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最前線  作者: TF
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Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (29)

クロスボウに関してはね、ばらされると直ぐに構造がわかっちゃうから、他国に技術が流れるのはどうしようもない。

こればっかりはしょうがないし、そのうちこの程度の構造なら誰かしら発明する。


一番の胆である、炸裂式鏃さえ生み出せなかったらクロスボウなんてただの装填が速く照準がついて命中率が高くて練習が少なくても当てれる強烈な弓だもんね。

強烈な弓って段階で脅威なのは間違いないのかな?まぁいいや。知ったこっちゃない。


因みに、炸裂式鏃の種類はこれだけじゃない…

ここでは明かすつもりは無いけれど、他にもえぐいのがね…数多くの種類を用意している。


他にも何があるのかって言うとね鏃がドリル状になっていて、着弾と同時に急速回転し傷口を抉る、先ほど見せた槍の弓矢ヴァージョンってこと、これが当たれば小型程度の獣であれば倒せるはず。


鏃を上から見れば十字を描く様に出来ている、わかりやすく言えばプラスドライバーを先端から覗き込むように見た感じで、的の内部に深く打ち込まれると火薬によって鏃の根元が爆発し十字の突起が開き大きな十字を露にする、開かれた十字の先端には釣り針のような返しが付いていて抜きにくくなっている。

これが敵に刺さればこっちのもの、人型の脅威として毛皮が厄介、術式の抵抗値が高い毛皮を越えて抵抗値の低い内臓に向かって打ち込まれた矢を触媒にして鏃の先端に向かって術式を打ち込み術式を敵の内部で発動させる。

内部で火でも、氷でも、風でも、念動力でも発生させて内部から壊すっという二段階構えの鏃、これなら術式部隊でもクロスボウを使って矢を人型に当てさえすれば勝てない事も無い。理想は、弓を得意とする騎士に矢を撃ちこんでもらうのが理想だけどね。


他にも鏃のバリエーションは増やしていく予定

この炸裂式鏃シリーズは、主に火薬を起点としていく予定なので、生産できる限りある火薬をどう使うのか、優先度を考えると此方に回したい。

ってなわけで、火薬を無駄遣いしたくないんだよね。幾ら火薬と言えど敵の内臓で爆発すれば、爆発音が周囲に響くことは無いので死の大地で火薬を使うとしたら最適解でしょ?魔力も使わなくていいし、魔石に込める魔力も微々たる量、誰でも扱う事が出来る、クロスボウとの相性も抜群。完璧でしょ?


ふんすと鼻から息を出し、仁王立ちで褒めてくれてもいいんだよ?っとポージングを取ると、はいはいっと小声で呟き

「今回も良きものを編み出してくれた、流石は発明の女王と名高き人物、さぁ、皆もささやかな拍手でこの場を盛り上げようか」

女王はやめてほしいかな?姫にしといてよそこは…ぁ、それとも王たる我が傍に居て良いのはお前だって言いたいって事?たはー、照れるなぁ。

率先する様に手を叩き始めると、観客たちも手を叩き始める。この後は体験してみたい人が手を上げ、戦士長が監視する中、炸裂式鏃の体験が進んでいき、全員が満足するまで、体験会は続けられた


その光景を見守りながら、力無き民達があれらを扱いきれるのか、改良点はあるのかチェックしていると

メイドちゃんに次の予定が迫っていることを告げられ発表会は終わりとなった。

予定としてはインパクト小槌と同じ概念の槍も用意していたんだけど、それはまた今度かな?普通の槍と違って突くのではなく叩くことを目的としているので先は小槌と同じように槌の形状をしているってだけだから、見せなくてもいいかなって感じだったし別にいいや。

終わりをつげ、会場に来ていた観客達も満足気に帰っていくのを見送ってから各部署に指示を出してからメイドちゃんと共に次の予定へと向かった。



予定されている過密なスケジュール…何かに追われる様に方々を駆け回り、仕事をこなしていった。



んんぅっと私達の思い出の場所で背筋を伸ばしながら空を見上げる。

ひと段落つく頃には、日が暮れていく、太陽が輝いていた時とは違う空を見上げると薄っすらと月が見えてくる…

太陽と月の狭間の時間。太陽は幸福の象徴、月は幸運の象徴…

太陽が私達に輝かしい未来を示し、月は明日を迷う迷い人に道を示す。月が沈めば未来がくる、太陽が沈めば明日を教えてくれる。

こうやって私達の世界は祝福で包まれている…誰の言葉か忘れてしまったけれど、私の好きな言葉。


「月は…私達にとって神聖な存在、幸福をもたらす、私達が滅びを迎えると全てが失われると悟ったとき幸福の使者として、月から使者が舞い降りた、ゆえに、月は私達にとって神聖視され特別な存在」

「そして、月の裏側はわしらでは見えぬ世界、そこは明日を見ることが出来ない死者の世界とも呼ばれ我らが愛する始祖様は闇夜の混沌渦巻く世界を救う為に裏側へと旅立ち今もなお迷える人々を救う聖戦を戦い抜いておられる」

「私達、始祖様から御霊を分けられた者たちは命果てる迄、大地を厭うが憂い清め、清き務めを果たしたものは」

「月の裏側へ旅立ち、力を分け与えたもうた救世の使者へとたどり着き、恩を返す」

ぽんぽんっと頭を撫でられ、流石は姫ちゃんじゃ博識じゃのうと頭を撫でてくる

「この景色に心打たれる詩に触れた、その矜持にわしも乗っかってみるとしようかの、博識な姫ちゃんも知らぬであろう童歌を歌ってやろう」


太陽がふたつ 頭のてっぺんに 太陽がふたつ

大きく僕らを包む でも もうひとつは 大地をやく

白き黄金の太陽 愚かな 私達に 罰を与えた

ひとつの 太陽が消えた ひとつの太陽が去っていった

ふたつの太陽が消えた 残ったのはお月様

私達を照らしてくれるのは 神聖なるお月様だけ


明日を見失い 明日を照らす太陽が隠れた

そして 獣がきた


「っという、童歌のようなものがの、王家に伝わっていてな、何時からあるのかわしらも知らぬ、本当に童が歌っていたのかも定かではないのじゃが、わしはな、この歌を聞いてからずっと、忘れることが出来ない」

悲しそうに詩を囁き、太陽が沈みゆく姿を見つめるその瞳には涙がにじんでいる、お爺ちゃんもセンチメンタルな気持ちになることがあるんだね。

聞いたことのない詩、それを歌った人は悲しみと絶望の中、歌ったんだろうな…何でだろう、胸が締め付けられる、どうしてだろうか?聞いたことのない詩なのに、どうしてだろうか?


聞き覚えがある気がする


「この歌は誰にも言うでないぞ?王家にしか伝わらぬ詩、文献から得たものだからのバレてしもうたら、真っ先にわしが疑われる」

よしよしと孫に言い聞かせるように頭を撫でてくる、その手のひらから伝わってくるのは悲しい感情、もしかしたら、息子さんにも同じように語ったのかもしれない、思い出しちゃったのかな?

慰める様にお爺ちゃんの腰に手をやり撫でてあげる

「わしはな…太陽が嫌いじゃ、この歌を聞いてから太陽が嫌いになってしもうた」

優しく撫でられる…ゆっくりとゆっくりとお爺ちゃんの歴史を思い出す様にゆっくりとゆっくりと

「何時だって、わしから奪っていくのは太陽じゃ、そして、何時だってわしに先を示すのは月夜じゃ…」

私達が戦ったのも夜…嗚呼、だからお爺ちゃんは、奪いたくないから昼間に行動しないで夜を選んだのかな?

「故に、わしは、太陽が好きになれん…のう、神聖なる月の巫女様や、わしの息子は…」

縋る様に幾度となく頭をゆっくりと撫でてくる

「ごめんね、私は聖女じゃない、裏側は見ることが出来ない…でもね」

私は知っている、息子さんは今もなお、大地に縛られていることを…でも、言う事が出来ない。

「でも、ね…名高き戦士長であれば、きっと私達、寵愛の加護を受け継ぎし巫女が保証する、シヨウさんは始祖様の下で聖戦を戦っているよ」

撫でられている手が止まる、小さく震えている

「いかんのう、歳をとると感情が表に出やすくなってしまうわい」

優しく背中を撫で彼の悲しみが落ち着くまで傍に居続ける。



ゆっくりと頭から手が離れ、そっと背中に回されポンポンっと叩かれる、どうやら湧き上がる悲しみの波が落ち着いたのだろう。

「すまんな、おいぼれの戯れに付き合ってくれての」

ポンポンっと腰を叩き

「いいってこと、私達は命がけで戦いあった好敵手でしょ?」

腰から手を下ろすと、ははっと小さな笑い声が聞こえ

「そうか、そうじゃったな、わしらは好敵手であってな、はは、よいよい、良いものだ、何時だって俺を強くしてくれたのは好敵手たちであったな、久しく忘れていた、その言葉を」

沈みゆく太陽の輝きに照らされた表情は、何か吹っ切れた様な顔をしている

「落暉」

「らっき?…ラッキー?何かよい事でもあったのか?」

つい、その光景からある言葉が私の喉から飛び出してしまう。

「とある国の言葉でね、落暉っていう言葉があるの、意味はね沈みゆく太陽が大地を照らす光の事で、他にも老いとかそういう意味も含まれてたりするの」

「なるほど、言葉の雰囲気から息子の名に通ずるものがあるの、何の因果か、息子を憂いておると息子が歩み寄ってきたような気分じゃわい」

名に通ずる?ってことは、やっぱり息子さんの名前って日本語由来だったりするのかな?

「息子の名前の由来か?ムラサキヤシオっという言葉から着想を得たんじゃよ、確か、その言葉には道しるべっという意味が込められているんじゃったかな?その意味がな、産まれてきた子を抱きしめていた時にしっくりときてな、幼名をヤシオと名付けたんじゃ。それから、あやつが成長してなぁ、いっちょ前に大きくなったと思ったら、大人として名を改めて欲しいと願われたときに、愛する妻達と話し合ってムラサキヤシオの雰囲気を残そうとしてシヨウという名になったんじゃよ、あやつもな、ヤシオっという名前をいたく気に入っていたから喜んで拝命したわい、懐かしいのぅ…」

紫八染、その花言葉は道しるべ…そっか!幼名を聞けば辿り着けたじゃん私!シヨウさんの名前のベースは日本語だったんだ!ぇ、じゃぁ、誰が日本語を伝えたの?…考える迄も無い、白き黄金の太陽、彼が実在していたのは間違いない、はぁ、王家の書物庫に入れたら歴史を調べ、全ての疑問に直ぐに辿り着けそうな気がするけれど、そういうのは今じゃないかな。


だったら、息子さんと同じで日本語をベースにした方がいい


「名前さ、らっき、らくきってどう?これもね、むらさきやしおの言葉と同じ国の言葉なんだよ」

「…ふむ、太陽が沈むときの輝きか、太陽が沈み神聖なる月を呼ぶものとして考える事も出来る、うむうむ、意味も良い、古き太陽が沈む、老いっと言う意味も、わしを示しておる、申し分ない、だが、発音しにくいのぅ」

そう言われると、馴染みが無い言葉だもんね、ならラァキの方がいいかな?それともラアキかな?ん~…いやここは逆さ読みの方がいいかな?意味も逆転させてさ、でも、キアラは女性の名前だなぁ…ならラアキの方がいいかな?なら、名前の順番を変えてアラキ

「アラキはどう?それか、ラッキを私達が発音しやすくするとラアキ、どっちが好き?」

「あらき、らあき…ふむ…」

目を閉じて顎を触りながら音の響きを反芻しながら確かめているって感じってことは、ぉお?思っている以上に感触が良くない?これは、漸く、名前が決まりそうな流れだよね?

「うむ、決まった」

すっと頭を垂れ片膝をつき手の甲を此方に差し出してくる

「我が名はラアキ、意味は落暉、沈みゆく太陽の輝きとし、神聖なる月を天空へと導く存在となりてその名を拝命する」

「月の使者である始祖様から授けて頂いた寵愛の加護を受け継ぎしモノとして、神聖なる月の使者、その代行者としてその宣言を受けいれましょう、貴方の新しい歩みに新たな生を…」

差し出された手の甲にキスをすると、ゆっくりと立ち上がり手のひらを心臓に当て

「我が生涯、始祖様の巫女を守りこの大地に平穏をもたらすことを誓おう」

太陽が沈みゆく最後の光がお爺ちゃんの頬を撫で、消えていく…一瞬だけ光に照らされた表情に惚れてしまいそうになるほど、美しかった。


新しい名をいたく気に入ったのか、笑みを絶やすことなく立ち去っていった、去り際に残した言葉は聞かなかったことにしとくからね。

これで、孫のライバルじゃのわしは…っか、まったく、奥様達に怒られるよ?





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