Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (66)
パワータイプの眼球が左、右と周囲を警戒する様に素早く流れるように動く。
状況を博してから、此方を見据える。
目が合う
視線が離れない…そう、ターゲットを指定されているってことね。
その離れない視線が何を意味するのか、その意図が正しいのだと敵の動きが語り掛けてくる。
此方まで振動が伝わってくるほどの力で、大地を蹴って私に向かって走り出そうとするが「行かせるわけには行かないな!」盾を構えた二人が進行方向を塞ぐように立ちふさがる
盾を構えている二人の得物は腰に装着してる片手剣のみ…一旦下がって他の人達と交代するのが定石だけど!
魔道具持ちが此方に向かってきている以上、時間が無い!
戦士達に任せて憂さ晴らしをしてもらいたいけれど、時間が無い!
ソニック音波で前に出ている戦士二人に指示を出す。パワータイプに聞こえないようにね!
聞こえたみたいで、軽く頷いて手甲で盾の内側をコンっと小さくノックして合図を送ってくれる
歌って!
愛する人が私だけを見つめて欲しい願いを!!
一つの目が開き歌う
パワータイプの進攻を防ぐために盾を構えて前へ進もうとするパワータイプと睨みあっている二人の背中が一瞬だけ体が跳ねる、驚くよね…
パワータイプが両腕を後ろに引き豪快に盾を構えている二人に向けて捻りを一切加えない純粋に前へ押し出すだけの拳を繰り出すが、その程度の動きであれば戦士達にとって受け流すのはいともたやすい
盾で拳を受け止めつつ、衝撃を後方へと逸らし、軽く戦士達の足が浮き衝撃を抜けさせる。
敵の攻撃によって戦士達は少しだけ後方へと動かされてしまう、これは致し方ない、あの力を正面から受け止めてしまったら盾が壊れるし、下手すると腕が折れる、最悪、腰骨が逝く。
それを見たパワータイプはこれを繰り返せば前へ進めると判断したのか先ほどと同じように、されど、より強く、上半身を後方へと仰け反らせ力を貯めている。
渾身の一撃で盾を構えている邪魔者を吹き飛ばして道を開こうって事でしょ?
っふふ、パワータイプはそれくらい単純で単調でお馬鹿であって欲しい
力を貯め終えたパワータイプが拳を前方へと放とうとした
戦士達も前方の動きを見て後方へと大きく距離を取る様にバックステップによって大きく距離を取る
だが、打楽器のような音が出る事ない、何かが衝突するような音はね。
その代わり…爆発する音が戦場には響き渡ったけどね!
凄まじい轟音が大地を走り、土煙が戦士達に襲い掛かる。
戦士達の周囲には、爆発によって飛び散る破片が地面に叩きつけられる音、雨の中に土でも混ぜた様などちゃどちゃっとした水気のある音が広がった。
逆風の中を2人の戦士が駆け出す、土煙が消えるよりも速く!!
斧を持った戦士達が土煙が発生した中心へ向けて振り下ろすために!!
渾身の力を溜める為に天空へと月に祈りを捧げる様に高く持ち上げて、全力の雄たけびと共に振り下ろす!!
だが、斧が敵の急所へと叩き込まれる前に空中で制止する
振り下ろされた、されど防がれてしまった斧の角度的にも全ての力が相互作用するクリティカルポイントになる前に剛腕で防がれてしまった。
あれじゃ、敵の剛腕を砕くほどの力に到達できていない!
斧には大きな手のひらによって防がれている
っち、あの爆発が直撃したってのに無傷…ってわけでもなさそう
土煙が消えて露になる姿は痛々しい状態だった
両腕を上げるのがやっとって感じ、弱々しく、されど雄々しく在ろうとしている。
その力強さに敬意を…何てするわけもない、両手が塞がっている状態、見逃すわけも無く。
四方から騎士達によって槍を突き立てられ何度も何度も掛け声と共に脇腹や太ももに槍が突き刺され、パワータイプの膝が崩れ倒れる
頭を垂れてされど、掴んだ斧から手を離すことは無い、膝をついてしまえば頭の位置が叩きやすい位置にくる。所詮はひとつ、複数の手には対処できるわけも無し。
叩きやすい位置にある頭に今までの恨みを込めてか、多くの戦士達は全力を持って得物を脳天目掛けて叩き、刺し…潰した。
頭部を破壊されたパワータイプは支える力を完全に失い倒れ、背を露にする、その背中には凄まじい爆発によって皮膚全てが吹き飛び、中身が見えている。
そんな状態で背筋に力を込めれる何て、こいつらは生き物の枠組みから外れてるよね。
動かなくなったパワータイプを一瞥し、次の脅威が迫っていている!
視線を前方へ向けると、一連の流れを見た魔道具持ちが此方に向かって叫びながら走ってくる
良かった、まだ敵が持つ魔道具の射程外!迎え討とう!!
「魔道具持ちが来るよ!最大限警戒!!」
「応!!」
得物を構え各員が魔道具持ちに視線を向ける
魔道具持ちは思いの外、足が遅く此方に到着するまで少々時間がある
今のうちに、周囲の状況を確認すると中型種の殲滅はもうすぐ終わる、全体的に落ち着きそうかな?傷ついたやつらだし問題は無さそう。魔道具持ちと言えど!数の有利は此方の方が圧倒的!他に何が来るかわからない緊迫した状況!出来れば休憩を少しでも挟んでおきたい!
なら、全力で
集中力を高めようとした瞬間、肩を叩かれる様な気配を感じた…嫌な予感がする。
後方へと振り返った瞬間
後方部隊の近く…大地が…地面が…盛り上がるのが見えた…
瞬時に理解する、混戦乱戦へと持ち込んだのは、私達の注意を引き付ける為!!
狙いは最初っから後方支援部隊!!
危機を回避するために思考が加速されていく、まるで世界がこの瞬間の為に、切り取ったのかのようにゆっくりと動く
歌え!!
駆け抜けるような速さで離れていく愛する人に追い付きたいという願いを!!
高台から移動するために全力で地面を蹴って後方部隊の方へと飛翔する!
限界を超えた威力で高台を蹴ったことにより高速で後方部隊がいる方へと飛べている!
着地と同時に地面を蹴ってより早く!大地を蹴る為に!空中で姿勢を制御するために腹筋に力を込めて足を前に突き出す!!
腹筋が裂けるような痛みと共に両足を前へ突き出し、地面に足が着いた瞬間にルの力を加速させ、自身が持てる脚力の限界を超えて足を動かす!!
目が開き全力で歌ってくれている!!
盛り上がった地表が裂け、大地からワーム共が一斉に飛び出してくる!
地面から出てきた勢いによって後方部隊よりも高く頭を持ち上げ先端についている大きな口を開き、鋭い牙によって噛みつこうと、後方部隊目掛けて勢いよく頭を下げ噛みつこうとしている!
後方部隊と共に居る術式部隊が守る為に、ワーム対策として持たせている術譜を投げてワーム共を追い払おうとしてくれる!
だけど、怯む様子が無い!!ワーム対策の術譜だというのに!!
ワームが怯む周波数の音を発生させる術譜だよ!?長年の研究で完成させたのに!!
この一連の流れ、狙いは私じゃなくて後方部隊…
狙いはただ一つ、私に無限の魔力を与える魔道具!
ただの数回、使用しただけで構造を理解し、この魔道具の弱点を把握するの早すぎない!?
複数のワームたちを前に護衛の騎士が動けずに武器を構えるだけ…
恐らく、優先順位を間違えている!人ではなく魔道具を守るのを優先している!
優先順位を間違えないで!魔道具の予備はある!セーフティエリアから近いから街に帰還して修理する時間があるから!!人を守ってよ!!命を失う方が取り返しがつかない!!!
歌え!
愛する人が暗き闇夜を進むのを支える為に火を灯す願いを!!
一つの目が開き歌う
手を伸ばし敵の視界を翳すように動かすとワーム共の頭に火が灯りあいつらの視界ともいう器官を熱で狂わせる!!!
その隙を逃すことなく護衛の騎士がワームを切り伏せていく
術式部隊と合流すると同時に「ワーム除けの術譜を!全部起動して!」指示を出すと鞄からありったけの術譜が空を舞い術譜に込めれらた譜面が歌う様に起動すると
後方部隊を囲む様に地中から現れたワームが苦しむ様にのたうち回っていると、地中にいるワーム共も次々と地表に顔を出しのたうち回って動きが鈍くなり体の一部が動かなくなっている!この隙にワーム共を駆除する!
地中から鉄などの硬い成分を抽出し空中に固定!
更に地面の一部を硬い成分を集め三角形の形で先端を尖らせて隆起させる!!
その上に先ほど抽出した鉱石をハンマーのように凝縮していく!!
のたうち回って動きを止めたワームの胴体を三角形の頂点に固定!
ワームの体を挟み込む様に空中のハンマーを三角形の頂点に向けて打ち付ける!!
金属が叩きつけられる音と同時にワームの胴体が真っ二つに切れる
これを複数同時に行う!!
一連の術式を多重起動しほぼ同時に複数のワームの体を切断していく!
ワームの体液が周囲に飛び散り見える限りのワーム全てを同じ方法でカットし終わると
周囲に夥しい程の胴体が転がっている、どれが頭でどれが末かわからない程にカットし終わると、”きたぞーっ”と言う大きな声で魔道具持ちが接近してきたことを知り、危険な魔道具持ちと闘う為に振り返るのだが
足に力が入らない!?
限界を超えて動かし続けた代償!!
代償を癒して直ぐにでも動けるようにしないと!癒しの術式を起動させる!
損傷した筋肉を修復!急いで!!
足を震わせて苦悶の表情で耐えていると
「姫様!大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ってくる術式部隊が私を助ける為に動いてくれる、ポーチから瓶を取り出してくれる、その中身が何か言うまでもない。
一連の流れを見ているからこそ、長年の付き合いによって私が動けない状況だと理解してくれているんだけど…ここで経口摂取はやだなぁ…
「ごめん、魔力を出来る限り回復に回すから、少し動けない…栄養を摂取したいけど」
周囲がワームの死骸だらけで、あちこちが体液まみれ!流石に気持ちが悪いよ!
こんな場所で、口の中に放り込みたくない!!
「ですよね!移動しましょう!」
一人が叫ぶと一斉に全員が移動を開始する
護衛の騎士が失礼しますっと一声を掛けてから私を抱き上げ移動させてくれる
少しでも状況を把握し続けたいので、聴力を強化し音を拾う。
魔道具持ちと闘う戦士達の声が聞こえる…雰囲気的に今すぐ全部隊が全滅するような雰囲気じゃないのが救い!!アレのような壊滅的な魔道具じゃないってこと!
戦士達が対処できるレベルの魔道具であれば今のうちに損傷した筋肉を修復しないと!
切り刻まれたワーム共の死骸が転がる場所から少し離れると、術式部隊の一人が飛び散って周囲を染めた臭い体液をタオルなどで拭ってくれている




