Dead End ユUキ・サクラ 妖闘桜散 (25)
此方が合図を出すと、勇気くんは言われたとおりに人差し指を伸ばし、台座にセットしてある術譜が巻き付けられた魔石に魔力を通すと一瞬だけ会場が明るくなる。
魔石から小さな光が的に向かって走ったように見えた。その一瞬の光を見て、観客達は何が起きたのかわかっていないが、少しずつ何が起きたのか理解したのか小さなざわめきが聞こえる、焦げた匂いが漂い始めてるからね~。
的が走った先をチェックすると、的の一点が光った箇所、その一点が変色しているし焦げた匂いがする、うん、黒く焦げている。どの程度焼けたのか調べようかな
手を上げて勇気くんに的の状態をチェックすると合図をしてから移動し的の後ろ側を見ると…特殊な液体でコーティングしたのに…5センチの厚みなんて…意味をなさなかった。
的の奥を見て石の壁を見るが焦げたような跡はないのを見て先ほどの考えを改める。
貫通して後ろまで届いてないのであれば、厚みは意味を成していた?コーティングしたからこそ突き抜けた先まで届かなかった?単純に射程距離外だろうか?
もう一度、放たれた衝撃がいかほどのものなのかチェックしなおす為に表側の焦げた穴の大きさをチェックする、焦げた点は1センチにも満たない小さな点。小さな点だが5センチくらいの厚みなら貫通することが出来る威力。うん、これなら小型種の頭蓋骨だろうが貫通するだろう。問題は飛距離、何処までが有効射程距離なのかってことだよね。台座と的までの距離は2メートルといったところ。2メートルが射程距離であれば問題ない、寧ろちょうどいいかな?下手に暴発しても5メートルくらい距離を取っていたら此方の被害はないってことになる。
うんうん、結果は良好、問題なし、威力だけを見れば、すぐにでも実践に投入できる。
的から視線を外すと視界に入ってきた観客たちの表情は何とも言えない表情をしている、驚いているのは確かだが、今一つこの魔道具の脅威に気が付いていない、焦げた匂いがするから恐らく的が焦げたのだろうと思っているが、どうしてそういう現象が起きたのか、理解が出来ないのだろう。
それはそうだよね、誰だって産まれて初めて見る物を瞬時に理解できるわけがない、前提として学を修めていないとわかるわけがない。
観客から目を離し使用した魔道具を手に取ると…どうしても考えてしまう、この魔道具の危険性を…
何度考えても、この魔道具は怖い。発動したのに音が無く、光ったと思った瞬間には狙った対象の一点を焼き貫く。
この魔道具が人に向けられてしまったら…当たった箇所は内臓を焼かれながら貫通する。
どの臓器だろうが内臓を焼かれる様に貫かれたら、ショック死する未来しか…
焼かれても大丈夫な内臓…当たり所が良ければ助かるのか?助からないのか?いや、そういう問題じゃない生き死に云々じゃない、四肢を除いたら何処に当たっても死ぬ未来しか見えてこない、臓器は耐えても痛みに人は耐えられない突如意味不明に発生した激痛から逃れるために意識を落とす、その間に貫通した場所から出血する可能性もあるし…冷静に考えてみても死ぬ未来しかない。戦うと決意し痛みを覚悟している状態であれば耐えられるかもしれないけれど、日常で、何も起きない平和なタイミングで撃たれたら…駄目だろうね。
何度考えてみても…暗殺兵器として最強じゃない?2メートル、いや、3メートルまで近づくことができたら…
秩序が崩壊する未来しか思い描けない…考えるのをやめよう、そうならない様にするためには、この技術が流れて行かない様に気をつければいいだけ。
作成者以外、発動できない様にセキュリティロックなどが出来たらいいんだけど、そこまでの技術はまだ開発が追い付いていない、
燃焼は持続するのか、少し時間が経過したらどうなるのか的に視線を向けると、的の一点が焦げ付いている箇所から塗料が塗られていない内部から小さな煙が空いた小さな穴から昇っていく、貫通しているから空気が流れるから燃えやすいのかもしれない。でも、火がつくほどではないってことかな?
的から煙が昇っていく姿を見て、状況が掴めてきたのか、観客席から、小さなざわめきが聞こえてくる…緊張が走り続けている中心にいる人物が口を開き此方に視線を向ける。
「これは…凄いな、そして危険だ…いいのか?こんなものを生み出して…」
彼の瞳から伝わってくる感情は悲しみ…彼だからこそ気づきがある、この魔道具が世にもたらす絶望と恐怖を想像してしまったのだろう。
そこに関しては流石だねって褒めてあげたくなる、私が作る魔道具が出して良いのか出してはいけないのか判断しやすくなるから信頼している。
人の悪意と闘い続けてきた人物だからこそ、たったのこの一度で脳内を駆け巡ったんだろうね、彼の歴史の中で、あの時や、この時…幾多の争いの中でこれが無くて良かったっとかね…
人同士の戦争にルールなんて無い、あるのはモラルだけ、本気で相手を滅ぼすことを考えて悪意によって滅殺すると悪意に染まり切ってしまい善性が完全に欠如すれば何でもありになる。
人は…恐怖心に飲み込まれると何をするのかわからないからね。集団心理も怖い…恐怖は伝播しパニックを起こす。
そういった世界で生き抜いてきた勇気くんだからこそ、私が作り上げていく魔道具、考えうる危険性が高い可能性に気が付く。
人の悪意と闘い続けてきた彼だからこそ、その言葉は重く私に伝わってくる…私が生きている間はそういう使われ方をしないようにする!!
だけど、私が居なくなった後は知ったことじゃない…その覚悟はもう決めて決まった、私が亡くなった後、人類を勝利に導いた聖女となるか、人類同士の争いの火種を生み出した魔女と断罪されるかなんてどうでもいい…あいつらを滅ぼせるのならどうでもいい。
だからこそ、ほーりーばーすとの術式を術譜へと転用する決意が出来た。研究に研究を重ねて完全なる再現は出来なかったけれど、私が持ちえる最大最強の火力術式をある程度再現できた…絶対に!他者に漏らしたくない秘術の一つ。
始祖様の扱う術式は私達だけの秘密としたいほどに始祖様の術は危険だもの。
っま、私程の術式に精通した人じゃないと、どう足掻いても始祖様の術を再現する事なんて出来ないだろうからね、我ながら自分自身を褒め称えたくなる!
あの難解な術を私達が扱う術譜に落とし込むのに何年かかったと思ってんの?って言いたくなる!…始祖様の術は、未だに理解できない部分が物凄く多い、だけど!何時かは全てを解読し再現したいっていう夢も…あったが、それがね、叶う事は無いんだろうね。
さて、私の切り札ほーりーばーすとを見たことが~~…あ、ったかな?同調で見てい、る、よね?
その凄まじき威力を知るであろう彼の心境は恐怖に包まれているだろうとわかってはいるけれども、確かめずにはいられない。
私がお披露目したくない術式を公開してるんだからね!!褒めてもらいたいかな!私としてはね!恐怖の言葉よりも褒めて欲しいかな!かな!!
心を弾ませながら、されど、表情はクールに!
「どう?戦士長?心が弾まない?」
声をかけながらも思うのは我ながら、ここまでコンパクトに実現できるとは私自身も思っていなかった。
だからこそ得意げに自慢したくなる、例え目の奥から伝わってくる感情が、戦慄しているであろうとしてもね。彼からの感想をクールに迎えようと思ったが
瞬時に恋愛脳が割り込んでくる、このままクールに徹するよりも、彼の気持ちによりそうほうがポイントが高いか?っと…っであれば!戦慄しているのであれば少しでも明るく振舞った方が彼の心が救われるかな?なら、にひっと笑みを浮かべて声をかけてみた方がいいよね?ぁぁ、でも彼の代わり行く表情を眺めたい気持ちも溢れてくる。
さぁさぁ、どんな表情をしているのかな?人の悪意と戦い抜いてきた人物の顔は?…うん、予想通り
「弾みはしない…危険すぎる…これが…」
表情は何一つ明るくない、わかってる、この魔道具を見て手を上げて喜んでくれる人ではないってわかっているし、貴方の心の中から抜け出ることが出来ない戦乱の闇を少しでも分かち合った仲だもん、真っ先にそっち方面に思考が奪われるのは仕方がないよね。彼の心の闇を少しでも分かち合えたらいいのになぁ、私も…その時代に生まれ共に歩みたかったなぁ、そうすれば、伝説の白き黄金の太陽に会えたかもしれないもんなぁ。そしたら…彼と一緒に一時とはいえ平和な世界を寄り添って歩めたのになぁ…
彼の様子に同声をかけるのか考えていると、彼は神妙な顔つきで台座から離れ的に近づいていく。
撃ち抜かれ焼く様に空いた穴からは煙は無い、熱は持っていないだろうと穴に指先をつけるとすぐに手を離している、未だに熱を持っていることに驚いたのだろう。
指先を冷ます様に手首を使って振りながら的の後ろ側へ行きしっかりと貫通していることを確認したら、ふぅっと…小さな溜息が零れ出ている
その溜息から伝わってくる感情が理解できるのはきっと私だけだろうなぁ。
木の板5センチの厚みを焼きながら貫いたというのにその速さは瞬きよりも早く…目に追えない程の速さ、それなのに発生時に音が無い。いや、例え音が聞こえたとしても音は置き去りにする程に早い、それが光の特性。
ほーりーばーすとの強みとして、最も強さを感じるのは威力じゃない、いや、威力も凄いけど、何よりも、音も無く駆け抜ける速さ!!
発動後の早さゆえにカウンターとしての性質が高い、後の先を取ることが出来る、いつも一手遅い私だからこそできる逆転の一手。
故に切り札、っま、発動条件が難しすぎて、無駄に使うと私が死ぬ恐れがあるんだけどね。
手に持っている魔道具をぐっと握りしめてしまう。
つっても?この魔道具は、ほーりーばーすとに比べて威力はかなり落ちてる、けれども、殺傷能力を考えると絶対に!人に向けてはいけない。
これが何処でも誰でも手に入る程に量産されてしまったら危険なんて品物じゃない…子供でも簡単に大人を殺せる。
この魔道具から放たれる光に対して対策対処をするには…専用の防御術式を創り出さないといけない。
仮に創り出せたとしても常時展開するのは魔力が持たない、仮に常時展開する為に魔石などで魔力を工面できたとしても、平民では金銭的にも、魔力保有量的にも現実的じゃない。
なら王族や貴族などであれば可能なのかと言われると可能だろうが…要人は常時それを展開しないといけない、そんな魔力なんて不可能、一人ではどう足掻いても無理。私達でも厳しいのに、魔力が私達よりも内包していない外の大陸の人達では…絶対に不可能。
銃が無い社会に銃を持ち込むよりも危険な発明。
この魔道具は殺傷能力が高すぎる上に、防ぐ方法が少なく、小型で何処でも持ち歩くことが出来、音も無く発動することが出来る。射程距離も人であれば3メートルでも近づけば殺せる距離になる。
…のちの世にこれが発展改良されてしまったら、人類は常に、何処であろうと、死と隣り合わせの生活が待っていることになるだろうね。
この魔道具を見て色々と言いたいことがある顔をしているが、その事について口を開く様子はなく目が語り掛けてくる、きっと、ここでは話せない内容なのだろう。
っとなると、後で私達の思い出の場所で、誰にも聞かれないように何時もの様に逢引とさせてもらおうかな。
二人だけが通じるアイコンタクトなどで会話をしていると、気が付けば、次の的に、魔道具の準備が終わったみたいで、研究員が合図を送ってくれる。さぁ、段階を上げて行こう。




