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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (38)

外に出て太陽の光を浴びる…

ぐぐっと背筋を伸ばし目を擦る。

研究に没頭し過ぎて徹夜してしまった。

太陽が黄色い…


くわぁぁっと欠伸を垂れ流しながら仮眠をとるために病棟へ向かう。

病棟の一室で寝ていればお母さんなり、セレグさんなり、起こしてくれるから。

足を引きずるように前へ進んでいく、集中力が完全に途絶えてしまった影響で歩いていても左右にふらふらと揺れてしまう

「、、、ぁ」

ふらふらと歩いていると左足が小さな地面の凹みに捕らわれてしまい、体の軸が大きくぶれ、大きく左方向へと進行方向がずれ建物の柱に向かっていく

あちゃーぶつかるなぁ、まぁ、この勢いならちょっとした打撲でしょ、まぁいいや


抵抗する気も、うせる程に疲れているのか流れていく体に力を込めて踏ん張ったり抵抗することなく柱に向かって

「ほいっと」

寸でのところを誰かに抱き寄せられるように助けられる

「…あり、がとう」

安堵感からなのか、限界だからなのか、目を開けるのも面倒なほど疲れが一気に押し寄せてきている

「なんじゃい、生気が宿っておらんぞ?ほれ、何処かで休むのが一番じゃろ」

その声を聴いて、この人なら、私を病棟、もしくは、お母さんの所に連れて行ってくれるだろうと安心し目を閉じ、意識を落としてしまう。





…知ってる天井

眼球だけを動かして周囲を確認する、良かった、怒る人が隣にいない。

体を起こして腕を上げると手の甲が引っ張られた影響で小さな痛みを感じる…視線を向ける間でもない、懐かしい痛み。

手の甲には点滴が付けられていて腕を上げた弾みで針が揺れた痛み


ぼんやりとその状況を眺め、徐々に思考がクリアになっていく。


点滴、されている…ってことは!?着ている服を確認、入院用の服!病衣!別名、患者衣!!っげ、私もしかして一日くらい起きなかったのかも!?

そっと、掛け布団を持ち上げてカテーテルが繋がっていないのを確認し、繋がっていないのを見て、1日は経過していないと予測することが出来るのと同時に猛烈な尿意に襲われ急いでトイレに向かって駆けだしていく。


トイレから戻ってくる途中、壁にかけられている時計で時刻を確認したので、恐らくだけれど、意識が飛んだのが…何時ごろだろう?正確な時間はわからないけれど、太陽の位置的に午前中だったと思う。だとすれば、気を失っていた時間は、4時間って感じかな?


長い時間意識を失っていなかったことに安堵する。

はぁ、焦ったぁ、一日中寝てしまっていたら、色んな人に心配かけ過ぎちゃう。

先ほどまで寝ていた部屋に戻って、取り合えずベッドで横になって点滴が終わるまでゆっくりとしようと思ったら、見慣れないモノが置かれていることに気が付く。


「何だこれ?」

ベッドの横に見慣れない本が置かれている、それも5冊も?…状態を見る限りかなり年季の入った古そうな古書だけど?

何かの魔術書かな?大昔の新しい資料でも見つかったのかな?術式研究所の人が持ってきてくれたのかな?何時だって古文書は見つけてきたら持ってきてくれるように頼んでいるからそれかな?

今すぐ本を手に取って中身を確認したいけれど、ベッドの前で立ち尽くし読むのも、ね。

取り合えず、ベッドに登って、枕を背中の後ろに回して背もたれにしてから分厚い本を手に取る


さてさて、古書に書かれた、タイトルは…


『妖精伝記』


…?何だこれ?タイトルからして魔術書ではないのが直ぐにわかったけれど、見た事も聞いたことも無いタイトル。


ますます意味が分からなかった、本の種類的に歴史的価値のありそうな高そうな本。装飾がしっかりとしているし、使われている材料も…これ、恐らくだけど羊かな?生き物の皮だよね?木材から作られる紙の方が昔から安かったはず?獣の皮なんて貴重品で作られている?

極普通の本とは違う一線を画している…こんなしっかりとした装飾の本、保存状態も凄く良い。こんな貴重な本、上流貴族でも易々と持てる物じゃない

貴重そうな、ううん、絶対的に歴史的な資料を手に持って、どうしてこんな貴重そうな本がこんな場所に無造作に置かれているのか、誰が持ってきているのか考えていく。


…上流貴族?お爺ちゃん?…妖精…


あ!!ゼンケンさ・・おっと、ラアキさんになんか、それっぽい話をした記憶がある。

確か、勇気くんから妖精の童話を聞かせてもらって、お爺ちゃんならそういった本とか知ってるかも?って思ってさ、お爺ちゃんて暇なときって遊びに来たりするから、その時に息抜きにそういった伝記があれば読んでみたいっておねだりしたんだった。

ってことは、それらしきものが見つかったから、持ってきてくれたって事かな?だとしたら…嬉しい。純粋に嬉しい。


歓びからついつい、鼻の穴を大きく広げて鼻息を荒くしてしまう。

んふー、ラアキさんは気配り上手だなぁー、だからこそ、奥様達と仲良く過ごせているんだろうなぁ。

点滴が終わるまでの間、暇だし!さっそく読ませてもらおっかなっと!!


貴重な資料に胸を躍らせながら分厚い表紙を開き丁寧に汚さないようにページをめくっていく。


・・・・


んむ

パタンと一冊読み終わったので閉じ、他の四冊の本が置かれているテーブルに置く。

内容って言うか、言葉の表現が古臭いから読み解くのがめんどくさくなっちゃったから、段々と進めば進むほど、流し読みになっちゃった…

内容は、遠い異国の地にある大きな大きな大木を根城っていうのも、違うか?大木を家にして生活している妖精って言われる一族と、その近くで生きているエルフっていう一族の生態?共存関係?歴史?的な内容だった。


感想は一言!かたっくるしー!歴史を研究している人が読みたい本じゃんこれ!もう少し、こう…彼らと私達とは生活が違う、不可思議な世界を見せてくれるのかと思ったんだけどなぁ。

中身が思っていたのと違ったよ…ガチガチの伝記じゃんこれ?何処で見つけてきたのかな?お爺ちゃんが持ってる書庫とかにあったのかな?


ちょっと残念な気持ちが大きいけれど、知りたかったことが知れたのは良かったと感じている部分もある、

ガチガチの伝記ばかりではなく、絵として、本に書かれている一族が描かれていた。勇気くんが言う通り、本当に耳が長い一族が居たんだと驚いちゃった。

勇気くんの話を聞いてさ、どうせ、ちょっと耳が大きな一族でしょ?って思ってたから驚きだった。本当に耳長い、そして、勇気くんの言う通りだった。

そんな長生きする生命体何て存在しないって思ってたのに、本には、彼らは長命で100年以上生きるって書いてあった…

妖精も、人の体に小さな虫のような羽が生えてて、はえてて…どうしてかな?その羽に見覚えがあるんだけど…んー、何処で見たっけ?虫見たいなんだよね、むし…虫?虫かぁ…ん~…あ!トンボに似てる気がするから、トンボかな?

トンボの翅を思い出してみると、凄く似ている。だとすれば妖精はトンボと同じように空中制御能力が高いのかもしれない。


うん、内容を思い返して反芻してみればみるほど、良い暇つぶしになっていると感じている。

だって、私の知らない世界がこの本にはたっぷりと詰まっていたから…


内容を反芻すればするほど、これからの事を考えたり、過去から得られる何かがあるとか、そういうのはもうどうでも良くなっていく。

この五冊を流し読みでもいいので読破しちゃる!っという意欲が沸々と湧き上がってくる。

読んでる途中は伝記かぁ~。内容もかたっくるしぃし、どうでもいいかもなぁって思ったけれど…一冊読んでから思い返してみると、意外と楽しめて読んでいた気がしてきた。

うん、これは、良い息抜きになりそう。


二冊目を読もうと勢いよく手を伸ばすと、一枚の紙が落ちてきた?何だろうと手に取ると

『これ、王家管轄書庫からの貸し出しじゃから、丁寧に読むんじゃぞ』

驚愕の事実が判明して驚きの余り小さな悲鳴が溢れそうになる。


…とんでもない書置きが置かれていて心臓が小さく震え止まるかと…


そんな貴重な本を寝てる人の隣に置くなよ!!!無くしたりしたらお爺ちゃんの首飛んじゃうじゃん!!嫌だよ!私のせいで極刑になるの!!

お爺ちゃんが残した紙には続きが書いてあることに気が付き何だろうと、親指を動かして親指の下に書かれている文字を読むと

『わしの馬鹿弟子がこっそり持って来たからわしに責任はないぞ?』

どういう結果になろうと宰相が責任を負わされるっという状況だと直ぐに察することが出来た。

彼ならまぁ、これくらいならもみ消すことも簡単だろうし、気にすることないか。


「なら、いいか」「良いわけないでしょ」

こつんっとおでこを叩かれてしまう、痛くはない衝撃と声で視線を上げたくないけれど…怒られる覚悟で視線を上げると。

診察するときにいつも着てるコートタイプの白衣今日の勤務は内勤務だったみたい、外勤務で私が倒れたと報を知らされて急いで駆けつけたわけではない。

…まぁ、そりゃぁこんな状況になれば、やっぱりいるよねー…はぁ、お小言やだなぁ。

「ほら、診察の時間よ」

怒られるかと思ったら、第一声が冷静に普段通りだった。

テキパキと血圧を測られたり、口の中を見られたり、熱を測られたり、服を捲られて心音をチェックされる…ってか、私、肌着も何も病衣の下、ショーツ以外何も着せられてないじゃん、別にいいけど…ショーツしか…まぁいいや。病棟だもん我慢する。

「うん、異常はないわね、ただの寝不足ね」

ぽんぽんっと頭を撫でられる

「心配かけないの、点滴が終わるまではゆっくりとしていなさい、それと、言伝だけどね、その本は義父様が置いていった物よ、高そうな本みたいだし丁寧に扱うのよ?」

それじゃぁねっと、診察で乱れた病衣を綺麗に整えてから、流れるように部屋を出ていった。


事務的な対応で起こられることが無かった。疲れた体にお小言は堪える、それが無いということに少しホッとする。

もしかしたら、今日は忙しいのかもしれない…なら、このあと戻ってきて怒られることもない!忙しい間で在れば点滴が終わるまでこっちに戻ってくる事も無い!

うっし!怒られないのなら堂々と意気揚々と!本でも読むか!!

免罪符を得たのかのように心躍らせながら分厚い本に手を伸ばす。




二冊目を読み終えて、素朴な生活環境で牧歌的な生き方をしていて、少し羨ましいと思ってしまった

三冊目を読み終えて、何も発展しない生き方に窮屈だと感じてしまい、そんな生き方は出来そうもないなと直ぐに先の考えを否定した

四冊目を読み終えて、薬学の知識が増えた気がした、新しいアイデアに何か繋がるかもしれないと知識欲が満たされて嬉しかった

五冊目を読み終えて…




人は愚かな生き物で救う価値はないのではないかと考えさせられてしまった。




妖精との歴史がこれ以上、紡がれることが無い理由を知ってしまった。

伝記がここで途絶えたのは…人が妖精を狩ろうとしたからだ。


表向きは人を惑わす妖鬼として、妖精が持つ魔眼に魅了された人が妖精に生命を吸い取られたり、死ぬまで奴隷のように働かされるのだと断定し、あれらは人類に負をもたらす悪しき存在と妖精たちが暮らす近くにある国が、あれらは悪だと、人類の敵だと決めつけたから。


この伝記は…裏の理由、真実も描かれていた。他の国で在ろうと過ちを繰り返してはいけない、王家だからこそ知らないといけない人の罪



妖精の体は薬になる



正確には一定の年齢に達した妖精から手に入る鱗粉、これが貴重な薬の材料になる、これを用いれば魅了の魔眼に対して抵抗することが出来るし、他にも数多くの秘薬と称される薬を産み出す事も出来るし、錬金術に用いる素材としても優秀なことが多いと書かれていた。


そして、更に成熟した妖精の魔眼、子供と同程度の大きさになった妖精の魔眼は人に移植することが出来るのではないかと書かれていた


これを見て悟った、恐らく、ユキさんの血筋は何処かで妖精の魔眼を移植され、潜在的に妖精の魔眼を保持していた。

それを、獣共が嗅ぎ付けユキさんの魔眼を爆弾とするために先祖返りでもさせたのだろう…それを制御するために子供の魂、勇気くんの魂を植え付けたと考えるべきだ。

そして、妖精の魔眼、魅了の魔眼に最も魂として適正値が高かったのがユキさんだったと仮定すれば…繋がってしまう。


ユキさんが持つ魔眼は妖精由来の可能性が高い…だからこそ、王家には妖精に関する伝記が残されていた。加担していたのだろう…妖精狩りに…

手に入れた魔眼、王家が使わないわけがない。王家の血筋であるユキさん、つまり、勇気くんの子孫は何処かで魔眼の実験台にされたということになる。


王家は…腐っている…私達、寵愛の巫女が残した記述にも王家が行った数多くの非道な行いが記載されている。

…そんな人達が生きている王都を守る必要性があるのだろうか?私が、私達が命を懸ける必要性があるのだろうか?


胸の奥…心の奥底に風が吹く、起きてはいけない、つけてはいけない火が見える。


止そう、これ以上はダメ、起きてはいけない声が起きてしまう。

そうなると、お母さんに迷惑をかけてしまう。駄目、貴女達は寝ていて、まだ、起きる時じゃないから。


五冊目の本をベッドの横に置こうかと持ち上げて置いてみるが…本から手から離れることが出来ない、彼らの苦しみが痛い程伝わってきて、手を離すことが出来なくなり

感情のままに本を抱きしめ、大粒の涙を流してしまう。




罪なき種族に愚かな人類代表として謝罪の念を込めて本に謝り続けた






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