Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (54)
体の主導権を渡されたのか、何度かパチパチと瞬きをして周囲を見渡してから驚いた表情をしている。
「あら?もういいの?…何を話していたのか、聞きたいけれど専門的な分野は彼女の方が上だもの、聞いてもわからないからいいわ」
お母さんは私と叔母様が専門的な相談をしていると思っている、知ってしまったらお母さんの心が持たないから。
叔母様もその辺りはしっかりと理解してくれているので絶対にバレない様に、内容を漏らしたりはしない、もう主導権を握ろうとは思っていない、何故なら、それをすると愛する人を悲しませてしまうから。
一応ね、念のためにね叔母様にある提案はしてある。これは、お母さんの為でもあったから。
叔母様に新しい肉体を得て人生をやり直したいのかっていう、酷く残酷な質問をね、してみたんだけど、答えはNOだった。
あの人が居ない世界に興味は無いってさ…ストイックすぎる生き方だなぁって昔は馬鹿にしちゃったけれど、今は馬鹿にできない、私だって同じ結論に辿り着いちゃったから。
お母さんが居ない、お母様が居ない、勇気くんが居ない、ユキさんが居ない世界に興味なんて無いもん…滅んでもどうでもいいやって思ってる。
そんな叔母様だけれどね、姪の生末と宿主の生末くらいは見守るつもりでは居てくれているみたい。怖い人だけれど…緊急時には頼りになる。お母さんじゃ頼りない部分があるから。
他にもね、ついでって言うと失礼かもしれないけれど、愛する人の子供である勇気くんに会わなくてもいいの?って事も聞いてみたら、驚いたことに勇気くんの事は苦手だって、何故かわからないけれど、出来れば接触したくないんだって?
ん~、そこはかとなく勇気くんの魂から王族の気配が漂っているからとか、かな?
他にも気になること、叶えたい事、何か願いがあるのか色々と話してみて教えてくれたんだよね。
以外だったのが、愛する人に会いたいだけかではないみたいで、名も無き弟にも逢いたいってさ…
魂の同調で名も無き弟の姿を見て是が非でも逢わせて欲しいって懇願してくるくらいに…
その反応を見て、私の中で新しい仮説が生まれてしまった。
もしかしたら、ううん、たぶん…
私もどうしてなのかわからないけれど、名も無き弟はもしかしたら、あの儀式の為にお母さんが宿した子供の魂かもしれないっていう仮説が新たなに生まれてしまった…
つまりは、叔母様の子供…
求めて求めてやまない、叔母様の大事な大事な子供…
相手に関してはとやかく言えないけれど、叔母様にとっては大事な大事な子供…
敵の策略によって犠牲になる運命を押し付けられてしまった未来が無かった子供…
どうしてこの世界にいるのかわからない、何かの弾みでいるのか。
彼の存在に関しては他にも仮説がある…もしかしたら敵が用意した子供の魂かもしれないって言う仮説
彼は…ユキさんの体に宿っていた可能性があり、何かの弾みで弾き出されたのか、それとも…
ユキさんや勇気くんが敵が用意した魂であれば…本来宿るはずであった魂は何処に行ったの?
私は、てっきり、彼の魂はユキさん達の中にいる子供達と共に居るのだと思っていた…
実は、魂を抜かれて放り出されていて、それをシヨウさんが保護していたっていう仮説も…ある。
…確証を得られるものが何一つないから何も言えない。
不確定要素がどんどん増えていくけれど、不安要素じゃないから特に気にしないようにしてはいるけれど、叔母様の気持ちは理解できるから出来る限り知っておきたいってのは、ある、かな?んー優先順位が決めれない不確定要素って苦手。
叔母様とのやり取りで自分が何をするべきか、やるべきことが何か再確認している間に、お母さんがカルテをまとめ終わったみたいで
「何かあれば直ぐに言うのよ?」
頭を撫でられ診察は終わりとなった。この暖かい笑顔を見て私の中に決意が漲っていくのを感じる、涙を流していた瞳たちもその決意に応える様に熱い心が湧き上がっているのを感じる、どす黒い復讐の炎ではない満月の光のような力強い輝き…
永遠に終わらないロンドのような、復讐劇をずっと支えてくれた人、でも安心して欲しい。
復讐で終わりにはしない、私には希望がある、明日がある、夢がある。
後ろしか見えてなかった私が…前へ向き直し変わることが出来たのもお母さんのおかげ、何があろうと貴女を幸せにして見せる。
自分の中で湧き上がる喝采を噛み締めて実感が湧き上がってくる、私はまた一つ、成長したのだと。
嗚呼、こうやって人は一つ前に進むことができるんだ…
立ち上がって「ありがとうお母さん」真っすぐに瞳を見て感謝を伝えると
「ふふ、ありがとう、私からもありがとう、貴女に会えたことが私にとって救いだったわよ、絶対に幸せになるのよ」
薄っすらと涙を浮かべながら祝福してくれる、笑顔で祝福を受け取り診察室から離れ、病棟を出るとメイドちゃんが待っていたのでスケジュールをこなしに方々を駆け回る。
全ての部署を回り、作戦会議を終え、帰り道には勇気くんが待っている。
二人で食事を済ませてから地下の研究室へ向かう。誰にも隠すことなく腕を繋いで
此処が、人類存続の要、最前線拠点じゃなかったら微笑ましい夫婦の帰り道って感じかもね。
地下室での研究を終えて彼の明日のスケジュールを聞くと朝早くかぁ…それじゃお邪魔できない
残念そうに彼を見送ろうとすると、せがむ間もなくキスをしてくれる…それだけで全てを許してしまいそうになる。彼は何も悪くないんだけどね。
先に地下室から出て行く彼を笑顔で手を振って見送る。私って思っていた以上にちょろい女なのかもしれないなぁって思ってしまう。
…お母さんが心だけじゃなくて体の繋がりも必要だって言う理由が分かった気がする。彼に触れてもらうだけでこんなにも全てが満たされるのだと実感してしまっているから。
初めて彼からキスされたときは死ぬかと思っちゃったもん…
大切な思い出だから、一生大事にする。そう決めた。
だから、今も直ぐに思い出せてしまう。っていうか、勝手に思い出しちゃう。
あの日、お母さんに御膳立てしてもらって、彼の部屋に飛び込んで、彼の事情を知って。二人の心が重なった、相思相愛だとわかった。
すべて満たされたけれど、こういった経験が無いから帰ろうにもどう帰ればいいのかタイミングがわからなかくてずっと二人でずっと傍で寄り添っていたんだよね。
まぁ、私としてはそれだけでも満足していたんだけど。
体躯に思ったのか、彼が散歩に出ようって誘われてさ、外を散歩するのは良いんだけど、流石にマントの下がネグリジェってのは、その、恥ずかしかったからさ。
一旦私の部屋に戻って服を着替えてから認識阻害のマントは部屋に置いて月夜に照らされた街を散歩した
色んなところを見て、ここではこんなことがあった、ここではあんなことがあった、あそこで私は死んだとか
色んな出来事を語り合った…その全てを彼は受け止めてくれた。その全てを愛してくれた。その全てを悲しんでくれた。
魂の同調で私に起きた出来事を知ってくれていても静かに受け止めて愛してくれた
その道中は始祖様が祝福してくれるような気がした
明るく道を照らしてくれる月明りがおめでとうって言ってくれているような気がした
月を囲む様に天空を彩る星々が私達の生末を拍手で出迎えてくれてるような気がした
最後に、私達が出会った広場に到着して言葉を交わした
「ありがとう、私と共に歩んでくれて」
「ありがとう、俺に明日を示してくれて」
ゆっくりと膝をついて私の手を取って騎士の宣誓が始まった
「一人の男性として、一人の騎士として、君を守り続ける、何があろうと、例え死んだとしても」
「一人の女性として、一人の姫として、貴女の忠誠に全てを捧げましょう、例え死んだとしても」
彼の真剣な瞳に誘われる様に顔を近づけるとキスをしてくれた。私が知らない行為、私が知らない世界、私が夢見てしまった世界。
月の光が降り注ぎ、私達を照らす、星の多くが拍手をするように瞬く、この輝きに見守られながら私達だけの結婚式が終わり、私達の新しい道が始まりを告げた。
帰り道、彼と手を繋いで部屋まで送ってくれた、別れ際がこんなにも狂おしくなるほどに切なくなるとは思わなかった。
明日にはまた会えるのに、こんなにも一時の別れが身が裂ける程に狂おしく切なくなるなんて知らなかった。
嗚呼、お母様も…お母さんも…こんな気持ちだったのかもしれない。
「…はぁ」
あの日の出来事を思い出すだけで、胸が締め付けられる、キスの感触が忘れることができない、つい、指先で振れてしまう。
彼の感触を思い出してしまったのか、頬が熱を帯びていくのがわかる、耳が真っ赤に染まっていくのがわかってしまう。
彼ともっと触れ合いたい、彼にもっと触れて欲しい、彼をもっと受け止めたい…彼の子供が欲しい…
人が明日を夢見る心は止まることが無い、自分がこんなにも欲深いなんて思っても居なかった。
好きなことが出来たら後はどうでもいい、それ以外を欲しがることなんてない、手に入るモノはお金さえ出せば手に入るから、どうでも良かった。
私を愛してくれて支えてくれる人が傍に居てくれるからそれ以外を求めるつもりなんて無かった。
何時か、全ての条件を満たしたら、私が死ぬ前に、お母様に会えたら良いなっていう些細な願いだけ…
私が求めていたのはそれだけだったのに…
気が付けば私は強欲になってしまった。
より長く生きたいなんて願いを抱いてしまった
愛した人が笑顔になって欲しいと思ってしまった
助けてくれた人を死なせたくないと思ってしまった
傲慢な馬鹿を解らせて改心して欲しいと思ってしまった
始祖様の術式全てを理解し、全てを実現させてみたいと思ってしまった
私が知らない大地で生きる人達とあって見たくなってしまった
人類を殺す事だけを考えている脅威を取り除き世界を救ってあげたいと思ってしまった
幾度となく煮え湯を飲まされて続けて苛立ちと怒りが限界を超えてしまい死んでも死にきれない程の怒りを知ってしまった
人類の尊厳全てを我が物顔で蹂躙し続ける相手を人類代表として滅ぼさないといけないと背負ってしまった
愛する人たちを全員笑顔にしてあげたい、世界を見捨てないで欲しい、明日を夢見て欲しいなんて願ってしまった。
私は強欲だ…こんなにもいっぱいいっぱい願い事が出来てしまった。
その全てを叶えないと私は死にきれない、何度だって過去に情報を飛ばし次の私に託してしまう。
強欲だよね、普通の人は一度の人生で失ったら終わりだって言うのに、私は、次の私に未来を託すことが出来てしまう。
何時かはその願い全てが成就されるのを願って…
罪深き業を背負いし、時渡の秘術を行使する理から逸脱した存在…いつかきっとその業の責任を取らされ粛清される日が来るとしても
私は立ち上がる。
椅子から立ち上がり、地下の研究室を見渡す。
「ここにいるの?」
頷く姿が見えない
「お姉ちゃんね、強欲で我儘で自分勝手だから」
頷く姿が見えない
「私が君に会いたいから」
頷く姿が見えない
「だから、世界を救う」
頷く姿が見えない
「だから、君に平和な世界を歩んでもらうために」
頷く姿が見えない
「君の体を用意する」
頷く姿が見えない
「用意されるのが嫌なら、私が自分の体を作って君を産むから」
頷く姿が見えない
「だからね…応援してね?私が君たちを…貴方達を…弄んだ存在を滅ぼすのを」
頷く姿が見えない
「…もしも、もしも…私が失敗したら…私の代わりに世界を救ってほしい」
頷いてくれたような気がする
心の奥が暖かくなるのを感じ、私も地下室を出ていく。
残された時間を無駄にしたくない、研究を続けたいけれど…
休息もまた大事だからね、だって、私一人の体じゃないも~ん☆彡
地上に出ると浮かれてスキップしてして帰路につくくらい私は浮かれていた。
その姿が色んな人に見られていても気にしない…
気にしなかった結果なのか、勇気くんが公言していたのか知らないけれど、気が付けば街中が私と勇気くんが結婚を前提で付き合うという噂が流れ、更には、世界を救ったら盛大にこの街で結婚式を挙げて国を興すという話にまで、噂が膨れ上がってしまっていて、王都でもこの噂でもちきりになっていた。




