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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (35)

空を見上げると、神聖なるお月様はお顔を隠されている、そう、今宵は約束されし新月の夜

月が無いっというのは私達の道を照らしてはくれない、されど、人類は月に頼ることなく光を得た。


そんな光をマントの下からぼんやりと輝かせ、多くの人が寝ようとしている夜更けに周囲を警戒しながら進む影がある。

進行方向は、私が作った地下倉庫、兼、魔石倉庫、兼、秘密のラボがある、地下室がある建物へ向かう一つの影

その人物に気づかれないように、私も後をついていく。にしし。


一つの影は、私と同じように認識阻害の術式が編み込んであるマント型魔道具

だから、そんなに警戒しなくてもバレやしないっていうのに、子供が寝ないといけない時間に外に遊びに行くっていう親の言いつけを破る様な背徳感が、彼女を慎重にさせるのかな?ユキさんは嘘が苦手っぽいから、そういうのもあるんだろうなぁ。可愛い奴め。


認識をずらす魔道具を使っているのにどうして私は見えているのかって?製作者なめんなっての、認識をずらす為に発動している波長、それと同じチャンネルに私の魔道具も合わせているので、同じ波長に包まれていて尚且つ制作者である私だからこそ、私には見えるってね。でも、その事を彼女は知らない。当然、私も彼女に見つからないように隠密してるから、見つかる様なヘマをするつもりもない。にしし。


一度だけ周囲を見回してから音を殺すようにゆっくりと慎重に…ドアノブを捻って、重たいドアをゆ~~っくり開けている。

開けた時に風が抜け出ていったりするから、あのドアってちょっと重たいのに物ともせずにゆっくりと開けれるのは肉体が鍛え上げれているからってことだろうね。

私も同じように出来る限りゆっくりと音を出さないように開けて地下へと降りていく。


先に地下に辿り着いた彼女は私以外に誰も居ないのを知っているので遊びに来たよーっと地下室全部に響き渡る様に声を出すが…当然、返事が返ってくることは無い、だって返事が返ってくるだろう人物は後ろにいるんだから、にしし。

階段を下りて大きな声を出している人物が見えると、周囲をキョロキョロと見回して、なんだぁっと悲しそうに呟いて寂しそうな表情をしている。

着ていたマントを脱いでその辺にある机の上に投げ捨ていつも座っている椅子に座って寂しそうな顔で周囲を見回してから、大きな溜息をついている。

あの表情は、約束を忘れたのかなぁっと言う顔だね。忘れるわけないじゃん、にしし。


壁にかけてある時計に視線を向けると、約束の時刻まであと10分以上ある。

けれども、ユキさんは楽しみ過ぎたのか、それに気が付いていない。それ程までにこの時間を楽しみにしてくれたのだとしたら、私も嬉しい。

嬉しいのなら直ぐにでも声をかけて安心させてあげるのが友情って思うじゃん?

けれども!それとは別で、その寂しそうな顔を見て悪戯心が湧き上がってくる!!さぁ何をしてやろうかと考えていたらバチっと目が合う…これが野生の勘なのだろうか?勇気くんが鍛え上げたサーチ能力?う、動けない…


どうしようかと動けないでいると、何か違和感を感じたのか、それともここに何かあると理解しているのか、近くまで歩いてくる!?そこに私がいるであろうと手を伸ばしてくるので慌てて逃げるように移動しようとしたのがいけなかった、ううん、どの道、あのままじっとしていれば触れられる…

慌てて移動しようとしちゃったからつま先がカツンって音を出すように地面を蹴ってしまった。

位置がバレてしまったら…鷹が狙いすましているロックオンするように急降下しているのと同義、そうなるよね。

「いる!」

結果は当然、見つかりました~。

がしっとマントを掴まれたので抵抗する事も無くあっさりと剥がされてしまう

「たはー。見つかった」

「やっぱりだ!…何時から居たの?」

驚いたような表情から直ぐに呆れた様な表情に変わり首を傾げる。姿かたちは勇気くん、何処からどう見ても漢なのに、仕草が女性っぽい。

この姿を他の人が見たら思考停止して夢だと思って現実逃避するんだろうなぁ。


「今さっきだよ、ユキさんがマントを脱いだ辺り」

「そうなんだ」

あっさりと信じてくれる。この子は純粋だ。何時まで経っても純粋なまま。

滅びゆく運命の私達も彼女が何時まで経っても純粋なままの部分に…疑問を抱くことは無い、もう…疑いなんてものは抱かない。


私達が出した結論はこの子の魂は永遠に少女なのだろう


体を勇気くんが担当することになり、ユキさんは体の中に宿る子供達と対話するのが仕事となっている。

当初は勇気くんも不安を感じてたみたいだけど、体の中に宿る子供達からは大きな反発も無く順応してくれている。

私も少しでもその助けになれば…ううん、純粋にユキさんと一緒に過ごしたいから。

私の心の安寧も含めてね。


そんなわけで、新月の夜は出来る限り時間を作って誰にも邪魔されない場所は何処があるかなってことで考えたら、誰も来ることが無い部屋がちょうどある。

なら、ここで遊べばいいやってことで、彼女達と遊ぶことにしている

つっても?表に出てくる人格はユキさん以外にあったことがない、無いと思う。



「今日は何がしたい?」

椅子に座って優しく微笑むとチェスがしたい?珍しい…ユキさんはこういう簡易戦略思考遊戯を好まないと思っていたのに、どういう風の吹き回しだろう?

前回にやってみて二進も三進もいかなくて癇癪起こしたのに?私に合わせてくれたのかな?…なんてね。自惚れんなってね。

「いいよ、遊ぼう、駒の使い方は覚えた?」

首を横に振る。なら、優しくルールを説明しながら遊ぶとしようかな。





「勝てない!!」

頬を膨らませてお怒りのご様子。

しょうがないじゃん、手加減するとそれはそれで不機嫌になるんだもん


いっぱい頭を使ったからか、ふあぁっと欠伸が漏れてしまっている。時計を見るとまだ、30分経ったくらい、何時も解散する時間まであと2時間もある。

お開きにする?っと声を掛けると違うことがしたいっと言われる、そうだよね、まだ来たばっかりだよね、私達の夜はこれからだってね!

はいはいっと返事をしたら、椅子から立ち上がって冷蔵庫に向かうので私の分も!っと、声をかける。

机の上にジュースが置かれた後は…お決まりの恋バナが始まる。


何処で嗅ぎ付けているのか、どうやってアンテナを伸ばしているのか、色んな方面の恋バナを知っている。

もしかしたら勇気くんが色んな人の相談を受けているのかもしれない、あの伝説と語り継がれつつある戦士長のただ一人の息子として相談する相手って考えると相応しいと感じる。彼が戦士長になる前から彼を中心に街が動いていると感じることが多かったもの。


…もしくは恋の相談という名の会話手段かもしれないけどね。


っま?心配なんてしないよ?私の勇気くんがその辺の有象無象に心惹かれる事なんて無いから心配はしてないけれど…嫉妬の炎は燃えあがるよ?

一途な一族だと信じているけれど、あの人の血筋でもあるから、その辺り緩いんじゃないかって狙ってくる人が一定数居るんだよなぁ!!ぐるるる


「それでさ、姫様は…」

その先の言葉を出してもいいのか踏みとどまる。空気の読めない子なんだけど、こういう触れてはいけない、易々と踏み込んではいけない部分には~…敏感っぽいんだよね。

「うん、私は…貴女のお兄さんが好き、愛してる」

それに、彼の中で私と彼とのやり取りを見ていればわかっているだろうからね、隠す必要なんてない。素直に、ありのままが一番。

「っわ!!」

目を輝かせて、まったく本当は知ってるくせに。知ってるけれども、親しい人から直接聞きたいのかな?そういうものなの、かな?

友達がいなかった私にはよくわからないや。

「…ぁ、駄目だお兄ちゃんと繋がらない」

って!直行便で相手の気持ちを確認しにいかないでよ!!っていうか…逃げたんでしょ、何時ものように。

彼は、自分が愛した生前の奥様達に後ろめたいのか、純粋に私の体型が好みじゃないのか、はぐらかすか、逃げるんだよね。

逃げ続けても追いかけ続けるから別にいいんだけどね、いつか…ちゃんと向き合ってもらうから。ちゃんと。。。すべてを。。。おわらせて。。。おわ

「応援してるからね!諦めちゃだめだよ!」

手を握られる感触で意識が現実に引き戻され、視界と手から伝わってくる暖かい体温。

視界から得られる情報は、まるで子供がお母さんにじゃれつく様に手を握ってくる、微笑ましい光景に心が落ち着いていく、彼女の手からは柔らかい感情が伝わってくる。純粋に優しい子


彼女の体温が私を連れ戻してくれた。

いけない、思考がそれようとしている。いけない。

向かってはいけない起こしてはいけない、火を燃え上がらせてはいけないと何とか踏みとどまれたのもこの子お陰。

日に日に、何かが崩れていく感覚がぬけない…崩れた部分をユキさんが救い上げて支えてくれているような気がする。


感謝の気持ちが溢れていると

「…聞いても良いのかな?」

手を握りながら上目遣いで確認してくるなんて、貴女も中々にあざといね、そういう質問の仕方は反則だよ?断りにくいじゃん。

聞きたい内容なんて決まっている、少女が…恋をしたい少女が聞きたい事なんてね

「良いよ。何が聞きたいの?」

「お兄ちゃんの何処が好きなの?好きになったきっかけって…聞いても良いのかな?」

踏み込み過ぎたと感じたのか目線を下げる。空気は読めないけれど良い子ではあるんだよね。

私の全てを曝しても受け止めてくれる優しい子、こんな子供が欲しいなぁ…


ちくりと胸と脳が痛みを出してくる


その痛みを表に出さないように気をつけながら、ハニカム笑顔を崩すことは無い。

「好きなところはね…」

言葉を紡ごうとしたした刹那ブレーキがかかる、ふと、これをストレートに言ってもいいモノかと悩んでしまう


だって…彼の美しさに見惚れちゃったのが始まりだもの…


突き詰めると美形だから惚れたってことになる、ってことは、私は心で惚れたのではなく面食いとして惚れたことになる…

ぇ、まずくね?これ、印象最悪じゃね?

だって、ユキさんが好きになる人ってほぼ全員、心がイケメンじゃん?

…ん?ぁ、でも、オリンくんは美形か…っぐ、でも、心が好きみたいなニュアンスしかユキさんの口から聞こえてこない。


唐突に突き付けられる未経験の二択…

①彼の包み込んでくれる慈愛のような心と父性に心惹かれたの

②始祖様のように美しき造形に一目惚れ


どっち!?これどっちが正解!?

お願い恋の伝道師教えて!!脳内にお母さんを召喚し相談してみると…答えは一択だという


①!!

大人として、子供が欲しい答えを言う事もまた大事!

夢を壊してはいけない!


脳内のお母さんが言うのなら間違いはない!!

ハニカム笑顔を崩すことなく、そして、本心を語っているかのように照れ笑いをしながら

「彼の包み込んでくれる慈愛のような心と父性に心惹かれた…んだよ?」

まごう事なき本心を言う、ただ、それだけなのに頬が火がついたように熱く感じてしまう。

どうやら、選択肢は間違えていなかったみたいでユキさんの欲しかった答えみたい、きゃぁきゃぁっと小さな悲鳴を上げながら握られた両手がぶんぶん振られてしまう。

なんともまぁ…微笑ましい光景、心の底から嬉しそうにしている。


その後はもう質問の嵐、どうしてそう感じたのか~とか…色々と根掘り葉掘り聞かれ続ける、この私が押され続けている…

恋に憧れる少女のパワーは凄い…もう16?17?とは思えれない程に心がピュアピュア…

こんな子が…こんな子を…こんな綺麗な人を…こんな心が澄んでいる子供を…子供達を…


脳裏にフラッシュバックする子供達があいつらの策略によって顕現し街中を走りまった映像が…

あの子達は…あいつらに捕まらなければ、今頃は自由に…何処にでも行くことが…あの子らの自由を…

「…姫様?」

許して良いの?…許せるわけがない…名も無き弟を…本来であれば宿る魂を生贄になんて…許して良いの?

許せるわけがない…大切なお母さんを傷つけた…許していいわけがない…叔母様の魂を束縛した…私達の一族を穢した…命短し乙女を…


許していいわけないじゃん…殺さなきゃ…滅ぼさなきゃ…大切な人達を穢した…蹂躙した…弄んだ…壊さなきゃ…

「ねぇ?お姉ちゃん?」

何度、食い殺された?何度、痛い思いをした?何度、大切な人達が命を落とした?何度、世界は滅びた?

…あいつらに私達の魂はどれだけ…どれだけ…どれだけ…どれだけ?どれだけ??どれだけ???どれだけ????どれだけ?????


数えきれるレベルじゃない

火が燃え始める…頭の中で…違う…私の中枢で…燃えてはいけない業火が燃えようとしている


「ごめんなさい!」

ぱんっと目の前で何かが弾けるような音に思考が止まり

突然、視界が真っ暗になるとか細い声が聞こえてくる

「落ち着いて、お姉ちゃん…落ち着いて…」

声が震えている、不安を感じているのだろう、でも、伝わってくる力は強かった。

抱きしめられたことによって自分の思考が平穏へと導かれていく…

危なかった、あのままでいたら、ギアを変えたかのように思考が加速していき起こしてはいけない意識が火に油を注ぐかの如く燃えやすい藁に飛び火していくように…火災が起きようとしていた…

救出してくれた愛する妹を…隣人を…抱きしめ返す。

「ごめんね、お姉ちゃん、不甲斐ないよね」

「ううん、そんな事ない、私達がついてるから、絶対にお姉ちゃんを壊させやしないから、荒事みたいに驚かせちゃってごめんなさい」

恐らく、私の思考を止める為に全力で私の目の前で猫だましをしたのだろう、大事な人に心配ばかりかけてしまっている。


私達は…あと…何日…業火に耐えられるのだろうか?

散り積もった心のエネルギーが…あいつらに殺され続けた私達や、大切な人達の想いが…燻ぶり続けている火種となって…

いつか…私を…燃やし尽くすだろう…だけど…まだ…まだ、駄目…まだ…準備が終わっていない。


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