Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (78)
「ほほ、お主は賢くなりすぎやしないか?これもまた、愛ゆえか?いいのう、そうやってお互いを成長させていくものじゃ」
嬉しそうな笑顔で顎を触っている。私たち二人の仲睦まじい関係を純粋に祝福してくれている。
満足気な顔をした後、この先の事を考えてなのか、鋭い眼光を森に向け
「それに、湿地帯と言うのか?湿気が多いのか…森が全然焼けんわい、手前の森はもっと豪快に焼けたというのに、厄介じゃのう…この戦い長引くぞ?」
そうなんだよなぁ…想定以上に、森が燃えない。湿気の影響もあるけれども、そんなの些細な問題ってくらいに燃えやすい油を使っているのに木が燃えない、表面が焦げ付くだけで火が炎へと燃え広がっていかない、火が成長しない。
森の中全てを把握しているわけじゃないけれども、明らかにおかしい。
っとなると、考えられる事がある、私達が火の計略を用いるのを見て、ここも焼かれると判断して何かされたかもしれないし、現在進行形で…火を消しているやつがいるかもしれない。
初手の初手、街から出てすぐの森を焼いているのに、盛大に暴れているのに騒音を撒き散らして人が居るのだとアピールしているのに…
敵が想定以上に少なかったのはこういうこと?…
ってことは、さっきの人型はそれらの作業を命じられていたやつでうっかり遭遇してしまったってこと?…ありえそう。
あいつらにそんな知恵は無いって皆は馬鹿にするだろうが、投石機によって投げた燃え広がりやすいように調整した特製の油が入った瓶、それが地面に激突する前にキャッチされていたら油が木々や地面に油が付着しないので、その後に投げた火炎瓶や先端に火を灯した火の矢が油に着火することなく燃え広がらないってなる。
後は、多少の火であれば、人型の皮膚であれば消せるし、沼地の湿った土を掘り返して火種に泥団子のように投げられたら消える…
消火活動を行っているやつがいる可能性も否定できない…
沼地を毒の沼地へと汚染させている物質が多少含まれている程度であれば人型には通用しない。
…そこまで自由に人型を動かすことが出来るの?なら、どうして今までそれをしてこなかったの?
…動かせれると知られたくなかった?いつか来るこういう日の為に?
…何処まで、私達を見下してんだっての、それ程までに意思疎通が出来るのなら、全力で私達に襲い掛かれば蹂躙できたはずだろう?
何故しない?…ぁぁもう、イライラする!!
抜け出す事の出来ない思考の渦に苛立ちが抜け出れない!
ストレスが山盛りなのも良くない!!お風呂入りたい!!
苛立ちを抑えて、思考をCoolにする!すぅはぁっと軽く深呼吸をして、思考を切り替える。
そうであれば、少し作戦を変更しないといけない…
そういう意味でも一旦帰還して全部隊の状況を把握したい
「サクラ」
とんとんっと、肩を叩かれたので声のしたほうへと視線を向けると戦地だというのに鎧を脱いでいるけど?どうしたの?
「頑張り過ぎだ、僅かな間でも腕の中で休め」
青ざめてクタクタな顔してるのに、もう、男の子なんだから
胸が締め付けられちゃうじゃん。甘えたいけれど、そこまで甘えるわけには
NOっという意志を示す為に手を前に出そうとしたら
「移動の間だけでもいいから休むんだ」
有無を言わさずお姫様抱っこされてしまう。もう、そこまでされちゃ、甘えるしか選択肢がなくなるじゃん。すきぃ…
「よし、抵抗なく受け入れてくれるのは君の好い所だよ」
もう、そんな優しく微笑まないで、勇気くんだって苦しくて辛いのにさ…だいすきぃ…
「すまない!俺達は一度帰還する!時期に応援もくるだろう!それまでの間、ここを任せるぞ」
「「「応!」」」
幾重にも重なり大地を揺らしかねない程の生気に満ち溢れた声に張り詰めた緊張の糸を切ると、一瞬で意識が泥の中に吸い込まれていく…
目が覚めると見知った天井、嗚呼、天井があるって何て安らぎを感じるのだろうか…
体を起こそうとする…うん、体を動かし過ぎたつけってことね…ピクリとも動こうとしない!
んー、来る日に備えてさ、私なりに頑張って運動し続けてきたんだけどなぁ…
私って筋肉がつかない体質なのかなぁ?
…それとも、とっくに私の体は寿命を迎えていて、ギリギリ動けているだけ、なのかもね。
短命種が生きてきた中でも長生きだもんね?今って…確か19歳?だっけ?そこらへんだもんね。長生きしてるよね…
…ぁ、違うわ20歳になってたかも?忙しすぎて時間の流れがわかんなくなってきてらぁへへへ
はぁっと、体の悲鳴から逃れたいが為に溜息を空中へと投げ捨てていると
「失礼しまーす…あ!姫様!起きられたのですね!」
声と共にドアが開く音が聞こえた。眼球を動かしても誰か見えないや。
声の感じからして医療班の人、かな?優しそうな声が聞こえてくる、申し訳ないけれど、そこは視線の外だから顔が見えないや
首は…うん…
「起きましたー、今の状況を把握している人っているのー?」
首を動かして相手を見たいけれど首すら動かせれねぇ!なので、不躾だけれど声だけで相手をすると
「はい!少々お待ちください、連れてきます」
ドアが閉められる音と共に廊下を走っていく足音が遠ざかっていく…こういう状況であれば、廊下を走ってもセレグさんに怒られることが無いと思うから瞬間に湧き上がった申し訳ないという感情を思考の外に捨てる。
さて、待っている間に、思考を巡らせようと…
思考を加速させようとしたけれど、一つの瞳が警告を出してくる
『魔力が無い』
ぁぁ、そっか、ケーブルから外されているのか、長い間つけているからついているのが当たり前みたいな感覚だった、いけないいけない。
なら、思考を加速させないで、寝る前の戦況を思い出しておこう。
「起きたのか、隣失礼するぞ」
ノックもしないで部屋に入ってきてバタンっと豪快にドアが閉まる音がしたと思ったらベッドの隣に椅子を運んできた音がしてボスっと豪快に音を出して座ってくる。
ここが病室だって言うのに我物顔なんだから…
まったくもー、そういうデリカシーが無いのは減点対象だぞ?っと…
「…うん、顔色は良くなっている、といってもそれはお互い様だな」
覗き込んでくる顔も真っ青だったのが嘘みたいに血が通って赤くなってるので、目を瞑って唇を少しだけ尖らせてみると
「甘えん坊さんだな」
軽く唇の先に柔らかいのが触れる、にへへ
それだけで蕩けちゃいそうだよもう、にへへ
察しの良さは加点対象だぞっと、にへへ
「起きてすぐに状況を把握したがりな真面目な司令官には報告しておくのだが、どうする?起きるか?横になったままが良いか?」
起こしてくれるのなら起きたいかな?このままだともうひと眠りしちゃいそうだもん
「わかった、では上半身を起こすぞ」
起こし方が手慣れているのか首の下に手を入れられゆっくりと上半身が起こされる
上半身が起こされたら背中に枕などのクッションを詰められて隙間が埋められていき起座位の姿勢にしてくれる
「…なんで、慣れてるの?」
「ん?…ああ、訓練の賜物だな!俺達だって戦うだけじゃなくてこういった事も医療班の方からご教授してもらっているからな、役に立つ日がくるとは思っても無かったよ」
ほへー…そんな事もしてたんだ、合同練習とか勉強会を実地しているのは知っていたけれど、細かい内容までは把握してなかったんだよね。確かに、戦場で応急手当する時とかに起こし方とか知っているのと知らないのじゃ違うもんね。
「それだけじゃないぞ」
直ぐ近くにあるテーブルの上に用意されている果物が入っている籠から、一つ手に掴んで見せてくる。
リンゴを手に持ってどうしたの?
手慣れた手つきで果物ナイフでリンゴを切っていく、リンゴをくるくると回して皮をむいてから六等分にカットしてる
「給仕の仕事も手伝っていたからな!これくらいならお手の物だ」
ふふんっと自慢げに見せてくる、王様っていう立場だったからこういうのが出来ないと思っていたんだけど、やるじゃん?
「簡単な料理くらいなら造れるようになってしまったよ…人は成長できるものだな…む、ユキよ、許せ悪かった、お前の技術を借りただけだ自慢げにするなって怒られてしまったよ、ははは」
なんだ、影ながら料理にでも挑戦していたのかと思ったら、ユキさんの技能だったか。
「そうだ、種明かしをするとリンゴの皮向きはユキの技能だ、あいつは母の手伝いを何年もしてきているから実は簡単な料理の一つや二つは出来るぞ…少々大雑把だがな」
悪態をついたと思ったらすぐにしかめっ面になる
「悪かった、許せ、怒るな」
どうやら、頭の中で怒鳴られているみたい、っふふ、仲のいい兄妹だよね。
あーんと口を開けると口の中に切ったリンゴを放り込んでくれる。うん、美味しい…
リンゴ独特の歯ごたえを感じていると
「さて、お戯れはこの程度として真面目な話をする、君は口の中から得られる癒しを感じながら聞いてくれたらいいさ」
頷きたいけれど首が怠すぎて動かせないのでぱちぱちと何度か瞬きによって返事をすると、ふふっと軽く笑ってくれる
「それで通じるのもおかしな話だな、和ませてもらったよ、かといって悪い知らせでもないが、現状報告だ司令官」
真剣な表情で伝えられる報告の数々。
右部隊、カジカさんとマリンさんによる沼地攻略は順調で沼地に毒を投下し沼地から溢れ出てくる鰐などの危険生物を除去し続けている。
このペースで行けばあと四日もあれば沼地全域を完全なる毒の池へと変貌できるだろう
宰相方面は、森を殆ど焼き終えて、沼地方面から炙れ出ていきている小型や中型種との交戦が続いている。
此方も、戦力的に余裕があり問題なく対処できている。
君が用意した武具や魔道具が活躍しているとのことだ。
宰相方面は街からも近いから豊富な資源によって全力で相手を滅殺するほどの飽和攻撃が出来ている、宰相だからこそ用意できる王都が備蓄していた火薬などを用いた兵器も大量に用意している。
大局を見ると、本来であれば宰相の方面に敵が集中する恐れがあった、それゆえに、爺さんを宰相部隊から動かしたくなかったっという部分もあったが、されど、君が危惧していた事態は起きえていない。
爺さんを左部隊へと動かしたのは素晴らしい采配だと周囲も納得しているさ
俺達が派手に暴れている影響によって敵は左サイドに集中しつつある。
だが、右側に動きがあるのは変わらない。
それに対してはマリンさんとカジカさんが対処してくれている。
右部隊からは応援の要請が無い、物資も運び続けているし、右部隊が築いた基地に設置した罠が使われることなく順調だ。
そんな状況下でも、余裕があるのか…彼からの伝言だ。
敵の数は多い、されど、予定の変更は無い、心配はいらないのであるっという強気な言伝も頂いているので問題は無いだろう。




