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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (39)

コンコン…ドアをノックする。静かな廊下に響き渡る。他の人に聞かれても気にしない。静けさに包まれている世界に新たな音が生まれない。きっと警戒しているんだと思う

コンコン…ドアをもう一度ノックする、静かな世界に新たな音が生まれる。音を奏でる人物が絶対にここから動かないのだと…

「鍵は掛かっていない開けていいぞ」

ドアの奥から産まれた新たな音…声の雰囲気から伝わってくる、警戒と怒り

…こんな夜更けに誰だという怒り。警戒するのは王として当然だと思う。警戒するのは当然、常識を考えろ迷惑にも程があるってことくらい…

私だって非常識だってわかってる、わかってる、わかってる…怒られるのも覚悟の上、迷惑なのもわかってる。


そんな感情を私の我儘で抱かせてしまったストレスで着ているロープを握りしめ下唇を噛んでしまう

でも…


嫌われても仕方がないと心に決めてここまで来た、だって、これ以上…心の叫びに耐えられないから、辛過ぎるから…

助けを求めるようにゆっくりとドアを開ける

「…って、なんだ、サクラか」

認識阻害のマントに包まれている私を見てドアを開けた瞬間に一瞬だけ漂うに感じた不穏な空気が消える。

「…サクラ!?どうした?緊急事態か!?外に漏れると良くない…っか、中に入ってくれ」

そして、直ぐに夜更けに突如、申し訳なさそうに来訪して来た人物がどうして来訪したのか、普段の彼なら直ぐに気が付くのに一瞬だけ魔があったのがきっと寝ていたからだろうね。頭の切り替えが遅かったのは。


彼の申し出にコクリと頷き躊躇ってしまう、幾ら何でもこんな夜更けに部屋に足を踏み入れてもいいのだろうかと

「遠慮をする必要はない、入ってくれ」後押しされる様な申し出に躊躇いつつもゆっくりと部屋の中にはいる。


部屋の中に入りドアを閉める。たぶんだけど認識阻害のマントを被っているから、誰かに見られることは無かったと思うから、後日噂にはならないと思うけれど…音までは完全に消えていないから誰か夜中に起きていたら何処かの部屋に誰かが夜這いに来たと思われているだろうなぁ…

こんな夜中に彼の部屋に訪れるなんてそれ以外の理由なんて無いもん…偶々、近所の部屋の人が起きていたら勇気くんにあらぬ疑いが生まれて話題の種になるって考えてしまうと。

その後に発生するであろう出来事によって彼はからかわれるだろう、そう考えると迷惑でしかない。


そんな原因を作れば当然、嫌われる可能性が高くなってしまう、彼に嫌われたくない想いと、彼に…どうしても話さないといけないという我儘に近い想いがぐちゃぐちゃに絡まり続けて、私の心が前に進むことが出来ずに永遠と停滞していた…

部屋に到着してから一連の流れを冷静に思い返してしまって、閉じたドアの前から動くことが出来なかった。

その様子を見たからなのか困惑した声と共に

「どうした?緊急事態なのだろう?」

近づいてきて慣れた手つきでマントを脱がされる、彼が傍に居るのに、顔を上げることが出来ない。

色んな感情が渦巻きすぎて、どうしたらいいのかわからない。


うつむいたまま動けなくなっている私の状態で状況を判断したのか

「…誰か亡くなったのか?誰だ?誰にやられた?…人型か?いや、警鐘を鳴らす鐘は…音はない、だとすれば。暗殺…人か!?…敵は人なのか!!」

徐々に声が荒れていく…その答えに行きつくのは当然だよね。

数多の経験を得ている彼だからこそ辿り着く答えに…私が何も言えずに静かに俯き続けていると

「…すまない」

一言、唐突に謝ったと思ったら抱きしめてくれる。温かい。泣いてしまいそうになる

「急いてしまった、君の心よりも事態を把握することを優先してしまったことを許してほしい」

彼は何も悪くないのに私が悪いのにそれすらも受け止めてくれる。

動かない私を感情によって混乱している娘を優しくリードする様に手を繋いで部屋の中央に置かれているソファー迄、連れていってくれる。

ソファーに座らされて、私の為に紅茶まで淹れてくれて…隣に座って何も言わずに。傍に寄り添ってくれている…


…今更、人が亡くなったのは違うと言いにくくなってしまう


ここに来た理由…本当に個人的な感情。

どうしても抑えきれなくなってしまった感情が溢れ出てきて、それを共有、じゃない、受け止めて欲しい人が頭に浮かんでは離れなくなってしまって、どうして彼に受け止めて欲しいのか具体的な理由も何もかもが、わからない、懺悔しないといけない感情に全てが支配されてしまったかのように居ても立っても居られなくなってしまった…

後先考えずに、マントを羽織って、夜中だという事を解っていても、珍しく感情のみで動き出してしまって引き返すことが出来ずにいた結果…


こういう状況になってしまった。

紅茶を飲んで、彼が傍に居る事で…段々と落ち着いてくる、落ち着いてくれば色々と冷静になってくる。

冷静になればなるほど、どうしてここにきたのか、切り出しにくくなってしまう。


だって…勇気くんが考えているような事じゃないんだもん。

彼と私が知る人物の誰かが亡くなった、それも、人の手によって、私が夜中に来た内容をそんな感じだろうと彼は…私から出てくる言葉に備えて取り乱さないように重く受け止めている…そんな事は一切ないんだよね。


ここに来た理由っというか、きっかけ、感情が膨れ上がってしまったのが病室で読んだ本、アレの影響。

あれに書かれていた内容が…時間が経過すればするほど、何故か頭から離れることが出来なくなってしまった、ずっとずっと…終わることが無く永遠と抜け出ることが出来ない、何かが内から膨れ上がってきて何をしていても頭の片隅に残り続けて、少しずつ少しずつ膨らみ続けてきた。


夜になって寝れば忘れるだろう、一時の感情だと…

寝て忘れようとしても、何度も意識を泥の中に放り込んで寝ようとしても泥から掬い出されて意識が浮上してきてしまって、それを何度も何度も繰り返していると、どう頑張っても寝れなくなった。

膨らみ続けてきた感じたことのない感情によって、全身がソワソワしてきて、心臓の動きがずっと不安定で…

この感情を誰かに受け止めてくれないと心がぐちゃぐちゃに壊されてしまいそうな気がしてきたら一人でいるのが凄く凄く辛くなってきちゃって…

心の中がどんどん、隙間なく圧迫される様に膨らんできた感情。


懺悔したかった、人類の罪を告白したかった、許してほしかった。


本で起きた出来事を人類代表として懺悔し許しを請いたかった。

懺悔する相手は誰でもいいわけじゃない、この懺悔を受け止めてくれる人はこの大陸に居ない、だって、当事者は誰もいないし被害者もこの時代にいない。


でも…

どうしてかわからないけれど、この感情を、懺悔を…受け止めて許すという行為をしてくれるのは勇気くん以外にあり得ないと何故か決めつけていた。

勇気くんに罪を悔い改め、祈りを捧げないといけないと頭から離れることが出来なかった。



沈黙が続く、沈黙を破らないといけないの私、でも、先に進むことが出来ない…

こういった経験が無さ過ぎてどうしたらいいのかわからなくなってしまう。



ただただ、二人で寄り添っている…こんな状況、嬉しい筈なのに喜ぶべき状況なのに…気まずい…どうしたらいいのかわからない、停滞した時間が流れていく。

視線を勇気くんに一瞬だけちらりと向けると何も言わずに何もせず静かに待ってくれている。

その表情から怒っている様な焦っている様な、早くしろっというような雰囲気が一切伝わってこない、何があろうと私から切り出してくるのを待ち続ける様に、安らかな表情で寄り添ってくれている。こんな夜中で何もすることが無いというのに、暇そうにせず、眠っているわけでもなく。静かに待ち続けてくれる。

隣から伝わってくる全てが…心も体もずっと、傍に居てくれると何があろうと受け止めてくれるっという安心感が伝わってくる。


そんな優しい人物を永遠と突き合わせるわけにもいかないよね。

溢れる感情のせいで喉が渇きすぎて焼けるような感覚を癒す為に暖かい紅茶を飲み干していく…


飲み干したことによって心に力が流れ込んでくる気がした。

漸く、私の心がどうしてこうなったのか話せるような気がする。


ソファーの上にぽつんと置かれている私の手が寂しくないようにとずっと上から優しく包み込むように重ねてくれている。

その手を握り返すようにすると意図を察してくれたのか握り返してくれる。


勇気をありがとう


「ごめんね、夜遅くに」

「構わないさ」

小声で呟く様に声を絞り出しても直ぐに反応してくれる。その声も落ち着いていて、待たされたというような感情が微塵も感じられない。

「先に、訂正だけさせてほしい。人が亡くなったわけじゃないの」

「それならよかった。それ以上の悲しみは…ない、よな?」

言葉の語尾から伝わってくる賢く察しのいい彼が考えそうな悲劇。

たぶんだけど、私が密かに行っている実験のどれかが失敗に終わって取り返しのつかない段階に落ちてしまったのかと考えてしまったのだろう

「ううん、それも違うよ、実験は順調…人型も現れていない」

「…なら、悲しい夢でも見たのか?」

握っていた手が離されてしまう、怒っちゃったのかな?っという感情を否定する様に、直ぐに肩を抱き寄せてくれる。

自分の子供が怖い夢を見て寝れなくなってしまったことがあったのかな?ってくらい一連の動きに迷いがない。

彼の子供がそうしたように私も、彼の胸に頭を乗せて甘える様にしてから…


懺悔する


「人の罪を見てしまったの」

本に記された残酷な内容をぽつりぽつりと語っていく。

私利私欲の為に、森で静かに暮らしている一族たちを襲った事

そう、達なんだよ…あの本には妖精以外の事も書かれていた、共に寄り添うように共存しているエルフの一族たちとも衝突している…

古書を読んでいる最中に、どうして私が他の大陸にそんな非常識な特殊な生命体がいることを知らなかったのか。疑問を感じていた、その疑問の答えが



本に書かれていた村を焼いたと…

滅ぼしている…村一つを人類の私利私欲の為に…


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