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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (43)

「サクラ?大丈夫か?」

…意識が急浮上し、視界が真っ白に染まる、知ってる天井と知っている人の顔、心配そうな表情、体も心も心配してくれているのだと伝わってくる。

その寂し気で悲し気な顔を少しでも無くしたい、美しい彼の顔にその表情は似合わない月光のような慈愛に満ちた笑顔を、太陽のような眩しい輝きを放ち触れたものに熱を与える笑顔じゃないと、ダメ、私が許さない。

少しでも笑顔になってもらいたくて

「おはよう」

寝起きで声を出しにくいけれども、擦れた声で返事をする、出来る限り安らかな笑顔で。

寝ている間に見えた…嗚呼、もう忘れていく消えゆく何かを…多くを語りたいが今は多くを語れそうにない。

なら、せめて、お互いの温もりを感じたい。抱きしめて欲しいけれど、腕を上げるのが難しい、頭を撫でて欲しいと声を出したいが喉を動かすのが辛い

仕草か視線か、はたまた、表情か

「サクラは甘えん坊だな」

彼には伝わっていたみたいで、優しく頭を撫でられる。暖かい手のひらに頭を擦り付けてしまいたくなるが、体に力が入らない。

「抱きしめるのは無しだ、まだ肋骨が繋がっていないだろう?」

物欲しそうに見つめていたのも感づかれている。

それに、ちゃんと症状を理解しているってことはお母さんから説明を受けているってことだよね、ちぇ、知らないのなら如何にか出来るかな~って思ったんだけどな~ざーんねん。

「お母さんに聞いたの?」

「聞かなくてもわかるよ、その上半身を包み込むようなコルセット…肋骨以外にあり得ないだろう」

何だろうと視線を下げて上半身を見るといつの間にか包帯からバンド固定に切り替わっていて何処からどう見ても肋骨を痛めた人と一目でわかる状態だった。


うん…そりゃ悪い夢も見るよ、こんなに圧迫されてたら、息苦しいし寝苦しいっての…


自分の体の現状をしっかりと視覚から突きつけられて、んふぅっと、鼻から息が零れてしまう。

この様子だと、あと何時間くらい固定されないといけないのだろうか?

「あれから、何時間経った?」

正確な時間が分かればね、3時間以上経過していたら起き上っても良いんだけど、それ以下で動くとお母さんに怒られちゃう。

「あれから…恐らく2時間も経過していないぞ」

んじゃ、駄目だ、約束の時間を破ったのがバレると怒られる。お母さんはそういうところ細かいっていうか、医療に関しては妥協してくれない。

「ちぇ、あと1時間は起きられないや」

「今は横になっているんだ、現場から状況は聞いている、今はゆっくりと休め、不穏な気配も断ち切ってある、君が動けるようになるまで傍に居る」

優しく優しく、病気をした娘を看病する様に慈しんだ瞳で見詰められる。

甘い言葉なんだけど、父性しか感じ取れない…でもいいんだ、私が望んでいるのは…もしかしたら、この愛かもしれないって最近、思うようになってきた。うんうん。

愛が向けられているのであればそれで私は満足。私が私でいられるのなら、それ以上を望むつもりなんて…望むつもりなんて…


いや、望むよね?っく、珍しく弱気になってる、火が燃えたから、かなぁ?んー…そういうことかな?

自分自身を納得させようとするが、ダメだった、やっぱり私が求めているのは父性+男性としての愛!私は欲張りなんだから!!


さて、何時もの調子を取り戻してきてるし、確認…しといたほうが良いよね?

「一応、報告は受けといた方がいいよね?」

「…そう、だな、大丈夫か?寝起きな上に…」

辛くないのかっと心配そうに見つめてくる。

怪我したくらいじゃ報告を受けるのに支障はない、確認してくるってことは…心の部分だよね

それなら、もう、問題なんて無いよ。勇気くんが傍に居る限り私は耐えられる

心配そうな表情をさせないために、何時も通り普段通りに気丈に振舞う為に澄ました表情を作る

「大丈夫だよ、お互いの報告会をしよう」

心配はいらないと伝わったのか、少しだけ間をおき一瞬だけ目を瞑ってからコクリと頷いてくれる。さぁ、事の経緯を報告しよう。


どうして、前線に出ないようにしていた私が前線に出ないといけなかったのか。怨念に飲み込まれ狂う可能性が高いというのに…

外に出ないといけない程、緊迫した状況かと冷静に見つめなおすと…他にもやりようはあった、あった…飲み込まれてしまった結果、肋骨を折ってしまったって感じかな。


経緯としては、勇気くんが前線に出ていて、私は研究塔で魔道具を組み立てている時に緊急ではないが言伝のような報告を受けたのが始まりかな?

鐘を鳴らすほど接近されてはいないが、人型とカジカさんが接触し交戦に入るという報告

受け取った情報として、魔道具も何も持っていない、警戒する程の脅威ではない人型なのでカジカさんと共にいる戦士チームであれば、応援がいらない問題は無いと判断して現場では特に問題が無いという報告を受け取ったんだよね。私もそれくらいなら警戒する必要もないかなって思ってた。


報告を受けて指示を出そうとした、その矢先に、勇気くんチームも人型と遭遇したという報告が飛んでくる。

内容も、先ほど受け取った内容と変わらない。

そちらに関しても魔道具持ちではないので個々で対処が可能、現場もそのつもりでいるみたいで心配はいらないっていう感じで報告。

緊迫した状況じゃないから報告を運んできた伝令係も落ち着いている。


現場の判断として、手薄になるエリアも出てくるのでそれを埋めるためや、もしもに備えて応援として騎士チームも順次、手薄になるであろうエリアに向かって出撃している。

念のために地図を出して報告された人型と接敵した大まかな場所を伝令係から教えてもらい把握する。

位置報告によって後方部隊が待機している…医療班が隠れている場所から左程、敵との距離が離れていない状況、もしもに備えて帰還命令を出すべきかもしれない。

仮に、後方部隊が撤退すると機動力が大きく低下する恐れがある…

カジカさんと勇気くんはそこそこ街から離れている場所で戦っている、戦闘が終わってから帰還するのに徒歩だと時間がかかりすぎてしまう。

嫌な予感がする、連続して人型が出てきたとすれば…何か動きがありそうな予感がする、そうなると…転送の陣を持っている後方部隊は撤退が出来ない、危険な位置だとわかっていても機動力の低下は…したくない。

後方部隊が待機している移動型拠点を守るためには…ここぞという時に頼りになる遊撃部隊、どんな状況でも任せれる駒っとなると、彼に動いてもらうのが適切と判断して。

ってことで、強固な駒を置いてもしもに備えてもらう為にお爺ちゃんを医療班テントに移動してもらう様に伝令係に通達をお願いした。


現状で考えられる最悪のケースに備えて手は打った。

伝令係の人がお爺ちゃんが転送の陣で現場に向かったという報告を持って帰ってきてくれたので、これで盤石の布陣だろうね。


後はもう、現場の人達に任せて、私は私で、私にしか出来ないことを進めないといけない、何もせずに待ち続けるわけにはいかないので研究の続きを再開しようとした瞬間

研究塔にまで届く警告を知らせる敵の接近を知らせる鐘が鳴った…恐らく、騎士部隊が手薄になったエリアに到着する前に抜け出て警戒領域にまで人型が接近してきたのだろう


街の戦力の大半は外に出てしまっている、判断を仰ぐ人も戦場に出ている。

っとなるとね、私と言う最後の要が前に出ないといけなくなるってわけ


状況はひっ迫しているかもしれない、ここで伝令係を往復させる時間すら惜しい、急いで広場に向かわないとね


研究塔から飛び出る様に、広場に向かう。

向かいながらも頭の中に地図を開き、状況と報告を受けた時系列を並べて、現場がどう動いているのか脳内でシミュレーションしていく。

勇気くんとカジカさんは交戦中、街から離れていて尚且つ、敵が波状攻撃を仕掛けていると考えると、人型以外の獣も現場に乱入している可能性がある。

だとすれば、人型を倒したとしても現場で指示を出す人が必要、二人が瞬時に帰還できないってこと。

お爺ちゃんは念のために後方支援部隊、医療班のテントを守護してもらっている、お爺ちゃんだけなら直ぐに帰還は出来るが医療班や隠蔽部隊が集まっている移動型拠点が手薄になる…そこが壊滅すると色々な物や人を失ってしまう。お爺ちゃんは動かせれない。

他に…戦力となると…直ぐに思い浮かぶのがマリンさんだけど…今の時間は、自分の牧場にいて、たぶん、寝ている時間じゃないかな?

マリンさんを起こしに行くべきだろうか?いや、まずは、戦線を抜けてきた人型がどのタイプか知る必要がある。


広場に到着すると、直ぐに偵察部隊が駆けつけてきてくれるのでどのタイプか確認すると、現段階では魔道具持ちではないだろうとのこと…

であれば、現状では最後の要であるマリンさんを呼びに行って夜に備えて寝ている人を起こして準備してもらう程でもない。

広場に集まっている戦士や騎士部隊に任せれば…二人が帰ってくるまで時間を稼げるだろうし、普通に撃退できるかな。

広場で何時でも出れる様に準備を進めている戦士達に急接近している人型の対応をお願いした。


戦士達が門から出撃していき人型がいる現地に向かって駆けだしていくのを見送る。

見送ってから少し広場で待機するが新たな鐘の音はならない…嫌な予感はまだ背中を突っついている。

広場に釘付けにされ続けるのは良くない、やるべきことが山積み…私には時間がない、未来からの悲しみを背負わされて何年も動き続けてきたけれども、それでも、人の手が足りなさ過ぎて完全完璧と自信満々になれる程、準備を終えていない…

背中を突かれながらも、広場から離れる決心を固め、何かあれば直ぐにでも知らせるようにと伝達班、通称隠蔽部隊に指示を出し研究塔に引き返そうとしたら…



鐘が鳴る




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