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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (40)

もしかしたら、エルフは長命種だからこそ数が少なく、森の中だけで生きる種族だとすれば…その森だけに住んでいるのだとしたら

他の一族との交流が無いのも頷けるが、私は知っている、勇気くんから旅をするエルフがいることを教えてもらっている。

なのに、私がエルフと言う存在を知らないの理由が本に書かれていた。


…人の手によって絶滅しているから。

そんな歴史を王家がもみ消さないわけがない。本には王家が滅ぼしたのだと書かれていないが、関わっているとみて間違いない思う。


私が知った歴史を伝えると悲しそうな声が聞こえてくる

「…そうか、あの人はもう…返らぬ人となっていたのだな」

抱きしめられる腕に力が込められる、それだけじゃない悲しみで小さく震えている。


嗚呼そうか、そうだよ、今になって気が付いた…

もしかしたら、唯一、ただ一人…勇気くんと同じ時代を生きた人がいるとすれば


幼き日に童話や生活の知恵を授けてくれた長命種であるエルフだけ、だから

私はその可能性を圧し折った…もしかしたらという幻想を壊してしまった。


…ぁぁ、嗚呼、そうか。こんな状況になって気が付くなんて、最低だ…

この懺悔を彼に聞かせたかったのは、聞いて欲しかったのは、彼と唯一同じ時を生きた可能性のある人が、種族が滅びたことを知らせないといけないからと感じたからだ。

彼を唯一知る人が生きているという可能性を潰してしまう事なんて、考えずに、彼を知る人物を、一族を滅ぼしてしまったことを、許してほしいためだけに来てしまった。

彼が密かに願っていた希望を、消してしまった…こういうことに至るのだと分かっていなかった。


彼を二重に悲しませてしまった…最低だよ、私の馬鹿さ加減に、人と深く関わらなかった愚かな自分を殴ってしまいたくなる。


罪深き私を断罪してくれる、彼の次の言葉は

「何だ、やっぱり誰か亡くなったんじゃないか、そうか…そうか…俺を知るかもしれない唯一の人はもういないのか」

頬に冷たい雫と共に落ちてくる。

その雫を拭う事なんて出来ない、私も一緒に雫を流し

「ごめんなさい、貴方の…思い出の人を殺したのは…この大陸の人間、私達の罪なの、ごめんなさい」

過去にこの大陸の人類が犯した大罪を懺悔する、許してもらえるとは思えれない大罪を…

「なら、君の罪じゃない…それらを御せれなかった王政が悪い…俺の罪だ、後世を真っ当に育てることが出来なかった俺の罪だ、君が背負う罪じゃない」

彼自身もこの事実を受け止め切れていないのか、抱き寄せてくれている指先に力が込められていく。指先から彼の感情が伝わってくる…


悲しい罪を懺悔した後は、私達人類の愚かな行動によって失われたであろう多くの命に懺悔する様に。

二人何も言わずに黙祷が行われた。


人の欲望によって命を落とした種族達に許してもらえるわけが無いけれども

許しを請う…罪を魂に刻み込む…嗚呼、だから、罰として人類を断罪する獣が現れたのだとしたら、納得してしまうかもしれない。




静かな黙祷が終わったのか、擦れるような音が聞こえる

「ありがとうサクラ、君のやさしさに感謝を」

「…うん」

優しく肩を撫でられる、そこから伝わってくる感情はいつも通り、普段通り、慈愛に満ちている。


はぁっと小さく悲しい吐息が漏れてから

「それにしても…何処でその情報を得たのだ?」

情報の出どころを聞かれる、そうだよね、国家機密に近い内容をどうして、私が知ることが出来たのか気になるよね。


勇気くんに一連の流れを病棟で寝ている時にお爺ちゃんから受け取った本に書かれていたことを伝えると

「本?…王家が管理する古書の類か…もしや、あれのことか?いや、でも…覚えている限りで良いから、伝記に書かれていた内容を教えてもらっても良いか?」


妖精という種族について書かれていた伝記には、妖精とエルフの結末が書かれていた、それを行ったのが人であると。

覚えている限りの内容を伝えると…過去の過ちを起こした人類に怒りを感じているのか指先が震えている…

「…」

声を出さないけれども怒りをあらわに…

「…っは」

あれ?乾いた音?明るい音程だけど?怒って…ない?

「はっはっは、何だ、そうか、そういうことか!成程な、賢い君が珍しく勘違いをしたのだな、いや、仕方がないか」

彼の渇いた笑い声に悲しい雰囲気が消し飛んでく。

あれぇ?どういうこと?


「その伝記はな、実は、俺が小さい頃から御伽噺として伝わっている、恐らくだが、君が呼んだ古書は古くから伝わっている御伽噺の原本に、王族の見栄が追記された本だろう」

御伽噺?嘘って事?追記?王族が?

「正確には嘘じゃない、本当だ。だが、一部、嘘が混ざっている、見栄としてのな。その事件は俺も知っているし結末も知っている。何故なら、俺が生まれる前に起きた出来事だよ、それ」

唐突に告げられる新事実、時の超越者である彼だからこそ知っている事実に言葉を失う…


なんだってぇ!?ぇ?あの本ってそんなに古いの?

彼の言葉を飲み込み切れてから漸く、自分が勘違いしていたことに気が付くと同時に、古書とはいえ、勇気くんが生きた時代からあるとは思えれなかった。

「恐らく何度か写本しているだろう、王家の書物庫にある古書は全て、何度も何度も写本を繰り返して保存している。何時か劣化して読めなくなってしまうのを防ぐためにな。その為に王家の書物庫を管理する司書さんがいるだろう?彼らの主な仕事は大事な本の複製だからな」

あ、そう、なんだ…司書さんいるんだ。訪れたことが無いから知らないけれど、そう、だよね。誰かしら管理する人は居てるよね。

「そうかそうか、なら、大丈夫だ、俺の知っている人は今も何処かで、子供達に色んな事を教え、遊んでいるさ、子供達が好きな人だからな」

…段々と、恥ずかしくなってきた、完全に私の早とちりなんだ。それじゃ、王家では誰しもが知ってる様な内容だったりするのかな?

「その話はな王族であれば全員が知っているわけじゃない、当事者の家系は知ってるだろうが、本の内容の通りに知っているだろう、真実を知っている理由はな、俺が幼いときに耳の長い人から教えてもらったことがあるからだ。懐かしいな思い出してきたよ。そうだそうだとも、思い出したよ彼の名前を。エルフと名乗っておられたのを思い出したよ、あれは種族名だったな、彼の名前は子供では覚えきれない程に長くて覚えれていなかったんだった。まさか、この時代になってその御伽噺を聞く日がくるとはなぁ、思っても居なかったよ」

楽しくなってきたのか、頭を掴まれて撫でるというよりも、ワシワシと指先で頭皮を擽られる。

「あー、もう、君が深刻な顔をしているから何事かと思ったじゃないか、イヤー良かった良かった。誰も不幸になっていないじゃないか」

むぅ…だって、むぅ…

気恥ずかしくなってきたのでおでこを彼の厚い胸板にぐりぐりと擦り続ける。


「それにだ!賢い君がこの部分に気が付かなかったというのも笑い話になるぞ?ユキが君の仕事を手伝っている時に俺は意識を眠らせているわけじゃない、ユキが運んだり整理整頓している錬金素材を見ていたりするから、知っているぞ、時折、調合時に用いている金色の粉の存在をな」

…こんじきのこな?金粉かな?金属の粉かな?どれだろう?

「アレは妖精の鱗粉だ、王である時に見たことがある、貴重で高価な品物だ、金の削りカスじゃないぞ?粉の重さで見分けることが出来たはずだ。金の粉と違って妖精の鱗粉は軽いからな。金よりも貴重な品物で詐欺が横行していたからな、見分け方も豊富に発見されていて仕入れ商人の間では基本的な知識だ。思い当たるだろう?滅多に手に入らない貴重な錬金素材だ」

貴重な、金色の、こな?…ぁ、あー!!アレかぁ!!仕入れる時にダストって呼ばれていたから、ダストって覚えていたからうっかりしてたけれど、あれの正式な名前って確かフェアリーダストだった気がする!何かの比喩から名付けられたと思っていたけれど、妖精の鱗粉なんだ、あれ。

そ、そういうことかぁ…あれ、高いけれど流通してんだよね、行商の人に常にお願いしている素材の一つで滅多に手に入らない貴重な素材。

だけど、そっかぁ、比喩表現じゃなくて本当に妖精から手に入る素材だったのか。


ってことは!

「生きてるよ、妖精も、そして、エルフも」

そういうことだよなぁ!!うっわーもう、恥ずかしー!!滅茶苦茶、勘違いしちゃってんじゃん!!

王家が管理する書庫で古いから…ぐわー、雰囲気に惑わされたのかな?ぐぅー!そうじゃん、よく考えたら答えに辿り着くよ!

幾らお爺ちゃんでも本気で持ち出しが禁じられている様な書物を手に入れるのは難しいじゃん、宰相が関わっているから大丈夫なのかな?って思ったけれど、実は、そこまで大事な本じゃないってことじゃん!!

だからか!お爺ちゃんと言えど、王家が管理するような古書をあんな野ざらしで誰が来るかもわからない病室に置いて行かないよね!!本当の本気で貴重品だったら絶対に直接渡すよね!!

っかー!やられた!あれ、お爺ちゃんの悪戯心ってやつじゃん!!うわぁもう、はめられたぁ…


…ってことは、お爺ちゃんは、この状況になるのを見越してたって可能性も出てくるよね?

こういうことイベントが発生するかもしれないっていうのを期待してお爺ちゃんが渡してきた、孫との関係値をより深くする為に?…然もありなん!!!

だとすれば、お爺ちゃんに一杯食わされた!!!


「それにだ、妖精たちが人達に滅ぼされるわけがない、彼らは狡猾だ、襲い来る人なんて一瞬で惑わして同士討ちさせるさ」

はっはっはっと笑ってる、確かに、人を惑わす魔眼を持っている妖精が多勢に居たら…考える間でもない、耐性も対策も施していない人達が勝てるわけないじゃん。

っじゃ、あ、滅ぼしたとか襲ったとかは…見栄か?負けたと書きたくないからか?人間の見栄部分がこれってこと!?

「あー。笑った笑った、そうだったそうだった、そんな昔話があったなぁ、はー、懐かしい」

笑いつくしたのか、声が擦れている、悲しいお話だと思ったけれど、そっか、悲しくないお話だったんだ、なら、良かった。


人の罪、襲ったことには変わりは無いけれど返り討ちに会ってるってわけだから罪に対しての罰は受けている

…人は愚かだけで、妖精たちの方が上手だったってことかな。それに、流通しているってことは妖精とは和解しているってことになる、よね?

あーそっかそっかぁ、っと色々と納得している間も彼は、笑った笑ったと言いながらも込み上げてくる感情が抑えきれないのか笑い続けている。

笑い声の隙間から色んな言葉が零れ落ちてくる、賢いからか、優しいものな、妖精がずる賢さで負けるわけがない、などが零れてくる。

胸の前にいる私に落ちてくる言葉からきっと、私が勘違いして思い違いをして、悲しみの果てにやってきたのが面白いんだろうね。むぅ、私だって、勘違いくらいするもん。


でも、笑い話になってよかった。独りで悶々と抱え込まずに勇気を出して彼に会いに行って良かった。

独りでいたら、悲しみと絶望と…人の愚かさで心が反転してもおかしくなかったもん。



その後は、二人で笑い話をしてお開きとなった。

良い雰囲気っというものは皆無だった、微笑ましい父と怖い夢を見た娘って感じ。

お爺ちゃんには申し訳ないけれど、チャンスを逃しちゃったみたい。

部屋を出る時も彼の顔は昔話を思い出したからかとてもにこやかだった。

…でも、何処か寂し気な瞳だった。



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