Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (72)
「して、我らが姫様」
ん?希望溢れる感じで〆たと思ったんだけど?何だろう?まだ何か聞きたいことがあるのかな?…真剣な雰囲気だし、軽い話題ではない感じかな?
彼に釣られて気を引き締めると
「セーフティエリアに帰還したのち、再出撃となりますが、一旦転移陣を通って我らの街に帰還されますか?」
予定の確認だった、色々と最初の考えていた予定とは変わってきているからね、臨機応変にかえていくべき、っていうか、元々、この盤上…どう動くのか未知数すぎて出たとこ勝負だからね、後の先を突く!つもりで動きたかったけれど、流石は先生、私の考えの外、虚を突いてくるのが上手い…
何となく、本当に何となくだけれど、これをされると嫌なのだろうなっていうのは感じているんだけど…
困ったことに手が足りない、圧倒的な破壊力を持った駒が足りない…
やっぱり私じゃクィーンに成れはしない、ってことだろうね。
頑張ってみたけれど私では王の傍に居る金ってのが関の山って、感じかな?
飛車と角両方の性質を併せ持ったクィーンにはなれないや。
心の中で己の不甲斐なさに溜息を溢し現状を再確認するために視線を右往左往させていく。
後方部隊を護衛していた騎士は腕が折れてるから絶対に帰還させるべきで、他の人達は特に大きな怪我はしていないし、装備も軽い修繕でどうにかなりそう、帰還する必要はないかな?
本音を言うのであれば、時間的余裕があれば帰還したい!お風呂に入りたい!皆にも美味しいご飯を食べて欲しい!…そうしたいけれど、出来ないかなー。
投石機の準備も急いでもらったら、たぶんだけど、あと30分もすれば終わるんじゃない?
だから、休憩するとなると余裕を持って30分から50分の間かな?…短い。
我儘を言って良いのなら!お風呂入って2時間くらい寝たい!!だけど!…少しでも、敵に時間を与えたくない。思っていた以上に敵は此方の様子を伺い一手、ううん、二手三手先を読んで行動しているっぽい。
だからね、悠長に休んでる時間なんて無いんだろうね。だから、準備が出来次第えっと、たぶん、50分くらい休憩かな?悠長な時間は無いけれど、切羽詰まった状況でもない、焦りすぎても良くない!準備を怠るような事はしてはいけない、急かしてしまってミスが出る方が、後に響く!
瞬間的に予定を組んで、皆には申し訳ないけれど街に帰還せずに英気を養ってほしいと伝えると
「っとなると、美味しい食事にはありつけそうもありませんなぁ」
周囲から一斉に深いため息が聞こえてくる…
その理由がどうしてなのか、知っている。
とある一説では戦場に置いて士気に最も関わると言われているのが食事らしい。
食事内容が酷過ぎると、戦場で戦う兵士達の士気が落ちて敗戦したっていう話を聞いたことがある。
勿論、私としても士気が下がるのを防ぐためにも現場に出る人達は交代制にしたり、過密なスケジュールにしていない…んだけど、今回のはイレギュラー過ぎた、毎度このペースで人型奇襲を仕掛けてくるとは思えれないけれども…勇気くんの部隊も無理をして森を突き抜けてきてくれたんだもん、それに応えるためにも多少は無理をしないとね。
でもなぁ、最初に決めた流れをドンドン変えていくってのもなぁ、折角みんなと一緒に話し合って考えたってのに…ちょっとジレンマだよね。
聖戦を開戦宣言する前に各部署と話し合って決めたのにね…
そりゃぁ、出来る事なら、長い闘いを見据えているからこそ、街に帰還して英気を蓄えてもらう為に帰還して欲しい!
余裕を持って部隊を交代できるように、騎士や戦士達の部隊を細かく分けて編成しているってのにね!
っま、そんな優しい考えも序盤だからこそだけれどね…
終盤は易々と帰還できないかもしれないからね…
セーフティエリアも今の位置よりも、かなり奥深くに設置する予定だからね。
最終セーフティエリアの予定地点は沼地と隣接する森を焼き、デッドラインまで10分ほど歩けば辿り着けそうな程の近距離に構える予定だからね!
そのころにはセーフティエリアっていうよりも最終最前線基地になるかな?
そこに全部隊!宰相部隊も合流して総力戦をぶちかます!!
宰相には悪いけれど!トラウマを克服してもらうからね!進めば進むほど悪夢にうなされ足が震えるかもしれないなんて言ってる場合じゃないっての!
…お母さんも、愛する人と別れてしまった場所のすぐ近くで医療テントを設営することになるから、穏やかじゃいられないかもね…
悠長な時間は無い、急ぐべき!勇気くんとも合流出来たからガンガン攻めていくよ!って言いたいけれど、かといってさ蔑にするわけにもいかないんだよね。
ほら?私と共に街から出撃した部隊は連戦で疲れてはいるだろうけれど、出撃時間は短いじゃん?それよりも、長く出撃しているマリンさんと共に出撃していた部隊は街に帰還してもらうべきだよね!
ってことで、マリンさんと共に出撃していた部隊は街に帰還!出撃したての私と共に出てきた部隊は小休憩!
「ぇっとね、マリンさんと共に出撃していた部隊達はね、街に帰還して4時間くらいは休憩してきていいからね?っていうか、休憩してきてよ?私と共に出撃した部隊はさっき伝えた通り30分から50分くらいの小休憩をセーフティエリアでとってから、戦士長と共に森を焼く作業に入るからね?」
ぉぉっと、小さく驚きの声が聞こえてくる、もしかしなくても、街に帰還するとは思ってなかった?マリンさんと共に出撃していた部隊は流石に一旦休憩しに戻ってくれないと、体力が持たないでしょ?
「はは、お前たちは美味い肉でも喰ろうてこい、俺らは…アレを食すとしますか…のぅ…はぁ…あれは慣れぬなぁ…無いよりかはマシなのだろうが…舌が豊かになってしまった弊害っというやつじゃな…」
渇いた笑いに哀愁が上乗せされてるよ?うん、言いたいことはわかる!
セーフティエリアとはいえ、死の大地!周囲には鼻の利く獣共が何処に潜んでいるのかわかったもんじゃない!
ってなるとね!
キャンプみたいに堂々と匂いが溢れ出るような料理をするわけにもいかない!
美味しい匂いなんて漂わせちゃったらここに人が居るぞ!ってね、敵にアピールするようなものだもんね!出来るかっての!隠蔽部隊がしっかりと認識阻害の術式を展開してくれているけれど、匂いに敏感な獣に見つかる恐れがあるっての!
そんなわけで、私達にはアレがある!
携帯栄養食である、古より伝わりし完全栄養食である丸薬がある!
けれど!そればっかりだと本気で心が病むからって理由でね、セーフティエリア限定で食べられる食事を配備してある!…あるんだけどさぁ、無臭の食べ物を用意してあるんだけどさぁ~…
味を思い出してしまい背筋の上を虫が這うような寒気で震える…
思い出すだけで溜息が出てしまう、美味しくないから!
食ってさ思っていたよりも、香りって重要なんだなぁってたったの一口で心底痛感させられたよ!
…そんな絶望的に不味い食事を…用意してある。
ぶっちゃけると今すぐにでも捨てろって言いたくなる!!
…でも捨てれない!もったいないから!!
あー、嫌な思い出が一気に蘇っていくぅ…記憶力が高い自分が恨めしい…
ほら?あの完全栄養食として生み出された古くから改良が出来ずに味について悩まされている丸薬ってさ、慣れたとしても不味いモノは不味いじゃん?
それをね、食べやすくできないのかって、昔はね?会議の議題が昔は上がることがあったんだけどね、最近だと話題にすら出ることが無くなってたんだよね。
仕方がないとは思うよ?過去にどうしようも出来なかった歴史があるから皆諦めているんだよね。だから、話題にすら出なくなっていたんだよね。
だからといって今回の作戦を考えればメスをいれないといけないってかんがえたわけ!
食事と言う部分で皆の士気を下げたくないからさ、作戦を陰ながら支える完全栄養食として丸薬以外に食べやすくて士気が下がらない食べ物を開発をしたいって議題を出したんだよね。
予想としては誰も意見を出さないから長丁場になって結局私預かりになるんだろうなぁって思っていたら予想に反してね、待ってた人物がいたんだよね。この議題が出るのをね…
隠蔽部隊部隊長が虎視眈々と狙っていたみたいで、議題があがると直ぐに挙手して任せてほしい!その議題に挑んでみたい!ってね…
彼に関しては多少問題行動が見受けられるけれど、決して悪い人じゃないし、彼の実家を思えば伝手があるのかもしれない…なら、任せてみるのもいいかなってね。
それだけが決めてじゃないよ?
ここまで自信満々に直ぐに挙手するってことは、何か策があるのかもしれないってね!
なので、新しく保存食を開発して欲しい!出来る限り無臭でって、うん、彼に一任したんだよね…確かに言ったよ?GOサインを出したのは私だよ?…
準備も大詰めって時にさ、幹部の人達は食堂に集まって欲しいって呼び出されて何事かって内容を確認すると、丸薬の代わりとなる保存食が出来たっていうからさ、食堂に出向いたんだよね。
食堂に集まった幹部の皆もそんな議題があったねって、完全に忘れてきたころだった…
用意されて出てきた試作品はテーブルの上に置かれているのに匂いで気が付かない程に、ちゃんと限りなく無臭にしてあったんだよね。
ゼリーの中にビーンズが入ってた。
食べ方はスプーンですくって食べるって感じ。
見た目も、悪くは、なかったんだよ?
珍しくちゃんとした物を開発して来たんだって驚いちゃった。
ゼリーによって匂いを外に漏らさないっていう発想に拍手したくなったよ!
ただね、出されてからの一言で一気に不安になったんだよね…
完全栄養食である丸薬をベースにしたって…
なんで?なんでそれをベースにしたの?って胸ぐらをつかみたくなっちゃったの初めてだよ…
予想外な説明の一文がさ唐突に読み上げられて、一気に不安になったんだよね…
その一言で目の前にある清涼感漂うゼリーが一気に禍々しいモノに見えてきたんだよ…
これ本当にビーンズ?豆?ゼリーの中にあるのって、ビーンズ…だよね?
その一言のせいで誰も手に取ろうとしない試作品…
GOサインを出したのは私だから私が食べないといけないっていう周囲から漂う無言の圧力…
責任者としてGOサインを出したものとして意を決してさ!
試しに器の中に入っているゼリーをスプーンで掬ってみて、まずは、香りをチェックしたんだけどしっかりと無臭だった。




