Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (42)
ベッドで横になっている私の上半身を起こそうとするので、この程度の痛みくらいなら、自分で上半身を起こして…あてて、痛い。本気で折れてるかも?
痛みで視界を歪ませながらも心配かけまいと気丈に振舞うが、冷や汗が額から溢れ出ている。
その様子を見て手を伸ばしてくれる、でも、この程度であれば自分で脱げると思う、折れてなければ。
自分自身でも自分の体がどうなっているのか把握しておきたい
「大丈夫、自分で脱げるから」
服を脱ごうとすると鈍痛が両脇腹から伝わり、痛みに堪えようと自然にお腹に力が入ってしまい、動きが止まる…腹筋の中央、おへその辺りからも痛みが走る!?
唐突な痛みのせいで抑えようとしていた冷や汗が全身から吹きあがり、想定外の痛みで完全に動けなくなり、服を脱ごうとする姿勢のまま止まる。
こういう時は思考も完全に止まってしまう、長年共に戦い歩み、私を見守ってくれている人が呆れた声で言わんことないっと言わんばかりに
「あーもう、自分が華奢なのを理解しなさい、回復力も人一倍低いんだから」
愚かな行動に呆れた様な声で痛みで膠着してしまった私を助けようと動いてくれる。
脱ごうとして膠着してしまっている指先から服を脱がす為に、強く握り込んでしまっている指の力を弛める為に、前腕を何度かマッサージする様に揉まれる。
手の甲を何度も摩られていくうちに痛みで強張ってしまった指の力が抜けていき、ゆっくりと指を一つ一つ開かれ強く握り込んでしまっている指が服から離れていく
「万歳すると痛みが出るからね、ゆっくりと動かすわよ」
痛みの衝撃で声を出せないのでゆっくりと頷くと、慎重に丁寧に痛みが全身を駆け抜けないように両腕を上げてもらい身に着けている服を手早く脱がされ肌が露出すると
「…あ」
全てを察してしまう音が医療班団長の口から洩れてくる
その”あ”やめてよ、察しちゃうじゃん…
ゔんっと咳ばらいを軽くしてからベッドの下から何かを取り出し
「…」
無言で固定するために包帯巻かないでよ、その時点で気が付くじゃん、折れたか…折れていたか、私の肋骨。
一つが巻き終わり、もう一つを取り出そうとベッドの下に手を伸ばして、ぁ、っと小さな声が聞こえた、ベッドの下にある包帯を補充し忘れたのだろう
「ぁ~…これだけじゃ固定力が心許無いわね。っとなると、包帯が足りていないわね…暫く呼吸は浅くよ、深く吸い込まないように」
はい、確定!!…っぐぅ、しょうがないか、あの状況じゃ、しょうがない。
「回復促進させる陣を起動するから暫くは横になっていなさい、点滴とか病衣とか包帯とか必要なモノを用意してくるから静かに寝てるのよ?あと、ブラとか外してるから部屋がノックされても誰もいれないように、ドアの前には立ち入り禁止のプレートは出しておくけれど、関係なしに入ってくる人に心当たりがあるから注意するのよ?」
…私が病棟に運ばれたと聞いて暇つぶしで来そうな人物が二人いて尚且つ両方とも男性ってのをお母さんは瞬時に判断したってことだね。
必要なモノを取りにドアをゆっくりと開けてから、顔だけを出して周囲に変な人物がいないかチェックしてから部屋から出ていく。
そして私はと言うと、胸から上は裸で、胸から下は包帯で固定されている。なので、今の私は隠すべきところは一切隠されていない、男性立ち入り禁止な状態ってね!!
…想定しうる状況で一番危険なのが二名、何故ならノックせずに入ってくるのがお爺ちゃんとベテランさん事エロの権化!カジカさん!!
後、一応気をつけないといけないのがノックして返事をすると間を開けることなく入ってくるのが勇気くん。
私の裸を見て喜ぶのはお爺ちゃん、カジカさんは何も気にしない私の体では興奮しないから、それはそれでムカつく。
私の裸を見て気まずくなるのが勇気くん、どっちに転んでもよろしくない結果になる。
なら、慌てて動けるわけでもないので念のために肌が顕わになった部位を隠す為に脱がされた服を当てようとするが…
痛くて動けない、ぅぴぃ…
手を伸ばすだけで痛みが脳の奥に走り、体が膠着する
なら、枕を盾に…手を伸ばし持ち上げようとすると…痛くて力が入らない、ぅぎぃ…
痛みで声を出すと更に痛いので必死に声を出さないようにする、痛みを紛らわせるために呼吸を整えようにも浅くしか息が出来ず。
切り札である身体操作技術の一つ、痛覚遮断の身体操作は骨が折れた時は絶対にしてはいけない!
なぜなら!骨がずれてしまっても気にせずに動けてしまうから!!それは良くない。予後不良になるので無理は出来ない。
戦場だったらそんな事、お構いなしにするけどね!でも、ここは戦場じゃないから安静にしないとね。無理をすることは無い。
多少の動きで発生した痛みを忘れる為に小さく浅くと呼吸を幾度となく繰り返していくスゥハァスゥハァっと、痛みと呼吸によって思考が鈍くなっていく。
スゥハァスゥハァ…スゥハァスゥハァ…スゥハァスゥハァ…
ぁ、痛みが、おちついてき”コンコン”っだぴゃぁ!?
唐突なノックの音でビクっと体が跳ねてしまい、その衝撃で忘れて行こうとしていた痛みが再発し思考が完全に飛ぶ
「はいるわよー…ぁ、驚かせてしまったわね」
膠着して動けない私を見て状況を直ぐに理解し、テキパキと固定するための装具をつけ病衣を着させられる。
ゆっくりと横に寝かされ、ささっと点滴がセットされていく、肋骨からくる痛みの余韻で未だに動けていない私は針が刺さった痛みを感じることはなかった。
「はい、後は…そうね3時間は、必要かしらね。大人しく寝てなさい、それである程度はくっつくわよ、貴女が幾度となく改良を重ねてきた回復の陣だもの、信じれるわね?」
少しずつ余韻がひいてきたのでゆっくりと頷くとさっと、掛け布団を掛けられる。たぶん、私じゃなかったら一時間もかからずにくっつくんだろうなぁ。
「傍に付いていてあげたいけれど、ごめんなさいね。仕事があるのよ」
何時ものように優しく頭を撫でてから病室から去っていく、私と同じでお母さんの仕事は凄く多い、傍に居て欲しいけれど、しょうがない。
それに…この後絶対に混乱した現場の後片付けをした勇気くんが戻ってくる。様子を見に来る為に、優しい彼だもの、故意ではなくても怪我をさせてしまったことに心を痛めているだろうからね。
それまでの間、少しでも寝て…体と精神に力を蓄えよう…
すっと目を閉じると
擽っている火種が一斉に私を凝視してくる。まだ、燻ぶっていたんだ…私が意識を落とす瞬間を狙い定める為に。
駄目だよ、今は私達の街の中だからね、貴女達が恨みを晴らしたい相手がいる場所じゃない
苛立ちや恨みをぶつける相手を間違えないで、絶対に、それに、少しでもあいつ等を殺せたんだから気はまぎれたでしょ?
その一言が効いたのか、響いたのか、火種が一つずつ閉じていく…
闇の中で火種のように輝く瞳が、一つ、一つと、閉じられていくのを確認してから、私の意識も闇の中に落とし込む。
大丈夫、今代は私、何があろうと貴女達に全ての全権は渡さない、渡すわけにはいかない…
それに…どんな闇の中だって、どんな時の中だって
勇気くんが私を救い出してくれる。
闇の中で、虚ろい、漂う、光は無い…
月の光すら届かない泥の中
太陽の微笑みすら感じれないくらい冷たい世界
自分の境界線を見失う、何処がどれで、誰が私で、何処を漂っているのかわからない。
時間の概念すらない、それが夢の中、それが微睡みの中、それが…私の世界…刻の狭間で虚ろい彷徨う…刻の復讐者…
人類を救済する使命が気が付けば背負わされていた
大切な人達の未来を勝ち取りたいだけなのに
大好きな術式を研究したかっただけなのに
お母様にもう一度、会いたかっただけなのに
気が付けば
人類を救済する使命を背負わされていた
救世の聖女の様に…
命短し乙女は…人類の未来を担う役目でもあるの?
命が短いのに、背負わされないといけないの?
自分たちの人生すら碌に歩めないのに…
人生の全てを…捧げないといけないの?
だから、私は…時間に干渉する力を与えられたの?
命が短いから、到達することが不可能な未来を勝ち取るために…
私が目覚めた力…ルの力は…時の超越者、ううん、超越はしていない調律者が正解なのかもしれない…ね…
この世界の人類を獣と言う恐怖から救い出す為に…
なら、誰が私を
救ってくれるの?
音が無い世界なのに耳鳴りがする
『誰もお前を救えない救わない救う気が無い』
黙れ
『人類は愚かだ助ける価値なぞ無い』
黙れ
『お前が愛している人達はお前を利用する為だけに傍に居る』
黙れ
『お前が愛した女性は他の人物を愛している』
黙れ
『お前が愛した男性はお前を愛さない』
黙れ
『お前が最後だお前で最後だ先は無い残すものはない紡ぐことは出来ない』
黙れ
『滅べ滅びを選べ全てを明け渡せ』
黙れよ!!!五月蠅いなぁ!!
私の苛立ちに燻ぶっていた目が開こうとしていく
あいつ等の狙いはこれか…呼応するように憤怒の心、怨讐の火が開くのが狙いか!
どうする?意識を泥の中から浮上させるにはどうしたら
”そうだ!五月蠅い馬鹿どもめ!そいつらの言葉に耳を傾けるなサクラ!!”
音のない世界に音が広がる
”悪い!遅くなった!結界を張った!手を伸ばせ”
力強い手が光と共に泥の中に、月光の輝きが届く
月を掴む様に始祖様の手を握る…違う、これは…始祖様じゃない…これは勇気くん…腕を掴み腕の先に視線を向ける。
腕の先は眩く柔らかな光りが輝いている、まるで、月光の様に。
月光の輝きの奥にシルエットが見える、私が好きな人の…すきな…ひと?でも、シルエットが…違う…
光の奥に何かが、翅のような…
あなたは だれ?




