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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (49)

女性として前へ進むという覚悟を決めると、それに連動するかのように心臓がバクバクバクバクと速く波打ってくる

速くなる鼓動が全身を包み込んで今まで感じたことのない緊張感が全身を駆け巡り、思考を遮る様に脳へと到達し頭の中が真っ白に染まっていく


今まで体感してきたことのない緊張感に包まれ何も考えることができない間も私の体は女性としての輝きが増していく

丁寧に…丹念に…これ以上ない程に綺麗に洗われた…次は何をするのかと考える間も無く徹底的にお肌のケアが全身に施されていく


肌に塗られていくオイルから何か薄っすらと香りがして、肌にニオイと共に染み込んでいくように感じる。

気が付けば、体からは花の匂いがする、これは何の花だろう?普段嗅ぎなれない匂い?

「イランイランとバラをほんのりと混ぜてあるのよ」

どうやら、花のオイルを全身に塗られているみたい?何の意味があるのだろうか?

貴族としての、作法?っというか、夜這いに行くための伝統的な何か、かな?

「それじゃ次へ行くわよ」

優しい声でバスローブを着させられ手を引かれて連れていかれた先はメイク台。

メイク台の前に座らされ化粧品が次々と取り出されていく、その中に…想い出は無いけれど、何処か忘れることができない思い入れのある口紅が目に留まると

「情熱と言えば赤よね、まったく、美への意識はある癖に実行に移さないんだから貴女は」

私の気持ちが通じたのか、その口紅を手に取り、私の唇に軽く当てて色味を確認している。他のやつに視線を向けるがこの色がお母さんにとって一番しっくりときたのか頷いてから口紅に合わせる様に化粧を施してくれる。


そして最後に…口紅が塗られる。

長い事、つけていない口紅を手に取り最後のお化粧が施されていく


「はい、準備万端!良かったわね、今夜は…」

そう、今夜は満月で尚且つ、勇気くんが夜勤じゃない…っく、全て計られている様な気がする。

全て御膳立てされている気がする。だからか、珍しくお母さんが私にべったりだったのは…


そんな事を考えている間に下着などを流れのままに着替えさせられ…全ての準備を終えたのか鏡の前に立たされ

「ええ、貴女は立派な淑女で誰が見ても…月の輝きに祝福されたかのように見惚れるくらい美しいわよ。自信を持ちまなさい」

こういう日が来るのだろうと用意されていた下着にスケスケのネグリジェ…こんな姿で夜に訪れたら誰だってわかる


夜這いだって…


女性がここ迄、心を決めてきたのだから受け止めなければ漢じゃないってことになる。

つまり、私は今夜、少女から…ガールからレディとなる。


甘い蜜月へと至る、私が?この後に?ほん、とうに?…

想像できない世界がすぐ目の前に迫っていると考えるだけで、更に心臓が暴れ、思考が爆発し、全身が沸騰したかのように熱くなる。

ぅぅ、心臓が落ち着かないよぅ…


今自分が呼吸しているのかもわからない程に落ち着きがない状況でも、お母さんの動きが止まることは無い。

「さぁ、行きなさい」

ふぁさっと布を掛けられる?ぇ?まって…ぁ、そっか、これ認識阻害の術式が組み込まれたマントだ、ぇ、偶々だよね?近くにあったからこれを選んだんだよね?

思考が爆発している影響か、自分が何を考えればいいのかわからず混乱してしまう。


「知ってるわよ、貴女がそれを羽織って外に出ていることくらい、メイドのやつがちゃ~んと密告してくれているのよ」

っげ、そこって繋がってたの!?仲が悪いからそういう繋がりは無いと思っていたのに!

…そうだよね、メイドちゃんだったら私の部屋の私物がどの位置に置かれているのかくらい把握しているだろうから、こっそりと私が部屋を出てから部屋に行ってどれが無くなったのかチェックしてるよね…

その一言で思考が少し落ち着きを取りもどし、自分が夜中に逢引していることがバレていることに驚いてしまう。


「魔石も魔力を込めてあるわよ、さぁ、行きなさい、女になってくるのよ」

認識阻害の術式が起動され間髪入れずに背中を押され部屋から放り出されると、ガチャリと音を立てて鍵が閉められる…

帰ってくるなよっという意思表示…

もう…後戻りできない…


はぁふぅはぁふぅっと心臓を落ち着かせようと呼吸をしていると、自然と、ううん、違う、勝手に私の足が動き出していく

はぁふぅはぁふぅぅっと思考を巡らせようとしてみるが頭の中が真っ白のまま

なのに、勝手に足が勇気くんの部屋に向かって進んでいく

止めることができない、足が、勝手に、早足で向かっていくー…


心臓が鳴りやまない、頭の中にバクバクバクバクと凄い勢いで跳ねまわる音が響く、全身が溶鉱炉に放り込まれたみたいに熱く感じる。

呼吸を深く吸い込もうにも直ぐに吐き出しちゃう、呼吸を長く吐こうにも勝手に吸い込んじゃう

全身の制御が私から離れているのに、思考は残されたまま、抵抗する術がない…ううん、抵抗する気が無いんだ私…


だって


全ての…私の総意だもん。私だって綺麗なままで彼に抱きしめて…ううん、抱いて欲しい。


はぁふぅはぁふぅはぁぁふぅぅぅぅ

呼吸を幾度となく繰り返したのか、わからない、誰かとすれ違ったかもしれない、でも、覚えていない

はっふっはぁっふぅっはっっふぅぅぅぅ

呼吸がどんどん荒くなる、心臓の鼓動しか聞こえない

っふっふっふっふっふっふっふっふ

ジョギングしているみたいに呼吸のリズムが整っていく

世界は正常なのに視界から得られる情報は何もない、真っ白、月明りのど真ん中、ううん、太陽を直視しているみたいに視界からは何も情報が得られない


真っ白な世界をどれ程、歩いたのか真っ白な世界を進む私にはわかる術など無い…

そして…唐突に視界に入ってくるドア。


心臓が大きく跳ねる、張り裂けそうな程に…


普段の私だったら絶対に躊躇うのに、ドアの前に立つと躊躇うことなくノックしている

「どちら様だ?」

ドアの奥から聞こえてくる声は落ち着いてる、時刻的にも誰か来てもおかしくない時刻だからかな?

そんな事を考えていたら体が勝手に動き、躊躇うことなく再度ノックする


「わかった。入ってきてくれ」

声を出さずにノックするのは私だけだろうから、察したみたい?

此方もこちらで躊躇うことなくドアを開け中に入りドアを閉めると

「何かあったのか?」

私が来たことに驚く様子なんて無いだって、時折、用事があれば部屋に訪れることは多々あるから…はぁ、心臓が裂けそう。何で彼は何時だって綺麗なの?

彼の優しい微笑みによって私の中に密かにあったのだろう、願望によってこれからの事が脳裏に駆け巡ってしまい、声を出す事すらできなくなりドアの前で立ち続けてしまう。

「急ぐ用事でもなさそうだな、ドアの前に立っていないでソファーにでも座ってくれ」

微笑みながらソファーがある方へと指を刺してくると、ソファーでするのかと想像してしまい顔から火が出そうなくらい熱くなる。

「どうした?立ち話ってわけにもいかないだろ?ソファーで待っていてくれ、今、紅茶を淹れるからな、ユキほど上手ではないがそこは許してくれ」

彼の優しい言葉に反応して直ぐにでも動きたいのだけれど…動くことができない、少しだけ頭も冷えてきたような気がするけれど、主導権を握られているのか動こうとしない。

ううん、ダメ視線がベッドとかソファーに吸い込まれそうになっちゃってその都度、心臓が跳ねて頭の芯が動こうとしない。単純に頭の中が真っ白で動けてないだけ

「どうした?フードで顔を隠していないで」

手慣れた手つきでポットに水を入れてお湯を沸かすスイッチを入れてから此方に向かってくる

近くまで来て何時もの様に手早く手慣れた手つきで羽織っている認識阻害のマントが脱がされる、普段通りだけれど、今日は、違うの。

いつもと…違うんだよ?…はぁ、ダメ、意識が飛んじゃいそうだよぉ…


マントの中身が顕わになった瞬間、勇気くんが一呼吸だけ息を吸い込んでから動きが完全に止まり此方を見続けてくる、たぶん、私と同じで思考が停止したのかな?

唐突な状況に動くことができないのか何も言わずに此方を見ている、綺麗な瞳で見つけ続けられちゃう…心臓が爆発しそう…

「…その…はず、かしい」

マントが外され整えてきた勝負下着が薄っすらと見えるネグリジェ姿のままでじっとしているのが恥ずかしくなり隠すように手を動かすと

慌ててマントが被される…それはそれで、悲しい…

「な…なんて、恰好をしているんだ。君は」

顔を背けて困惑したような表情、頬は赤く染まっていない…やっぱり私って魅力がないのかな?

その反応に心が張り裂けそうになる、ここまでしても…彼に振り向いてもらえないという事実に、膝をついて泣き崩れそうになる。

「…私は…やっぱり、勇気くんからしたら、魅力を感じない?私じゃダメ?」

縋る様に、彼から見放されたくない、情けでもいいから、突き放さないでほしいと懇願するかのように上目遣いで熱を込めた吐息と視線を送る。

これで、これで…察して欲しいと願いを込めて彼を見つめる


想いが…願いが…彼に伝わったのか瞳から彼の感情が伝わってくる。物事を決めた人がする目…

「…サクラ」

優しく抱きしめられる、彼からも熱を感じる、嗚呼、今日、私は大人になります






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