うんだけど?

一点の除いてね…


責任が伴う…大勢の命を背負うのが苦手だから、してくれないんだろうなぁ…

彼女が一番、私の影武者に相応しいなって感じてはいるけれど、絶対に出来ないだろうなぁ…

…そんな彼女に押し付けないといけないんだよなぁ、期待に応えてくれることを祈ることしかできない。


彼女に気づかれない様に祈りを捧げていると、何時ものように手早く脱がされていく、阿吽の呼吸で全てをメイドちゃんに任せる。

支えられながら浴場へと連れていかれ、流されるままにいつものように体を綺麗にしてもらい、メイドちゃんと一緒に浴槽へと足を進めお湯に浸かる

「なぁぁぁぁぁぁ」

情けない声が自然と溢れ出て喉から漏れてしまう。

お風呂って最高…全身の疲れが…疲労がお湯に溶けていきそうな程に安らぎを感じてしまうぅぅ。

「お疲れですよね、ご遠慮なさらず、どうぞ、私の体を使ってください」

遠慮しないでメイドちゃんの肩にもたれ掛かるとしっかりと支えてくれる、湯船の中で完全に脱力する。はぁ、至福のひと時だぁ…

「こんなにもお疲れの姫様を見るのは初めてです、少しでも早く元気になってもらいたい、体を癒してもらいたいです。ですが、マッサージができる方が…いらっしゃったとしても、姫様は」

「うん、私は気心知れた人以外に触られたくないからね。だから、いいよ。気にしなくて」

んふ~っと、水面を揺らすように吐息を溢しながら返事をする

小さな声で、どうして私はマッサージと言う技能を会得しようとしなかったのかっという後悔に押しつぶされている囁きが聞こえてくる。

メイドちゃんがそういった技能を会得しようとしなかった理由を知っているから、何も言えない。

その呟きを聞かなかったことにして、意識を休息へと向けるために、目を閉じて思考を止め、水が揺れるのを全身で受け止め、大浴場に響き渡る生者の声に耳を傾けながら心も体も休めていく…いいなぁ、安らぐ、死の大地だと聞こえてくる音すべて敵なんだもん。


人々の営みが聞こえてくる…盗み聞きするつもりなんてないんだけど、自然と頭に入ってきちゃう。音に敏感になってしまった影響だろうなぁ…


運ばれてくる数が多くて解体が追い付かない

そうだろうね~全部隊から運ばれてくるからね、追い付きようが無いと思う。

工場から運ばれてくる魔道具の点検が終わらない

点検が終わらなくても在庫はまだまだ余裕があるだろうから、慌てずゆっくり丁寧にミスが無いように点検してね~

戦場から送られてくる武器の手入れが終わったと思ったら次は防具~

防具が後回しってのが良いね、多くの人が怪我をしていないってこと

食事の支度も大変よね~

前線に出ている戦士や騎士達だけじゃない、後方支援部隊の方達も食べないとね、食堂のおばちゃんだけじゃ手が足りないのは判り切ってるから王都から炊飯担当の人達を多く雇っている。雇って無かったらおばちゃんが一番最初に倒れてただろうね。


などなど、後方支援部隊の人達かな?色んな愚痴が聞こえてくる。

でも、内容的に明るい内容だし、声の雰囲気が明るい、嫌々しているって感じでは無さそう。


薄眼を開けて、声の人達に視線を向けると、達成感を感じている様な、毎日が充実している様な…日々の業務に満たされているって感じ、人類一丸となって頑張ろうとしてくれている。

それだけで、私の心に力が注がれていくような気がする。


うんうん、この感じならまだまだ、私達は闘えれる。余裕がある余力がある。

汗なのか涙なのか、わからない一滴が水面に落ちていくと

「姫様、お顔が赤いです、湯から出られますか?」

心配そうな声が聞こえてくる。ん~。もう少しゆったりしたいなぁ…お湯の中で漂っていたい。

「っであれば、あちらで少し横になりましょう、熱がひいてからもう一度入りましょう。水分もお取りしていただきたいです」

トントンっと肩を叩かれ指を刺す方を見ると、横になる為にセットしているリクライニングチェアがある、のぼせるのもよくないよね。

そこでちょっと横になろうかな。もう少し、この雰囲気を楽しみたいし


頷くと、腰に手を添えられ湯船から立ち上がり、ゆっくりとすり足で歩いていく。

リクライニングチェアに寝かされると、お飲み物をご用意しますねっと一言添えてから走らずされど、早く、進んでいく。重心は非常に安定しているぶれたりしない。器用だなぁ…


絶対に転ぶことのない姿に頼もしいと感じながら背もたれに体重を完全に預け、大浴場の天井が視界に入ってくる、我ながら素晴らしい出来だとほれぼれしちゃう。

天井には月が描かれている。テーマとしては月の祝福、素材も贅沢にたっかい建材を使った!

趣向を凝らしまくった大浴場だもの、天井と言えど飾りつけに抜かりはない!


男湯の天井は太陽にしてある。月と太陽、昔からこの大陸で神聖視されている象徴に見守られる、産まれたままの姿でね、乙なモノじゃない?


壁には富士山を描いているけれど誰も知らない山だから、壁に描かれているのが山だと誰も思わないだろうねぇ…っていうか、この大陸、山らしき山ってのが…

無いんだよなぁ、緩やかな坂が続くばかりで高い山ってのが無い。

山…っとなるのか、死の大地は緩やかな上り坂だから、あれが山といえば、山、なのかな?

王都から、この街に行くまでもずっと緩やかな上り坂だもんな…

ってことは、ここが山、でいいのかな?…山の定義がよくわかんないや。


確か、王都から南にある、殆ど機能していない砦、あたりまでかな?ずっと緩やかな下り坂だから、この大陸そのものが山だったりする?の、かな?…高度とか調べてないから今一つわかんないんだよね。興味もないし。


どうでもいい事を考えていると「お待たせしましたお飲み物です、お体を起こしますね」手慣れた手つきで上半身を起こされ冷たい瓶が渡されるので瓶を傾け中にある液体を口の中に流し込む。


はぁ、五臓六腑に染み渡るぅ…冷えてる水ってさ、こんなにも美味しいんだね…

死の大地で飲む水は常温だから、生温いんだよねぇ…


本当に、昔ってさ、死の大地って寒かったのかなぁ?

そんな文献を見たことがあるけれど信じられないんだよなぁ…

…ぁ、もしかして、死の大地って実は、活火山で、昔は地熱が発生していなくて寒かったとか?っで、今は活性化してきているから地熱が発生しているって事?


でも、地震とかないけど?…小さな揺れはあるけれど、気にするほどでもないし、建物が倒壊するような大きなのは…うん、一度も無い。

ん~活火山であれば地震ってつきものじゃないのかなぁ?

…そういったのって始祖様も興味がないのか知識を残してくれてないからわかんないんだよなぁ…


道しるべとなる答えが無い、それもまた、何時かは解き明かしていきたいなっと知識への飢えを感じ、それは真逆に満たされる感覚が喉から教えられる。手に持っている瓶を振ってみると音がしない。

飲み終えた瓶をメイドちゃんに返すと「お代りは如何ですか?」にこやかな輝く笑顔、これがお酒の席だったら、その笑顔に誘われてもう一杯!って言いたくなるけれど、喉の渇きは満たされたし、もういいかな。

もう十分だよっと返事を返すと、瓶を片付けに走っていく。

足を滑らせることなく器用に浴場をある…いや、違う、小さく滑らせながら勢いを殺さずに走ってる、器用だなぁ…


彼女の小ぶりな後ろ姿を見送り、ゆっくりとチェアに体重を預けてから目を瞑る


視覚が閉ざされたことで聴覚が鋭くなり周囲の音が聞こえてくる。

多くの人が居る…多くの人の声がする…多くの人の気配を感じる。

でも、誰も声を掛けてくることは無い。


声を掛けづらいのであれば…此方に視線を向けてくる人は…少なめかな?

全員が全員、此方を見ているわけじゃない、ちょくちょく視線を感じるだけ。

それも何かしらの意思が込められている感じじゃない。あれ?珍しい人がいるって、程度かな?邪気も、何かしらの念が籠った視線を感じない。


…関心があるようで関心がない、見守られている様な暖かい視線でもない。

他人が他者を見る程度って、感じ、嗚呼、久しぶりだなぁ、殺意が籠っていない視線を感じるのは…悪くない、これが殺意の無い世界。



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