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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (41)




しかいが まっしろ みみの おくが きーん っておとが する


いま なにを していたっけ?



だめだ おもいだせない



どこに いたっけ?



だめだ おもいだせない



いま わたしは



だれが うごかしている?



からだの かんかくが ない



めを ひらかないと



ちがう ひらいている

うっすら みえている しかいのなかで なにかが つぶれてる つぶされている



うでを うごかさないと



ちがう うごいている

うで とは ちがう まりょくのかたまり が うごいてる



あしを うごかさないと



ちがう うごいている



おとを ひろわないと



おとが きこえない



わたしは いま なにを している?





快楽に溺れている





「止すんだ!!」

腕を掴まれた瞬間、全ての感覚から隔絶された世界から、何時もの世界へと帰ってくると、近くでゴチャっと質量を持った重い何かが肉質的なモノに当たる音が聞こえた。


あれ?私、何をしていたっけ?

突然、戻ってきた視界そこから状況を知る為の情報が流れ込んでくる

…状況は?

先ほどとは違って思考に靄がかかっている様な感じもしない、クリアだ、だからこそ、自分が何をしていたのか直ぐに理解し、状況を思い出す。


私、何を…ぁぁ、そうか、嗚呼、そうだ、そうだった…


目の前に転がっている原型が保つことが出来なくなっている異物を見て理解する。

敏感な私が敵意を感じ取り、それに向かって殺意を飛ばす為に条件反射の様に勝手に視界を上げる、前方には数体の獣、鹿…猪…人型はいない…だけどあれは…獲物…えもの…えもの…



殺す!!!!



「止すんだ!!」

敵を目の前にして反射的に動こうとする体が彼の声によって制止される、その声に呼応して私自身も止まろうとする。

だが、それでもなお、勝手に動こうと体が直ぐに動き出そうとする。

思考と体がリンクしていない、主導権が半分以上持ってかれてしまっている。駄目だ、数多の幾重ともいえる怨念達が唸り声上げ続けている。耐え切れない。

幸いにして私を呼び起こしてくれた人物なら全てを任せられる。何とか、伝えないと


相手を睨みつけ殺す事だけを考え歯ぎしりがやまない口に全神経を集中させ主導権を奪い返し

喉を震わせ口を動かす。

「おね、がい…わた、しを…おね…がい…」

少ない言葉だけれど、彼なら理解してくれるし、この状態に…陥ってはいけない状況になった私を…平穏な世界に連れ戻してくれる、はず!

願いが伝わったみたいで掴まれていた腕が話され

「ああ!わかった!少々強引に行く」

信頼できる言葉と同時に視界が真っ白に染まる。恐らくタオルか何かで視界を奪ったのだろう。

視界が真っ白に奪われ頭の後ろで布が結ばれる音がする、これで敵が見えなくなれば、なれば、なれば…


邪魔をするな!!

腹の底から狂気に満ちた声が私の中で叫ばれる


煩わしい!!獲物が見えない!!敵を抹殺するのに!!視界を奪うな!!邪魔をするな!!

猛、荒ぶる衝動が私の体から支配権を返そうとしてくれない!!

直ぐに腕を動かそうとするのを全力で抵抗する!!これ以上、暴れたら近くにいる人達にも被害が出る可能性が高くなる!!

お願い、私が抵抗しているうちに私を拘束して、ここから連れ去って!!

必死に暴れないように抵抗をしていると

「すまない!苦しいだろうが我慢してくれ!」

お腹の辺りに重い衝撃がぶつかってくる。慌てて腹筋に力を入れたけれど少し遅かった、ごぱっと口から胃液が出てしまう。

突然の衝撃で荒ぶる衝動たちが虚を突かれたのか、それとも主導権をある程度、取り戻すことが出来たのか自身の体を膠着させることが出来ている。

「歯を食いしばれ!!舌を噛むなよ!!走るぞ!!」

胃液を吐き出し終え、膠着している体が揺れている、足が地面に着いていない、先ほどの衝撃は私を小脇に抱える為に持ち上げたからだろう。


手洗い扱いだけど、だいじょうぶ、固まって動こうとしない上にいつどこで暴れるかわからない私を強引に持ち上げるにはそうするのが正解!!


小脇に抱えられながら連れ去られていく私からは、歯ぎしりが鳴りやまない、喉の奥から呪詛のような声が勝手に漏れ出ている

今の私が出来ることはただ一つ、勝手に魔術を発動させないように意識を集中する事、それしか出来ないが、それが一番の脅威。


全神経を抗うことに費やし続ける…肋骨から伝わってくる感覚と衝撃によって徐々に体の感覚を取り戻していくのが分かる。

彼が身に着けている甲冑が肋骨に当たっているっという感覚が伝わってくる、冷たく硬い触感が脇腹に刺さっていく、けれど、痛みなんて感じない…

でも、帰ったら痣になっているだろうなぁ、っていうか、私が暴れないようにがっちりとホールドしてるから本来であれば結構、痛いんじゃないのかな?


そんな事を感じ続けながら激しく揺れる状態が長く続く、長く続けば続くほど、徐々に体の感覚が掴めれる様になってくる。


脇腹から痛みが感じるようになってきたので、指先に力を込めるとピクリと反応する、足先に力を入れてみる、少し反応する…

徐々に体の支配権を取り戻していくのがわかったので食いしばっている力を弛める…歯ぎしりが止まる。

呪詛のような唸り声を止める…呪詛が鳴りやむ、喉の支配権を取り戻すことが出来たから酸素が吸いやすくなる。

呼吸のリズムを取り戻す為に何度も何度もスーハースーハーっと心を落ち着かせるように呼吸を繰り返してく…呼吸を繰り返すたびに肋骨が痛い。折れ、て、ないよね?


嫌な予感を感じながらも、今の状態で何が出来るわけもない、大人しくするしか他はない。

神経を集中させ、体の支配権全てを取り戻すことに集中し、全身の感覚を取り戻したころには周囲から色んな音が聞こえる、驚く声、騒めく声…悲鳴のような声は聞こえない。

街の中に帰ってきたのだろう、でも、足は空中にある。降ろされる気配がない。降ろされないから目隠しも取ってくれない、自分から外そうにも今下手に動くと危ないので動けない。

何処まで運ばれるのかじっとしていると、ドアが開かれる音が聞こえ周囲から団長を呼ぶ声が聞こえる、ってことは、病棟に入ったみたい。良かった、折れてるかもしれないからどの道病棟に行く予定だったから、勇気くんも折ったかもしれないって感じていたのかも?

私を強引に持ち上げた時に結構な衝撃が飛んできたからなぁ…折れててもおかしくないよね。


病棟独特の匂いと、落ち着いた看護師たちの声で心の奥底で燻ぶる火が完全に鎮火していくのが見えた。

もう、大丈夫、体の感覚が奪われることは無い。あれらの目が開き見据える敵は人じゃないからね。受けた怨念を他者に向けることは絶対にない。

虚ろではあるが、それだけは、間違えてはいけない…過去に人を殺めたことがある私じゃ説得力に欠けるだろうけれども、もう、間違えたくはない。


心が平穏を取り戻してはいる、何処で降ろされるのか待ち続けていると、全身の揺れが止まったと思ったら、背中が柔らかい感覚に包まれ軋む音が聞こえる。

ってことは、考えられる事は一つ、ベッドの上に寝かせられたかな。病棟のね。決して彼の部屋にあるベッドではない。


沈むような感触、されど、空中から大地へと繋がる安心感に心が落ち着き、んふぅっと鼻から息が抜けていく。

その姿を見て私を運んでくれた人から安堵したような吐息が聞こえてくる

「外しても大丈夫か?」

それでも、確認する声は心配そう。視界を奪っている布を外しても問題ないかの確認、確認は大事。特に…嘘つきな私に関してはね

「うん、もう、大丈夫、全ての感覚は取り戻したよ」

落ち着いて返事をする…だけど、はいそうですかっと信じ切ってくれることは無い、用心に用心を重ね、言われて直ぐに布が外されることは無い。

彼もまた私の本質を知る人、共に歩む人だからこそ、警戒してくれる。

「わかった…暴れたら」「うん…暴れたらお願い」

脅しているように聞こえるかもしれないけれど、最後の確認、私が嘘をついているかもしれないっという保険。

事前に忠告しておくのは大事、もしも事情を知らない誰かが後ろにいた場合、忠告も無しに戦士長が幹部に手を挙げたという見ただけの事実が広まり内部分裂してもおかしくない。

更に運悪く隠者にその事が尾ひれがついて方々へと飛んで行ってしまったら…厄介だもんね。

声に出して周囲に状況を伝えるのは大事


かといって私自身も警戒は怠らない、ここまで体の感覚を取り戻して尚且つ火が灯っていないのであれば暴れるわけなんて無いに決まっている、だけど、油断はしない、全神経が心のままに動くのか確認する。うん、問題は無さそう。

ゆっくりと優しく視界を塞いでいる布が取られると、真っ白な視界に光が差しこむ…知ってる天井。


目をぱちぱちと動かして飛び込んできた光を受け止めきる、うんうん、問題はない。身体制御に関してはね。いてて、肋骨痛い。

「問題ないか?」

「…うん、ありがとう、ちょっと脇腹とかお腹が痛いだけ」

あ、しまった、優しい彼の事を考えて発言すればよかった、つい、事務的にありのままで配慮無し現状報告が余計だったかも。

運命共同体を傷つけてしまったという事実に眉をひそめ悲しそうな顔をしている。そうなるのはわかっていたのに。

パンっと乾いた音が聞こえると

「はい、それではここからは医療班のお仕事となります」

勇気くんの後ろに隠れてて見えなかったけれど、お母さんが白衣を着て待機してくれている。

「外傷を確認するわ、戦士長は外に出てもらえる?」

視界には入らなくても声でわかる、お仕事モードのお母さんだ。はぁ、無暗に外に出るなって怒られるかもなぁ。

お母さんもまた、私が狂気へと堕ちていきそうになるのを知っているからね。

「ああ、すまない…後を頼んでも良いでしょうか?団長」

お母さんの声に反応し表情が悲しそうな顔から真剣な顔つきに変わり、後ろに待機してる人に目くばせをしてから部屋の外へと向かって歩いていく。

淹れ違う様に視界から勇気くんが遠のき、お母さんが視界に映る。表情は硬い。

バタンっとドアが閉まる音に、カツンカツンと廊下を叩くような音に、ガチャガチャした鎧独特の金属音が部屋から遠のいていくのが聞こえてくる

その音が遠ざかっていくのが寂しいと感じてしまい、哀愁を漂わせていても

「服脱がすわよ」

容赦なく診療が始まろうとする。


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