Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (76)
陽だまりに包まれてる様な心地よい空間を漂っていると、僅かな揺れによってゆっくりと陽だまりから救い上げられてしまう。
泥の中から這い出るような感覚ではなく、何時までもそこに漂っていたい感覚が後ろ髪を引いてしまう。
そんな事を感じてしまう程に、寝ぼけていたら、気が付けば身支度を済まされ、お尻を叩かれる様にテントの外に出されると、漲り溢れる英気に満たされた精鋭達の準備も整っており、私を見るなり頷いて出迎えてくれる。
その精鋭の中に新しい新顔もいる。ラアキさんだ。
組んだ腕を解くことなく口角を少しだけ持ち上げてニヒルな笑顔で出迎えてくれる。その周囲にはラアキさんによって選抜された王都騎士団の中でも指折りの精鋭達がラアキさんに劣らず気迫に満ちた表情をして待機している。
心なしか、ラアキさんに似ているような気がする人達…
まさか、ね?
一族総出ってことないよね?
筆頭騎士の一族全員とは顔を合わせたことが無いし、かなり昔に一度だけしか会ったことない人が殆どだから覚えてないんだよなぁ…
それにさ、流石に…王様を守る為に王都に残ってる、よね?普通に考えれば、うん、きっとそう。他人の空似空似…
精鋭達も漲っていることだし!さぁ出撃だよ!!
大きな声を出すことが出来ないので声を出さずに腕を上げると全員が得物を天高く掲げ口を大きく開けて叫んだ振りをしてくれる。
セーフティエリアにいる多くの人達に見守られながら、戦士長が待つ場所へと出陣する。
死の大地を歩いていて実感がわく、体が軽い!
幾ばくかの僅かな休憩だけど、心も体も癒された。これで私はまだ戦える、心の力でも体力でも!
…これも全部、お母さんのおかげだよね。たぶん、私が寝ている間にマッサージとか軟膏とか色々としてくれたんだと思う。
あの人が傍に居る限り、私は見失わない、闘う理由を…
命を賭しても立ち上がらないといけない始まりの感情を思い出させてくれる!!
後ろを振り返り、セーフティエリアがあるであろう場所に視線を向けてしまう。
いってきますっと念を込めると…
『いってらっしゃい無理するんじゃないわよ』っと、聞こえてきたような気がした。彼女の声は、何時だって道しるべになってくれる。
な~んで、こんな良い女がモテないのか不思議だよね?…なんつってね、理由なんて明確だよね、あの偉大なる戦士長を超えれるほどの漢気を見せれる人がいないだけ。好きになったとしてもね、挑むこと自体が恐れ多いって感じだよね?…だよね?
心の中で偉大なる戦士長に文句を言ってしまいそうになる。
どうして、死んでしまったのって…
愁いからくるせいか瞳を潤わせながら見えないお月様を見る様に空を見ていると、肩を叩かれラアキさんに小さな声で質問を投げかけられる。
質問内容は作戦概要の変更などが無いかってことね。
目的の場所に向かう道中の間に作戦概要を口頭で伝えると、鋭い眼光でされど、その先にある楽しみによってか口角を上げて、小さく、やっと出番が来たのかと呟き、新しいおもちゃを前にしている子供のように嬉しそうにしている。
子供のように無邪気な笑みを浮かべている人を見て、本当に前に出しても良かったのか、悩んでしまう。
何故なら、衝突が激しくなってきたのも、ラアキさん、または、宰相を前に出させる為じゃないかって言う意図を若干、ほんの僅かだけれど、感じているから。
流石に、先生と言えど、始祖様が生み出した壁の向こう側に何かしら策を講じてくるとは思えれない、思えれないんだけど…
先生ならって嫌な予感が抜けきれないんだよなぁ…
ん~…出来る事なら、彼は…彼の最も得意とする分野で活躍してもらうためにも前に出したくなかったなぁ…でも、ん~…出さざるを得ないよなぁ…獣達に私達が追い詰められる方が良くないもんなぁ…
彼の役割はね、獣よりも人との闘いの為に直ぐにでも引き返せれる場所で待機していてもらいたかったんだよね。
だから、宰相と共に動いていて欲しかったけれど…
しょうがない、想定以上に此方側が激しいのだから。
王都で何かあっても、情けない男は、あてにならないし、あれの精神性を考えるとあれが起爆剤となって爆発しかねないよね。
うん、王都を守るのは、司祭に任せよう…
最悪、情けない男が狂気に走ったとしても、ね…
もし、そういう事態になってしまったときの切り札も用意してある。
叔母様には申し訳ないけれど、司祭の命をもって王都を守ってもらう。
因みに、叔母様にその切り札の事を伝えたら、司祭の事を想ってか叔母様本人が連絡を取ってくれた。
だからこそ、彼は頷いてくれた命を捨てる覚悟を決めて…
愛する人の願いであればと…
そうなるように仕向けたのだろう?って?
…うん、そうだよ
…私はズルいから
その人が最も頷いてしまう状況を用意して相手が引き下がれない様にしている。
あの人はね、愛する人を失った悲しみを背負って生きた人であり、尊敬する先達者達が次々と目の前で処刑されているのを見てきた人だから、死に対して臆病だって叔母様が教えてくれた。
死にたくないから司祭以上の席に座らないと決めている人だってシスター達からも教えてもらっていた…なのに私は命もって罪を背負う方法を押し付けた。
普通に頼んだら絶対に断られるとわかっていたから、叔母様に頼んだ。
私は悪い子…だから、罪は私も背負う、死罪にはさせないからね。
…生きてたらね。
今にして思えば、この大陸で起きている暗躍、全てを辿ると私に行きつく様な気がしてしまう。
それ程までに今回の作戦の為に私は、私達は動き続けてきたからね。
言葉巧みに騙して色んな場所から協力を取り付けたからね。
だからね、成功して大地を取り戻せば英雄、失敗して大地を取り戻せなければ魔女扱いで極刑ってね!
そんな事を考えながら説明しているなんて、お爺ちゃんは思っても居ないんだろうな~…下手するとね、この人だったら孫達とちょっと刺激的な野生動物(偽)と戯れることが出来るピクニック気分なのかもね…
セーフティエリアからずっと、終始ご機嫌だよ。ず~~っと笑顔だもんね。
鼻歌が聞こえてきそうなくらい能天気な雰囲気がずっと漂っている。
足取りが軽やかなお爺ちゃん達と、共に我が物顔、つっても、極力気配は殺しながらだけどね…死の大地を進み続ける。
気配を殺してはいるけれど、投石機や、投石するための油や、支援物資を運ぶために一緒に付いてきている支援部隊もいる、この大所帯であれば目ざとい獣共が気が付かないわけがないのに…セーフティエリアから戦士長である勇気くんが居る場所まで獣と一体も遭遇しない辺り、小競り合いをしていた時は大きく違う。
獣達も色んな場所に移動しているのかな?
ある程度、分散できているのであれば作戦通りだけど…ん~疑心暗鬼になっちゃう。
作戦通りであれば!私達も動きやすくなるんだけど…
ううん、このタイミングで仕掛けるのが正解!突き進むのみ!!
確実に敵の安息の場所を奪い殲滅する!
そして、見つけて出す、お前たちが生産されている場所や、お前たちを動かしている頭をな!
邪悪な笑みと屈託のない笑みを浮かべた何処からどう見ても悪の旅団のような雰囲気を纏った一団が到着した場所には、無数に散らばる敵の死骸が転がっている。
死骸の中心に戦士の一団が鎮座しているので声を掛けると手を振ってくれる
一団の中心にいる戦士長の傍に駆け寄り状況を確認すると
森からあぶれてきた中型種と大型種の殲滅が終わったところ、とのこと
大地に転がる死骸を見ると、言葉の通りだけど…この数を少ない人数で対処でしきれてしまうあたり、戦士長のチームが純粋な武力で言えば一番高いのかもしれない。
そりゃ、私+勇気くん+マリンさん+カジカさん+ラアキさんで動ければ最強だけれどね、それをするわけにはいかない、それが許される様な規模の作戦じゃないんだよね~。
一点に極大戦力を作っちゃうとね、全体的に見ると、他の戦力が大きく低下しちゃってさ、極大戦力には適度に強い駒をぶつけて注意を引き付けて動けない様にして、その隙を突いてこないわけがないんだもん。
本音を言うと最大戦力で一点突破っていうロマン染みた作戦で動きたいけどね!
此方の戦力を分散させられてしまうのはさ、歯がゆいけれど、こればっかりはね?仕方がない。強行突破!一撃離脱!ってわけじゃないからね。
私達が展開してる作戦は欠片一つ残さない鏖によって完全勝利とする殲滅作戦だからね…あいつ等をこの大地から一欠けら残さず駆逐するのが目的なんだもん…
状況説明などを受け取ってするべきことを考える。
ひと段落ついているのなら、今のうちに消耗した武器の交換などをした方がいいよね。
後方支援部隊に運んできた武器を交換してもらう様に声を掛けると、急ぎ足で武器を持ってきてくれる。
戦士達が武器を交換している、その間に、勇気くんと今後の予定を相談する。
現状では、街を出てすぐの森は完全に焼けていない焼け切っていない。
作戦を開始する前に話し合っていた予定だと、私と勇気くん部隊で挟撃する様に森を焼く予定だったんだけれどさ、此方側が想定以上に敵がひっきりなしに攻めてきたから、予定が変えたんだよね。
勇気くんがこの場を受け持ってからの状況を聞く限り、激戦は続きそうな予感がする。当初の予定通り街から一番近い森を焼いている暇なんて無いんじゃないかな?
近くの森であれば、宰相部隊だけで焼きつぶしてくれる、かな?
っであれば、此方側で敵をある程度、挑発したりして宰相方面やカジカさん方面に流れない様に受け持ちながら…作戦を進めていくべきかな?
っとなると、沼地の攻略を早めた方が良いかもしれない。
沼地と隣接している森や、左奥の森、この二つの注意を引き付ける為にも、ここで騒ぐように大きなアクションをしつつ、沼地に隣接している森に火を放つ。
余裕があれば、あわよくば左奥の森も焼きたいね…ラアキさんもいるから部隊を分けることも可能だし、タイミング次第、敵の出方次第じゃ不意打ちぶちかましてやりたいよね!!
そうやって暴れまくって敵の注意を此方に引き付けている間に、カジカさん部隊に沼地を攻略してもらおう。
宰相たちは引き続き、沼地と私達の街の間にある森を焼き続けてもらおう
そうすれば、沼地の攻略が終わるころには宰相も駒を進めることが出来る、かな?
二人で相談しあい、効率性も、安全性も考慮されているので概ね問題は無いと判断し、その方針で行こうと決まる
決まったらすぐに伝令を飛ばして作戦を開始させたいので、後方支援部隊と一緒について来てもらった伝令班を手招きして近くに来てもらう。
伝令班に先ほど決めた方針を各部署に伝えてもらえるように指示を出し、伝令班が間違わない様に確認の為にメモ書きを復唱していると…
セーフティエリアがある方向から、一人の騎士が走ってくるのが見える…嫌な予感しかしない




